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#05【思い出の日】
しおりを挟む俺と東山は3階にある休憩スペースのような場所に移動した。
東山はボタンのたくさん付いた機械の前で立ち止まる。なんだこの機械は。
中に入っているのは飲み物なのか?
「好きなの選んでいいよ。」
「俺はいい。気をつかうな。」
「そんなこと言うなってwコーヒー飲める?」
コーヒー?たしか人間が栽培していたものだ。魔界でも少し聞いた事がある。
飲んだ事はないが怪しまれないためだ。
ここで断って他の分からない飲み物を喰らうよりはいい。
「じゃあそれでいい。」
「はいよ。」
ガタッ。
機械の中からおそらく飲み物の入った容器が出てきた。
「はい。」
東山が機械の出口から容器を取り出し俺に渡す。
なんだこれ。どうやって飲む…。
「じゃ座ろうか。」
俺と東山はテーブルの席についた。
「いきなりだが君はモモカちゃんの家族について聞いてはいるかい?」
「いや…。」
「そうか…。まず聞いてほしい。彼女には今家族はいないんだ。元々母子家庭だったが唯一の家族であった母親は一年前に病気で亡くなっている。」
「…。」
「モモカちゃんは今学校には通っていないんだ。行かせてあげたいが無理に行って嫌な思いをさせたくないっていうのが僕の本音だ。今からなじむのっていうのは中々勇気がいることだからね…。
モモカちゃんがどうしても行きたいと言うなら別だが本人からもそう言うことは聞かないからね。」
学校…。たしか人間の子供がが教養を身につける場所だ。
「だからモモカちゃんは病院で勉強してるんだよ。学校からプリントが送られてきてできたらまた提出するんだ。もちろん学校に通ってる子よりかは少し簡単な問題ばかりのものらしいんだけど。それでも一生懸命やってるよ。」
アイツそんなことしてたのか。
「彼女はいつも笑顔だけど
ほんとは色々辛い思いを抱えている。
人前じゃあんまり弱音を吐かない子なんだけどね…時々泣いてるって話も聞くんだ。だから君はモモカちゃんに優しくしてほしい。彼女はまっすぐで優しい子だが折れやすくもある。そして時には誰かに甘えたい時もあるだろう。」
「…。」
「少し面白い話もしよう。
君はいつもの彼女を見た事があるかい?」
「いつもの?」
「彼女は本当は凄く内気で根暗だ。」
!?
「いつも自信がなくてクヨクヨしてる。
無口だし誰かに興味を示さない。
母親が亡くなってから彼女の心は閉ざされていった」
そんな風には見えなかったが…。
「でもね 気を許してる人だけには明るくなるんだ。君はきっとそうだ。
今度隠れて見てみるといい。
彼女が他の誰かと喋っているところを。
キミと話している時がどれだけ楽しそうかその目でわかるはずだ。」
「アンタは俺とアイツが話しているとこなんて見たことないはずだが…なぜそんな風に言える…。」
「そりゃ言えるよw
だってあの神経質なモモカちゃんが普通人を
部屋にとめたりはしないさw」
「!?」
「キミはモモカちゃんに好かれた立派なボーイフレンドだよ。これまで看病してきたうちのスタッフすらも懐かない人がたくさん居るってのに。羨ましいもんだね。」
「…。」
「コーヒー飲まないのかい。」
「あっ?」
まずいこのままでは。
「あとで飲もうと思っていたとこだ…。」
「いいよ。かしな。開け方が分からないんだろ。」
まずい。
俺は容器を東山に渡す。
カシャ。
東山が容器のフタを開けた。
「キミはきっとこの世界の人間じゃない…。」
俺は唖然とした。
なんだ…こいつ。
「何を言っている…。」
「だからカンの開け方も分からないんだ。」
「第一その耳が証拠だ」
東山。信頼していたがまさか敵か…。
俺は昨日の夜病室から持ち出した果物ナイフをポケットの中で握る。
「刃物か?やめとけ。この世界じゃそんな物でも持ち歩いただけで大騒ぎだぞ。」
「なんだテメーは…。」
「安心しろ。別に僕は君の敵じゃない。」
「寧ろ君の味方だ。」
「…。」
「僕は魔界の存在を知っている…」
「なに!?」
「キミはきっと魔界から来たんだろう?」
「お前…悪魔か!?」
「違うさ。」
「なら魔界の人間か!」
「それも違う…」
「!?」
「僕はこの世界で生まれ育った普通の人間さ。」
「ならなぜ魔界のことを知っている!?」
「ん?もうこんな時間か…。そろそろ行かないとモモカちゃんとのデートの時間がなくなっちゃうね。」
「おいおちょくってんじゃねーぞ!!!話の続きをしろ!!」
「聞くかい?と言ってもそんなに大した話じゃない。僕もそんなに情報を持っていないんだ。」
「どういうことだ…。」
「なぜ僕が魔界を知っているか…。
僕には昔、大事な女性がいた。
その人は魔界から来た人間だった。」
「!?」
「でも今は居ない。
君と同じようにこの世界のことを知らなかった。その人に缶コーヒーの開け方を教えたりもした。だからwさっきのはすごく懐かしかったんだ。」
「なに笑ってやがる。」
「さっもう行きなさい。これを貸す。
この世界の通貨だ。一万円という。」
「おい…話はまだ終わって…」
「このあと患者の手術が入っている。
話はまた次に会った時にしよう。
それから耳は魔法で隠しなさい。
もう君は魔力が使えるはずだ。」
「なに!?」
東山は歩いて行ってしまった。
いま魔法が使えると言ったか!?
