桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

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裏腹に草むら

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 目的のコボルトの集落までは、あと三十分ほどだという。
 道中、俺たちは足を止めながら、アルテミシアや野蒜に似た草、そしていくつかの茸を採取していった。

「この森って、食べられるもんがけっこうあるんだな」
「そうだ、大将! 昨日、お料理し忘れてたです!」
「ああ、そうだったな。今日は今採ったもので何か作れたらいいな」

「旦那、料理できるんすか? すげぇっすね!」
「簡単なもんしか作れないけどな。ところでティガたちは、普段何を食べてるんだ?」

「おいらたちは、コネコをよく狩って食うっすね。あと、ジャバリが運よく罠にかかった日にゃ、もう村じゅうお祭り騒ぎっす!」
 コネコ……。一瞬、仔猫を想像してしまったが、脳内自動翻訳機能が『コネコ=ウサギ』だと教えてくれた。

 ジャバリは猪のことらしい。でも、猪一匹でお祭りって……さすがに大げさではなかろうか?
 そんなことを考えていた矢先——辺りが急に暗くなった。
「あ……ひと雨来そうだな」

  ふと空を仰いだその瞬間、視界の隅に巨大な影が映り込んだ。木々の隙間を完全に塞ぐような巨体が、日差しを遮っている。辺りが薄暗くなったのは、雨雲のせいではなかった。
「な、なんじゃこりゃー⁉」

「旦那、ジャバリっす! ヤバいっす、逃げるっすよ! 姐さんも——って、あれ?」
 ティガがララの姿を探したときには、すでに彼女は遥か前方。まるで疾風の如く、誰よりも早く逃げていた。

「うぉぃ! 一人で先に逃げるとか、卑怯じゃないかーっ!」
 いや、待て……。ベリアさんが言ってたな。『討伐より、まずは逃げることを優先しろ』と——

「ティガ、俺たちも撤退だ! 急げ!」
「了解っす!」
 ティガもさすがはコボルト、かなり足が速かった。俺も全力で走ったが、あっという間に引き離される。  

 くそ……! なんで俺だけこんなに遅いんだ⁉ いや、違う……。あの二人が速すぎるだけだ!
 このまま走っても、逃げ切れない——その現実に、俺の足は自然に止まった。

 どうせ逃げ切れないなら……戦ってやる! もし返り討ちに遭って死んだとしても——イーリス様の加護で生き返るはず……たぶん。でも、試したことがないし、本当にそうなるのか? うわぁ~、めっちゃ怖ぇ……命懸けの博打じゃん……。

 そんな俺の心情を察したかのように、不意に声が響いた。
『ヒルムデナイ。ワレヲシンジロ』
 ——その声は、金光!

『ワレヲカマエヨ』
「よし……! ダークウルフのときみたいに、ジャバリも一刀両断にしてやる!」
 己を奮い立たせ、俺は金光を構えた。

 ジャバリは猪突猛進とばかりに全速力で突っ込んでくる。
「か……かかって来いやぁぁっ!」
 勇敢にも、そんな言葉を放った……つもりだったが、実際はジャバリの勢いにビビッて、反射的に草むらへと飛び込み、間一髪で突進を回避していた。

「ひぃっ! ムリムリムリムリ! 死んでも生き返るかもだけど、やっぱ怖すぎるって!」
 体勢を立て直したジャバリが、再びこちらへ向かってくる。だが——俺はあることに気づいた。

「……牙が、折れてる?」
 そうか、さっき避ける瞬間、金光がジャバリの牙を斬ったんだ! やはり『何でも切れる力』は本物だ……。でも、俺がこの力を活かせなきゃ意味がない。逃げ腰のままじゃ、金光にも、俺を育ててくれた両親にも、顔向けできない。

「覚悟を持て、俺!」
 気合を入れ直し、踵を返す。
 迫るジャバリに向かい——今度こそ真っ正面から!

「金光……頼むぞ!」
『ショウチ!』
 恐怖に負けず、腰を据えて、金光を振り抜く!
 ……いや、目は瞑っちゃったけどな。まだそのへんは修行中ってことで……。

 結果——ダークウルフのときと同じように、ジャバリを真っ二つに斬り裂き、討伐することができた。
 ただ今回は、少し違うことが起こってしまっていた。

「うわぁ……血まみれじゃん……全身ドロドロだよ~」
「大将~! 大丈夫ですか……って、うぇぇ~、汚いです~!」
「旦那! マジですげぇっすね! あの大きさのジャバリを、一刀両断だなんて! ハンパねぇっす!」

 う、うん。俺じゃなくて、金光がすごいんだと思うけどね。
『イナ。オヌシガ、ワレヲミゴトニフリキッタユエノショギョウナリ』
 ……なんか、おべんちゃらを言われた気がする。まぁ、悪い気はしないな。実際、今までで一番頑張った……と思いたいし。

「とにかく、みんな無事で良かったよ。それが何よりだ」
「でも、大将。無茶しすぎです~。ベリアさんに怒られるですよ」
 おいおい、それ君が言っちゃう⁉ ……まぁ、ベリアさんには、いろいろ内緒にしとこ。絶対その方が平和だ。

「なぁ、旦那。このジャバリ、どうするっすか?」
「え? どうするったって、こいつも灰になって消えちゃうんだろ?」
「……何言ってるっすか、旦那?」

「何って、こいつも魔物だから、灰になってファ~って消えちゃって、魔含だけになるんだろ?」
「あぁ、そういうことっすか! ジャバリは、ただの馬鹿デカい動物っす。魔物じゃないっすから、灰になって消えたりしないっすよ!」

「えっ、そうなのか?」
「そうっすよ! 魔物をやっつけても、あの変な石——魔含しか残らなくて、食べられないんで、おいらたちもわざわざ戦いはしないんすよね」
「なるほどな。人の生活には魔含が役に立つらしいから、高値で売れるらしいけど……」

「おいらたちにとっちゃあ、ただのちょっと綺麗な石っころっす。で、ジャバリ肉、貰ってもいいっすか?」
「あぁ、構わないよ。逆に俺にはそれのほうが使い道がないからね」

 そう言うと、ティガは喜びのあまり、小躍りを始めた。コボルトたちにとって、ジャバリの肉は何よりのご馳走なのだそうだ。
 ——なるほど。猪が罠に掛かったら、お祭り騒ぎになるってのは、こういうことだったのか。
 そりゃあ、この大きさの獲物が手に入ったら、ドンチャン騒ぎしたくなるのも無理ないな。


 ティガは、ジャバリの命を余すことなく無駄にしないよう、丁寧に肉と皮を解体・成形していった。
「見事なもんだな、ティガ」

「おいらたちは、いつも命をもらって生きてるっす。だから、一片たりとも無駄にはしないっすよ。無駄な命なんて、この世には無いっすから」
 その言葉には、深い重みがあった。命を尊ぶ気持ち……日本人の感覚にも通じる、大切な心だ。

「ジャバリの肉って、美味いのか?」
「そりゃあもう、美味も美味! このジャバリ、良いもん食ってたみたいで、脂と赤身のバランスが絶妙っすよ(じゅるじゅる……)」
 ティガの口からは、涎が滝のように垂れ続けていた。
 俺も、後でちょっと味見させてもらおうかな。
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