51 / 73
拳で語り合え
しおりを挟む
昼食を終えた後、人とコボルトとの話し合いを、と思っていたのだが——
「よし行こうか」
「うむっ!」
ガストンさんとアビフ様が、満面の笑みでみんなをどこかへ引き連れていってしまった。
「お二人とも、どちらへ?」
「決まってんだろ? 鍛錬場だよ!」
「桃太郎くんも、来るじゃろ?」
「え? で、でも、自己紹介とか、話し合いとかは……」
「自己紹介に話し合いだぁ? くだらねぇ! そんなもん、こいつが全部語ってくれるだろうがよぉ!」
そう言って、ガストンさんは拳で掌を叩いた。うん……さすが武闘派。領主のお父様から勘当されるのも頷ける……。
「お、俺はそういうのは、ちょっと……」
「なぁにを言っておるのじゃ、桃太郎くん? ささ、参るぞ~」
俺よりも小柄なアビフ様に手を握られると、拒否権を行使する隙もなく、ズルズルと鍛錬場まで引き摺られていく俺だった。
鍛錬場での時間は——まさに地獄そのものだった。
模擬戦につぐ、模擬戦……。
とにかく殴られては転がり、倒れては起こされ、そのたびに救護係のメリッサさんとオリザさんにお世話になった。
驚いたことに、その鍛錬中、誰一人として一言も喋らなかったのだ。にもかかわらず、鍛錬を終えた途端、冒険者たちとコボルトたちは肩を組み合って笑い合い、和気あいあいと帰っていった。……正直、よく分からない感覚だ。
俺は、普通にお話し合いをして仲を深めたかったです……イテテテ。
夜は、お待ちかねの懇親会だ。ララやアテナさんたちが準備してくれていたおかげで、集落中がにぎやかに彩られていた。
ジャバリカーニバルから数日しか経っていないのに、またお祭りができると聞いて、コボルトの皆さんも心底楽しみにしてくれていたようだ。
そんな中、アビフ様が場の中心に立ち、声を響かせる。
「今宵は月が綺麗だな。我らの集落に客人が来た、この記念すべき夜に相応しい月夜じゃ。改めて、ようこそ、冒険者の皆様方!」
大きな拍手が巻き起こる。
「短い間とはいえ、我らは同じ目的を持って共に行動する者。つまり仲間である! そして、拳を交えた者同士は……もはや友である!」
再び、拍手と歓声が湧き上がった。
続いて、ガストンさんが前に出る。
「素晴らしいスピーチをありがとう、アビフ殿! アビフ殿の言う通りだ。仲間を……友を、誰一人欠けさせちゃぁならねぇ! 全員で全員を守り、このクエストを完遂する。いいな⁉」
「おー‼」と全員の雄叫びが、夜の静寂を打ち破る。
「では、勝利を祈って……かんぱーい!」
あの重たい樽の中身は、お酒だったらしい。道理で重かったわけだ。
みるみるうちに、樽の中身が空になる。帰りは楽になりそうで助かる。
皆が盛り上がっている中、俺はララとティガを呼び寄せ、だれもいない宿舎の中へと入った。アイテムボックスから、あるものを取り出すためだ。
「ララ、ティガ。これ持って行くのを手伝ってくれないか?」
「旦那、なんすかこれ⁉ めっちゃ旨そうな匂いっすね~」
「これはピッツァだよ。昨日の夜にチャットさんに頼んで焼いてもらってたんだ」
「大将、グッジョブです‼」
「頑張ったのは俺じゃなくて、チャットさんだけどな」
「でも、みんなのためにチャットにお願いしてくれたのは大将でしょ? きっとみんな喜ぶですね~。ありがとうです!」
俺に出来ることは少ない。それでも、少しでもみんなの力になれたらと、そう思って動いた結果だった。それを素直に喜んでもらえて……少し、照れくさかった。
「みなさーん。大将からの差し入れでーす! チャット特製のピッツァですよ~!」
その声と同時に、アビフ様のスピーチ以上の歓声が巻き起こる。
我先にと、ピッツァ争奪戦が始まり、瞬く間にピッツァは腹の中へと消えていった。
初めてピッツァを食べたコボルトたちの中には、感動のあまり涙を流す者さえいた。
料理で感動を与えることができるチャットさんの腕前に、改めて憧憬《しょうけい》の念を抱いた。
食事も尽き、夜も更けてきたので、今夜の懇親会はお開きとなった。
作戦会議を明朝行うことを決めると、それぞれの宿舎へと戻り、明日への英気を養うのだった。
