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第三章 アオイと過去と存在意義と

#42 記憶と因縁

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ここは・・・?

 まどろみの中、少し意識が覚醒する。周囲を確認しようと思うも、与えた刺激に対して何の反応も得られず、それどころか自らの体さえも認識できない。
 目の前ではレナたちと過ごす、ほぼいつも通りの光景が流れる。違うのはレナ、ナナ、ラーシャ、ザーシャ、シャル、ミリィのほかに、ナツキとアスカがいること。明らかに普段の光景ではないのだが、僕はこの光景に何の違和感も抱いていない。これが日常であると受け入れている。なのに、違和感を覚えない自分に違和感を持っている自分もいる。自分が自分でないような、まるで他人の記憶を覗いているような。そんな感覚に襲われる。

 だが、そんな自分を置き去りにして場面は進む。レナとナツキが喧嘩して、勢いそのまま僕の意見を求めて迫ってきた場面、ナナと隠密の修行がてらかくれんぼをした場面、シャルとミリィとパーティーに出席した場面、アスカと二人っきりでいたらみんなが集まってきた場面など、本当に様々な場面をみた。その中では笑っていることも、泣いていることも、怒っていることもあったけど、自分もみんなも幸せそうだった。

 いつの間にか、自分と映像がリンクしていく。古い記憶がよみがえる。これは何だろうか・・・?いや、自分は何を忘れてしまっているのだろうか・・・?

 どのくらいの時間が経ったのだろうか。自分の記憶と映像の区別もつかなくなった頃、突如鈍い頭痛と共に思い出した。あの忌まわしい日の記憶を・・・

「アオイ、逃げて!」

ザーシャの声が頭に響く。

「アオイ様・・・」
「アオイくん・・・」

「アオ、イ・・・」
「アオイ・・・さん・・・」

「アオイさま・・・」
「アオイ・・・また、ね・・・」

「お兄、ちゃん・・・」
「お兄・・・」

皆が僕を呼ぶ声が脳に響く。


レナとナツキの目から光が消えてしまう。



音が無くなる。


僕のせいだ・・・
僕が守れなかったからだ・・・


僕はどこで間違えた・・・?
僕は何を間違えた・・・?


どうして・・・


僕が何をした・・・?
僕が何をしたというんだ・・・!



いや・・・



・・・い。

レナとナツキとナナが呼ぶ声が聞こえる。



・・・い。

ラーシャとザーシャとアスカが振り返る。



・・・い。

シャルとミリィの笑顔が浮かぶ。




―――もう遅い。


この場が雑音で満たされる。




―――全て憎い。


映像にノイズが走る。




―――いらない。


音、皆の後ろ姿、光。在るもの、空間すらもすべてが小さくなっていく。




―――イラナイ。


視界が赤黒く染まる。




―――イラナイ。


いらない。




彼女たちのいない―――


秩序スラナイ―――


―――世界ナンテ、イラナイ。










コンナ世界、イラナイ。









「イラナイ」ナラ、けシテシマエバいい・・・



























『大丈夫、まだこの世界は捨てたもんじゃないんだから』



「母、さん・・・」



僕の意識は再び深いまどろみの中へと落ちていく。
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