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城下町は危険がいっぱい!
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【王の間】
王は玉座で紅茶を楽しんでいた。
「ふむ…おだやかな昼さがりであるな」
「そうでございますな、王」
ズズン…パリン!
小さな地響きとともに城が揺れ、王の間に飾ってある壺が割れた。
「ああああああ!家宝の壺が!」
「大変でございます!大変でございます!」
王女の世話役の女性があわてて王に近寄る。
「王女が城から逃げ出しました!」
そう、王女は俺の懐から鍵を抜き取り、なんとも大胆に正面突破で城を脱出したのだ。
護衛の俺は何してたかって?そんなの寝てたに決まってるだろ。
昨日は一晩中本を読んでいて寝不足だったのだから。
「ルッツは何をしておったのだ!奴を呼べ!」
怒り狂う王の前に俺は呼ばれた。
よだれの痕の残る顔で俺はとりあえず謝った。
ここでも昨日読んだ本のテンプレ謝罪を使ったさ。
もちろん王の怒りは収まらない。帰ったら本捨てよう。
「一刻も早く王女を連れ戻してまいれ!」
もう何人か兵が探しに出ているようだが、もちろん俺の責任だ。
初日で解雇を覚悟しながら駆け足で城を出た。
どうせ解雇になるなら「門番だった俺の親父も居眠りの常習犯でクビになったんだぜ!」って言おうと思ったが[無駄に怒りをあおるな]って昨日の本にも載ってたのでそれは辞めておいたぜ。役に立ったな、本。
城を出る途中で王女の呪いを知らない城の者が話しているのが聞こえた。
「王女が城を抜け出したそうだけど、大丈夫だろ。今城下町には世界最大のボランティア集団[愛の手]が奉仕に来てるんだからな。親切にはされても危険な目に合うことはないだろ。」
事態は最悪の方面に向かっていた。つまり城下町は今、至る所に爆弾が仕掛けられているのと同意。
このままでは無償の愛で国が滅ぶことになるのだ。
そしてマジで俺の首が飛ぶ。物理的に。
背にした城から定期的に轟音がする。闘いは始まっているのだ。
幸運にも俺はすぐに王女を見つけることができた。
服こそ着替えていたが、一般兵士と違って俺は今朝最新の王女の顔を見ているのだから。
周りにウロウロと愛の手の制服を着たメンバーがゴミ拾いや老人の補助など作業に勤しんでいた。
その笑顔が俺には悪魔に見えて仕方ない。
早く保護せねばと声をかけようと近付いた瞬間、王女がハンカチを落とした。
それに即座に愛の手メンバーの一人が気付いたようだ、さすがだぜ。
王女に渡そうとそいつが近付く。俺は背中の剣に手をかけ地を蹴る。
これは俺の騎士としての最初の戦だ。王女を親切から助けるために、俺は全てのボランティアを阻止せねばならない。
ハンカチもろとも愛の手メンバーを凪ぎ払った俺は王女の御傍に駆け寄る。
堪忍しろ、峰打ちだ。
「王女、城下町は危険です。城に帰りましょう。」
「いや…私には貴方の方が危険に見えましたが。」
正論だ、明らかに親切心で駆け寄った人間を叩き伏せたのだから。
「詳しくは申せませんが、王女の病はそういうものなのです。人と触れ合わず、どうか城にお戻りください!」
これ以上の事は説明できないのももどかしい。これでも感謝されようものならさっきストックした罵詈雑言を王女に浴びせなばならない。
「貴方は今朝の無礼者!そんな事信じられません!その調子なら私はどうせ長くない。なら最後に一度城下町で目一杯遊びたいのです!」
その美しいその瞳に涙を浮かべて訴えられたら、断れる男など居るのでしょうか。
剣を握ったまま俺がたじろいている時、王女の後ろに影が迫った。
まずい、新たな愛の手メンバーだ!
「おや、お嬢さん肩にホコリが…」
小さな親切余計なお世話とはこの事だ。
「コラ!ホコリ取るな!」
だが今回は王女との距離が近い!最小限の動きで王女をすり抜け、やや低姿勢にまた愛の手メンバーに一閃を与える。
愛の手メンバーは吹き飛ばされ家屋に激突した。堪忍しろ、峰打ちだ。
「あのー…ちょっと過剰防衛だと思うのですが…」
王女の反応もGood!感謝されない範囲でうまく護衛出来ている感じだ。
俺、粗相ある対応出来てますよ、大臣。
「どうか城へお戻りください、王女。」
小さくため息をされてから、目を上げた王女はほほ笑む。
「あなたの必死さは伝わりました、私も城下町を少し歩けて楽しかったわ。私に鍵を取られてしまった貴方もきっと叱られてしまいます。処罰が下らないように私が上手く言いますので一緒に帰りましょう。」
なんて優しいんだ王女様、結婚したい。だが俺は大事な仕事中。恋心に負けてはいけない。
今俺がすべきなのはそう、粗相ある対応なのだ。
「わかったらとっとと城まで付いてこい!このクソ豚!家畜のようにまたあのブタ箱にもどれ!」
決まった、最高のセリフだ。完全に怒り顔の王女が「無礼者」と連呼しながらまたどこからか出した弓矢で俺を走って追いかけながら射抜く。
愛の手メンバーどももその様相を見てボランティアどころでは無い。
粗相ある対応をしつつ、最速で城までお連れする最適な言葉ではないだろうか。
しかし何もかもそう上手く運ぶはずもなく。
城の門が見えたあたりで俺の前に何者かが立ちはだかった。
「うちのメンバーのボランティアをよくも妨害してくれましたねぇ。」
愛の手メンバーの制服だが、様子が違う。
「わたくしは愛の手メンバーのリーダー、カインドです。我がボランティアを妨害してくださった貴方には最高のボランティアを持って心改めていただきます。」
なんとリーダーのお出ましだ。
言ってる事は良くわからんが、俺がメンバーのボランティアを妨害したのを怒っているようだ。そりゃそうだ、普段なら感謝はされてもブッ飛ばされるようなことは間違いなくしていないのだから。
「こちらも我が命にてボランティアを阻止している、口出ししないでいただきたい。」
フッとカインドが笑った。不気味だ。
腰にさした剣のようなものに手をかけた。
ボランティアと言いながらやり合う気か…おもしろい。
俺も剣を抜いた。カインドもまたその剣のようなものを両手で握って…ん…?
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
カインドの手から大きな振動音のようなものが響く。
剣のようなものの先端は紺棒のようになっていて、怪しいイボが光ってブルブル揺れている。
「見よ!これが私の親切心を具現化した武器!マッサージブレードだ!」
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
やばすぎる。絵面が。剣の稽古は嫌というほどやったが、振動する棒と向かい合う修行など無かった。
こんなねじ曲がった殺気は初めてだ。どう踏みこんだらいい…?
やきもきしていたら相手の方が先に踏み込んできた。
得物はこちらの方がタッパがある。
まずは大振りに牽制…しようとしたが、相手が薙ぎの一閃を掻い潜って懐に入ってきた。
「マズいっ…!」
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
相手のマッサージブレードは正確に俺の腰を捉えた。
腰から脊椎にかけて抑揚の付いた振動が伝わる。
腰を切り抜けてカインドが着地する。
俺はその場に崩れ落ちた。
そこに王女が駆け寄る。
「ルッツ!大丈夫?」
振動が体に残る俺に王女が語りかけた。
反応鈍く、震えながら俺が応える
「やばい…超気持ちいい…!」
「やっぱり…」
カインドは不敵に笑っている。
護衛の時に変な寝方をして少し痛めていた腰が、嘘のようにスッキリしていた。
こんな優しい敵に…俺は勝つことができるのか…ああ…またカインドが向かってくる…!
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
ガキィィィィィィィン!
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
ガキィィィィィィィン!
カインドは血反吐を吐いて地に倒れた。
まあ冷静に考えて負けるはずが無い。こっちは健康になる一方なのだから。
「さあブタ箱に帰りますよ、ブタ王女。」
「なんかもう貴方の悪口慣れてきたわ」
さあ、最弱のラスボスを倒したところでハッピーエンドに向かうとするか。
相変わらず「無礼者」と言いながら矢は飛んでくるが。
「甘い…甘いぞ若き騎士よ…」
低い位置から声が聞こえた。カインドだ。
これ以上何をするというのか…?
こいつには人を癒す力しかない。
粗相ある対応を極めた無教養で粗暴な俺にはどうあがいても物理的に敵わないのだ。
「負け惜しみか、俺にはもうどんな親切も効かない。お前のボランティアは俺の前には無意味だ!」
捨て台詞を吐いて去ろうとしたその時、視界が揺れた。
「かかったな。これが俺の最終親切だ!」
足元にはマッサージブレードの切っ先。なんとマッサージブレードはリモコン操作可能だったのだ。
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
足元から快感の波が全身を駆け巡る。
全身から力が抜け俺は足ツボマッサージに身をゆだねる。動けない。
「ふふふ…では後は存分にそこの娘にボランティアさせてもらうぞ…ふふふ…」
にやつきながらジリジリと近付くカインドに王女はたじろく
「え…ちょっと待ってなんか怖い」
そりゃそうだ。満身創痍のおっさんに何されるんだよ。
このままでは王女が、王国が危ない!色んな意味で。
だが俺は動けない。
ちくしょう…もうちょっとだったのに…
ここまできたのに俺は快感に負けて、結局王国を滅亡させてしまうのか…
全身の血行が良くなってくるのを感じながら、俺は涙していた。
意識が遠くなる…これが…マッサージハイか…(そんなものはない)
「助けてやろうか?」
ふと、近くで女性の声がした。王女ではない。
目を開けると、背の低いローブ姿の女性が居た。
見覚えがある…昨日買った本の著者だ!
「珍しくアタシの本買ってくれる人がいたから嬉しくて尾行してみたら、面白いモンが見れたよ。」
この忙しい時に子供みたいにニヤニヤ笑ってやがるがこの元宮廷魔導師…
ん…?宮廷魔導師…?
「そうだよ、私が王女に呪いをかけた魔女だ。」
「宮廷魔導師だった頃に王女にこの低身長を指摘されたので呪いをかけて城から逃げたのだ。」
マジかよ。
ていうかそんなことしておいてよく[王族への謁見AtoZ]なんて本が書けたなこいつ。
サブタイトル~元宮廷魔導師の真の礼節~じゃねえよ廃刊にしろ。
足元からの快感と、頭からのこいつへの怒りがせめぎ合っている。
元宮廷魔導士……もとい、魔女は続ける。
「王女の呪いを解いてやるよ。その代わり、代償を払ってもらう。」
代償……おれは生唾を飲んだ。
こんな呪いをかける魔女だ、俺の命だって取りかねない。
カインドは王女に日傘を貸し、飲み物を差し出し、肩のマッサージをしていた。
あふれ出る感謝の言葉、城からの連続爆発音。
時間が無い、早く呪いを解かなければ!
「わかったお前の望む代償なら俺が全て払おう。」
美しい王女を生かすためだ、このまま国が滅べばどちらにせよ俺の命だって危うい。
これは総合的に幸せになれる判断だ。そう思って俺は決断した。
「では代償を頂いていくとしよう、楽しかったよ、ルッツ。」
俺の意識はそこで途絶えた。
王女にかけられた呪いは解かれた。
気付くと俺は城のベッドで寝ていた。
足にはまだマッサージの振動が残っているような気がする。
魔女は俺の何を代償に持っていたのだろうか。
部屋をノックする音が聞こえる。
扉が開くと…ああ、記憶に新しい美しいドレスを身にまとった俺の女神。
王女の姿がそこにあった。
「ルッツ。私にかけられた呪いの為に尽力されていたのですね、何も知らずに苦労をかけました。」
ああ…王女様…知らなくて仕方の無い事なのに俺にそんな労いを…
まだおぼろげな意識の中で俺は感謝の言葉をかけた。
「うるせーよブタ。起きがけにきったねぇ顔見せてんじゃねぇよ!」
悲しきかなとっさに出た俺の言葉は、癖になった粗相ある対応だった。
「無 礼 者 !」
まだ身動きできない俺を矢では無く王女の鉄拳が振りおろされた。
そして背を向けて、王女は小さく、強く言った。
今度は誰も傷付かない「ありがとう」を。
王は玉座で紅茶を楽しんでいた。
「ふむ…おだやかな昼さがりであるな」
「そうでございますな、王」
ズズン…パリン!
