紹介制のとある秘密の屋敷にて

陽花紫

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才ある子を求めて

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 とある夫婦は、あの屋敷によって子供をもうけていた。

 しかし夫は長男が成長するにつれ、理由のわからぬ苛立ちを息子へと向けるようになっていく。
「いつまで泣いている!……なんて、出来の悪い子供なんだ」
 その言葉に幼い少年は怯え、妻のイーダは抱きしめながら震えた声で畳みかける。
「そのようなことを、言わないでください!まだほんの小さな子どもなのよ?」
 しかしその言葉は、激高する夫には届かない。
 彼の視線はいつしか息子に向けられた愛情から遠ざかり、まるで重荷を見るような冷たさだけが残っていた。

 やがて夫は、吐き捨てるように言った。
「他の、頭のいいやつの種をもらってこい!」
 イーダは泣きながらも、しかし抗うことなどできずにいた。
 守るべきは息子であり、この家の未来でもあったのだから。

 その夜、息子はイーダの袖を握りしめて眠りにつく。
 イーダは柔らかな髪を撫でながら、小さく囁いた。
「あなたは、あなたのままでいいのよ。何も悪くはないの。でもね、母さんは……もう一つの道を選ばなくてはいけないのよ」

 部屋を後にする直前、かすかな寝息は静かに広がり、その清らかな無垢さがイーダの胸に深く刺さる。
 しかしイーダは金を握りしめ、再びあの屋敷の門をくぐったのであった。


 屋敷は以前と同じように、どこか時間が止まったままのような、あたたかな暗さを抱いていた。
 今回は前とは異なる青年が、イーダのことを出迎えた。
「おかえりなさいませ、奥様」
 白い手袋をした美しい指先は、まるで全てを見透かすかのように微笑んで扉を開く。
 イーダは青年に導かれるがまま、離れへと移動をした。

 部屋には、仮面をつけた複数人の男たちが静かに佇む。
 まるで魂の質を見定めるかのように、彼らはイーダのことだけを見つめていた。
「今回は、どのようなお悩みで?」
 柔らかく響く声に、イーダは震える声で事情を語った。
「どうしても……頭の良い子が必要なんです。息子を、守るためにも……」

 一瞬、長い沈黙が落ちる。
 しかし、責めるような声は返ってはこなかった。
「子供の能力は、決して測れるものではありません。それでも……、よろしいのですね?」
 その問いは、覚悟を試すようにゆっくりと告げられた。

 イーダは唇を噛み閉めながら、深く頷いた。

 そして彼女の前に、ある一人の男が進み出る。
 銀の長い髪が部屋の灯りを受けて揺れ、その横顔は冷たいほどに美しく整っていた。
「彼は、頭脳明晰ですよ」
 イーダは小さく息を呑み、静かに頭を下げていた。
「……どうか、お願いいたします」


 導かれたのは、以前と同じ小部屋であった。
 寝台が一つ、水差しとグラスのみが置かれ、外界と切り離されたような静寂が漂っていた。

 青年は仮面を外すと、優雅な礼をしてみせた。
「フェル、と申します」
 その所作には、知性と余裕が漂っていた。
「イーダです。あの……」
「私は、普段は学院で研究をしています。ここに来るのは資金調達のためでもありますが、……まあ、理由はいろいろと」
 淡々と語る声の奥には、どこか冷えたような影があった。
 だが次に発した彼の言葉は、鋭くも優しいものであったのだ。
「あなたさまのご主人は、とても愚かだ」
 イーダは驚き、顔を上げる。
 フェルはほんのわずかに微笑んだ。
「しかし幸運なことに、イーダ様と巡り会うことができました。それだけは感謝いたしましょう。私は忙しい身のために、この屋敷には滅多にいませんから」
 フェルはイーダの手を取り、ゆっくりとその指を重ねた。
 触れ合うだけで、身体の奥がじんわりと熱を帯びるようでもあった。

 外見とは異なり、口づけはひどく情熱的なものであった。
 静かにその熱を与えるかのように、ゆるやかに舌は絡めとられイーダは思わず息をすることも忘れて夢中になってしまう。

 イーダの蕩けるような視線を感じたフェルは、わずかに目を伏せてその滑らかな肌へ手を伸ばした。
「子を産み落とした後の体のほうが、より魅力的であると私個人は思っています」
 そのような言葉を伝えながら、その身ひとつひとつを確かめるかのようにフェルの白く大きな手はイーダの肌をなぞる。
 まるで初めからその場所を知っているかのように、しなやかに動く指はイーダの身を強く震わせた。
「……っ!」
 首筋から鎖骨へ、そして胸元を経て腹部へと。
 フェルは深い息を吐いて、腹部のさらに奥に向けてゆっくりと手のひらを押し当てた。
「……前回は、どのような男の種を?」
 その言葉に、イーダは息を呑む。
 名は忘れてしまったものの、その逞しく大きな身と確かに種を植え付けた激しい熱だけは今もなおその心の奥に残っていたからだ。
 フェルの長い指はやがて秘所へと埋められ、静かにその身を開いていく。
 そのような刺激のなかで、イーダは息も絶え絶えにこう答えた。
「その……、忘れてしまったわ」
 途端に、フェルはイーダの顎を掴み上げながら激しい口づけをひとつ落とす。

