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そうだ、何でも屋に依頼しよう
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地味な薄緑色のワンピースに身を包んだ私は、侍女のアリスを連れて街へ出た。
知り合いの「何でも屋」を訪ねるためだ。
街はずれで何でも屋を営むユーリは、二十歳くらいの黒目黒髪の青年で、この若さで自分の店舗を構えて仕事をしている。
特別美男子ではないが、人懐っこい温かみのある顔だ。奥様方にとても人気がある。
受ける依頼は人探しから危険なものまで、何でも屋という名前の通り何でも受ける。長身の細身だけれど、腕は立つらしい。
以前、私が誘拐されかかったときに助けてくれたのがきっかけで、街へお忍びで出かけるときには必ず立ち寄る親しい間柄になった。
素性はよく知らないが、ユーリはおそらく元・貴族。立ち居振る舞いや話し方が優しいし、食事するときにも品があるから平民ではなさそう。でも詳しくは聞いていない。ユーリがユーリであれば、過去なんてどうでもいいのだから。
何でも屋なんて繁盛するのか、というとわりと需要は多いらしい。
五年前、異世界から召喚された勇者様が、魔王を殲滅したことで、人間同士の争いが増えてしまい、人には言えない裏稼業が繁盛してしまっているから。
魔物と戦っていた人間は、敵がいなくなればすぐに仲間割れをする。
勇者様はそんな我が国に愛想を尽かし、恩賞も受け取らずに一人でどこかに旅立ってしまったといわれている。
きっと「命がけでがんばった結果がコレかよ」と、嘆いているに違いない。
さてさて、何でも屋に着いた私は、いつものように茶色の階段を駆け上がって鉄製の扉を叩く。
そして返事がなくても中にズンズン入っていく。ユーリは基本的に夜型で、昼間はここで寝ていることが多いのだ。
ーーバタンッ!!
ソファーでうたた寝していたユーリは、突然やってきた私に驚いて飛び上がるように起き上がった。
「来たわよー!」
ユーリはしばらく目をパチパチさせて、右手で顔をこすりにこすった後、私の方を困ったように見つめた。
「また、おまえ……来るときは先ぶれを出せと言っただろう?このあたりの裏路地は危ないから、大通りまでは迎えに行ってやりたいのに」
ユーリは優しい。でも少し心配しすぎだ。真昼間から襲いかかってくるやつはさすがにいない。それくらいには治安がいい街なのに。
「ふふふ、ごめんなさい。でも急ぎで頼みたいことがあって。報酬は弾むわ」
私はにっこり笑うと、薄緑色のスカートを揺らして勝手にソファーに座った。ユーリがさっきまで寝ていて、今は座っているソファーに。
「エマが笑ってるときはロクなことじゃないな。……で、なんだ?」
あくびをした後、仕方なさげに言うユーリ。黒髪がはらりと耳から落ち、それを節の目立つ指で無理やり撫で付けた。
「私を、しょうもない女にして欲しいの」
ソファーの座面に両手をつき、ユーリの顔を真剣に見つめた私は潔く本題を切り出す。
「は?」
ユーリもじっと私を見て、目をまたパチパチさせた。
「だから、しょうもない女になりたいの。しょうもない婚約者に見合う、しょうもない女に」
「エマ、婚約者いたのか」
今さらそんなことを尋ねるユーリに、少し驚いたわ。公爵家だけに限らず、この国の貴族なら14歳を過ぎた男女には半分以上婚約者がいるし、私のようにもう17歳になっているなら女性のほとんど全員が婚約者を持っている。
男性は次男以下なら婚約者がいない人もめずらしくないけれど、女性はもう婚約していない時点で嫁ぎ遅れだのなんだの言われてしまう。女性にきびしすぎるぞうちの国。
私は何もわかっていないユーリに対し、自分の状況をかいつまんで説明した。
この国の、どうしょうもない第三王子様の婚約者であるという笑い話を。
「だから、彼にふさわしい女になりたいの」
「エマ、その言葉の使いみちが間違ってると思うのは俺だけか」
なんでよ。私はじと目でユーリを見つめる。
「あのさ、おまえのいうしょうもない女ってどんなもんだよ。漠然としすぎてる」
「やだ、ユーリったら。そこから考えてくれなくちゃ。とにかく、今の私のような深窓の令嬢じゃだめなの」
「それ自分で言うのか。だいたい、深窓の令嬢は街に護衛も付けずに出ないぞ」
あら、それはそうね。でも街に出るくらいじゃ、あんなクズにふさわしい女とは言えないわ。
私は悩みながらも、思いついたことを言ってみた。
「まわりから軽蔑されるような女、かしら?」
またもや漠然とした意見を出す私に、ユーリは顔を顰めた。
「人の噂話が好きで、他者を批判して貶める女とか?」
「そう!そういうのよ!」
「あとは、浪費家で、男遊びをするとか」
「それだわ!」
あああ、理想の女性像ができあがってきた気がする!
私が喜んでいると、ユーリが突然はっと何かに気づいたように立ち上がり、壁にかかっていた上着を羽織り出した。
「ユーリ?」
「忘れてた、今日はこれから会合があったんだ。商会の連中との飲み会もあるし……。エマ、まだ早まったマネはするなよ!次いつ来られる?」
彼は洗面へ向かうと濡らしたタオルで顔を雑に拭い、私を振り返って尋ねた。
「そうね、7日後に」
アリスを見て確認すると、無言で頷いてくれたから許可は取れたみたいだわ。明後日からは茶会続きでしばらく忙しいもの。
ユーリは特に何か言うわけでもなく、私とアリスを連れて外に出る。鍵をかけると、会合に出かけるついでだと言って大通りまで送ってくれた。
ふふふ、なんとか計画がスタートしたわ。
世界一しょうもない女になってやるんだから!
