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第1番 GA─天才エース─
背番号 3番〖範激(はんげき)〗
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「オラァ! どうした、一年坊主ども!」
本剛のダンクシュートによる2点以降、10分程度で1年生チームと2年・3年生チームの得点の差は大きく開いていた。
樹馬の得点・レイアップシュート1回の2点、ジャンプシュート1回の2点、計4点。
本剛の得点・ジャンプシュート1回の2点、ダンクシュート3回の6点、計8点。
紅の得点・レイアップシュート3回の6点、ジャンプシュート3回の6点、3Pシュート1回の3点、計15点。
燐道の得点・ダンクシュート5回、計10点。
深村の得点・レイアップシュート1回の2点、ジャンプシュート1回の2点、計4点。
結城の得点……未だ活躍も得点もなし。
二年・三年生チーム、27点。対する一年生チーム、14点──その差、13点差。二年・三年生チームの圧勝である。
「く──っ!」
深村の焦り……一年生チームは思うように連携も取れず。深村がサポートをするだけで、燐道という攻撃を中心にほぼワンマンプレイのような状態だった。一方の2・3年生チームは、当然チームワークの統一が取れている。紅のアシスト、本剛のディフェンス、樹馬のボール運び──チームの実力も無論、二年・三年生チームの圧勝。
そんな最中、燐道は相手側コートを駆け抜け、ディフェンスを仕掛ける紅と対峙していた。
「行かせないぞ。」
そこに……燐道の左側から樹馬が入ってくる。
「ほれ、どーすんだ?」
二人の隙のない守備。挟み撃ちの容赦ないマークだった。
「……。」
しかし、燐道に焦りは見られず……ちらりと二人を交互に見ている。
「来ないならこっちから行くぜ。」
樹馬がスティールを狙って切り込む。
「──ッ。」
「く──ッ!」
燐道はサッと後ろへ下がって躱し、左へと足を踏み出す。それに応じて、紅は右へと切り込む──が、速い。
「あ──ッ!」
紅の手は届かなかった。
そのまま燐道は、ドライブで3Pエリアを駆け抜ける──勿論、ゴール下には本剛。
「来い、燐道ッ!」
本剛は両腕を構えて燐道を待ち受けていた。燐道は間髪入れずに本剛の元へと突っ込んで行く──しかし、そこで
──ピピ──ッ!!
……笛の音。一同、音の方へと顔を向ける──鳴らしたのは司柴埼だった。
「はーい、白熱中のところ悪いが一旦休憩だ。今、第1Q分の10分間が終わった。暴れたりねーだろうけど少しな……で、いいよな公? お前が試合ルールでやろうって言ったんだし」
紅は息を整えつつ微笑む。
「おっ、了解。もう10分たってたんだな……よーし皆、休憩だ! 2分だけだがしっかり休めよ!」
本剛と樹馬、燐道と深村が「はい」とバラバラに返事をする。そして、コートの外に置いてあるベンチに座り、水分補給などを始めた。……しかし、結城の返事だけは無く、膝を地面に着き身体を丸めて「はぁはぁ」と息切れしている。スタミナ切れであった。
それを見兼ねた本剛が怒鳴りつける。
「おい、そこの一年ッ! 公さんに対して返事が無ぇぞ! 10分ごときでもうバテやがって……体力が無さすぎるんじゃないのか、あァ!?」
「……は──ッ! す、すみませんッ……!」
本剛の怒鳴り声と威圧に、結城は肩が竦んでしまう。そこに慌てて紅が入った。
「待て本剛、入ったばかりの一年生なのに厳し過ぎるぞ。それに結城くんは初心者だし仕方ないだろう? ……な?」