俺は魔力を手に集中させた。
黒い魔導が光る。
嘘だろ!?
俺の魔力が戻っている!?
いや正確に言えば魔界にいた時よりかは
微弱だが。
使えるようになっている。
なんなんだよアイツ…。
今のところ危険という訳ではなさそうだが
完全に信用しきるのもどうだか…。
俺は魔力を使って耳を人間の形に変えた。変えたというよりかは周りからはそう見えるようになっているはずだ。
俺は時計を見た。
9時15分。
病室にもどってモモカに外出許可が出たことを言わなければ。
それから…東山のことはモモカには今は黙っておこう。
俺は急いで病室に戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガラッ。
俺は病室のドアを開けた。
「あっグーちゃんどこいってたの!!」
「東山のところに行ってただけだ。」
「えっなんで!!?」
「外出許可をもらってきた。」
「えっ」
「お前 外に出たがってただろ」
「いいの?」
「東山本人から許可をもらった。
だがお前が車椅子に乗ること。
4時半までに帰ること。
行くのはここ近辺だけっていう約束をしている。それなら外出していいそうだ。」
「車椅子!?私乗ったことないから絶対うまく動かせないよ」
「俺が押してくんだよ。心配すんな。」
「グーちゃんが押してくれるの!?
いっいいよ!それなら外出は大丈夫…。
なんか迷惑だし…。」
気使ってんのか?そりゃそうか。
「俺に色々教えてくれる約束だろ」
「でも…なんか悪いよ。」
確かにこいつテンション高い時以外は
結構引っ込み思案かもな。
人が変わったみたいだ。
「お前が嫌ならあんまり強引には誘わないが
別に迷惑じゃないからな。
普通に楽しめばいい。それだけだ。」
「ほっ ホント…?グーちゃんも楽しいかな…。」
なんだよそれ…。
「お前次第だろ。」
「分かった。一緒に行きたい。」
ようやく乗ってくれたか。
「そうこなくっちゃな」
なんでだ。
俺…楽しんでないか。
「グーちゃん。じゃ私着替えるから
ちょっと外出ててもらっていい?」
「あぁ。じゃ俺は車椅子とりにいってくる」
「分かった!じゃまたこの部屋で会お!」
俺は1階にある貸し出し用の車椅子をとりにった。車椅子を2階へ持ち運ぶのにエレベーターと呼ばれる乗り物を使用する。
ボタンを押せば各階を移動できるみたいだ。
本当にこの世界の技術は発展している。
魔法がなくてもあまり不便に感じないかもな。
俺は2階に戻り病室の前に戻ってしばらく待つ。
2分ほど待っていると病室のドアが開いた。
するとさっきの寝巻きとは別の服に着替えたモモカが出てきた。
「あっグーちゃん。お待たせ!」
俺は少しドキッとした。
これはおそらく私服だろう。
ベージュ色の服に青いスカートを履いている。着がえると気のせいか少し大人っぽくみえるな…。
「久しぶりに着たんだけど。
ど…どうかな!?」
俺はまじまじとみてしまっていた。
そしてハッとする。
「いや…わかんねーけど。いいんじゃねーの?」
「ほんと!? 」
嬉しそうな顔をする。
「それじゃ…乗っていいぞ」
「う うん。」
目の前でモモカがモジモジしてる。
なんだよ早く乗れよ…。
「あのっ 言いたいことがあるから車椅子に乗るのは玄関から出た外でもいいかな…。」
「?」
よくわかんねーけどコイツのペースに合わせてやるか。
「別にいいぞ。じゃ行くぞ。」
「うん。あっ、ねぇ車椅子、玄関まで私が運ぶ!」
「あ?いいって別に。患者が車椅子押してたら色々ヤバいだろ。」
「い、いいの。このくらいしなきゃ!」
するとモモカが車椅子のグリップを握る。
変なとこで気使うんだな。
「わっ。初めて持った。」
「…。」
まー好きにさせてやるか。
「いくぞ。」
「うん。」
俺とモモカは2階からエレベーターに乗る。
「そういえばグーちゃん、
さっきもエレベーター乗ったの?」
