桃太郎は、異世界でも歴史に名を刻みます

林りりさ

文字の大きさ
4 / 73

銀河を統べる女神

しおりを挟む
「……うゔ、うーん……ん? ここは……」
 鬼に食べられてからの記憶がない。あぁ、それもそうか……俺は死んだんだった。ってことは、ここは黄泉の国か?
 そんなことをぼんやり考えていると、どこからか優しい声が聞こえてきた。

「ようやく目覚めましたか。どこか痛むところはありませんか?」
「え、あ、いえ……特には……」
「それは何よりです。起き上がれますか?」
 声の主に促されるままに、俺はゆっくりと身を起こした。

「お体は大丈夫そうですね。安心しました。あなたは、桃太郎さんで間違いないですね?」
「……はい、そうですが……あの、あなたは?」

「申し遅れました。私はイーリス。この銀河を統べる者、とでも言っておきましょうか」
「ぎ、銀河……?」

「桃太郎さん……。残念ですが、あなたは地球で、不遇にも命を落としてしまいました」
「やはり鬼に食われて死んだのですね」
「そうです。しかし本来、あなたはそこで命を落とす運命ではなかったのです」

「……えっ⁉」
 予期せぬ言葉に、思わずのけぞる。
「鬼切丸という男に会いましたね?」

「あぁ、あの屈強な男ですよね」
「はい。本来なら彼が鬼退治に赴くはずでした。しかし、運命の歯車が狂い、その役目があなたに回ってきてしまったのです」

「ちょ、ちょっと待ってください! それってつまり……俺はただの犬死だったってことですか⁉︎」
 イーリスは申し訳なさそうに目を伏せ、ぺこりと頭を下げた。

「申し訳ありません」
「マジか……。で、どこでその運命の歯車とやらは狂ったんです?」
「鬼切丸が、呉羽姫に出会ってしまったことが原因でしょうね」

「呉羽姫……。そういや、あいつなんか言ってたなぁ。あの人との約束がなんとかって」
「ええ、呉羽姫は綾羽姫という姉と共に、機織りの技術を伝えるため日本に渡来してきた方です。旅の途中で猪に襲われ、綾羽姫は逃げ延びましたが、呉羽姫は深手を負いながらも、命からがらあの港まで逃げおおせました。そこで偶然、漁に来ていた鬼切丸に助けられたのです」

「……それが、どう鬼退治と関係するんです?」
「命を救われたお礼にと、呉羽姫は機織りの技術を彼に伝えました。普通なら鬼切丸の性格からして、そこまで夢中になるとは思っていなかったのですが……」

 イーリスはため息混じりに続ける。
「まさかの、ド嵌りしてしまいまして……。気づけば、裁縫男子が爆誕しておりました」
 裁縫男子……だと!?

「彼に機織りの才能は皆無なんですがね……」
「でしょうね。あのオンボロ生地が、こないだ織った自信作だとか言っていましたし」

「はい……。彼は旅立った呉羽姫との再会を誓い、それまでに一人前の機織り職人になると決めたのです。それで鬼退治はすっかり後回しに……」
 俺が呆れ果てていると、イーリスはふっと表情を改めた。

 イーリスは、俺が本来の運命とは違う道を辿り、不遇な死を遂げてしまったお詫びにと、新しい魂に息吹を与え、別の世界で人生をやり直す機会を設けてくれると提案してきた。
 そういったことを『転生』というらしい。

 さらに、転生した先で現世では成し遂げられなかった未練を果たすための助力を、三つ授けてくれると言ってきた。
「おお、それはありがたい! じゃあ、どんな力をもらおうかな——」

 俺が考えようとし始めた時、イーリスは勝手に一つ目を決めてしまった。
「まず一つ目は“天寿を全うする力”を授けましょう」
「えっ? 三つとも俺に決めさせてくれるんじゃないんですか?」

「まぁそれも悪くはないでしょうが、この力はなかなかに素晴らしい力だと思いますよ!」
「天寿を全うするって……割と普通なんじゃ?」

「いえいえ、かなり特別な力です!」
 イーリスは微笑みながら説明を続ける。
「これから転生する世界には、先ほどの鬼なんかよりも、遥かに凶暴な魔人や魔物がウジャウジャ生息しています」

「はっ? ちょ、聞いてないんですけど⁉」
「ですがこの力があれば、命を落としても“数時間前に巻き戻る”ことができます。その体の寿命が尽きるまでは、何度でも。つまり、不運な死からは守られます」

「……ってことは、復活できるってことですか?」
「ええ、そういう認識で概ね構いません。ただし、“死の運命”そのものを避けるのは、あなた自身の行動にかかっています」
「なるほど……じゃあ、危ない場所には近づかないようにすれば……」

「それも一つの手ですが、周囲の人々は巻き込まれて死ぬかもしれません。それを防ぎたければ、あなた自身が脅威を断たなければならないのです」
「うぅ……。なら、そこに皆も近づかないように説得すれば……」

「言いたいことはわかりますが、それは無理でしょう。未来予知などの能力は、あちらの世界では信じられておりませんので、誰もあなたの声には耳を傾けないでしょうから」
「……つまり、脅威の元を絶たなきゃいけないってことか」

「そう言うことですね。では、“天寿を全うする力”を付与致します」
 イーリスが両手をかざすと、全身がふわっと金色の光に包まれた。
「な、なんだコレ? あったかくて……とても心地良い」

「付与が完了いたしました。暖かく感じたのは、私の力が桃太郎さんの御魂と融合した証ですね」
「すげぇ……! あ、あの~、一個つ質問してもいいですか?」

「ええ、どうぞ」
「もし……もしですよ! 好きになった子ができて~、告白するじゃないですか~。で、もし断られたりしたら……その日の朝に戻って“なかったこと”にできたり……しませんかねぇ?」

 イーリスは、その下衆な発想にしばらく絶句したのち、ピシャリと答えた。
「桃太郎さん……私の授けた力を、そんなくだらないことに使おうとするなんて……。当然、そんな使い方は許しません!」
 こっぴどく怒られた俺は、情けなくもどんどん体が縮んでいった。

「念のため伝えておきますが、ご自身で命を絶った場合、それは運命を放棄したとみなされ、やり直しは認められませんのでねっ!」
「はい……すみません。命大事に、真っ当に生きていきます……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました

黒崎隼人
ファンタジー
「君、死んじゃったから、異世界で国、作らない?」 ブラック企業で過労死した俺、相川大地。 女神様から授かったのは、一振りで大地を耕し、一瞬で作物を育てる**最強の『神農具』**だった!? 右も左もわからない荒野でのサバイバル。 だけど、腹ペコのエルフ美少女を助け、頼れるドワーフ、元気な猫耳娘、モフモフ神狼が仲間になって、開拓生活は一気に賑やかに! 美味しいご飯とチート農具で、荒野はあっという間に**「奇跡の村」**へ。 これは、ただの農民志望だった俺が、最高の仲間たちと世界を救い、種族の壁を越えた理想の国『アグリトピア』を築き上げる物語。 農業は、世界を救う! さあ、今日も元気に、畑、耕しますか!

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...