「しかし公さん」と言い返そうとする本剛を背に、紅は結城に「大丈夫かー?」と声を掛け、肩を貸してベンチまで連れていった。すると本剛の怒声に怖がってたじたじの深村が眼鏡を曇らせつつ、ボソボソっと燐道に耳打ちする。
「……なあ燐道、あの本剛っていうデカい先輩怖いよな……結城くん半ベソかいてるぞ。」
「いや……。」
その様子を見て「本気かよ」と苦笑する深村を対象に、燐道は興味すら無い表情である。
──ピピ──ッ! ホイッスルを司柴埼が吹いた。
「よし、お前ら息整えたかー? 休憩終了、試合再開だ。」
司柴埼の言葉に1年・2年生達が「はい」とバラバラに答え、それぞれコート内の配置に着く。本剛と燐道は第1Qと同じく、ジャンプボールを受け取りにセンターラインの中(ハーフラインの中心)で向かい合っていた。
「燐道、次もジャンプボールは貰うぜ?」
そう告げて不敵な笑みを浮かべる本剛に対し、燐道は無愛想な顔で答える。
「──次は……俺が頂きます。」
「──!」
本剛は一瞬驚き、目を見開く。が、すぐに「生意気な一年坊主だ」と笑ってみせた。
「よし……それじゃあ行くぞ。」
司柴埼がボールを真上へ投げる……ボールが空高く舞い上がった。それを確認し、二人は跳ぶ。
──バシンッ! 叩き落としたのは燐道。
「な──ッ!?」
「──ッ。」
燐道、タップオフ──第2Q開始。地面で跳ね返ったボールを深村が掴む。透かさず、着地した燐道にパス。本剛はそれを確認すると、早急に両腕を広げてディフェンスに走る──が、広がる前に、燐道は本剛の左へと抜けた。
「……早い!」
司柴埼はそう呟き、目を細める。燐道の動きは、相変わらず大振りのゆっくりとしたドリブルだが、かなり素早い。燐道は深村と共にゴール下へ迫る。──そこへ紅と樹馬のダブルチームディフェンス。
「行かせないぞ!」
「やすやすと通すか、ヤロー!」
しかし──そこで燐道は動きを変えた。唐突にドリブルを素早く、小刻みに。
「──!?」
二人が驚くや否や……今度は動きをゆっくりと、大振りに戻す燐道。そしてまた、先程と同様に素早く小刻みにドリブル──燐道は、その緩急の激しいドリブルを繰り返し続けた。
「……〝チェンジオブペース〟、ですね。二人に合わせて戦法を変えてきたんでしょうか」
彩植がそう問うと、隣にいる司柴埼が口を開いた。
「変えた……つーより、緩急のつけ方がかなり独特だ。荒々しいし……今まではわざとゆっくりなドリブルだけをしていた、みたいな? 変えたっていうよりは燐道の癖……って所か……?」
「では、もしかすればこれで燐道の本気が見れる、ということですかね。」
有島がそう付け加えると、司柴埼は頷く。
一方、燐道は未だフリースローエリア手前でドリブルを続けていた。その最中、紅と樹馬はダブルチームでプレッシャーをかけているが、緩急の激しいドリブルのスタイルになかなか手を出せず──焦る樹馬は精神的に揺さぶろうと燐道に話し掛けた。
「おい燐道、そろそろ動かないと不味いんじゃねーの? そんないつまでも亀みたいにじっとしてたら、俺と紅先輩は取っちまう」
ぜ──と、樹馬がそう言い掛けた刹那──燐道はボールを二人の顔の間へと投げた。
「な──ッ!?」
瞬時に後ろを向いた二人の目の前で、ボールが地面へと落ちる。そして跳ね返りしたボールを──パシッ! 燐道が右手で掴む。
「速い!」と有島が声を上げるや否や、燐道は本剛のいるゴール下へと駆け抜けていた。
「二戦目(第2Q)に入ってからの動き……なかなか驚かせてくれるじゃねーか、燐道。だが勿論、今度は退かせられんぞ?」
本剛はそう燐道に告げると、両腕を大きく広げて構える──両者沈黙。ターンターンタンタンッと緩急のあるドリブル音だけが鳴り響いていた。お互いに相手から目を離さず、神経を研ぎ澄ます。
──タ──ンッ!!
