貧乏貴族だけど類稀なる孕み腹の診断が下りて格上貴族と結婚したのにぜんぜんその気配がなくて調べたら俺に欠陥があった件

陽花紫

文字の大きさ
5 / 21

二つ目の分岐点

しおりを挟む
 翌朝。
 目を覚ますと、アルフォンス様はその顔にいつも通りの穏やかな微笑みを浮かべていた。
 けれどその奥には、深い決意を宿していた。

「二人目の妻を、迎え入れることにしたよ」

 その声は優しく、とても落ち着いていた。
 俺は喉の奥が焼けるような痛みを覚えながらも、静かに微笑んで頷いた。

「ルーナ。しばらくは君に寂しい思いをさせるかもしれないが、……わかってくれるな?」

 アルフォンス様も、その口元は笑っていたけれど、声はわずかに震えていた。

「はい。もちろんです。アルフォンス様、俺のわがままを聞いてくださり……ありがとうございます」
 アルフォンス様は言葉を呑み込み、ただ強く俺のことを抱きしめて、いつものように口付けをしてくれた。

***

 しばらくして、屋敷は慌ただしくなっていた。
 新しい孕み腹の男を迎える準備が、着々と進められていたのだ。

 二人目の妻となるその人は、アルフォンス様と同じくらい高貴な血筋の人だという。
 もともとアルフォンス様のご友人で、その身分ゆえにずっと孕み腹であることを隠して今まで生きていたらしい。
「ルイスといって、誰にでも優しい男だ。ルーナとも、きっと仲良くなれると思うよ」
 アルフォンス様は安心させるように、俺の手をそっと握ってくれた。
 しかしその指は、すぐに離れてしまう。

「ルイス様の、ご到着です」
「わかった、すぐに向かう」

 もう、触れてはいけないと言われたように感じてしまっていた。

 ルイス様は、黒くうねりのある長い髪が特徴的な、金色に輝く瞳を持つ美丈夫でもあった。
 陽の光を知らぬような白い肌に、洗練されたその仕草。
 そして、アルフォンス様の隣に立つと美しい一枚の絵画のようにとても様になっていた。

 挨拶の場で、ルイス様は静かにこう宣言をした。
「俺は、孕み腹の役目を果たすためだけにここに来た。子を産んだら、即座に離縁する」
 アルフォンス様は、困ったように眉を下げていた。ルイス様は対照的に、俺に向けてにっこりと微笑んだ。
「大丈夫。君のアルフォンスを、奪いはしないよ」
 その笑顔があまりにも美しくて、思わず息が止まってしまう。
 そして避ける暇もなく、そっと頬に口付をされていた。
「ルイス、何をしているんだ」
 これまでに耳にしたこともないような低い怒りの声に振り返れば、アルフォンス様の瞳が静かに燃えていた。
「なにって、挨拶だよ。……妻同士、仲良くしよう?」

 ルイス様はにやりとした笑みを浮かべて、そのまま去っていく。
 アルフォンス様も、その後を追って部屋を出て行った。


 それから、アルフォンス様はルイス様にかかりきりになっていく。

 もちろん、その役目を果たしている様子も見受けられた。
 屋敷の廊下で、中庭で、二人は仲睦まじく笑って寄り添っていた。
 アルフォンス様は、俺には見せたことのない砕けた表情をルイス様の前では見せていた。
 声に弾むような軽さもあり、そこには遠慮も隔たりもなかった。

 正直なところ、とても羨ましかった。

 俺には引き出せなかった顔を、ルイス様はいとも軽やかに引き出してしまうのだから。
 しかしそれは、もともとご友人としての仲があるからこそ。
 そうはわかっていても、二人の姿を目に入れるたびに俺の胸はひどく痛んだ。
 呼吸が苦しくなって、まともに息を吸うことも難しくなっていく。

***

 ある夜、俺はいつまでたっても眠れずにいた。
 嫌な胸のざわめきが、治まらなかったんだ。
 アルフォンス様に会えば、きっとこの苦しみも落ち着き、いつもの優しい声で慰めてくれると俺は思っていた。

 静かに部屋を出て、そっとアルフォンス様の寝室へと向かう。
 そして開いたままの扉の隙間から、見てしまったんだ。
 柔らかな笑みでルイス様の髪に触れ、優しい声で愛を囁くアルフォンス様の姿を。

 それは、俺が好きなあの笑顔だった。俺だけに向けられていたはずの、声でもあった。
 息が、止まった。声が出なかった。
 そのまま逃げるように部屋へと戻り、俺は寝台でひとり声を押し殺して密かに泣いた。

 これは俺が願ったことでもあり、そう望んだ未来の結果でもあったのだ。
 仕方のないことだとわかっていても、辛いものがあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...