小さな地響きとともに城が揺れ、王の間に飾ってある壺が割れた。
「ああああああ!家宝の壺が!」
「大変でございます!大変でございます!」
王女の世話役の女性があわてて王に近寄る。
「王女が城から逃げ出しました!」
そう、王女は俺の懐から鍵を抜き取り、なんとも大胆に正面突破で城を脱出したのだ。
護衛の俺は何してたかって?そんなの寝てたに決まってるだろ。
昨日は一晩中本を読んでいて寝不足だったのだから。
「ルッツは何をしておったのだ!奴を呼べ!」
怒り狂う王の前に俺は呼ばれた。
よだれの痕の残る顔で俺はとりあえず謝った。
ここでも昨日読んだ本のテンプレ謝罪を使ったさ。
もちろん王の怒りは収まらない。帰ったら本捨てよう。
「一刻も早く王女を連れ戻してまいれ!」
もう何人か兵が探しに出ているようだが、もちろん俺の責任だ。
初日で解雇を覚悟しながら駆け足で城を出た。
どうせ解雇になるなら「門番だった俺の親父も居眠りの常習犯でクビになったんだぜ!」って言おうと思ったが[無駄に怒りをあおるな]って昨日の本にも載ってたのでそれは辞めておいたぜ。役に立ったな、本。
城を出る途中で王女の呪いを知らない城の者が話しているのが聞こえた。
「王女が城を抜け出したそうだけど、大丈夫だろ。今城下町には世界最大のボランティア集団[愛の手]が奉仕に来てるんだからな。親切にはされても危険な目に合うことはないだろ。」
事態は最悪の方面に向かっていた。つまり城下町は今、至る所に爆弾が仕掛けられているのと同意。
このままでは無償の愛で国が滅ぶことになるのだ。
そしてマジで俺の首が飛ぶ。物理的に。
背にした城から定期的に轟音がする。闘いは始まっているのだ。
幸運にも俺はすぐに王女を見つけることができた。
服こそ着替えていたが、一般兵士と違って俺は今朝最新の王女の顔を見ているのだから。
周りにウロウロと愛の手の制服を着たメンバーがゴミ拾いや老人の補助など作業に勤しんでいた。
その笑顔が俺には悪魔に見えて仕方ない。
早く保護せねばと声をかけようと近付いた瞬間、王女がハンカチを落とした。
それに即座に愛の手メンバーの一人が気付いたようだ、さすがだぜ。
王女に渡そうとそいつが近付く。俺は背中の剣に手をかけ地を蹴る。
これは俺の騎士としての最初の戦だ。王女を親切から助けるために、俺は全てのボランティアを阻止せねばならない。
ハンカチもろとも愛の手メンバーを凪ぎ払った俺は王女の御傍に駆け寄る。
堪忍しろ、峰打ちだ。
「王女、城下町は危険です。城に帰りましょう。」
「いや…私には貴方の方が危険に見えましたが。」
正論だ、明らかに親切心で駆け寄った人間を叩き伏せたのだから。
「詳しくは申せませんが、王女の病はそういうものなのです。人と触れ合わず、どうか城にお戻りください!」
これ以上の事は説明できないのももどかしい。これでも感謝されようものならさっきストックした罵詈雑言を王女に浴びせなばならない。
「貴方は今朝の無礼者!そんな事信じられません!その調子なら私はどうせ長くない。なら最後に一度城下町で目一杯遊びたいのです!」
その美しいその瞳に涙を浮かべて訴えられたら、断れる男など居るのでしょうか。
剣を握ったまま俺がたじろいている時、王女の後ろに影が迫った。
まずい、新たな愛の手メンバーだ!