先程より少し大きいバウンド音。燐道が仕掛けて来るのを本剛は瞬時に察知した。ボールは燐道の右手。
(──切り込んでダンクか? それとも──)
燐道はボールを両手持ちに変える。それを見た司柴埼は目を細め、口を開いた。
「……〝ジャンプショット〟か、ここで。良い判断、だが……」
燐道は膝を折り曲げてシュート体勢に入る。それを確認すると、本剛は──笑みを浮かべた。
「……ハハッ、おい! それ(ジャンプシュートのブロック)は……」
燐道が膝を動かす。
「俺の十八番だぜ──ッ!?」
本剛は燐道に合わせて、両手を上に挙げながら──跳んだ。
──しかし、ボールは宙に飛ぶどころか燐道の手から離れる事は無く──燐道の手中に有り。目の前の本剛含め、見ていた全員がその光景に目を見開いた。そして、本剛は跳んでしまってから気付く。
──宙に居るのは俺だけだ……と。
「本剛!〝フェイク〟だッ!!」
紅が叫ぶも時既に遅し……本剛のジャンプが最高到達点に達した所で──
「──ッ!」
──跳ばずに撃った。撃ったボールは本剛の手の上を通過し、ドンッ! とバックボードに当たると……パサッ──ボールがネットを通過する。
「は、入った……ただの〝ワンハンドシュート〟が──ッ!」
樹馬は落ちたボールを悔しそうに見つつ、驚いた。
「ああ……ポンプフェイク、だな。やられた」
紅は苦笑いをしながらそう付け加える。一方の本剛は……燐道の目の前で、悔しそうに嘆いていた。
「お、おのれ燐道ッ……謀りやがって……ッ!」
「……?」
燐道は首を傾げつつ、いつもの無表情だ。
しかし……その中で一人、違和感を感じている者がいた……司柴埼である。司柴崎は「うーん……」と唸りつつ、納得のいかない様子だった。それを隣で見兼ねた彩植が声を掛ける。
「司柴埼先輩……どうかしました?」
「いや、なんつーか……今の燐道くんのシュートにすげー違和感を感じたんだよ。いや、まあ……何って言ったらいいか分からないけど」
「私は感じなかったのであまり理解しかねます。……先生に聞いてみては?」
「ああ……そうだな。もしかしてだけど彩植、カメラ持って来た?」
「勿論、それにもう撮ってます。」
彩植は「ほら」とスコアボードを指差す。良く見ると、ビデオカメラがスコアボードの得点の裏辺りに隠す感じで取付けられていた。
「お、おう……やるじゃん、お前……。」
少々引き気味の司柴埼は苦笑いをしながら答える。
燐道のファインプレーで流れが一気に変わった1年生チーム。ここから燐道による追い上げが起こり始めるのだった……。
__________
練習試合は第3Qへと突入していた。現在の得点は……二年・三年生チーム、41点。一年生チーム、49点──8点差。一年生チームの逆転である。第2Qのジャンプシュートの2点以降燐道のプレイは猛威を奮っており、第1Qの時とは思えない動きをしていた。いくらインターバルの休憩2分(第1Q後)とハーフタイムの休憩10分(第2Q後)があるとは言えど、1Qにつき10分間のタイム……つまりあれこれ20分以上はプレイをしている為、だんだんと二年・三年生チームや深村に多少の疲労が見えて来る。しかし、燐道は第2Qのあのファインプレー以降、疲れを見せるどころかかなり動けるようになっていた。因みに結城は……とっくにスタミナ切れで、殆ど動けない状態である。
そんな中、彩植が司柴埼に話しかける。
「燐道くん、凄い元気ですね。……というより、第2Qの時より動きにキレが出ています」
「ああ、確かに……恐らくだが、最初の1Qで身体が温まった(ウォームアップ)んだろう。一年生達は特にやってなかったから……とはいえ筋肉動き出すの異常に遅ぇな」
と言って、司柴埼は一呼吸置くと「それにここまでワンマンプレイ状態なのに良くスタミナが切れないもんだ」と付け加える。
「それより司柴埼先輩、結城くんが……。」