「……嘘は、いけませんよ?ここは、全てをさらけ出す場でもあるのですから」
 びくりと、内部が激しく震えた。
 まるで早急に次の種を欲しているかのように、意識に反してあたたかな蜜は溢れだすばかりであった。

 イーダは荒く息を吐きながら、名を忘れてしまったことを正直に打ち明けていく。
「でも、よく覚えているわ……。あなたよりも大きな背に、逞しい体つき。髪は茶色で、目は淡い金色だった……」
 フェルはイーダの髪を撫でながら、静かに呟いた。
「なるほど……。それでは、私は彼以上の快楽をイーダ様に与えてみせましょう」
 紳士的な動作でイーダの身を押し倒し、その上に跨りながらフェルはイーダの細い首元を両の手で包み込んでみせる。

「お尋ねいたします。人は、どのような時に子孫を遺そうとするのでしょうか?」
 わずかに力が込められたその手の感触に、イーダは何も言うことができないでいた。
 のしかかる重圧、脈を打ちながらも聳える熱。その顔は涼やかなものであるというのに、目元だけは支配的な鋭さを持ち合わせていた。
 しかしイーダの肉体だけは、その時を待ちわびるかのように激しく燃え上がる。
「私個人としては、その身に危険を感じた時なのではないかと……考えていますが」
 有無を言わさぬその視線に、イーダもまた目だけで頷いた。

 次の瞬間、イーダの首は強く締め上げられてしまう。
「うっ……!」
 息は止まり、どくどくと脈を打つその場所は次第に熱を持つ。
 しかしその熱を落ち着けるかのように、フェルの手はひどく冷たいものでもあった。
 さらりと揺れた銀色の髪が、イーダの目の前に広がる。それは天上の輝きにも似て、イーダは薄れゆく意識のなかで美しい天使の姿を目にした。
 天使の微笑に、思わずその身の奥は疼いてしまう。
 もう待てないとでもいうように、どろりと蜜は滴り落ちていたのである。

 しばらくして、ゆっくりと手の力は抜けてしまう。
 やがてイーダの目の前には、天使などではなく美しい笑みを浮かべた青年が現れる。
 フェルはその身の熱を静かに擦りつけながら、イーダの目を見て微笑んだ。
「いかがでしょう……。あなたさまのその身は、なんとおっしゃっていますか?」
「子供が、ほしいの……。私の血を受け継ぐ、子供が……」
「……そうでしょう」
 フェルは満面の笑みを浮かべながら、一息にその身を貫いた。
「ああああっ!」
 静寂を切り裂く咆哮に、フェルは短く息を吐く。
「獣も人も皆、同じものなのですよ。種を遺すために、本能のままに求め合う。……素晴らしいことです」
 そう告げながら、フェルはゆるやかに腰を動かしていく。
 イーダは思わずその身に手を伸ばそうとするものの、フェルの手によってその自由は奪われてしまう。

「あなたさまはただ、その奥だけで私の身を感じていてください。それが、子を成すための近道です」

 いつしか両の手は寝台へと縫い付けられ、イーダは脚を広げたままその身の奥深くを穿つ大きな熱を感じていた。
 何度もその種は吐き出されるものの、しかし決してフェルはその熱を抜くような真似はしなかった。
 時折熟れた胸元を強く吸い上げながら、フェルはただ一心に最奥へ向けて種を注ぐ。
 
 再びその手が首元を締め上げた時、イーダは天に向かって心の中で祈りを捧げていた。
 どうか再び、その命が宿るようにと。
 自らの命が脅かされるなかで、イーダは確かに次の命を願っていた。その肉体もまた、一滴も取りこぼさぬようにと収縮を繰り返してフェルの種を搾り取る。
「……ああっ!」
 フェルの大きな声が響く時、イーダは天使と口づけを交わす夢を見た。
 まだ見ぬ未来への約束であるかのように、それはとても穏やかな口づけでもあったのだ。


 夢から覚めた時、フェルは静かにイーダの髪を撫でていた。
 わずかに身じろぎをすれば、力なく微笑んだ。
「……生まれ持った才能は、努力によって花開く。どうか、そのことをお忘れなきよう」
 その声はまるで、天使の祝福のようであるかのように感じられた。

「フェル、ありがとう」

 最後にイーダの頬にそっと触れ、フェルは額に向けて控えめな口づけを落とす。
「競うことも時には必要ですが……。私は、そうは思いません。一人の子として、あなたさまのこれまでの子と同じように等しく愛してあげてください」

***

 月日は流れ、イーダは男児を出産していた。
 イーダに似て穏やかで、よく笑う子でもあった。
 夫は納得のいかぬままにふてくされた態度を続けていたが、兄となった長男は弟の誕生を純粋に喜んでいた。

 弟は時に兄を追い越そうとし、兄は時に優しく導き、二人は競いながらも互いを認め合いながら育っていく。
 イーダは二人が寄り添って眠りにつく姿を見るたびに、あの屋敷で出会った銀の天使のことを思い返していた。

「兄弟がいて、よかったわ」

 あたたかな思いが胸を包み、そっと目を閉じる。
 涼しげな顔をした銀髪の青年が、どこか遠くからその未来を見守っているような気がした。

END
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