「あぁ。他の奴が乗ってたから利用していいもんだと思った。」
「なんかおもしろいねw」
「なにがだよ」
「ちゃんと乗れたんだねw偉いねw」
「ガキか俺は!」
話をしてると気づけばロビーの出口前に来ていた。
「車椅子は外で乗んのか? 」
「うん。なんかごめんね。わがままで。」
「別にいい。」
俺とモモカは自動で開くドアを抜ける。
外に出ると心地よい風が身体を撫でる。
そして玄関を出て少し歩いたとこで立ち止まった。
「この辺でいいか?」
「うん。」
「じゃ乗っていいぞ。」
「あの…。」
「どうした?」
「…。」
そういえばなんか言いたいことがあるとか言ってたな。
「き 今日はその…よろしくお願いします!」
言うなりモモカは俺の目の前でお辞儀をした。
なんだ。それが言いたかったのか。
ここで変にかしこまった返事はしないほうがいい。多分コイツの不安を解くのはそういうのじゃないはずだ。
「まかせろ」
モモカは真面目な顔でいる。
なんだよ。ここに来て緊張してんのか?
「乗っていいぞ。」
「しっ、失礼します。」
モモカが車椅子に腰かけた。
めちゃくちゃ背中と背もたれの間があいてる。
「なぁ緊張してんのか?」
「すっ…する。」
「もっと深く座っていいぞ。」
俺はモモカの肩を後ろに引っ張って背もたれをかけさせる。
「じゃ 行くぜ!」
「うん」
ダダダダダダッ。
「えっ!?ちょっと!!きゃっ!!」
俺は全力疾走で車椅子を押しながら走り出す。
「え!?グーちゃん!?」
病院の敷地を出て丘になってる広い道を下る。
「どうした!?」
「これ!ちょっと早すぎない!?」
「え!?なに!?聞こえねーよ!」
俺はさらに加速する。
「ねっ!グーちゃん!きゃっ!」
俺は車椅子のパイプ部分に足を乗せ完全に足が地面と分離する。
ダダダダダダっ。
そのまま勢いよく坂道を下る。
「グーちゃんこれ!普通に怖いんだけど!!!」
「俺が操作するから安心しろ!!」
「ねぇ!!車椅子ってそういう乗り物じゃなの知ってるよね!!!」
「こっからだ!!」
俺は手を後ろに伸ばし魔導を噴射する。
ビュン!!!
ダダダダダダッ!!!!
「きゃっ!!?」
車椅子はさらにスピードをあげた。
ガタッ!
「ねぇ!今浮いた!!浮いたから!!」
涙声になりかけたモモカが叫ぶ。
「おい!怖くないか!!?」
「怖いっていってるじゃん!!きゃっ!」
俺とモモカの乗った車椅子は坂道を下り続ける。気のせいか一瞬通りがかった人間が二度見してきたように見えたがそんなことは気にせず進む。
「ねぇ!!今見られた!!
しかも二度見された!」
気のせいではないようだ。
「グーちゃん!これまずいって。
私たち通報されちゃうって!!」
モモカが後ろを振り返って言う。
俺は少し驚いた。
怒ってるかとおもったら振り返ったモモカの顔は少し笑っていた。
怒りたいんだろうけど笑いを押さえきれていない。
「やめるかじゃぁ!!」
「もう少し!!!」
「お前乗り気じゃねーかw」
「だってこんな経験もう絶対できないもん!!!」
ダダダダダダッ。
車椅子の勢いは止まらない。
俺はさらに魔導を噴出し加速させる。
ビュン。
「わぁぁぁー!!!!!ww」
モモカの声は気がつくと悲鳴から楽しそうな叫びに変わっている。
「風気持ちいい!!」
ダダダダダダ。
「きゃぁっwすごーい!!!!」
俺たちは止まることなく丘を下った。
俺はパイプから足をおろし再び車椅子を押す。今度はゆっくりだ。
「はぁーw」
モモカが深呼吸してる。
幸い坂道はそのあと誰もすれ違わなかった。
確かにモモカの言う通りもう二度とできないかもなコレは。
今日はたまたま人がいなかったからできただけだ。
「どうだった?」
「グーちゃんがあんなおバカさんだと思わなかったw」
「お前も笑ってただろ」
「私は止めたもんwでも面白かったw」
「そうか」
「でも最初普通に怖かったもん!
怖いって言ったのに止めてくれくれなかった。グーちゃん酷いw」
「でも止めて欲しいとは言ってなかっただろ」
「まぁねwはぁーw久々だよぉw
こんな爽快感を味わえたの!」
その言葉には何か俺の中にグッとくるものがあった…。
久々か…。本当にそうなんだろうな。
ずっとあの部屋から出れないんだもんな。
「緊張…解けてきたみたいだな」
つい俺も楽しそうに言ってしまう。
「え!?あ…うん!」
俺たちは丘を下って街に出ていた。
「ここは 繁華街か!?」
「うん!わたし途中退院してる時に少しだけ来た!」
「へぇ。」
見渡すと色々な店が奥まで続いている。
「見たことねー店ばかりだ」
「グーちゃんはそうだよねw」
「あれはなんだ。」
「本屋さんだよ!」
「本屋ってもっと質素なイメージだったが…。」
俺は魔界の魔導書店を思い出して言う。
「ここはおっきい本屋さんだからね!
中古専門店とかだったらグーちゃんのイメージっぽいお店も結構あると思うよ。」
「この世界の本屋には何が売ってるんだ?」
「本屋さん?えーっと普通に小説とか雑誌とか漫画とか?あと参考書とかも売ってる!」
「なんだかよくわからんが色んなものが売っているんだな。」
「入る!?」
「いや 今は別にいい。
今度自分で来た時また探索する。
お前の行きたい場所はないのか!?」
「うーん。行きたい場所っていわれると…
ここっていうのは今思いつかないかな。
私はただお散歩できてるだけで楽しいからw
中に入らなくても外から景色を眺めてるだけで十分楽しい!」
「そ そうなのか!?まぁ、よりたい場所があったら言えよ。」
「うん。」
「なぁ あれは服屋か?」
「そうだよ!」
「どこの店も小綺麗だな。」
「えへへ。そうだねw」
「あれは?」
「ゲームセンターだよ!私はあんまり知らないけど。」
「ゲームセンター?」
「なんか色々遊べるの!」
「へぇ」
「あの四角い建物は」
「あれはコンビニだよ!色んな所にある便利なお店。食べ物も文房具も雑誌も色々売ってる。ほらあっちにもあるでしょ!?
グーちゃんも絶対使うから覚えておいたほうがいいねw」
「へぇ。そんなに便利なのか?」
「うん。ほんとに便利!」
「なぁ 食べ物も売ってるんだろ。
昼飯買いにちょっと行ってみないか。
そろそろ腹減る時間だろ?」
「うん!行く!行きたい!!
あっでも今私お金持ってない…。」
「俺が払うからいい。」
「グーちゃんお金持ってたの!?」
「東山に借りた金がある。」
「いいの?グーちゃんが借りたお金でしょ?」
「いいんだよ…さっ行こうぜ。」
俺たちはコンビニと呼ばれる建物に入る。
車椅子でも入れるらしいがモモカがどうしても降りたいと言い出したので車椅子は外にたたんでおいておく。
まぁ店のなかに入る時くらいはいいだろう。
「わぁーコンビニ久しぶり!すごーい!
色々ある!」
楽しそうでなによりだ。
「これパンか?色々種類があるな」
「ねーグーちゃん!このチョコパンすごい美味しそう!!あっでもこっちのサンドイッチも美味しそう!!」
かなりはしゃいでる。まーそうか。こいつにとって全てが久しぶりなんだからな。
「そうだなw」
つい笑ってしまった。
誰かが楽しそうにしてると
こっちも楽しくなってしまう。
俺たちはサンドイッチと握り飯をかって
コンビニを後にした。
買うときにモモカが「ほんとにいいの?」
と言ってきたがコイツを安心させるために
「街の情報提供代」とでも言っておいた。
俺はモモカを車椅子に再び乗せて街を抜ける。
「グーちゃん。ありがとう。」
車椅子に乗ってるモモカが振り返って言って来た。
「あぁ。」
モモカは前を向いて静かにしている。
さっきまであんなにはしゃいでいたのにどうしたんだ。
「おい具合大丈夫か!?」
「う、うん大丈夫…。」
「…。」
「なぁ本当に大丈…。」
そう言いかけたときだった。
グスッ。グスッ。
前から鼻をすする音が聞こえてくる。
泣いてるのか!?
「おっ おい!どうかしたか!?」
すると モモカが振り返って言う。
「なんでもない。なんでもないの。」
その目には涙がいっぱい溜まっていた。
「なぁ 一回止まるか?」
「ううん 大丈夫…。」
涙声でモモカがいう。
一体どうしたんだ。
「ごめん。こんなに楽しいの久しぶりだったから…。なんか涙が出てきちゃって。」
「え…」
「ごめん…こんなつもりじゃなかったんだけどw」
「そうか…」
俺は何となく察した。
やっぱり病院での生活は一人で退屈だったのだろう。
俺たちはまた丘を少し上っている。
「昼メシどこで食おうか。」
「あっ たしかもう少し行ったところに
ベンチがあったはずだよ!そこにしない!?」
「詳しいんだな」
「一応地元だからね!
まぁでも1、2回しかきたことないんだけど」
すると喋っているうちに高台まで歩いてきたようだ。
さっきまで歩いてた繁華街が下にあり見渡せる。街のすぐ横には綺麗な海が広がっていた。
そしてモモカが言っていた通り
木でできたベンチもある。
休憩にはもってこいの場所だった。
俺はモモカを車椅子から下ろしてベンチに座らせる。
俺も隣に腰掛けた。
さっきコンビニで買ってきたサンドイッチと
握りめしを袋から取り出しモモカに渡す。
すると手を合わせて「いただきます」と言ってからサンドイッチの封を開けていた。
パクッ。
「んーw美味しい!!」
モモカが横でサンドイッチを食べている。
俺は隣でその横顔を見てた。
なんでも美味そうに食うんだよなホント。
つい見てしまう。
俺もサンドイッチを口に入れた。
うん。確かに美味い。
これがコンビニとやらの味。
「どおグーちゃん!?サンドイッチ美味しい!?」
「あぁ。」
「でしょw」
覗き込んでくるモモカの顔はさっき泣いたとは思えなくらいに笑顔だった。
「ここ、いい場所だよね。街と海が見渡せるの。」
「そうだな。」
「昔ねお母さんとここきたことあるんだ。」
「…。」
「その時もここでサンドイッチを食べたの。
コンビニのじゃなかったけど。うちでお母さんと一緒に作って持っていったの。」
「その時お母さんと食べたサンドイッチがすごく美味しくて。それからこの場所好きになっちゃってw」
「そうか…。」
「お母さん優しくて大好きだった。
私はお友達とかいなかったけどお母さんと一緒に話している時はいつも楽しかった。
一緒にテレビ見たりお風呂入ったり…。
でもね…私が12歳の時に病気で亡くなったの」
それ以上は聞いていいのか。
俺はもう知っている。
ある程度だが東山にモモカの話を聞いた。
「そ。そうだったのか…。」
東山に聞いたことはなんとなく黙っておきたかった。
東山の話にモモカの口から言いたくないことも混じっているかもしれないからだ。
言えばきっと傷つけてしまう可能性もある。誰だって知られたくないことの一つや二つはある。
今話したいことだけを聞いてあげよう。
「お母さんが亡くなってからいつも辛くて…毎日楽しいこともないし。
ずっとひとりで寂しくて…。
私はどうしてもお友達が欲しかった。
一緒に楽しくお話ししてくれるお友達。
でも私こんなんだからお友達の作り方わからなくて。居たこともないし…。
知らない人の前に立つと緊張しちゃって
うまく喋れなくなるし。
でも グーちゃんは平気だったの。
だからグーちゃんがお友達になって
くれるって言ってくれた時本当に嬉しかったの。
もう一人ぼっちじゃないって思えて。」
「…。」
「きっとお前の母親も見守ってるさ。」
「えへへwそうかもねw。」
「ねえグーちゃん。私グーちゃんと居られてすっごく楽しい…。グーちゃんは私と一緒に居て楽しい…?」
「…まぁな。」
「ホント!?えへへ。やっぱり契約してよかった。」
微笑んでいる。
これで重い話はひと段落といったとこか。
そのあとモモカが「海見よ!」と言って高台の柵の前に行く。俺も隣で景色を眺めていた。
「きれい。」
モモカが横で言う。
さっき通った場所はあそことかそんな話をしながら俺たちはずっと景色を眺めていた。
そのあとモモカが今日は私にとって思い出の日になったとかなんとか言っていた。
「グーちゃん。私の話聞いてくれてありがとう。自分の話こんなに真剣に聴いてくれた人いなかったな。」
俺はモモカの方を向いて黙って頷いた。
「私ね…グーちゃんともっと仲良くなりたい。だからね色々グーちゃんのこと知りたいんだ。」
「…?」
「もしよかったらなんだけど…聞かせてほしいな。次はグーちゃんの話」
【5・思い出の日】完
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