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第1番 GA─天才エース─

背番号 3番〖範激(はんげき)〗

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「オラァ! どうした、一年坊主ども!」

本剛ほんごうのダンクシュートによる2点以降、10分程度で1年生チームと2年・3年生チームの得点の差は大きく開いていた。
樹馬きばの得点・レイアップシュート1回の2点、ジャンプシュート1回の2点、計4点。
本剛ほんごうの得点・ジャンプシュート1回の2点、ダンクシュート3回の6点、計8点。
くれないの得点・レイアップシュート3回の6点、ジャンプシュート3回の6点、3Pスリーポイントシュート1回の3点、計15点。
燐道りんどうの得点・ダンクシュート5回、計10点。
深村みむらの得点・レイアップシュート1回の2点、ジャンプシュート1回の2点、計4点。
結城ゆうきの得点……未だ活躍も得点もなし。

 二年・三年生チーム、27点。対する一年生チーム、14点──その差、13点差。二年・三年生チームの圧勝である。

「く──っ!」

深村みむらの焦り……一年生チームは思うように連携も取れず。深村みむらがサポートをするだけで、燐道りんどうという攻撃オフェンスを中心にのような状態だった。一方の2・3年生チームは、当然チームワークの統一が取れている。くれないのアシスト、本剛ほんごうのディフェンス、樹馬きばのボール運び──チームの実力も無論、二年・三年生チームの圧勝。

 そんな最中さなか燐道りんどう相手側フロントコートを駆け抜け、ディフェンスを仕掛けるくれない対峙たいじしていた。

「行かせないぞ。」

 そこに……燐道りんどうの左側から樹馬きばが入ってくる。

「ほれ、どーすんだ?」

 二人の隙のない守備ディフェンス。挟み撃ちの容赦ないだった。

「……。」

 しかし、燐道りんどうに焦りは見られず……ちらりと二人を交互に見ている。

「来ないならこっちから行くぜ。」

樹馬きばを狙って切り込む。

「──ッ。」
「く──ッ!」

燐道りんどうはサッと後ろへ下がってかわし、左へと足を踏み出す。それに応じて、くれないは右へと切り込む──が、

「あ──ッ!」

くれないの手は届かなかった。
 そのまま燐道りんどうは、ドライブで3Pスリーポイントエリアを駆け抜ける──勿論、ゴール下には本剛ほんごう

「来い、燐道りんどうッ!」

本剛かれは両腕を構えて燐道りんどうを待ち受けていた。燐道りんどう間髪かんぱつ入れずに本剛ほんごうの元へと突っ込んで行く──しかし、そこで

 ──ピピ──ッ!!

 ……笛の音ホイッスル。一同、音の方へと顔を向ける──鳴らしたのは司柴埼しばさきだった。

「はーい、白熱はくねつ中のところ悪いが一旦いったん休憩だ。今、第1クォーター分の10分間が終わった。暴れたりねーだろうけど少しな……で、いいよなこう? お前が試合ルールでやろうって言ったんだし」

くれないは息を整えつつ微笑む。

「おっ、了解。もう10分たってたんだな……よーし皆、休憩だ! 2分だけだがしっかり休めよ!」

本剛ほんごう樹馬きば燐道りんどう深村みむらが「はい」とバラバラに返事をする。そして、コートの外に置いてあるベンチに座り、水分補給などを始めた。……しかし、結城ゆうきの返事だけは無く、膝を地面に着き身体を丸めて「はぁはぁ」と息切れしている。スタミナ切れであった。

 それを見兼みかねねた本剛ほんごうが怒鳴りつける。

「おい、そこの一年ッ! こうさんに対して返事が無ぇぞ! 10分ごときでもうバテやがって……体力が無さすぎるんじゃないのか、あァ!?」
「……は──ッ! す、すみませんッ……!」

本剛ほんごうの怒鳴り声と威圧に、結城ゆうきは肩がすくんでしまう。そこに慌ててくれないが入った。

「待て本剛ほんごう、入ったばかりの一年生なのに厳し過ぎるぞ。それに結城ゆうきくんは初心者だし仕方ないだろう? ……な?」

 「しかしこうさん」と言い返そうとする本剛ほんごうを背に、くれない結城ゆうきに「大丈夫かー?」と声を掛け、肩を貸してベンチまで連れていった。すると本剛ほんごうの怒声に怖がって深村みむらが眼鏡を曇らせつつ、ボソボソっと燐道りんどうに耳打ちする。

「……なあ燐道りんどう、あの本剛ほんごうっていうデカい先輩怖いよな……結城ゆうきくん半ベソかいてるぞ。」
「いや……。」

 その様子を見て「本気かよ」と苦笑する深村みむらを対象に、燐道りんどうは興味すら無い表情である。

 ──ピピ──ッ! ホイッスルを司柴埼しばさきが吹いた。

「よし、お前ら息整えたかー? 休憩終了しゅうりょう、試合再開さいかいだ。」

司柴埼しばさきの言葉に1年・2年生達が「はい」とバラバラに答え、それぞれコート内の配置に着く。本剛ほんごう燐道りんどうは第1クォーターと同じく、ジャンプボールを受け取りにセンターラインの中(ハーフラインの中心)で向かい合っていた。

燐道りんどう、次もジャンプボールは貰うぜ?」

 そう告げて不敵な笑みを浮かべる本剛ほんごうに対し、燐道りんどう無愛想ぶあいそうな顔で答える。

「──次は……俺が頂きます。」
「──!」

本剛ほんごう一瞬いっしゅん驚き、目を見開く。が、すぐに「生意気なまいきな一年坊主だ」と笑ってみせた。

「よし……それじゃあ行くぞ。」

司柴埼しばさきがボールを真上へ投げる……ボールが空高く舞い上がった。それを確認し、二人は跳ぶ。

 ──バシンッ! 叩き落としたのは燐道りんどう

「な──ッ!?」
「──ッ。」

 燐道、タップオフ──第2クォーター開始。地面で跳ね返っワンバウンドしたボールを深村みむら掴むキャッチ。透かさず、着地した燐道りんどうにパス。本剛ほんごうを確認すると、早急そうきゅうに両腕を広げてディフェンスに走る──が、広がる前に、燐道りんどう本剛かれの左へと抜けた。

「……早い!」

司柴埼しばさきはそうつぶやき、目を細める。燐道りんどうの動きは、相変わらず大振りのゆっくりとしたドリブルだが、かなり素早い。燐道かれ深村みむらと共にゴール下へ迫る。──そこへくれない樹馬きばディフェンス。

「行かせないぞ!」
「やすやすと通すか、ヤロー!」

 しかし──そこで燐道りんどうは動きを変えた。唐突にドリブルを素早く、に。

「──!?」

 二人が驚くや否や……今度は動きをゆっくりと、に戻す燐道りんどう。そしてまた、先程と同様に素早くにドリブル──燐道かれは、そのを繰り返し続けた。

「……〝〟、ですね。二人に合わせて戦法スタイルを変えてきたんでしょうか」

彩植あやうえがそう問うと、隣にいる司柴埼しばさきが口を開いた。

「変えた……つーより、緩急かんきゅうのつけ方がかなり独特だ。荒々しいし……今まではわざと、みたいな? 変えたっていうよりは燐道あいつ……って所か……?」
「では、もしかすれば燐道りんどうの本気が見れる、ということですかね。」

有島あじまがそう付け加えると、司柴埼しばさきうなずく。

 一方、燐道りんどういまだフリースローエリア手前でドリブルを続けていた。その最中さなかくれない樹馬きばはダブルチームでプレッシャーをかけているが、緩急かんきゅうの激しいドリブルのスタイルになかなか手を出せず──焦る樹馬きばは精神的に揺さぶろうと燐道りんどうに話し掛けた。

「おい燐道りんどう、そろそろ動かないと不味まずいんじゃねーの? そんないつまでも亀みたいにじっとしてたら、俺とくれない先輩は取っちまう」

 ぜ──と、樹馬きばがそう言い掛けた刹那せつな──燐道りんどうはボールを二人のへと投げた。

「な──ッ!?」

 瞬時に後ろを向いた二人の目の前で、ボールが地面へと落ちる。そして跳ね返りバウンドしたボールを──パシッ! 燐道りんどうが右手で掴む。
 「速い!」と有島あじまが声を上げるや否や、燐道かれ本剛ほんごうのいるゴール下へと駆け抜けていた。

「二戦目(第2クォーター)に入ってからの動き……なかなか驚かせてくれるじゃねーか、燐道りんどう。だが勿論、退かせられんぞ?」

本剛ほんごうはそう燐道りんどうに告げると、両腕を大きく広げて構える──両者沈黙りょうしゃちんもく緩急かんきゅうのあるドリブル音だけが鳴り響いていた。お互いに相手から目を離さず、

 ────!!

 先程よりバウンド音。燐道りんどうが仕掛けて来るのを本剛かれは瞬時に察知した。ボールは燐道りんどうの右手。

(──切り込んドライブでダンクか? それとも──)

燐道りんどうはボールを両手持ちに変える。それを見た司柴埼しばさきは目を細め、口を開いた。

「……〝〟か、ここで。良い判断、だが……」

燐道りんどうは膝を折り曲げてシュート体勢フォームに入る。それを確認すると、本剛ほんごうは──

「……ハハッ、おい! (ジャンプシュートのブロック)は……」

燐道りんどう

「俺の十八番おはこだぜ──ッ!?」

本剛ほんごう燐道りんどうに合わせて、両手を上に挙げながら──

 ──しかし、ボールは宙に飛ぶどころか燐道の手から離れる事は無く──燐道かれ。目の前の本剛ほんごう含め、見ていた全員がその光景に目を見開いた。そして、本剛かれは跳んでしまってから気付く。


 ──……と。


「本剛!〝〟だッ!!」

くれないが叫ぶも時既ときすでに遅し……本剛ほんごうのジャンプが最高到達点ベストに達した所で──

「──ッ!」

 ──撃った。撃ったボールは本剛ほんごうの手の上を通過し、ドンッ! とバックボードに当たると……──ボールがネットを通過する。

「は、入った……ただの〝ワンハンドシュート〟が──ッ!」

樹馬きばは落ちたボールを悔しそうに見つつ、驚いた。

「ああ……、だな。やられた」

くれないは苦笑いをしながらそう付け加える。一方の本剛ほんごうは……燐道りんどうの目の前で、悔しそうになげいていた。

「お、おのれ燐道りんどうッ……はかりやがって……ッ!」
「……?」

燐道りんどうは首を傾げつつ、いつもの無表情だ。
 しかし……その中で一人ひとり違和感いわかんを感じている者がいた……司柴埼しばさきである。司柴崎かれは「うーん……」とうなりつつ、納得のいかない様子だった。それを隣で見兼ねた彩植あやうえが声を掛ける。

司柴埼しばさき先輩……どうかしました?」
「いや、なんつーか……今の燐道りんどうくんのシュートにすげー違和感を感じたんだよ。いや、まあ……何って言ったらいいか分からないけど」
「私は感じなかったのであまり理解しかねます。……に聞いてみては?」
「ああ……そうだな。もしかしてだけど彩植あやうえ持って来た?」
「勿論、それにもう。」

彩植あやうえは「」とスコアボードを指差ゆびさす。良く見ると、ビデオカメラがスコアボードの得点の裏辺うらあたりに隠す感じで取付けられていた。

「お、おう……やるじゃん、お前……。」

 少々引き気味の司柴埼しばさきは苦笑いをしながら答える。

燐道りんどうで流れが一気いっきに変わった1年生チーム。ここから燐道りんどうによる追い上げが起こり始めるのだった……。

__________


 練習試合は第3クォーターへと突入していた。現在の得点は……二年・三年生チーム、41点。一年生チーム、49点──8点差。一年生チームの逆転である。第2クォーターのジャンプシュートの2点以降のプレイは猛威もういふるっており、第1クォーターの時とは思えない動きをしていた。いくらインターバルの休憩2分(第1クォーター後)とハーフタイムの休憩10分(第2クォーター後)があるとは言えど、1クォーターにつき10分間のタイム……つまりあれこれ20分以上はプレイをしている為、だんだんと二年・三年生チームや深村みむらに多少の疲労が見えて来る。しかし、燐道りんどうは第2クォーターファインプレー以降、疲れを見せるどころかかなり動けるようになっていた。因みに結城ゆうきは……とっくにスタミナ切れで、ほとんど動けない状態である。
 そんな中、彩植あやうえ司柴埼しばさきに話しかける。

燐道りんどうくん、凄い元気ですね。……というより、第2クォーターの時より動きにキレが出ています」
「ああ、確かに……恐らくだが、最初の1クォーターで身体が温まった(ウォームアップ)んだろう。一年生達は特にやってなかったから……とはいえ筋肉からだ動き出すの異常に遅ぇな」

 と言って、司柴埼しばさきは一呼吸置くと「それにここまで状態なのに良くスタミナが切れないもんだ」と付け加える。

「それより司柴埼しばさき先輩、結城ゆうきくんが……。」

 隣にいる有島あじまが困った様子で司柴崎しばさきにを掛ける。結城ゆうきはっきり言ってもう動ける状態ではなかった。フラフラと歩いている結城ゆうきを見ると、司柴埼しばさきは「あちゃー……やっぱりあの子そろそろダメか」とつぶやき、ベンチに下げようか考えていた。本当であれば第1クォーターでとっくに下げていたのだが、結城ゆうきが「最後までプレイしたい」と申し出たのである。
 そんな結城かれの前に、ドリブル最中さなか本剛ほんごうの突っ込んだ──結城ゆうきの前へと。結城かれは驚き、フラフラと歩いていた足がすくむ。それを見た本剛ほんごうは、静かな口調で話し始めた。

「……おい、結城ゆうき。お前、黄奈きなさんにそんなフラフラの状態で『最後までプレイさせて下さい』とか何とか言ったそうだな? その威勢いせいだけは認めてやりたい所だが、こうも突っ込まれてディフェンスもしない奴が良く言えたな? ……相手のチームが来たらディフェンスだ結城ゆうきッ! 当たって来いッ!」

 ……本剛ほんごうの怒声。結城ゆうきは、ぶるぶると震えながら「は、はいッ……!」と答えた。それを聞き届けた本剛ほんごうは、大振りの荒々しいドリブルで結城ゆうきを抜かした。……結城ゆうき、威圧で一歩いっぽも動けず……。
 その結城かれの様子に、またも怒鳴りつける本剛ほんごう

「てめぇ……いいかげんにしろッ、結城ゆうきッ! いま言ったばかりなのにディフェンスする気がねぇのか!? こんな遅いドリブルに反応できない訳ないだろう、あァ!? バスケやる気あんのかァ!?」


「──……」


 ──その本剛ほんごうの背後から聞こえた。突然、背後から声を掛けられ、本剛かれは振り返ると──そこには自分の腹辺りの背丈しかない、小・中学生位のがいた、
本剛ほんごうは驚いた様子で話しかける。

「だ、誰だおま──」

 ──お前は? と言いけた時にはおそし……少年かれの右腕が伸び──その拳が本剛ほんごう

「ぐ──ッ!?」

本剛ほんごうは軽くふっ飛び、腹を抱えて倒れる。その場にいた燐道りんどう司柴崎しばさき以外は、その信じられない光景に目を見開いて固まっていた。因みに、何故か司柴埼しばさきはニヤついている。
 そして、拳を戻しながら少年は本剛ほんごうにらみ付け──えた。


「……ゆずちゃんイジメてんじゃねーよ、がッ!!」


沈黙ちんもくの中、校庭に怒声がひびき渡る──。
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