「よし行こうか」
「うむっ!」
ガストンさんとアビフ様が、満面の笑みでみんなをどこかへ引き連れていってしまった。
「お二人とも、どちらへ?」
「決まってんだろ? 鍛錬場だよ!」
「桃太郎くんも、来るじゃろ?」
「え? で、でも、自己紹介とか、話し合いとかは……」
「自己紹介に話し合いだぁ? くだらねぇ! そんなもん、こいつが全部語ってくれるだろうがよぉ!」
そう言って、ガストンさんは拳で掌を叩いた。うん……さすが武闘派。領主のお父様から勘当されるのも頷ける……。
「お、俺はそういうのは、ちょっと……」
「なぁにを言っておるのじゃ、桃太郎くん? ささ、参るぞ~」
俺よりも小柄なアビフ様に手を握られると、拒否権を行使する隙もなく、ズルズルと鍛錬場まで引き摺られていく俺だった。
鍛錬場での時間は——まさに地獄そのものだった。
模擬戦につぐ、模擬戦……。
とにかく殴られては転がり、倒れては起こされ、そのたびに救護係のメリッサさんとオリザさんにお世話になった。
驚いたことに、その鍛錬中、誰一人として一言も喋らなかったのだ。にもかかわらず、鍛錬を終えた途端、冒険者たちとコボルトたちは肩を組み合って笑い合い、和気あいあいと帰っていった。……正直、よく分からない感覚だ。
俺は、普通にお話し合いをして仲を深めたかったです……イテテテ。
夜は、お待ちかねの懇親会だ。ララやアテナさんたちが準備してくれていたおかげで、集落中がにぎやかに彩られていた。
ジャバリカーニバルから数日しか経っていないのに、またお祭りができると聞いて、コボルトの皆さんも心底楽しみにしてくれていたようだ。
そんな中、アビフ様が場の中心に立ち、声を響かせる。
「今宵は月が綺麗だな。我らの集落に客人が来た、この記念すべき夜に相応しい月夜じゃ。改めて、ようこそ、冒険者の皆様方!」
大きな拍手が巻き起こる。
「短い間とはいえ、我らは同じ目的を持って共に行動する者。つまり仲間である! そして、拳を交えた者同士は……もはや友である!」
再び、拍手と歓声が湧き上がった。
続いて、ガストンさんが前に出る。
「素晴らしいスピーチをありがとう、アビフ殿! アビフ殿の言う通りだ。仲間を……友を、誰一人欠けさせちゃぁならねぇ! 全員で全員を守り、このクエストを完遂する。いいな⁉」
「おー‼」と全員の雄叫びが、夜の静寂を打ち破る。
「では、勝利を祈って……かんぱーい!」
あの重たい樽の中身は、お酒だったらしい。道理で重かったわけだ。
みるみるうちに、樽の中身が空になる。帰りは楽になりそうで助かる。
皆が盛り上がっている中、俺はララとティガを呼び寄せ、だれもいない宿舎の中へと入った。アイテムボックスから、あるものを取り出すためだ。
「ララ、ティガ。これ持って行くのを手伝ってくれないか?」
「旦那、なんすかこれ⁉ めっちゃ旨そうな匂いっすね~」
「これはピッツァだよ。昨日の夜にチャットさんに頼んで焼いてもらってたんだ」
「大将、グッジョブです‼」
「頑張ったのは俺じゃなくて、チャットさんだけどな」
「でも、みんなのためにチャットにお願いしてくれたのは大将でしょ? きっとみんな喜ぶですね~。ありがとうです!」
俺に出来ることは少ない。それでも、少しでもみんなの力になれたらと、そう思って動いた結果だった。それを素直に喜んでもらえて……少し、照れくさかった。
「みなさーん。大将からの差し入れでーす! チャット特製のピッツァですよ~!」
その声と同時に、アビフ様のスピーチ以上の歓声が巻き起こる。
我先にと、ピッツァ争奪戦が始まり、瞬く間にピッツァは腹の中へと消えていった。
初めてピッツァを食べたコボルトたちの中には、感動のあまり涙を流す者さえいた。
料理で感動を与えることができるチャットさんの腕前に、改めて憧憬《しょうけい》の念を抱いた。
食事も尽き、夜も更けてきたので、今夜の懇親会はお開きとなった。
作戦会議を明朝行うことを決めると、それぞれの宿舎へと戻り、明日への英気を養うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる