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二つ目の分岐点
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翌朝。
目を覚ますと、アルフォンス様はその顔にいつも通りの穏やかな微笑みを浮かべていた。
けれどその奥には、深い決意を宿していた。
「二人目の妻を、迎え入れることにしたよ」
その声は優しく、とても落ち着いていた。
俺は喉の奥が焼けるような痛みを覚えながらも、静かに微笑んで頷いた。
「ルーナ。しばらくは君に寂しい思いをさせるかもしれないが、……わかってくれるな?」
アルフォンス様も、その口元は笑っていたけれど、声はわずかに震えていた。
「はい。もちろんです。アルフォンス様、俺のわがままを聞いてくださり……ありがとうございます」
アルフォンス様は言葉を呑み込み、ただ強く俺のことを抱きしめて、いつものように口付けをしてくれた。
***
しばらくして、屋敷は慌ただしくなっていた。
新しい孕み腹の男を迎える準備が、着々と進められていたのだ。
二人目の妻となるその人は、アルフォンス様と同じくらい高貴な血筋の人だという。
もともとアルフォンス様のご友人で、その身分ゆえにずっと孕み腹であることを隠して今まで生きていたらしい。
「ルイスといって、誰にでも優しい男だ。ルーナとも、きっと仲良くなれると思うよ」
アルフォンス様は安心させるように、俺の手をそっと握ってくれた。
しかしその指は、すぐに離れてしまう。
「ルイス様の、ご到着です」
「わかった、すぐに向かう」
もう、触れてはいけないと言われたように感じてしまっていた。
ルイス様は、黒くうねりのある長い髪が特徴的な、金色に輝く瞳を持つ美丈夫でもあった。
陽の光を知らぬような白い肌に、洗練されたその仕草。
そして、アルフォンス様の隣に立つと美しい一枚の絵画のようにとても様になっていた。
挨拶の場で、ルイス様は静かにこう宣言をした。
「俺は、孕み腹の役目を果たすためだけにここに来た。子を産んだら、即座に離縁する」
アルフォンス様は、困ったように眉を下げていた。ルイス様は対照的に、俺に向けてにっこりと微笑んだ。
「大丈夫。君のアルフォンスを、奪いはしないよ」
その笑顔があまりにも美しくて、思わず息が止まってしまう。
そして避ける暇もなく、そっと頬に口付をされていた。
「ルイス、何をしているんだ」
これまでに耳にしたこともないような低い怒りの声に振り返れば、アルフォンス様の瞳が静かに燃えていた。
「なにって、挨拶だよ。……妻同士、仲良くしよう?」
ルイス様はにやりとした笑みを浮かべて、そのまま去っていく。
アルフォンス様も、その後を追って部屋を出て行った。
それから、アルフォンス様はルイス様にかかりきりになっていく。
もちろん、その役目を果たしている様子も見受けられた。
屋敷の廊下で、中庭で、二人は仲睦まじく笑って寄り添っていた。
アルフォンス様は、俺には見せたことのない砕けた表情をルイス様の前では見せていた。
声に弾むような軽さもあり、そこには遠慮も隔たりもなかった。
正直なところ、とても羨ましかった。
俺には引き出せなかった顔を、ルイス様はいとも軽やかに引き出してしまうのだから。
しかしそれは、もともとご友人としての仲があるからこそ。
そうはわかっていても、二人の姿を目に入れるたびに俺の胸はひどく痛んだ。
呼吸が苦しくなって、まともに息を吸うことも難しくなっていく。
***
ある夜、俺はいつまでたっても眠れずにいた。
嫌な胸のざわめきが、治まらなかったんだ。
アルフォンス様に会えば、きっとこの苦しみも落ち着き、いつもの優しい声で慰めてくれると俺は思っていた。
静かに部屋を出て、そっとアルフォンス様の寝室へと向かう。
そして開いたままの扉の隙間から、見てしまったんだ。
柔らかな笑みでルイス様の髪に触れ、優しい声で愛を囁くアルフォンス様の姿を。
それは、俺が好きなあの笑顔だった。俺だけに向けられていたはずの、声でもあった。
息が、止まった。声が出なかった。
そのまま逃げるように部屋へと戻り、俺は寝台でひとり声を押し殺して密かに泣いた。
これは俺が願ったことでもあり、そう望んだ未来の結果でもあったのだ。
