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2章
10.原作とのズレ
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俺はあり得ない考えを振り切るように、頭を小さく振る。
今は目の前のことにだけ集中しよう。
アルヴェンはああ言ったが、キメラのことは俺にも責任がある。アルヴェンが俺のものだというなら、その責任は俺も背負うべきだ。
「……彼らの墓は準備しよう。あとで私の魔法生物をここに送って、回収する」
その時、俺たちにナイフを向けた女性のキメラをじっと見て眉を顰める。
あれ……先ほどは気付かなかったが、彼女の顔には見覚えがあった。
「彼女は……そうだ」
──バイス兄上の、専属使用人。
次の瞬間、パッと頭に浮かび上がってきたのは俺のクズ兄、バイス兄上の顔だ。彼ならこんな馬鹿なことを仕出かしそうだ。大方、目覚めたら別荘送りになっていて癇癪を起したのだろう。アルヴェンに手を出したのは俺に対する嫌がらせの一環だろう。もしくは、アルヴェンにやられたことに気付いたのかもしれない。
──どちらにしても、あのクズ兄上め。
性格の悪さがにじみ出たようなあの顔を思い出して、握った拳が震える。
バイス兄上はよほど追い詰められていたのか、それとも勝てる自信があったのか。自分の専属使用人を向かわせるなんて、証拠を差し出しているも同然だ。
これなら、俺でもバイス兄上にやり返すことができる。
サタリア・ラクトフェルという男がどれほど恐ろしい男であるかを、思い知らせてやる。
◆◆◆
その後、馬車の方まで戻ると半泣きになっていたテランが俺を見るなり大喜びして抱き付くものだから、アルヴェンに無言で引き剥がされ、二人が揉めるというひと悶着があったが、無事に帰路につくことができた。
予定時刻より大幅に遅れて屋敷に戻ると、真っ先に俺を出迎えたのは三つ子たちだった。
「さ、サタリア兄様! 顔に傷がついている!」
「な、なにがあったんだ、大丈夫か!」
屋敷の扉を開けるなり、シンとチークが俺の方に駆け寄ってくることに俺は瞳を丸くさせた。
「お前たち……もう戻ってきていたのか?」
俺が帰るのがいくら遅くなったといっても、彼らが参加していた舞踏会はまだ続いているはずだ。本来なら、彼らはメラニーにどうにかして声を掛けようと必死になっている頃のはずだ。しかし、シンとチークはここにいる。
「サタリア兄様の帰りが予定より遅いって、リティが会場にやってきたんだよ」
「でも、シンがサタリア兄様はずっと前に帰ったって言うからさ……」
二人の話を聞く限り、俺が心配になって舞踏会を放り出して帰ってきたようだ。彼らの言葉は俺にとって予想外で固まるしかない。
「どうして……」
思わず、疑問が口について出た。メラニーに一目惚れした三つ子の優先順位は彼女が最優先になるはずだ。原作通りなら彼女に出会った時から、三つ子はサタリアと距離を取るようになる。
なのに、メラニーと出会ったはずの彼らの言い分が、俺のために戻ってきたように聞こえる。
「どうしてって、そんなのサタリア兄様が心配だったからに決まってるでしょ!」
「そうだぜ! 顔だって傷がついてるし……誰だ、どこの奴にやられたんだ!」
シンは俺の右手を力強く握り、チークは俺の左腕に縋るように抱き付く。その体温は温かい、けれどそれ以上に彼らの言葉が心の奥をじんわりと温めてくれる。
なぜ、原作通りにならなかったのか俺にはわからないが、少なくとも今この瞬間はシンとチークは兄である俺を心から心配してくれているのがわかる。
彼らはメラニーといることより、俺を優先してくれたのだ。
それは、今だけなのかもしれない。それでも、俺にはそれがとても嬉しくて、少し体を屈めてその両腕で二人をまとめて抱きしめた。
「……心配、かけたね」
感情のまま口を開くと、サタリアらしくない優しく穏やかな声が出る。今日はとことん演技が駄目な日だ。そう思いながらも、嫌な気持ちは全くしなかった。
シンとチークは俺の言葉を聞くなり、俺の方へ体を擦り寄ってくる。やっぱり、温かい。その温かさをしっかりと感じたくて、俺は暫く二人を抱きしめ続けた。
「けれど、チーク、シン。サイラはどうした?」
いつもは三人で一緒に行動しているはずなのに、サイラだけがこの場にいない。二人は互いに目を合わせてから、その表情を微かに曇らせた。
「それが、サイラだけ見つからなかったんだ」
「俺たち会場内ではバラバラに行動してたからさ。一応、リティには探すように命じてきたんだけどよ」
サイラだけが、見当たらない?
