36 / 73
表情が物語る
しおりを挟む
料理が運ばれてくるのを、みんなで静かに待つ……なんてことはなく、ララがソワソワしながらスプーンをいじり、ガストンさんは「腹減ったな」とぼやき、レイラさんがそのたびに小声で注意している。
俺はといえば、ついチラチラと準備をするチャットさんの方を見てしまっていた。
……あ、ち、違うよ⁉ フ、フルコースってのが、どんな料理かが気になってるだけだかんね!
そして、ついに——
「皆さま、お待たせいたしました。まずは前菜でございます」
そう言って運ばれてきたのは、小さな皿にちょこんと盛られた美しい一品。色とりどりの野菜に、花のような形の魚の刺身、そして薄く削られたチーズが舞うように散らしてある。
「うわぁ……これ、食べていいやつなのか? 飾りとかじゃないよな?」
「もちろん食べられるよ、太郎! これは『サーモンとハーブのカルパッチョ』だよ」
「へえ……じゃ、いただきます」
一口食べた瞬間、口の中に爽やかな香りと塩気が広がった。サーモンの柔らかさとハーブの香りが絶妙で、とても上品な味がした。
「……うまっ。何これ、うまっ!」
「ララも、いっただきまーす……う、うんまぁ~い‼」
「ララ様、食べながらおしゃべりしない!」
「むぐぅ~、せっかくの美味しい料理が台無しになるです~、ぶーぶー」
豚さんになったララを見て、食卓に明るい笑い声が響いた。
「次は、スープでございます」
スープは黄金色に輝くコンソメスープ。香りが立ちのぼるたび、胃がさらに刺激される。
ティガが興奮を隠せないといった様子でスープを嗅ぎ続けている。
「クンクンクン……‼ この匂いは……バカの骨っすかね⁉」
バ、バカだと⁉ ……まぁ、脳内翻訳機能がバカ=牛と教えてくれているのだが。コネコといい、バカといい、こっちの言語と日本語では、別の意味になる言葉が多くて面白いな。
「こちらのスープは、バカの骨と香味野菜を三日間煮込んだものです」
「三日も……手が込んでますね。いただきます——うわぁ~……染みるなぁ……」
複雑な旨味が口の中で広がる。鼻からは香味野菜の風味がふわっと抜けていく感じがした。俺は一口ずつ、その旨味をゆっくりと味わった。
アテナさん以外のコボルトたちは、その嗅覚で、スープの奥深さを味わうと、皿を盃のように手に持ち、ゴクリと一気飲みしてしまった。
「もう、お父様! ちゃんとスプーンを使わないと」
ガストンさんが笑いながら擁護する。
「なっはっはー。問題ないですよ、アテナさん。食事は自由に楽しんでこそだ! なぁ、チャット」
「おっしゃる通りでございます。一気に飲み干したくなるほど気に入って召し上がっていただけたのなら光栄ですから」
やっぱりチャットさんは、器が違うなぁ~……。
「魚料理、お持ちしました」
次に来たのは白身魚のポワレというらしい。皮目がカリッと焼かれ、身はふっくらとしている。ソースは濃厚だけどくどくない。
「これも、旨味が凄い……(米と一緒に食いてぇ~)」
お次はソルベ。口直しの氷菓子らしい。柚子のような香りで、さっぱりとした甘みが、お口直ししてくれた。
初めて食べる冷たくて甘い食べ物に、アビフ様の表情が一気にゆるむ。
「なんじゃ~これは~。冷たくて甘くて蕩ける……まるで、天国じゃなぁ~!」
「なっはっはー。アビフ殿、お次はお待ちかねのメインディッシュですぞ!」
「メインディッシュ……つまり、肉料理か⁉」
「お待たせしました。メインの肉料理でございます」
運ばれてきた肉料理に、コボルトたちは目を輝かせた。
ティガは、皆の前に皿が並ぶのを待ちきれずにいた。
「うひゃー美味そぉー‼ ……あぁ、駄目だ……ヨダレが止められねぇっす……。すんません旦那! お先っす——ん、んんっ⁉ これ……オレの知ってる肉じゃねぇっす……」
「あまり口に合わなかったか?」
「違うっす……口に入れた瞬間……なくなったっす。う……美味すぎて、ふ、震えが止まらねえっす……」
ティガが突然震え出したので、チャットさんが心配そうに俺に声をかけてきた。
「お、おい太郎! あのティガってコボルト君が震えてるみたいだけど……もしかして、アレルギーとかがあったんじゃ——」
「ご心配無用です! お肉が美味すぎて震えが止まらないって言ってるだけですよ」
「そ、そっか。ならよかった」
まだコボルト達の言葉が分からないチャットさんは胸をなでおろしていた。
異種族のことも心配してくれるチャットさん……(トゥクン!)