「おや、お嬢さん肩にホコリが…」
小さな親切余計なお世話とはこの事だ。
「コラ!ホコリ取るな!」
だが今回は王女との距離が近い!最小限の動きで王女をすり抜け、やや低姿勢にまた愛の手メンバーに一閃を与える。
愛の手メンバーは吹き飛ばされ家屋に激突した。堪忍しろ、峰打ちだ。
「あのー…ちょっと過剰防衛だと思うのですが…」
王女の反応もGood!感謝されない範囲でうまく護衛出来ている感じだ。
俺、粗相ある対応出来てますよ、大臣。
「どうか城へお戻りください、王女。」
小さくため息をされてから、目を上げた王女はほほ笑む。
「あなたの必死さは伝わりました、私も城下町を少し歩けて楽しかったわ。私に鍵を取られてしまった貴方もきっと叱られてしまいます。処罰が下らないように私が上手く言いますので一緒に帰りましょう。」
なんて優しいんだ王女様、結婚したい。だが俺は大事な仕事中。恋心に負けてはいけない。
今俺がすべきなのはそう、粗相ある対応なのだ。
「わかったらとっとと城まで付いてこい!このクソ豚!家畜のようにまたあのブタ箱にもどれ!」
決まった、最高のセリフだ。完全に怒り顔の王女が「無礼者」と連呼しながらまたどこからか出した弓矢で俺を走って追いかけながら射抜く。
愛の手メンバーどももその様相を見てボランティアどころでは無い。
粗相ある対応をしつつ、最速で城までお連れする最適な言葉ではないだろうか。
しかし何もかもそう上手く運ぶはずもなく。
城の門が見えたあたりで俺の前に何者かが立ちはだかった。
「うちのメンバーのボランティアをよくも妨害してくれましたねぇ。」
愛の手メンバーの制服だが、様子が違う。
「わたくしは愛の手メンバーのリーダー、カインドです。我がボランティアを妨害してくださった貴方には最高のボランティアを持って心改めていただきます。」
なんとリーダーのお出ましだ。
言ってる事は良くわからんが、俺がメンバーのボランティアを妨害したのを怒っているようだ。そりゃそうだ、普段なら感謝はされてもブッ飛ばされるようなことは間違いなくしていないのだから。
「こちらも我が命にてボランティアを阻止している、口出ししないでいただきたい。」
フッとカインドが笑った。不気味だ。
腰にさした剣のようなものに手をかけた。
ボランティアと言いながらやり合う気か…おもしろい。
俺も剣を抜いた。カインドもまたその剣のようなものを両手で握って…ん…?
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
カインドの手から大きな振動音のようなものが響く。
剣のようなものの先端は紺棒のようになっていて、怪しいイボが光ってブルブル揺れている。
「見よ!これが私の親切心を具現化した武器!マッサージブレードだ!」
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
やばすぎる。絵面が。剣の稽古は嫌というほどやったが、振動する棒と向かい合う修行など無かった。
こんなねじ曲がった殺気は初めてだ。どう踏みこんだらいい…?
やきもきしていたら相手の方が先に踏み込んできた。
得物はこちらの方がタッパがある。
まずは大振りに牽制…しようとしたが、相手が薙ぎの一閃を掻い潜って懐に入ってきた。
「マズいっ…!」
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
相手のマッサージブレードは正確に俺の腰を捉えた。
腰から脊椎にかけて抑揚の付いた振動が伝わる。
腰を切り抜けてカインドが着地する。
俺はその場に崩れ落ちた。
そこに王女が駆け寄る。
「ルッツ!大丈夫?」
振動が体に残る俺に王女が語りかけた。
反応鈍く、震えながら俺が応える
「やばい…超気持ちいい…!」
「やっぱり…」
カインドは不敵に笑っている。
護衛の時に変な寝方をして少し痛めていた腰が、嘘のようにスッキリしていた。
こんな優しい敵に…俺は勝つことができるのか…ああ…またカインドが向かってくる…!