よくも悪くもラクトフェル家の人間は目立つはずだ。普通なら会場内にいれば、すぐに見つかりそうなものだ。
「最後にサイラを見たのは、いつかわかるかい?」
「ああ、俺が最後に見たのは」
チークが声を続けようとした時だった。バンと音が辺りに響くと玄関の扉が開き放たれる。外気が一気に流れ込み、その場の全員の視線がそちらへ向く。そこには少し焦ったような表情を浮かべた──サイラが立っていた。
「「サイラ!」」
シンとチークが名前を呼びながら、そちらへ駆けていく。真っ先に向かったところを見ると、彼らも見つからない兄弟を心配していたのだろう。
しかし、サイラは二人に囲まれながらもゆっくりと俺の方へ近づいてきた。サイラの肩は上下しており、息も少し荒々しい。よく見れば汗が滲んでおり、急いで駆け付けたことがわかる。
俺の姿をしっかり確認するように、じっくりと見つめてから眉尻を垂らした。
今は目の前のことにだけ集中しよう。
アルヴェンはああ言ったが、キメラのことは俺にも責任がある。アルヴェンが俺のものだというなら、その責任は俺も背負うべきだ。
「……彼らの墓は準備しよう。あとで私の魔法生物をここに送って、回収する」
その時、俺たちにナイフを向けた女性のキメラをじっと見て眉を顰める。
あれ……先ほどは気付かなかったが、彼女の顔には見覚えがあった。
「彼女は……そうだ」
──バイス兄上の、専属使用人。
次の瞬間、パッと頭に浮かび上がってきたのは俺のクズ兄、バイス兄上の顔だ。彼ならこんな馬鹿なことを仕出かしそうだ。大方、目覚めたら別荘送りになっていて癇癪を起したのだろう。アルヴェンに手を出したのは俺に対する嫌がらせの一環だろう。もしくは、アルヴェンにやられたことに気付いたのかもしれない。
──どちらにしても、あのクズ兄上め。
性格の悪さがにじみ出たようなあの顔を思い出して、握った拳が震える。
バイス兄上はよほど追い詰められていたのか、それとも勝てる自信があったのか。自分の専属使用人を向かわせるなんて、証拠を差し出しているも同然だ。
これなら、俺でもバイス兄上にやり返すことができる。
サタリア・ラクトフェルという男がどれほど恐ろしい男であるかを、思い知らせてやる。
◆◆◆
その後、馬車の方まで戻ると半泣きになっていたテランが俺を見るなり大喜びして抱き付くものだから、アルヴェンに無言で引き剥がされ、二人が揉めるというひと悶着があったが、無事に帰路につくことができた。
予定時刻より大幅に遅れて屋敷に戻ると、真っ先に俺を出迎えたのは三つ子たちだった。
「さ、サタリア兄様! 顔に傷がついている!」
「な、なにがあったんだ、大丈夫か!」
屋敷の扉を開けるなり、シンとチークが俺の方に駆け寄ってくることに俺は瞳を丸くさせた。
「お前たち……もう戻ってきていたのか?」
俺が帰るのがいくら遅くなったといっても、彼らが参加していた舞踏会はまだ続いているはずだ。本来なら、彼らはメラニーにどうにかして声を掛けようと必死になっている頃のはずだ。しかし、シンとチークはここにいる。
「サタリア兄様の帰りが予定より遅いって、リティが会場にやってきたんだよ」
「でも、シンがサタリア兄様はずっと前に帰ったって言うからさ……」
二人の話を聞く限り、俺が心配になって舞踏会を放り出して帰ってきたようだ。彼らの言葉は俺にとって予想外で固まるしかない。
「どうして……」
思わず、疑問が口について出た。メラニーに一目惚れした三つ子の優先順位は彼女が最優先になるはずだ。原作通りなら彼女に出会った時から、三つ子はサタリアと距離を取るようになる。
なのに、メラニーと出会ったはずの彼らの言い分が、俺のために戻ってきたように聞こえる。
「どうしてって、そんなのサタリア兄様が心配だったからに決まってるでしょ!」
「そうだぜ! 顔だって傷がついてるし……誰だ、どこの奴にやられたんだ!」
シンは俺の右手を力強く握り、チークは俺の左腕に縋るように抱き付く。その体温は温かい、けれどそれ以上に彼らの言葉が心の奥をじんわりと温めてくれる。
なぜ、原作通りにならなかったのか俺にはわからないが、少なくとも今この瞬間はシンとチークは兄である俺を心から心配してくれているのがわかる。
彼らはメラニーといることより、俺を優先してくれたのだ。
それは、今だけなのかもしれない。それでも、俺にはそれがとても嬉しくて、少し体を屈めてその両腕で二人をまとめて抱きしめた。
「……心配、かけたね」
感情のまま口を開くと、サタリアらしくない優しく穏やかな声が出る。今日はとことん演技が駄目な日だ。そう思いながらも、嫌な気持ちは全くしなかった。
シンとチークは俺の言葉を聞くなり、俺の方へ体を擦り寄ってくる。やっぱり、温かい。その温かさをしっかりと感じたくて、俺は暫く二人を抱きしめ続けた。
「けれど、チーク、シン。サイラはどうした?」
いつもは三人で一緒に行動しているはずなのに、サイラだけがこの場にいない。二人は互いに目を合わせてから、その表情を微かに曇らせた。
「それが、サイラだけ見つからなかったんだ」
「俺たち会場内ではバラバラに行動してたからさ。一応、リティには探すように命じてきたんだけどよ」
サイラだけが、見当たらない?
よくも悪くもラクトフェル家の人間は目立つはずだ。普通なら会場内にいれば、すぐに見つかりそうなものだ。
「最後にサイラを見たのは、いつかわかるかい?」
「ああ、俺が最後に見たのは」
チークが声を続けようとした時だった。バンと音が辺りに響くと玄関の扉が開き放たれる。外気が一気に流れ込み、その場の全員の視線がそちらへ向く。そこには少し焦ったような表情を浮かべた──サイラが立っていた。
「「サイラ!」」
シンとチークが名前を呼びながら、そちらへ駆けていく。真っ先に向かったところを見ると、彼らも見つからない兄弟を心配していたのだろう。
しかし、サイラは二人に囲まれながらもゆっくりと俺の方へ近づいてきた。サイラの肩は上下しており、息も少し荒々しい。よく見れば汗が滲んでおり、急いで駆け付けたことがわかる。
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