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犬も喰わない!~バカップルの痴話喧嘩編~

別れ話のABC/パターンA-①

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「終わろっか」

とうとう言った。サトルは絶句してから「なに?」と言う。なに、どうゆう意味、なんで?とその顔には書いてあった。

「やめよ。もう終わり。」
「なにが」
「この関係終わり」
「この関係って」
「あのさそんな言わなくたってさすがに解るでしょ?もうシしないし仕事以外で会わない」
「別れるってこと?」

純粋な目で、子供のような瞳をして、キョトンとオレを見るサトル。
そんな風にピュアな目をして俺を見ないで。サトルはもういい大人の年齢なのに、全然世間をわかってないような声を出す。何も知らない無垢な姿を見せられると罪悪感にさいなまれる。すごく酷い事をしたんじゃないかと思ってしまう。

自分が酷い人間だなんて思いたくない。誰だってそうだろう。自分が嫌な人間だなんて思いたくない。だから自分を正当化したくなるのだ。


智太は時々、サトルをどうしようもなく傷つけたくなる瞬間があった。


結局のところ俺ってサトルにとってなんなんだろうと思ってしまってガッカリする。あまりにピュアで真っ白に思えて自分のほうがどす黒く思ってしまう。一緒にいたら相手を汚してしまうんじゃないかと怖くなる。


真っ白な人と真っ黒な人は一緒に居ちゃいけないんだ。誰かに言われた訳じゃ無いけどそう思う。真っ白なスニーカーが汚れたらガッカリするだろう?

汚れたら洗わなきゃいけないし、使い古されたら取り替えなくちゃいけない。いつまでもピカピカで新品なら取り替える必要がないんだから、新品は良い品って証だ。


悔しいから。不釣り合いに思えるから。だから関係を続けていく自信が消え失せる。だから八つ当たりしたくなる。


「別れたいってハッキリ言わなきゃ解んない?ああ、サトルって自然消滅とか嫌いなタイプだったっけ。」

嫌味を言ってやった。悔しいから。ムカツクから。綺麗で新品で眩しいから。良品なのが鬱陶しいから。

自分が悪く思えるから、少しでも俺のように汚れてほしくて傷つける。


本当は、本当はこんなこと言いたい訳じゃない。真っ白なサトルが大好きだ。綺麗でピカピカな良品に憧れて手を伸ばしたハズだった。だけど思い通りにいかないことが多すぎてつらくなった。一緒にいると、自分の黒さが気になってしまう。もっと白くならなくちゃと頑張りすぎてしまう。
磨いても磨いても、サトルみたいに真っ白にならない。繊維の奥深くに染みついた黒さがどうやったって抜けない。サトルと一緒にいると俺が俺じゃいられなくなる気がした。


どうせ俺はいつまでも弟みたいだし子供なんだろう。きっと男としても見られてない。可愛い赤ん坊みたいな感じなのかも。もしかすると、俺の事を良いように使いたいだけなのかもしれない。

真っ白な相手に俺の黒さを押しつけようとしてしまう。

綺麗に見えるけど本当は汚れてるって思いたくなる。実は俺と同じなんだと思いたい。悪い人なはずだと思いたくなる。

「別れる理由はなに?」

そうサトルに聞かれて、俺はひるんだ。

俺の中に居るサトルの返事は、ただ頷いて『解った』って言うだけだった。だから理由を聞かれると思ってなくて驚いた。

理由は、理由は、『きみと一緒にいると俺の自信が無くなっていくから。』だけどまさかそんなのカッコ悪くて言えるわけない。せめて別れ際くらいは格好良くいたい。かっこいい男だったって思われたい。
喉の奥がぎゅっと締まるのが解った。苦しさを飲み込んで、どうにか答える。

「悪いんだけど、もう付き合えない」

あぁホントは別れたい訳じゃない。


だけどもう無理。自信も無くしてやる気も無くして、カッコ良いとこも見せられなくて、そんな情けない彼氏になってしまう自分が苦しくて悲しい。ちょっとやそっとの努力じゃ全然たりない。キミには不釣り合いだと気付いてしまった。

「付き合えないって何で。理由は?まだちゃんと理由を聞いてない」

想像の中のサトルは『解った。今までありがとな』なんてアッサリかっこよく別れてくれた。

だけどコレは現実だった。現実はそんな甘くない。俺はもう何て返事したら良いかも解らなくて、ただ今は逃げる事しか考えられない。

「サトルには良い人もっといるよ」

かっこ悪いことを言ってる。俺、今すごくかっこ悪い。
解ってるけど、今は自分のことで精一杯だった。かっこ悪さよりも逃げることのが大事だった。早く逃げなきゃ、ダメになる気がして。

その後はもうまともな会話なんてする気も無くて、サトルとは逆方向へと歩き始める。

「智太、っ智太!」

その場から逃げ去りたいのにサトルは逃がしてもくれない。最後くらいかっこよく逃げたいのにそれもさせてくれないらしい。服を掴まれて引き留められる。

「理由ちゃんと言ってくれないと別れられない!」

ひっぱられた方へ振り向くと、泣きそうな眼で見上げられた。

今にも泣きそうなクセに声色はハッキリ低くて俺より全然男らしい。その男らしさを見ると、こんな時にも俺は自信を無くしていく。

俺の中にいる子供の自分が壁を越えて出て来ちゃう。ダサいって解ってるのに止められない。


「マジでもう無理・・・、無理なの。俺には無理。もういい加減わかってよ!」


あんまり子供みたいな口ぶりに自分でも呆れた。あまりにかっこ悪くてキツすぎた。最後のほうなんて声が震えててダサすぎる。


サトルは暫く服を掴んでて、だけどそっと手を離した。そうして何も言わないままその場を去った。


ああ、無事にフラれたと妙に安心した。


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