桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

文字の大きさ
53 / 73

Aの実力

しおりを挟む
 それぞれの班が、三方向へと散り散りに進み始める。
 道中は、テソーロからの道程とは打って変わり、狼や熊が姿を現し、襲いかかってくる場面もあった。

 彼らの声が分かる俺は、みなに「殺生はしないように」とお願いした。
 理由は単純だ。彼らも、俺たちを恐れているだけだったからだ。
 生き延びるために、相手を倒さねばならない。それが、自然界の掟……野生の流儀というやつだな。

 特に、熊には生まれたばかりの小熊がいるらしく、親熊はその子を守ろうとして必死に襲いかかってきた。
 人間と同じだ。子を守るためなら、親は命を懸けて戦う。それは、生まれ持った性——この世に命を得た者すべてに通じる本能なのだと思う。あの熊は、まさに親の鏡だな。


 目的地まで、あと半分というところで、空を飛ぶヴェルディが上空から合図を送ってきた。
『北西の方角、魔物と交戦中! 魔物は……でっかい鹿が四頭だ!』

 北西——それは、エスピアさんの班の進行方向だ。鹿って、もしかして……ブラックホーンディアか⁉
「ヴェルディ、戦況は分かるか?」

『一頭は撃破済み! でも残り三頭に囲まれてる。人間二人、負傷してる!』
「マズいな……。援護に向かうぞ!」
 北西へ足を向けかけたそのとき——

『ガストン! ……その必要はなさそうだ……』
 ヴェルディの声に、俺の足が止まる。まさか……。
『……鹿の頭が、急にチョン切れた。何が起こった?』

 全滅したのは、どうやら魔物の方だったらしい。
 最悪の事態が脳裏をよぎっていた俺は、安堵の息を漏らす。
 それにしても、急に魔物の首が落ちるなんて……。

「おそらく、エスピアたちの仕業だ。あいつらは、糸を使った罠を仕掛けることが得意らしい。それでプツンとやったんだろう。それに、ブラックホーンディアは、最近よく現れていた魔物だ。行動パターンも把握してたんだろう」

 なるほど、さすがエスピアさん! かつて俺が口から出まかせで「情報通」なんて言ったけど、今ではその嘘も真実に変わりつつある。
 一度殺されてしまった過去はあるとはいえ、エスピアさんが仲間に加わってくれて良かったなと、心から思った。


 エスピア班の戦闘から数分後——
 今度は俺たちの前にも、魔物が現れた。
 その魔物は、熊のようだ。先ほど遭遇した熊よりも、かなり大きく感じた。

 フィンが口を開く。
「あれは、ベアファングだな。かなり大きい。その体躯に見合わず、動きは身軽だ。前脚のなぎ払いには注意しろ。風圧だけでもダメージを食らうぞ」

 ふ、風圧だけで⁉ そんな敵を相手に、おれはどうすれば……⁉
 とにかく、まずは距離を取らないと。
 コボルト部隊がベアファングを囲み、周囲の空気がピリッと張り詰める。

 そのとき、ベアファングの足がわずかに動いた。小枝が「ピキッ」と折れる。
 その音を合図に、コボルトたちが一斉に飛びかかった!
『グウォォォォーーー‼』

 森に響く、ベアファングの咆哮——
「……やったか⁉」
 そう思った次の瞬間だった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」
 コボルトたちが、四方八方に吹き飛ばされていく。
 その中心には……何事のなかったように、黒い影が仁王立ちしている。
「む……無傷、だと⁉」

 フィンが大声で指示を飛ばす。
「救護係はコボルトたちの手当てを! 俺とアンガスが奴のヘイトを取る! ガストンさんとアビフ様は後方へ! サラは離れた位置から頭を狙え! 弱点は『目』だ!」

 的確な指示だ。だけど……俺は? 俺は何をすれば⁉
 あたふたしていた俺に、フィンが目を向けて言った。
「リーダー君、その剣……なんだかスゴそうだね! もしできるなら、ベアファングの脚を狙ってくれないか⁉」

「ど、どの脚を?」
「どこでもいいよ! 攻撃力の高い前脚がベストだけど、後ろ脚でも動きを鈍らせることができるだろうからね」

 いや、めっちゃ簡単そうに言う~。『そこの大根、切っといて』くらいの軽さだったよ!
 フィンさんはAランクだけど、俺は二週間前までは、ただの村人Aですよ?

 とはいえ、泣き言ばかり言ってられない。
 俺にも、意地ってもんがある……のか?
 いな! 意地はなくとも、意気地なしとは言われたくない‼
 俺は金光をしっかり握りしめ、ベアファングの動きに備えた——
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました

黒崎隼人
ファンタジー
「君、死んじゃったから、異世界で国、作らない?」 ブラック企業で過労死した俺、相川大地。 女神様から授かったのは、一振りで大地を耕し、一瞬で作物を育てる**最強の『神農具』**だった!? 右も左もわからない荒野でのサバイバル。 だけど、腹ペコのエルフ美少女を助け、頼れるドワーフ、元気な猫耳娘、モフモフ神狼が仲間になって、開拓生活は一気に賑やかに! 美味しいご飯とチート農具で、荒野はあっという間に**「奇跡の村」**へ。 これは、ただの農民志望だった俺が、最高の仲間たちと世界を救い、種族の壁を越えた理想の国『アグリトピア』を築き上げる物語。 農業は、世界を救う! さあ、今日も元気に、畑、耕しますか!

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...