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異世界転移をして詰みました
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「……詰んだ。」
その状況を理解したとき、サクは思わずこう口にしていた。
ゆっくりと上半身を起こし、息を吸う。鼻腔に満ちる匂いは甘いはずであるというのに、どこか鉄のような、湿った香りが混ざっていた。
肌に感じるのは、冷えきった空気だけ。
――ここは。
見覚えがある。あってしまった。
窓のない簡素な部屋。壁には装飾ひとつなく、ただ幾重にも鍵のついた扉が並ぶ。
その身に感じるのはかすかな痛みと、腕に残る赤い跡。
寝台の横には、異様に大きな鏡があった。
鏡の前に立つと、白い肌には赤い花弁が散っていた。
「なにこれ」
そして太腿を伝う、ある粘液。
そしてその白く濁った液体を指ですくったときに、サクは思い出してしまう。
「さっきまでやってた18禁BLゲームじゃん、これ」
知らずのうちにバッドエンドルートへと突入していたと気づいたサクは、絶望した。
攻略対象のうちの一人、貴族のエヴァン。
黒く長い髪に、整った容姿。紫色の瞳に甘く低い声。そして黒魔術に長けていた。
絶大な人気を誇る彼の正規ルートに進めば、溺愛され、華やかな未来が待っているはずであった。
しかしひとたび、その機嫌を損ねてしまうと最悪のルートへと転がり落ちてしまう。
貴族は仮の姿で、その笑みの下に深い執着を隠した、美しくも破滅的な魔術師でもあったのだ。
最終的には、主人公サクの身を永遠に閉じ込めてしまおうと、屋敷の隠された部屋に封印してしまう。
いわゆる、寵愛監禁バッドエンドを迎えてしまうのだ。
この部屋に使用人が立ち入ることはなく、エヴァン自らがサクに向けてありとあらゆる世話をするのだ。
そしてもちろん、一方的な愛を伝える行為もその世話の中には含まれている。
当初サクはエヴァンに対してここから出すように、間違っていると語りかけるものの、次第にその心は壊れてしまう。
やがてはエヴァンを愛するだけの生き人形となり、永遠に閉ざされたこの部屋で一生をおくるのだ。
「そんなの、嫌だ!」
しかし考えられる猶予は少ない。
腕の痕跡、体の違和感。幸いなことにそれは、まだ壊され切る前の状態であった。
運命に抗うなら、今しかない。
――でも、どうやって?
サクは前世の記憶を思い返しながら、自らの身を強く抱きしめていた。
しかし無情にも、扉の鍵が開く音がした。
エヴァンが、やってきたのだ。
正規ルートの爽やかな微笑みはなく、今はその顔に影を落とし口元を歪ませて笑っていた。
「サク、湯浴みの時間だよ」
その言葉にわずかに安堵するものの、エヴァンはサクの身を勢いよく抱き上げた。
――えっ?
驚き抵抗する前に、その力を封じるよう強く抱きしめられてしまう。
その腕に抱かれたまま扉を抜け、鍵を開けた隣室へと連れて行かれていた。
至近距離で見上げたエヴァンの顔は、彫像のように整いすぎていた。
その美しさは恐怖すら霞ませるほどで、サクは一瞬、見惚れてしまう。
「さっきは、無理をさせただろう?ここが空になるまで、綺麗にしてあげよう」
甘く低い声が、胸に落ちる。
その響きは強い熱を持ち、意識と反してその身の奥は勝手に疼いてしまう。
「ふふ、……楽しみかい?」
洗脳されてはいけないと、わかっていながらもなおもその熱は心の奥へと広がっていく。
サクはどのような反応をすればいいのか、わからなかった。
その時、目を疑うような光景が広がる。
馴染みのある、あの”選択肢”が目の前に現れたのであった。
『笑う』
『無言』
『急かす』
――って、どれにすればいいんだよ!