メインディッシュのお肉は、ティガが震えるのも理解できるほど美味しかった。本当に歯がいらないくらいに、簡単に口の中でとろけだした。
皆が声を揃えて「こんなの食べたことない」と口にしていた。
メインディッシュを絶賛する中、最後に運ばれてきたのは、美しく飾られた甘味の盛り合わせだった。それらはまるで、皿の上で宝石のように輝いている。
「デザートプレートをお持ちしました」
アテナさんが、珍しく興奮した様子でデザートを眺め続けていた。
「すごく繊細で……見た目もかわいい……」
「だね、アテナお姉ちゃん! 食べんのもったいないけど……いっただきまーす!」
「あぁ、ララちゃん! でもそうね、眺めてるだけじゃ、この子たちも可哀想だし、作ってくれた方にも申し訳ないか。ありがたく、いただきます——⁉ ふわふわのケーキと、酸っぱい果物が……とてもよく合う! なんて美味しい食べ物なんでしょう」
「ふふっ。表情だけでも、美味しいと思っていただけているのが伝わってきますね。僕も、頑張って作った甲斐があります」
「チャットさん、どれもこれも、全部美味しかったです! コボルトの皆さんも口々に絶賛していましたよ」
「うん、ありがとう」
料理って、こんなにも人を幸せにする力があったんだなぁ。父ちゃんと母ちゃんも、こうやってお客さんに喜んでもらうために、店頑張ってくれてたんだな……ありがとう。
俺はといえば、ついチラチラと準備をするチャットさんの方を見てしまっていた。
……あ、ち、違うよ⁉ フ、フルコースってのが、どんな料理かが気になってるだけだかんね!
そして、ついに——
「皆さま、お待たせいたしました。まずは前菜でございます」
そう言って運ばれてきたのは、小さな皿にちょこんと盛られた美しい一品。色とりどりの野菜に、花のような形の魚の刺身、そして薄く削られたチーズが舞うように散らしてある。
「うわぁ……これ、食べていいやつなのか? 飾りとかじゃないよな?」
「もちろん食べられるよ、太郎! これは『サーモンとハーブのカルパッチョ』だよ」
「へえ……じゃ、いただきます」
一口食べた瞬間、口の中に爽やかな香りと塩気が広がった。サーモンの柔らかさとハーブの香りが絶妙で、とても上品な味がした。
「……うまっ。何これ、うまっ!」
「ララも、いっただきまーす……う、うんまぁ~い‼」
「ララ様、食べながらおしゃべりしない!」
「むぐぅ~、せっかくの美味しい料理が台無しになるです~、ぶーぶー」
豚さんになったララを見て、食卓に明るい笑い声が響いた。
「次は、スープでございます」
スープは黄金色に輝くコンソメスープ。香りが立ちのぼるたび、胃がさらに刺激される。
ティガが興奮を隠せないといった様子でスープを嗅ぎ続けている。
「クンクンクン……‼ この匂いは……バカの骨っすかね⁉」
バ、バカだと⁉ ……まぁ、脳内翻訳機能がバカ=牛と教えてくれているのだが。コネコといい、バカといい、こっちの言語と日本語では、別の意味になる言葉が多くて面白いな。
「こちらのスープは、バカの骨と香味野菜を三日間煮込んだものです」
「三日も……手が込んでますね。いただきます——うわぁ~……染みるなぁ……」
複雑な旨味が口の中で広がる。鼻からは香味野菜の風味がふわっと抜けていく感じがした。俺は一口ずつ、その旨味をゆっくりと味わった。
アテナさん以外のコボルトたちは、その嗅覚で、スープの奥深さを味わうと、皿を盃のように手に持ち、ゴクリと一気飲みしてしまった。
「もう、お父様! ちゃんとスプーンを使わないと」
