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自分の技で死ね

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 力丸は自分の推測が正しいかどうかの確認をしていく。

 まず闘夜の初動は、鋭利な盾を、【邪槍使いの強敵】に投げることから始まる。

 相手も豪の物であり身体能力が並外れているので、当然余裕でそれを避ける。

 次に闘夜が起こす行動は、盾を【邪槍使いの強敵】が避けた直後、その死角から斬撃を放つこと。

 それも、不思議な事に「何らかの方法で瞬間移動をしているのでは?」と思える程のスピードで死角に移動しているのだ。

 闘夜が行うメインの行動はその繰り返し。

 ただし、闘夜が行うその二つの動作が徐々に早くなってきているという事。

 フタを開けてみれば陽菜ちゃんが儀式を行っている場所から、徐々に離れていく戦い方をしていると言う事実。

 頭が切れ、その軽口とは裏腹の繊細で計算高い闘夜の戦い方。

 見事としか言いようが無く、力丸は感嘆する。

「じゃ、そろそろ詰みと行こうか……?」
「……」

 言葉通り、余裕しゃくしゃくの闘夜。

 対して、最早無言で、息も絶え絶えになり肩で息をしている、【邪槍使いの強敵】。

 だがしかし【邪槍使いの強敵】のその目は死んでいない。

 それどころか殺気だった鋭い眼光を放っているのは流石は強者と言ったところか?

 そんな【邪槍使いの強敵】めがけ、闘夜は上空から見下ろすように手首のスナップを利かせ、鋭利な盾を再び飛ばしていく!

 対して、よろけつつも地面を素早く蹴り、それを何とか避ける【邪槍使いの強敵】。

 力丸は再びこの戦いを注視する。

 ここから、そう、いつもここから闘夜は盾の影から瞬時に飛び出し、死角からの斬撃を放っていたのだ!

 何故影から飛び出せるかは分からない。

 が、分かっているのは投げた盾の影から瞬時に飛び出して来る事実のみ。

 一方【邪槍使いの強敵】は避けきれないと観念したのか大剣を逆手に構え、ソレの迎撃態勢を取る。

 「例え動きが見えなくても、軌道とスピードさえが分かればカウンターで迎撃することは可能」おそらくそう考えているに違いないと力丸は予想する。

 その為に【邪槍使いの強敵】は実は何回か闘夜に切られていたのだろうと。

 力丸の考察が進む中、再び2人の戦いが始まる。

 【邪槍使いの強敵】が盾を交わした瞬間、その影から猛スピードで飛び出してくる闘夜!

 対して「ここだ!」と言わんばかりに、そのタイミングに合わせ大剣で突きを繰り出す【邪槍使いの強敵】。

 「獲った……」間違いなくそう思っただろう【邪槍使いの強敵】。

 力丸は静かに見守る、闘夜がこの【邪槍使いの強敵】の攻撃にどう対応するかを。

 ……が、しかし、その行動すら闘夜の予想の範疇であった。

 身を捻り、猛スピードでそのカウンター攻撃を螺旋状にかわし、更にその勢いを持ってカウンター返しの必殺の一撃を繰り出す闘夜。

「ば、バカな? そ、その攻撃は……?」

 闘夜に刀で胸を貫かれ、吐血し、呻く【邪槍使いの強敵】……。

「ああ、そうさ? お前が優に食らわせた螺旋の動きからの必殺の一撃さ。自分の技で死ねるんだ。本望だろ?」
「お、おのれ……バ、バケモノめ……」

 その言葉を最後に、【邪槍使いの強敵】はこと切れ動かなくなる……。

「はは……俺の事バケモノだってさ? 感染したバケモノに言われたくねえよなあ……?」
「……いや、彼が言いたかったことはそうじゃないと思うんだが」

 力丸は額から流れ落ちる冷や汗を垂らしながら、【邪槍使いの強敵】に少し同情する。

「なにはともあれ、よくやったな闘夜」

 力丸は、強敵を屠った闘夜を素直に賞賛する。

「……これは俺1人の勝利じゃねえ。ここにいる全員で勝ち取った勝利だ……」

 それに対し、優達を見つめ、ボソリと呟く闘夜。

 力丸は闘夜が素直である事が意外だと思った。

「そうだな……確かに優君が敵の奥の手にかかったことにより、結果的に武器も封印出来たのは大きかったしな」
「それに、力丸さんが敵のスタミナを削ってくれたことと、ある程度の敵の身体能力を計ってくれたのも大きかったよ」

 なるほど、彼は状況を本当に良く見ているし、とてもクレバーだ。

 無紅君とは性格が正反対だけど、ここいらはやはりベースが同じだからかな。

 と、力丸は静かに思う。

 こうして力丸達、屋上組が強敵を屠りひと段落が付いたところ……。

 一方、運動場でも、凄惨な死闘が終結を迎えようとしていた……。

 天使の刻印を常時解放し、打たれ強さと身体能力を底上げした、豪山は所狭しと大暴れをしていた!

 無紅からもらった【インクリスドアタックパワー】で火力はいつもの4倍増しであるが故に。

 更には、周りには豪山の死角を守ってくれる心強い仲間がいる。

 普段は五月蠅い、前田先生達も今日ばかりはとても心強い存在であった。

 コアモンスター数は500近くと多かったものの、人とは違い所詮は烏合の衆。

 行動パターンは単純そのものであるし、そもそもアルカディアアドベンチャーで何回も戦って来た相手。

 本能型の豪山は、頭ではなく体で理解していた。

 アルカディアアドベンチャーがレッドサン諸先輩方の多大な犠牲によって作られた、最新式の戦闘型シミュレーターであることを。

 その恩恵により、全校生徒から選ばれたアルカディアアドベンチャーで訓練済みの模範生も、校内から援護射撃してくれるわけである。

 また、その生徒達全員にも【導きし者】である無紅【インクリスドアタックパワー】の恩恵を受けている。

「流石は始まりの天使に選ばれし【導きし者】か。一般兵すらも必殺の一撃を放てる一流の兵にしてしまえるスゲエ奴だな」

 豪山は、教室の窓から放たれる青い閃光を眺めながら、無紅の能力に素直に感心する。

 残るザコ敵はお陰様で、あと数十体程度。

 ……さて、コアモンスターの死体の山が積みあがっていることだし、俺もリアル武器のレベルアップをするか。

 仲間達も豪山に習い、コアモンスターの死体の山に自身の武器をあてがっていく。

 ゴミ掃除を兼ねての一石二鳥、先生方も喜んでくれるだろうし。

 それはさておき、もし、他の【導きし者】が敵に回ったら一体どうなるんだろうな?

 ふと、豪山の脳裏にそんな考えがよぎってしまう。

 そして、それが現実に起こってしまう事になるのは、まだ誰も想像出来ないのであった……。
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