隣にいる有島が困った様子で司柴崎にを掛ける。結城はっきり言ってもう動ける状態ではなかった。フラフラと歩いている結城を見ると、司柴埼は「あちゃー……やっぱりあの子そろそろダメか」と呟き、ベンチに下げようか考えていた。本当であれば第1Qでとっくに下げていたのだが、結城が「最後までプレイしたい」と申し出たのである。
そんな結城の前に、ドリブル最中の本剛がわざとの突っ込んだ──結城の前へと。結城は驚き、フラフラと歩いていた足が竦む。それを見た本剛は、静かな口調で話し始めた。
「……おい、結城。お前、黄奈さんにそんなフラフラの状態で『最後までプレイさせて下さい』とか何とか言ったそうだな? その威勢だけは認めてやりたい所だが、こうも突っ込まれてディフェンスもしない奴が良く言えたな? ……相手のチームが来たらディフェンスだ結城ッ! 当たって来いッ!」
……本剛の怒声。結城は、ぶるぶると震えながら「は、はいッ……!」と答えた。それを聞き届けた本剛は、大振りの荒々しいドリブルでゆっくりと結城を抜かした。……結城、威圧で一歩も動けず……。
その結城の様子に、またも怒鳴りつける本剛。
「てめぇ……いいかげんにしろッ、結城ッ! 今言ったばかりなのにディフェンスする気がねぇのか!? こんな遅いドリブルに反応できない訳ないだろう、あァ!? バスケやる気あんのかァ!?」
「──てめー……」
──その声は本剛の背後から聞こえた。突然、背後から声を掛けられ、本剛は振り返ると──そこには自分の腹辺りの背丈しかない、小・中学生位の小柄の少年がいた、
本剛は驚いた様子で話しかける。
「だ、誰だおま──」
──お前は? と言いけた時には遅し……少年の右腕が伸び──その拳が本剛の腹にめり込んでいた。
「ぐ──ッ!?」
本剛は軽くふっ飛び、腹を抱えて倒れる。その場にいた燐道と司柴崎以外は、その信じられない光景に目を見開いて固まっていた。因みに、何故か司柴埼はニヤついている。
そして、拳を戻しながら少年は本剛を睨み付け──吼えた。
「……ゆずちゃんイジメてんじゃねーよ、このゴリラ野郎がッ!!」
沈黙の中、校庭に怒声が響き渡る──。
本剛のダンクシュートによる2点以降、10分程度で1年生チームと2年・3年生チームの得点の差は大きく開いていた。
樹馬の得点・レイアップシュート1回の2点、ジャンプシュート1回の2点、計4点。
本剛の得点・ジャンプシュート1回の2点、ダンクシュート3回の6点、計8点。
紅の得点・レイアップシュート3回の6点、ジャンプシュート3回の6点、3Pシュート1回の3点、計15点。
燐道の得点・ダンクシュート5回、計10点。
深村の得点・レイアップシュート1回の2点、ジャンプシュート1回の2点、計4点。
結城の得点……未だ活躍も得点もなし。
二年・三年生チーム、27点。対する一年生チーム、14点──その差、13点差。二年・三年生チームの圧勝である。
「く──っ!」
深村の焦り……一年生チームは思うように連携も取れず。深村がサポートをするだけで、燐道という攻撃を中心にほぼワンマンプレイのような状態だった。一方の2・3年生チームは、当然チームワークの統一が取れている。紅のアシスト、本剛のディフェンス、樹馬のボール運び──チームの実力も無論、二年・三年生チームの圧勝。
そんな最中、燐道は相手側コートを駆け抜け、ディフェンスを仕掛ける紅と対峙していた。
「行かせないぞ。」
そこに……燐道の左側から樹馬が入ってくる。
「ほれ、どーすんだ?」
二人の隙のない守備。挟み撃ちの容赦ないマークだった。
「……。」
しかし、燐道に焦りは見られず……ちらりと二人を交互に見ている。
「来ないならこっちから行くぜ。」
樹馬がスティールを狙って切り込む。
「──ッ。」
「く──ッ!」
燐道はサッと後ろへ下がって躱し、左へと足を踏み出す。それに応じて、紅は右へと切り込む──が、速い。
「あ──ッ!」
紅の手は届かなかった。
そのまま燐道は、ドライブで3Pエリアを駆け抜ける──勿論、ゴール下には本剛。
「来い、燐道ッ!」
本剛は両腕を構えて燐道を待ち受けていた。燐道は間髪入れずに本剛の元へと突っ込んで行く──しかし、そこで
──ピピ──ッ!!