ガストンさんが笑いながら擁護する。
「なっはっはー。問題ないですよ、アテナさん。食事は自由に楽しんでこそだ! なぁ、チャット」
「おっしゃる通りでございます。一気に飲み干したくなるほど気に入って召し上がっていただけたのなら光栄ですから」
やっぱりチャットさんは、器が違うなぁ~……。
「魚料理、お持ちしました」
次に来たのは白身魚のポワレというらしい。皮目がカリッと焼かれ、身はふっくらとしている。ソースは濃厚だけどくどくない。
「これも、旨味が凄い……(米と一緒に食いてぇ~)」
お次はソルベ。口直しの氷菓子らしい。柚子のような香りで、さっぱりとした甘みが、お口直ししてくれた。
初めて食べる冷たくて甘い食べ物に、アビフ様の表情が一気にゆるむ。
「なんじゃ~これは~。冷たくて甘くて蕩ける……まるで、天国じゃなぁ~!」
「なっはっはー。アビフ殿、お次はお待ちかねのメインディッシュですぞ!」
「メインディッシュ……つまり、肉料理か⁉」
「お待たせしました。メインの肉料理でございます」
運ばれてきた肉料理に、コボルトたちは目を輝かせた。
ティガは、皆の前に皿が並ぶのを待ちきれずにいた。
「うひゃー美味そぉー‼ ……あぁ、駄目だ……ヨダレが止められねぇっす……。すんません旦那! お先っす——ん、んんっ⁉ これ……オレの知ってる肉じゃねぇっす……」
「あまり口に合わなかったか?」
「違うっす……口に入れた瞬間……なくなったっす。う……美味すぎて、ふ、震えが止まらねえっす……」
ティガが突然震え出したので、チャットさんが心配そうに俺に声をかけてきた。
「お、おい太郎! あのティガってコボルト君が震えてるみたいだけど……もしかして、アレルギーとかがあったんじゃ——」
「ご心配無用です! お肉が美味すぎて震えが止まらないって言ってるだけですよ」
「そ、そっか。ならよかった」
まだコボルト達の言葉が分からないチャットさんは胸をなでおろしていた。
異種族のことも心配してくれるチャットさん……(トゥクン!)
メインディッシュのお肉は、ティガが震えるのも理解できるほど美味しかった。本当に歯がいらないくらいに、簡単に口の中でとろけだした。
皆が声を揃えて「こんなの食べたことない」と口にしていた。
メインディッシュを絶賛する中、最後に運ばれてきたのは、美しく飾られた甘味の盛り合わせだった。それらはまるで、皿の上で宝石のように輝いている。
「デザートプレートをお持ちしました」
アテナさんが、珍しく興奮した様子でデザートを眺め続けていた。
「すごく繊細で……見た目もかわいい……」
「だね、アテナお姉ちゃん! 食べんのもったいないけど……いっただきまーす!」
「あぁ、ララちゃん! でもそうね、眺めてるだけじゃ、この子たちも可哀想だし、作ってくれた方にも申し訳ないか。ありがたく、いただきます——⁉ ふわふわのケーキと、酸っぱい果物が……とてもよく合う! なんて美味しい食べ物なんでしょう」
「ふふっ。表情だけでも、美味しいと思っていただけているのが伝わってきますね。僕も、頑張って作った甲斐があります」
「チャットさん、どれもこれも、全部美味しかったです! コボルトの皆さんも口々に絶賛していましたよ」
「うん、ありがとう」
料理って、こんなにも人を幸せにする力があったんだなぁ。父ちゃんと母ちゃんも、こうやってお客さんに喜んでもらうために、店頑張ってくれてたんだな……ありがとう。
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる