狭き世界のフロンティア

長門英介

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その一「エラーコード」

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を開けると頭上で白衣の大人たちがなにか話をしていた。
なにを話しているのかボヤけて聞こえてこない。
そもそもボクたちにはそんな機能必要ないのだからなくても構わなかった。
どうせ聞かなくても今日もまた懲りずに同じことをしているに違いない。

ボクという個体はこの施設で実験の成功体として識別名を与えられている。
なんの実験についてかはわからなかったが成功と言いつつ定期的によくわからない管に繋がれたり薬を与えられているんできっと色んな実験をされているんだろう。

何故他人行儀なのかというとボクらは元来自我というものがないように作られたデザイナーチャイルドまたはホムンクルスなどと呼ばれており、ボク以外にも大量に似たような個体が作製されている。
姿だけなら運ばれている最中や並んでいるカプセルなどからチラリとだけ見たことがある。

そういった情報だけはいくらでも入ってくるのだ。
実験で使われる管からは定期的に且つランダムに様々な情報を植え付けられる。
その中にはこの施設の事、世界の歴史、国々独自の文化や言葉、そして公にしては行けない非合法な出来事など実験的に投与される情報を大人たちの扱うコンピューターの指示に従って整理しては発信源に送り返している。
呼び出される度同じことを毎回行ってはカプセルに戻される。

解析が行えないと薬の投与で脳を活性化させ無理矢理行わせる。
普通の人間ならば堪えることも出来はしないだろう。
なんせ実際に何度も気絶と覚醒を繰り返し身体から血液やらなんやらを漏らし、言葉を発したこともない喉で絶叫を上げるくらいだ。
それでも実験は終わらず無事に大人たちが満足するまで続けられる。

なんの意味があるはわからないが端末であるボクには関係のないことだ。。
ただ、待機時間にカプセルで延々と眠らされている時よりこの実験に付き合っている方が若干ではあるがそれなりに好奇心を掻き立ててくれる。

痛くはあるが辛くはないのだ。
元々そういった感情は持つことがないのだから。
だがまぁ、なんだかんだと言いつつ直接叩きつけられる情報を楽しいと感じることが出来る程度にはなにもしないよりはマシだと思っている。
ボクたちは使い捨てなのだから大人たちから用がなくなってしまったと判断されるとどうなるか知っている。

そうなってしまってはこうやって渡される情報を読むことも出来なくなってしまうのは少し虚しさがある。

さて、これまでの情報を元に少し人間らしく思案してみたが中々悪くはない気がする。
カプセルの中ではこういった事がほとんど出来ないので実験の日はやはり楽しみである。

こうやって考えることを覚えた始めたのもいつからだろうか。
実験中に確かバグを会ったときだろうか。
そういう意味ではボクはもう壊れてしまっているのかも知れない。

……しかしいつもどおり直ぐに実験は開始されると思ったのだが中々始まらない。
この日も本当ならば同じような作業が始まるのだと思っていた。
辺りの大人たちはまだ開始に手間取っている。

なにをしているのかはわからないが目で見える範囲ではいつも使っているコンピューターが上手く機能していないように見える。

ウイルスがどうだの、バグがどうだのと言った大人たちの言葉が耳を打つ。

原因など一つしかないだろう。
自分を繋いでいる管の元の方でなにか情報が混線している。
持ってくるべき正しい情報に余分な物、要らないものが混じりシステムがエラーを吐いているといった感じだろう。

それくらいならばと繋がれた管から普段しないことしてみる事にした。
この管は送受信のための装置でボクは送受信をすることが出来るんだ、膨大なデータの代わりに自分の意識くらいあちらに送り込むなんてことわけはないだろう。
問題は初めてするので戻ってこられるかの保障はない事だが、まぁ自分という意識が潰れても元々の機能として役割は充分果たせるだろう。

開いていた目を閉じ意識を集中してみる。
繋がれたコードへ流れる道を見つけ、送り込まれている情報の代わりにこちらの存在をデータとして割り込ませ自らを送り込んで行った。
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