……笛の音。一同、音の方へと顔を向ける──鳴らしたのは司柴埼だった。
「はーい、白熱中のところ悪いが一旦休憩だ。今、第1Q分の10分間が終わった。暴れたりねーだろうけど少しな……で、いいよな公? お前が試合ルールでやろうって言ったんだし」
紅は息を整えつつ微笑む。
「おっ、了解。もう10分たってたんだな……よーし皆、休憩だ! 2分だけだがしっかり休めよ!」
本剛と樹馬、燐道と深村が「はい」とバラバラに返事をする。そして、コートの外に置いてあるベンチに座り、水分補給などを始めた。……しかし、結城の返事だけは無く、膝を地面に着き身体を丸めて「はぁはぁ」と息切れしている。スタミナ切れであった。
それを見兼ねた本剛が怒鳴りつける。
「おい、そこの一年ッ! 公さんに対して返事が無ぇぞ! 10分ごときでもうバテやがって……体力が無さすぎるんじゃないのか、あァ!?」
「……は──ッ! す、すみませんッ……!」
本剛の怒鳴り声と威圧に、結城は肩が竦んでしまう。そこに慌てて紅が入った。
「待て本剛、入ったばかりの一年生なのに厳し過ぎるぞ。それに結城くんは初心者だし仕方ないだろう? ……な?」
「しかし公さん」と言い返そうとする本剛を背に、紅は結城に「大丈夫かー?」と声を掛け、肩を貸してベンチまで連れていった。すると本剛の怒声に怖がってたじたじの深村が眼鏡を曇らせつつ、ボソボソっと燐道に耳打ちする。
「……なあ燐道、あの本剛っていうデカい先輩怖いよな……結城くん半ベソかいてるぞ。」
「いや……。」
その様子を見て「本気かよ」と苦笑する深村を対象に、燐道は興味すら無い表情である。
──ピピ──ッ! ホイッスルを司柴埼が吹いた。
「よし、お前ら息整えたかー? 休憩終了、試合再開だ。」
司柴埼の言葉に1年・2年生達が「はい」とバラバラに答え、それぞれコート内の配置に着く。本剛と燐道は第1Qと同じく、ジャンプボールを受け取りにセンターラインの中(ハーフラインの中心)で向かい合っていた。
「燐道、次もジャンプボールは貰うぜ?」
そう告げて不敵な笑みを浮かべる本剛に対し、燐道は無愛想な顔で答える。
「──次は……俺が頂きます。」
「──!」
本剛は一瞬驚き、目を見開く。が、すぐに「生意気な一年坊主だ」と笑ってみせた。
「よし……それじゃあ行くぞ。」
司柴埼がボールを真上へ投げる……ボールが空高く舞い上がった。それを確認し、二人は跳ぶ。
──バシンッ! 叩き落としたのは燐道。
「な──ッ!?」
「──ッ。」
燐道、タップオフ──第2Q開始。地面で跳ね返ったボールを深村が掴む。透かさず、着地した燐道にパス。本剛はそれを確認すると、早急に両腕を広げてディフェンスに走る──が、広がる前に、燐道は本剛の左へと抜けた。
「……早い!」
司柴埼はそう呟き、目を細める。燐道の動きは、相変わらず大振りのゆっくりとしたドリブルだが、かなり素早い。燐道は深村と共にゴール下へ迫る。──そこへ紅と樹馬のダブルチームディフェンス。
「行かせないぞ!」
「やすやすと通すか、ヤロー!」
しかし──そこで燐道は動きを変えた。唐突にドリブルを素早く、小刻みに。
「──!?」
二人が驚くや否や……今度は動きをゆっくりと、大振りに戻す燐道。そしてまた、先程と同様に素早く小刻みにドリブル──燐道は、その緩急の激しいドリブルを繰り返し続けた。
「……〝チェンジオブペース〟、ですね。二人に合わせて戦法を変えてきたんでしょうか」
彩植がそう問うと、隣にいる司柴埼が口を開いた。
「変えた……つーより、緩急のつけ方がかなり独特だ。荒々しいし……今まではわざとゆっくりなドリブルだけをしていた、みたいな? 変えたっていうよりは燐道の癖……って所か……?」
「では、もしかすればこれで燐道の本気が見れる、ということですかね。」
有島がそう付け加えると、司柴埼は頷く。