仕方のないことだとわかっていても、辛いものがあった。
目を覚ますと、アルフォンス様はその顔にいつも通りの穏やかな微笑みを浮かべていた。
けれどその奥には、深い決意を宿していた。
「二人目の妻を、迎え入れることにしたよ」
その声は優しく、とても落ち着いていた。
俺は喉の奥が焼けるような痛みを覚えながらも、静かに微笑んで頷いた。
「ルーナ。しばらくは君に寂しい思いをさせるかもしれないが、……わかってくれるな?」
アルフォンス様も、その口元は笑っていたけれど、声はわずかに震えていた。
「はい。もちろんです。アルフォンス様、俺のわがままを聞いてくださり……ありがとうございます」
アルフォンス様は言葉を呑み込み、ただ強く俺のことを抱きしめて、いつものように口付けをしてくれた。
***
しばらくして、屋敷は慌ただしくなっていた。
新しい孕み腹の男を迎える準備が、着々と進められていたのだ。
二人目の妻となるその人は、アルフォンス様と同じくらい高貴な血筋の人だという。
もともとアルフォンス様のご友人で、その身分ゆえにずっと孕み腹であることを隠して今まで生きていたらしい。
「ルイスといって、誰にでも優しい男だ。ルーナとも、きっと仲良くなれると思うよ」
アルフォンス様は安心させるように、俺の手をそっと握ってくれた。
しかしその指は、すぐに離れてしまう。
「ルイス様の、ご到着です」
「わかった、すぐに向かう」
もう、触れてはいけないと言われたように感じてしまっていた。
ルイス様は、黒くうねりのある長い髪が特徴的な、金色に輝く瞳を持つ美丈夫でもあった。
陽の光を知らぬような白い肌に、洗練されたその仕草。
そして、アルフォンス様の隣に立つと美しい一枚の絵画のようにとても様になっていた。
挨拶の場で、ルイス様は静かにこう宣言をした。
「俺は、孕み腹の役目を果たすためだけにここに来た。子を産んだら、即座に離縁する」
アルフォンス様は、困ったように眉を下げていた。ルイス様は対照的に、俺に向けてにっこりと微笑んだ。
「大丈夫。君のアルフォンスを、奪いはしないよ」
その笑顔があまりにも美しくて、思わず息が止まってしまう。
そして避ける暇もなく、そっと頬に口付をされていた。
「ルイス、何をしているんだ」
これまでに耳にしたこともないような低い怒りの声に振り返れば、アルフォンス様の瞳が静かに燃えていた。
「なにって、挨拶だよ。……妻同士、仲良くしよう?」
ルイス様はにやりとした笑みを浮かべて、そのまま去っていく。
アルフォンス様も、その後を追って部屋を出て行った。
それから、アルフォンス様はルイス様にかかりきりになっていく。
もちろん、その役目を果たしている様子も見受けられた。
屋敷の廊下で、中庭で、二人は仲睦まじく笑って寄り添っていた。
アルフォンス様は、俺には見せたことのない砕けた表情をルイス様の前では見せていた。
声に弾むような軽さもあり、そこには遠慮も隔たりもなかった。
正直なところ、とても羨ましかった。
俺には引き出せなかった顔を、ルイス様はいとも軽やかに引き出してしまうのだから。
しかしそれは、もともとご友人としての仲があるからこそ。
そうはわかっていても、二人の姿を目に入れるたびに俺の胸はひどく痛んだ。
呼吸が苦しくなって、まともに息を吸うことも難しくなっていく。
***
ある夜、俺はいつまでたっても眠れずにいた。
嫌な胸のざわめきが、治まらなかったんだ。
アルフォンス様に会えば、きっとこの苦しみも落ち着き、いつもの優しい声で慰めてくれると俺は思っていた。
静かに部屋を出て、そっとアルフォンス様の寝室へと向かう。
そして開いたままの扉の隙間から、見てしまったんだ。
柔らかな笑みでルイス様の髪に触れ、優しい声で愛を囁くアルフォンス様の姿を。
それは、俺が好きなあの笑顔だった。俺だけに向けられていたはずの、声でもあった。
息が、止まった。声が出なかった。
そのまま逃げるように部屋へと戻り、俺は寝台でひとり声を押し殺して密かに泣いた。
これは俺が願ったことでもあり、そう望んだ未来の結果でもあったのだ。
仕方のないことだとわかっていても、辛いものがあった。
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