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舞い戻る風

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 同時刻、ここはエルシードの王女室。

「……」
「……トイウコトデ、ファイラスノ皆サマハ、スイ様ガイルコトハ完全ニ把握ハシテマセン……」

 スイは閉じていた瞼をゆっくりと開き、木製のテーブルの上に乗っている『古代図書装置ユグドラ』に目をやる。

「……ありがとう。ユグドラ」
「ドウイタシマシテ」

(な、何よ。3人とも楽しそうにして……) 

 人間というものは不思議なもので、仲間はずれを感じると嫉妬するもの。

 再びエルフの女王に転生したスイも例外ではなかった。

「しかし、まずいわね。あの3人が同じ国にいるのは……。それにしても、何だったの? あいつら? まあ、お陰でここに戻ってこれたから感謝はしているけど……はー……」

 ソファーに深く座り、両腕を組み大きなため息をくスイ。

 そう、実はスイは女神の力で元の現実世界に戻されたものの、とある理由で戻ってこられたのだ……。

(そうだ!) 

 スイは『古代図書装置ユグドラ』を再び起動させる。

「ねえ、ユグドラ? 今のザイアードの状況、特に支配者の2人の魔王の情報を教えて頂戴?」
「ワカリマシタ……。支配者ノ王子ハ、長男スカード、次男ライファー」

「え?」

 全く聞き覚えのないその魔王達の名前に、困惑するスイ。

「スイ様、コノ2人ノ魔王ハ異世界カラノ転生者デス」

(えっ! ……異世界からの転生者? 異世界が何処を指すか不明だけど……。もしかして私達がいた現実世界からってこと? それとも……) 
 
 再び瞼を閉じ、熟考するスイ。

「スカードって、あ―――っ  もしかしたらこいつら、あの時の……⁈」

 大声で絶叫してしまうスイ。

 というのも、スイはこの異世界アデレに戻る前の忌々しい出来事を思い出していたからだった……。

   ♢

 これは、スイが女神の力で生き返り、現実世界に飛ばされ戻ってきた時の事。

 現実世界に戻ってきたスイは、異世界アデレに来る前に発生した不思議な白い光の球体の側に佇んでいた。

「ん……?」

 意識を取り直し、呻き声を上げるスイ。

 そう、スイは不思議な力で崖下の空中に浮遊している状態であり、謎の力でゆっくりとだがに上に浮いて行く。

「あ、ああっ、このままじゃ、異世界に戻れなくなってしまう 」

 たまらず悲鳴を上げるスイ。

 が、そのままスイの頭上から、何者かが舞い降りて来る気配がし、幸か不幸かスイは再び白い光の球体まで押し付けられる。

「いいぞライファー、そのままそいつをおさえていろ……。ふふ、丁度いい所に、触媒の一人がでてきたな」
「ついてましたね、スカード様!」

 何者かに上から押さえつけられ、困惑するスイ。

(スカード? ライファー? 聞いたこともない名前ね……。ということは組織のものじゃないわね? こいつら一体何者?) 

 突然現れたイレギュラーな存在達に、眉を潜め困惑するスイ。

(無駄だと思うけど、いちお聞いてみようかな……) 

「あ、貴方達何者なの?」

「俺はレッド=スカード。異世界の魔王だったものだ……」
「同じく、スカード様の部下サーベル=ライファーだ!」

(い、異世界の住人? 何処の? しかも、ま、魔王とその部下 ) 

 先ほど、身を持って守の『天罰の涙』の威力を目のあたりにしているスイは魔王という強ワードに身震いしてしまう。

 スイは押さえつけられながらも、なんとか真上を見上げる。

 なるほど、その輩達は確かに異質な風貌をしていた。

 まずはスカードと名乗る者。

 特徴としては体格が良く、頭に立派なねじくれた三本角、ミドルヘアの金髪、全身の服は派手で宝石が散りばめられた赤のフロックコートに黒のズボンを着ていた。

 次はライファー、服装は現実世界の灰色のスーツを着ているものの、その服の上からも分かるように2メートルは超えるであろう巨漢であった。

 体は人のそれであるものの、よく見ると口から覗く鋭い牙、鋭い眼光は獰猛なトラそのものであり、ヒューマノイドであることが分かる。

 二人とも見た目がどう見ても人間ではないし、魔王とその部下に相応しい圧倒的威圧感を放っているのがスイにも感じとれた。

(一難去ってまた一難か。こ、こうなったら一か八か……こいつらと交渉してみるしかないわね。よ、よし) 

「な、何が目的なの? も、もし目的が同じ『Fプロジェクト』なら私と手をくまない?」
「……ほう? お前『Fプロジェクト』を知っているのか。これは興味深い存在だな……」

(や、やった! 反応良さげだわ!) 

 心の中でほくそ笑むスイ。

「じ、じゃあ……」
「すまんな、俺は今別の人間達と契約中でな。お前とは契約は出来ない」

「えっ?」

 首を横に振り、金色の鋭い瞳でスイを見下ろすスカード。

(スカードの言っている、い、意味が分からない……。分かっているのは彼らはおそらく交渉に応じないということ)

 それを理解したスイは、思わず恐怖で身震いしてしまう。

「ま、とりあえずお前は必要だし、異世界には戻してやろう……」
「え? ……あ、ありがとうございます!」

(よ、良かった、何故か知らないけどなんとかなりそうね……) 

 だからか少し安堵するスイ。

「ではいくぞ、ライファー!」
「はいっ、スカード様っ!」

「あ、あの。でも、ど、どうやって?」

 スイは恐る恐る二人に尋ねる。

「決まっている、力技だっ! 条件は揃っているんだ、お前が扉で俺が鍵なんだよっ!」

 スカードはスイの頭をむんずと鷲掴みにし、光の球体に無理やり押し付ける!

「キ、キャ―――――――――――― 」

 スカードのその暴力的な行動にスイは絶叫し、恐怖で涙を流しながらそのまま意識を失ってしまう……。
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