しかし、冷静に考える。
笑いかけて何か影響を与えてはいけないと思い、サクはうつむき、無言を貫いた。
「今日も君は、つれないな」
ひとまず、正解であったようだ。
しかし、油断をしてはいけなかった。
エヴァンはサクの身を、手ずから綺麗に洗い清めはじたのであった。穴という穴から、その内部に至るまで。
サクは息も絶え絶えに、その刺激と戦うしかなかった。
――顔と声だけは、いいのになあ……。
湿り気を帯びた音とともに、エヴァンの長い指はしなやかにその肌を滑っていく。
しかし、決して抵抗してはいけない。抵抗すればするほど、相手を刺激するだけであるとサクは知っていたからだ。
「大丈夫。全部、綺麗にしてあげるよ」
――せめて、溺愛ルートがよかった。
そのようなことを思いながら、サクはエヴァンの手に向けてその精を放つ。
全てを終えた後、サクは静かに寝台へと寝かされていた。
「おやすみ、サク。愛しているよ」
そう口づけを落として、エヴァンは去っていった。
あらゆる部分に疲れが染み込み、もはやその身に力は入らなかった。
――一方的な愛ほど、恐ろしいものはないな。
サクは身震いしながら、どうするべきかを考えた。
そして、あることを思い出す。
「バグコード……」
それはゲームの攻略サイトに掲載されていた情報であり、確かなものかはわからないものであった。
ステータス画面の名前設定欄で、ある言葉を入力すると意図的にバグが引き起こされるというものでもあった。
ある時は攻略対象の容姿が別の攻略対象に変わったり、ある時はいつまでもエンディングを迎えることなく、永遠に甘やかな日々を過ごすことができたり。
ある時は好感度が一番低い相手が、なぜか最高高感度に変わっていたりとそれは何が起こるのか予測不可能なものであった。
しかし、やってみるほかない。
サクは、心の中で唱えていた。
――ステータス、オープン。
すると、脳内には見慣れた画面が浮き上がる。
迷わず名前設定欄を押し、震える指で、ある言葉を入力した。
「おぼえていろエヴァン」
瞬く間に脳内は闇に覆われ、サクは意識を手放した。
その状況を理解したとき、サクは思わずこう口にしていた。
ゆっくりと上半身を起こし、息を吸う。鼻腔に満ちる匂いは甘いはずであるというのに、どこか鉄のような、湿った香りが混ざっていた。
肌に感じるのは、冷えきった空気だけ。
――ここは。
見覚えがある。あってしまった。
窓のない簡素な部屋。壁には装飾ひとつなく、ただ幾重にも鍵のついた扉が並ぶ。
その身に感じるのはかすかな痛みと、腕に残る赤い跡。
寝台の横には、異様に大きな鏡があった。
鏡の前に立つと、白い肌には赤い花弁が散っていた。
「なにこれ」
そして太腿を伝う、ある粘液。
そしてその白く濁った液体を指ですくったときに、サクは思い出してしまう。
「さっきまでやってた18禁BLゲームじゃん、これ」
知らずのうちにバッドエンドルートへと突入していたと気づいたサクは、絶望した。
攻略対象のうちの一人、貴族のエヴァン。
黒く長い髪に、整った容姿。紫色の瞳に甘く低い声。そして黒魔術に長けていた。
絶大な人気を誇る彼の正規ルートに進めば、溺愛され、華やかな未来が待っているはずであった。
しかしひとたび、その機嫌を損ねてしまうと最悪のルートへと転がり落ちてしまう。
貴族は仮の姿で、その笑みの下に深い執着を隠した、美しくも破滅的な魔術師でもあったのだ。
最終的には、主人公サクの身を永遠に閉じ込めてしまおうと、屋敷の隠された部屋に封印してしまう。
いわゆる、寵愛監禁バッドエンドを迎えてしまうのだ。
この部屋に使用人が立ち入ることはなく、エヴァン自らがサクに向けてありとあらゆる世話をするのだ。
そしてもちろん、一方的な愛を伝える行為もその世話の中には含まれている。
当初サクはエヴァンに対してここから出すように、間違っていると語りかけるものの、次第にその心は壊れてしまう。
やがてはエヴァンを愛するだけの生き人形となり、永遠に閉ざされたこの部屋で一生をおくるのだ。
「そんなの、嫌だ!」
しかし考えられる猶予は少ない。
腕の痕跡、体の違和感。幸いなことにそれは、まだ壊され切る前の状態であった。
運命に抗うなら、今しかない。
――でも、どうやって?
サクは前世の記憶を思い返しながら、自らの身を強く抱きしめていた。
しかし無情にも、扉の鍵が開く音がした。
エヴァンが、やってきたのだ。
正規ルートの爽やかな微笑みはなく、今はその顔に影を落とし口元を歪ませて笑っていた。
「サク、湯浴みの時間だよ」
その言葉にわずかに安堵するものの、エヴァンはサクの身を勢いよく抱き上げた。
――えっ?
驚き抵抗する前に、その力を封じるよう強く抱きしめられてしまう。
その腕に抱かれたまま扉を抜け、鍵を開けた隣室へと連れて行かれていた。
至近距離で見上げたエヴァンの顔は、彫像のように整いすぎていた。
その美しさは恐怖すら霞ませるほどで、サクは一瞬、見惚れてしまう。
「さっきは、無理をさせただろう?ここが空になるまで、綺麗にしてあげよう」
甘く低い声が、胸に落ちる。
その響きは強い熱を持ち、意識と反してその身の奥は勝手に疼いてしまう。
「ふふ、……楽しみかい?」
洗脳されてはいけないと、わかっていながらもなおもその熱は心の奥へと広がっていく。
サクはどのような反応をすればいいのか、わからなかった。
その時、目を疑うような光景が広がる。
馴染みのある、あの”選択肢”が目の前に現れたのであった。
『笑う』
『無言』
『急かす』
――って、どれにすればいいんだよ!
しかし、冷静に考える。
笑いかけて何か影響を与えてはいけないと思い、サクはうつむき、無言を貫いた。
「今日も君は、つれないな」
ひとまず、正解であったようだ。
しかし、油断をしてはいけなかった。
エヴァンはサクの身を、手ずから綺麗に洗い清めはじたのであった。穴という穴から、その内部に至るまで。
サクは息も絶え絶えに、その刺激と戦うしかなかった。
――顔と声だけは、いいのになあ……。
湿り気を帯びた音とともに、エヴァンの長い指はしなやかにその肌を滑っていく。
しかし、決して抵抗してはいけない。抵抗すればするほど、相手を刺激するだけであるとサクは知っていたからだ。
「大丈夫。全部、綺麗にしてあげるよ」
――せめて、溺愛ルートがよかった。
そのようなことを思いながら、サクはエヴァンの手に向けてその精を放つ。
全てを終えた後、サクは静かに寝台へと寝かされていた。
「おやすみ、サク。愛しているよ」
そう口づけを落として、エヴァンは去っていった。
あらゆる部分に疲れが染み込み、もはやその身に力は入らなかった。
――一方的な愛ほど、恐ろしいものはないな。
サクは身震いしながら、どうするべきかを考えた。
そして、あることを思い出す。
「バグコード……」
それはゲームの攻略サイトに掲載されていた情報であり、確かなものかはわからないものであった。
ステータス画面の名前設定欄で、ある言葉を入力すると意図的にバグが引き起こされるというものでもあった。
ある時は攻略対象の容姿が別の攻略対象に変わったり、ある時はいつまでもエンディングを迎えることなく、永遠に甘やかな日々を過ごすことができたり。
ある時は好感度が一番低い相手が、なぜか最高高感度に変わっていたりとそれは何が起こるのか予測不可能なものであった。
しかし、やってみるほかない。
サクは、心の中で唱えていた。
――ステータス、オープン。
すると、脳内には見慣れた画面が浮き上がる。
迷わず名前設定欄を押し、震える指で、ある言葉を入力した。
「おぼえていろエヴァン」
瞬く間に脳内は闇に覆われ、サクは意識を手放した。
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