知り合いの「何でも屋」を訪ねるためだ。
街はずれで何でも屋を営むユーリは、二十歳くらいの黒目黒髪の青年で、この若さで自分の店舗を構えて仕事をしている。
特別美男子ではないが、人懐っこい温かみのある顔だ。奥様方にとても人気がある。
受ける依頼は人探しから危険なものまで、何でも屋という名前の通り何でも受ける。長身の細身だけれど、腕は立つらしい。
以前、私が誘拐されかかったときに助けてくれたのがきっかけで、街へお忍びで出かけるときには必ず立ち寄る親しい間柄になった。
素性はよく知らないが、ユーリはおそらく元・貴族。立ち居振る舞いや話し方が優しいし、食事するときにも品があるから平民ではなさそう。でも詳しくは聞いていない。ユーリがユーリであれば、過去なんてどうでもいいのだから。
何でも屋なんて繁盛するのか、というとわりと需要は多いらしい。
五年前、異世界から召喚された勇者様が、魔王を殲滅したことで、人間同士の争いが増えてしまい、人には言えない裏稼業が繁盛してしまっているから。
魔物と戦っていた人間は、敵がいなくなればすぐに仲間割れをする。
勇者様はそんな我が国に愛想を尽かし、恩賞も受け取らずに一人でどこかに旅立ってしまったといわれている。
きっと「命がけでがんばった結果がコレかよ」と、嘆いているに違いない。
さてさて、何でも屋に着いた私は、いつものように茶色の階段を駆け上がって鉄製の扉を叩く。
そして返事がなくても中にズンズン入っていく。ユーリは基本的に夜型で、昼間はここで寝ていることが多いのだ。
ーーバタンッ!!
ソファーでうたた寝していたユーリは、突然やってきた私に驚いて飛び上がるように起き上がった。
「来たわよー!」
ユーリはしばらく目をパチパチさせて、右手で顔をこすりにこすった後、私の方を困ったように見つめた。
「また、おまえ……来るときは先ぶれを出せと言っただろう?このあたりの裏路地は危ないから、大通りまでは迎えに行ってやりたいのに」
ユーリは優しい。でも少し心配しすぎだ。真昼間から襲いかかってくるやつはさすがにいない。それくらいには治安がいい街なのに。
「ふふふ、ごめんなさい。でも急ぎで頼みたいことがあって。報酬は弾むわ」
私はにっこり笑うと、薄緑色のスカートを揺らして勝手にソファーに座った。ユーリがさっきまで寝ていて、今は座っているソファーに。
「エマが笑ってるときはロクなことじゃないな。……で、なんだ?」
あくびをした後、仕方なさげに言うユーリ。黒髪がはらりと耳から落ち、それを節の目立つ指で無理やり撫で付けた。
「私を、しょうもない女にして欲しいの」
ソファーの座面に両手をつき、ユーリの顔を真剣に見つめた私は潔く本題を切り出す。
「は?」
ユーリもじっと私を見て、目をまたパチパチさせた。
「だから、しょうもない女になりたいの。しょうもない婚約者に見合う、しょうもない女に」
「エマ、婚約者いたのか」
今さらそんなことを尋ねるユーリに、少し驚いたわ。公爵家だけに限らず、この国の貴族なら14歳を過ぎた男女には半分以上婚約者がいるし、私のようにもう17歳になっているなら女性のほとんど全員が婚約者を持っている。
男性は次男以下なら婚約者がいない人もめずらしくないけれど、女性はもう婚約していない時点で嫁ぎ遅れだのなんだの言われてしまう。女性にきびしすぎるぞうちの国。
私は何もわかっていないユーリに対し、自分の状況をかいつまんで説明した。
この国の、どうしょうもない第三王子様の婚約者であるという笑い話を。
「だから、彼にふさわしい女になりたいの」
「エマ、その言葉の使いみちが間違ってると思うのは俺だけか」
なんでよ。私はじと目でユーリを見つめる。
「あのさ、おまえのいうしょうもない女ってどんなもんだよ。漠然としすぎてる」
「やだ、ユーリったら。そこから考えてくれなくちゃ。とにかく、今の私のような深窓の令嬢じゃだめなの」
「それ自分で言うのか。だいたい、深窓の令嬢は街に護衛も付けずに出ないぞ」
あら、それはそうね。でも街に出るくらいじゃ、あんなクズにふさわしい女とは言えないわ。
私は悩みながらも、思いついたことを言ってみた。
「まわりから軽蔑されるような女、かしら?」
またもや漠然とした意見を出す私に、ユーリは顔を顰めた。
「人の噂話が好きで、他者を批判して貶める女とか?」
「そう!そういうのよ!」
「あとは、浪費家で、男遊びをするとか」
「それだわ!」
あああ、理想の女性像ができあがってきた気がする!
私が喜んでいると、ユーリが突然はっと何かに気づいたように立ち上がり、壁にかかっていた上着を羽織り出した。
「ユーリ?」
「忘れてた、今日はこれから会合があったんだ。商会の連中との飲み会もあるし……。エマ、まだ早まったマネはするなよ!次いつ来られる?」
彼は洗面へ向かうと濡らしたタオルで顔を雑に拭い、私を振り返って尋ねた。
「そうね、7日後に」
アリスを見て確認すると、無言で頷いてくれたから許可は取れたみたいだわ。明後日からは茶会続きでしばらく忙しいもの。
ユーリは特に何か言うわけでもなく、私とアリスを連れて外に出る。鍵をかけると、会合に出かけるついでだと言って大通りまで送ってくれた。
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