桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

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拳で語り合え

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 昼食を終えた後、人とコボルトとの話し合いを、と思っていたのだが——
「よし行こうか」
「うむっ!」

 ガストンさんとアビフ様が、満面の笑みでみんなをどこかへ引き連れていってしまった。
「お二人とも、どちらへ?」

「決まってんだろ? 鍛錬場だよ!」
「桃太郎くんも、来るじゃろ?」
「え? で、でも、自己紹介とか、話し合いとかは……」

「自己紹介に話し合いだぁ? くだらねぇ! そんなもん、こいつが全部語ってくれるだろうがよぉ!」
 そう言って、ガストンさんは拳で掌を叩いた。うん……さすが武闘派。領主のお父様から勘当されるのも頷ける……。

「お、俺はそういうのは、ちょっと……」
「なぁにを言っておるのじゃ、桃太郎くん? ささ、参るぞ~」
 俺よりも小柄なアビフ様に手を握られると、拒否権を行使する隙もなく、ズルズルと鍛錬場まで引き摺られていく俺だった。



 鍛錬場での時間は——まさに地獄そのものだった。
 模擬戦につぐ、模擬戦……。
 とにかく殴られては転がり、倒れては起こされ、そのたびに救護係のメリッサさんとオリザさんにお世話になった。

 驚いたことに、その鍛錬中、誰一人として一言も喋らなかったのだ。にもかかわらず、鍛錬を終えた途端、冒険者たちとコボルトたちは肩を組み合って笑い合い、和気あいあいと帰っていった。……正直、よく分からない感覚だ。
 俺は、普通にお話し合いをして仲を深めたかったです……イテテテ。



 夜は、お待ちかねの懇親会だ。ララやアテナさんたちが準備してくれていたおかげで、集落中がにぎやかに彩られていた。
 ジャバリカーニバルから数日しか経っていないのに、またお祭りができると聞いて、コボルトの皆さんも心底楽しみにしてくれていたようだ。

 そんな中、アビフ様が場の中心に立ち、声を響かせる。
「今宵は月が綺麗だな。我らの集落に客人が来た、この記念すべき夜に相応しい月夜じゃ。改めて、ようこそ、冒険者の皆様方!」

 大きな拍手が巻き起こる。
「短い間とはいえ、我らは同じ目的を持って共に行動する者。つまり仲間である! そして、拳を交えた者同士は……もはや友である!」

 再び、拍手と歓声が湧き上がった。
 続いて、ガストンさんが前に出る。
「素晴らしいスピーチをありがとう、アビフ殿! アビフ殿の言う通りだ。仲間を……友を、誰一人欠けさせちゃぁならねぇ! 全員で全員を守り、このクエストを完遂する。いいな⁉」

 「おー‼」と全員の雄叫びが、夜の静寂を打ち破る。
「では、勝利を祈って……かんぱーい!」
 あの重たい樽の中身は、お酒だったらしい。道理で重かったわけだ。
 みるみるうちに、樽の中身が空になる。帰りは楽になりそうで助かる。


 皆が盛り上がっている中、俺はララとティガを呼び寄せ、だれもいない宿舎の中へと入った。アイテムボックスから、あるものを取り出すためだ。
「ララ、ティガ。これ持って行くのを手伝ってくれないか?」

「旦那、なんすかこれ⁉ めっちゃ旨そうな匂いっすね~」
「これはピッツァだよ。昨日の夜にチャットさんに頼んで焼いてもらってたんだ」
「大将、グッジョブです‼」

「頑張ったのは俺じゃなくて、チャットさんだけどな」
「でも、みんなのためにチャットにお願いしてくれたのは大将でしょ? きっとみんな喜ぶですね~。ありがとうです!」

 俺に出来ることは少ない。それでも、少しでもみんなの力になれたらと、そう思って動いた結果だった。それを素直に喜んでもらえて……少し、照れくさかった。
「みなさーん。大将からの差し入れでーす! チャット特製のピッツァですよ~!」

 その声と同時に、アビフ様のスピーチ以上の歓声が巻き起こる。
 我先にと、ピッツァ争奪戦が始まり、瞬く間にピッツァは腹の中へと消えていった。

 初めてピッツァを食べたコボルトたちの中には、感動のあまり涙を流す者さえいた。
 料理で感動を与えることができるチャットさんの腕前に、改めて憧憬《しょうけい》の念を抱いた。


 食事も尽き、夜も更けてきたので、今夜の懇親会はお開きとなった。
 作戦会議を明朝行うことを決めると、それぞれの宿舎へと戻り、明日への英気を養うのだった。
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