一方、燐道は未だフリースローエリア手前でドリブルを続けていた。その最中、紅と樹馬はダブルチームでプレッシャーをかけているが、緩急の激しいドリブルのスタイルになかなか手を出せず──焦る樹馬は精神的に揺さぶろうと燐道に話し掛けた。
「おい燐道、そろそろ動かないと不味いんじゃねーの? そんないつまでも亀みたいにじっとしてたら、俺と紅先輩は取っちまう」
ぜ──と、樹馬がそう言い掛けた刹那──燐道はボールを二人の顔の間へと投げた。
「な──ッ!?」
瞬時に後ろを向いた二人の目の前で、ボールが地面へと落ちる。そして跳ね返りしたボールを──パシッ! 燐道が右手で掴む。
「速い!」と有島が声を上げるや否や、燐道は本剛のいるゴール下へと駆け抜けていた。
「二戦目(第2Q)に入ってからの動き……なかなか驚かせてくれるじゃねーか、燐道。だが勿論、今度は退かせられんぞ?」
本剛はそう燐道に告げると、両腕を大きく広げて構える──両者沈黙。ターンターンタンタンッと緩急のあるドリブル音だけが鳴り響いていた。お互いに相手から目を離さず、神経を研ぎ澄ます。
──タ──ンッ!!
先程より少し大きいバウンド音。燐道が仕掛けて来るのを本剛は瞬時に察知した。ボールは燐道の右手。
(──切り込んでダンクか? それとも──)
燐道はボールを両手持ちに変える。それを見た司柴埼は目を細め、口を開いた。
「……〝ジャンプショット〟か、ここで。良い判断、だが……」
燐道は膝を折り曲げてシュート体勢に入る。それを確認すると、本剛は──笑みを浮かべた。
「……ハハッ、おい! それ(ジャンプシュートのブロック)は……」
燐道が膝を動かす。
「俺の十八番だぜ──ッ!?」
本剛は燐道に合わせて、両手を上に挙げながら──跳んだ。
──しかし、ボールは宙に飛ぶどころか燐道の手から離れる事は無く──燐道の手中に有り。目の前の本剛含め、見ていた全員がその光景に目を見開いた。そして、本剛は跳んでしまってから気付く。
──宙に居るのは俺だけだ……と。
「本剛!〝フェイク〟だッ!!」
紅が叫ぶも時既に遅し……本剛のジャンプが最高到達点に達した所で──
「──ッ!」
──跳ばずに撃った。撃ったボールは本剛の手の上を通過し、ドンッ! とバックボードに当たると……パサッ──ボールがネットを通過する。
「は、入った……ただの〝ワンハンドシュート〟が──ッ!」
樹馬は落ちたボールを悔しそうに見つつ、驚いた。
「ああ……ポンプフェイク、だな。やられた」
紅は苦笑いをしながらそう付け加える。一方の本剛は……燐道の目の前で、悔しそうに嘆いていた。
「お、おのれ燐道ッ……謀りやがって……ッ!」
「……?」
燐道は首を傾げつつ、いつもの無表情だ。
しかし……その中で一人、違和感を感じている者がいた……司柴埼である。司柴崎は「うーん……」と唸りつつ、納得のいかない様子だった。それを隣で見兼ねた彩植が声を掛ける。
「司柴埼先輩……どうかしました?」
「いや、なんつーか……今の燐道くんのシュートにすげー違和感を感じたんだよ。いや、まあ……何って言ったらいいか分からないけど」
「私は感じなかったのであまり理解しかねます。……先生に聞いてみては?」
「ああ……そうだな。もしかしてだけど彩植、カメラ持って来た?」
「勿論、それにもう撮ってます。」
彩植は「ほら」とスコアボードを指差す。良く見ると、ビデオカメラがスコアボードの得点の裏辺りに隠す感じで取付けられていた。
「お、おう……やるじゃん、お前……。」
少々引き気味の司柴埼は苦笑いをしながら答える。
燐道のファインプレーで流れが一気に変わった1年生チーム。ここから燐道による追い上げが起こり始めるのだった……。
__________
練習試合は第3Qへと突入していた。現在の得点は……二年・三年生チーム、41点。一年生チーム、49点──8点差。一年生チームの逆転である。第2Qのジャンプシュートの2点以降燐道のプレイは猛威を奮っており、第1Qの時とは思えない動きをしていた。いくらインターバルの休憩2分(第1Q後)とハーフタイムの休憩10分(第2Q後)があるとは言えど、1Qにつき10分間のタイム……つまりあれこれ20分以上はプレイをしている為、だんだんと二年・三年生チームや深村に多少の疲労が見えて来る。しかし、燐道は第2Qのあのファインプレー以降、疲れを見せるどころかかなり動けるようになっていた。因みに結城は……とっくにスタミナ切れで、殆ど動けない状態である。
そんな中、彩植が司柴埼に話しかける。
「燐道くん、凄い元気ですね。……というより、第2Qの時より動きにキレが出ています」
「ああ、確かに……恐らくだが、最初の1Qで身体が温まった(ウォームアップ)んだろう。一年生達は特にやってなかったから……とはいえ筋肉動き出すの異常に遅ぇな」
と言って、司柴埼は一呼吸置くと「それにここまでワンマンプレイ状態なのに良くスタミナが切れないもんだ」と付け加える。
「それより司柴埼先輩、結城くんが……。」
隣にいる有島が困った様子で司柴崎にを掛ける。結城はっきり言ってもう動ける状態ではなかった。フラフラと歩いている結城を見ると、司柴埼は「あちゃー……やっぱりあの子そろそろダメか」と呟き、ベンチに下げようか考えていた。本当であれば第1Qでとっくに下げていたのだが、結城が「最後までプレイしたい」と申し出たのである。
そんな結城の前に、ドリブル最中の本剛がわざとの突っ込んだ──結城の前へと。結城は驚き、フラフラと歩いていた足が竦む。それを見た本剛は、静かな口調で話し始めた。
「……おい、結城。お前、黄奈さんにそんなフラフラの状態で『最後までプレイさせて下さい』とか何とか言ったそうだな? その威勢だけは認めてやりたい所だが、こうも突っ込まれてディフェンスもしない奴が良く言えたな? ……相手のチームが来たらディフェンスだ結城ッ! 当たって来いッ!」
……本剛の怒声。結城は、ぶるぶると震えながら「は、はいッ……!」と答えた。それを聞き届けた本剛は、大振りの荒々しいドリブルでゆっくりと結城を抜かした。……結城、威圧で一歩も動けず……。
その結城の様子に、またも怒鳴りつける本剛。
「てめぇ……いいかげんにしろッ、結城ッ! 今言ったばかりなのにディフェンスする気がねぇのか!? こんな遅いドリブルに反応できない訳ないだろう、あァ!? バスケやる気あんのかァ!?」
「──てめー……」
──その声は本剛の背後から聞こえた。突然、背後から声を掛けられ、本剛は振り返ると──そこには自分の腹辺りの背丈しかない、小・中学生位の小柄の少年がいた、
本剛は驚いた様子で話しかける。
「だ、誰だおま──」
──お前は? と言いけた時には遅し……少年の右腕が伸び──その拳が本剛の腹にめり込んでいた。
「ぐ──ッ!?」
本剛は軽くふっ飛び、腹を抱えて倒れる。その場にいた燐道と司柴崎以外は、その信じられない光景に目を見開いて固まっていた。因みに、何故か司柴埼はニヤついている。
そして、拳を戻しながら少年は本剛を睨み付け──吼えた。
「……ゆずちゃんイジメてんじゃねーよ、このゴリラ野郎がッ!!」
沈黙の中、校庭に怒声が響き渡る──。
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そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
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隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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