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
ガキィィィィィィィン!
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
ガキィィィィィィィン!
カインドは血反吐を吐いて地に倒れた。
まあ冷静に考えて負けるはずが無い。こっちは健康になる一方なのだから。
「さあブタ箱に帰りますよ、ブタ王女。」
「なんかもう貴方の悪口慣れてきたわ」
さあ、最弱のラスボスを倒したところでハッピーエンドに向かうとするか。
相変わらず「無礼者」と言いながら矢は飛んでくるが。
「甘い…甘いぞ若き騎士よ…」
低い位置から声が聞こえた。カインドだ。
これ以上何をするというのか…?
こいつには人を癒す力しかない。
粗相ある対応を極めた無教養で粗暴な俺にはどうあがいても物理的に敵わないのだ。
「負け惜しみか、俺にはもうどんな親切も効かない。お前のボランティアは俺の前には無意味だ!」
捨て台詞を吐いて去ろうとしたその時、視界が揺れた。
「かかったな。これが俺の最終親切だ!」
足元にはマッサージブレードの切っ先。なんとマッサージブレードはリモコン操作可能だったのだ。
ブィィィィィィィィィィィィィィィン!
足元から快感の波が全身を駆け巡る。
全身から力が抜け俺は足ツボマッサージに身をゆだねる。動けない。
「ふふふ…では後は存分にそこの娘にボランティアさせてもらうぞ…ふふふ…」
にやつきながらジリジリと近付くカインドに王女はたじろく
「え…ちょっと待ってなんか怖い」
そりゃそうだ。満身創痍のおっさんに何されるんだよ。
このままでは王女が、王国が危ない!色んな意味で。
だが俺は動けない。
ちくしょう…もうちょっとだったのに…
ここまできたのに俺は快感に負けて、結局王国を滅亡させてしまうのか…
全身の血行が良くなってくるのを感じながら、俺は涙していた。
意識が遠くなる…これが…マッサージハイか…(そんなものはない)
「助けてやろうか?」
ふと、近くで女性の声がした。王女ではない。
目を開けると、背の低いローブ姿の女性が居た。
見覚えがある…昨日買った本の著者だ!
「珍しくアタシの本買ってくれる人がいたから嬉しくて尾行してみたら、面白いモンが見れたよ。」
この忙しい時に子供みたいにニヤニヤ笑ってやがるがこの元宮廷魔導師…
ん…?宮廷魔導師…?
「そうだよ、私が王女に呪いをかけた魔女だ。」
「宮廷魔導師だった頃に王女にこの低身長を指摘されたので呪いをかけて城から逃げたのだ。」
マジかよ。
ていうかそんなことしておいてよく[王族への謁見AtoZ]なんて本が書けたなこいつ。
サブタイトル~元宮廷魔導師の真の礼節~じゃねえよ廃刊にしろ。
足元からの快感と、頭からのこいつへの怒りがせめぎ合っている。
元宮廷魔導士……もとい、魔女は続ける。
「王女の呪いを解いてやるよ。その代わり、代償を払ってもらう。」
代償……おれは生唾を飲んだ。
こんな呪いをかける魔女だ、俺の命だって取りかねない。
カインドは王女に日傘を貸し、飲み物を差し出し、肩のマッサージをしていた。
あふれ出る感謝の言葉、城からの連続爆発音。
時間が無い、早く呪いを解かなければ!
「わかったお前の望む代償なら俺が全て払おう。」
美しい王女を生かすためだ、このまま国が滅べばどちらにせよ俺の命だって危うい。
これは総合的に幸せになれる判断だ。そう思って俺は決断した。
「では代償を頂いていくとしよう、楽しかったよ、ルッツ。」
俺の意識はそこで途絶えた。
王女にかけられた呪いは解かれた。
気付くと俺は城のベッドで寝ていた。
足にはまだマッサージの振動が残っているような気がする。
魔女は俺の何を代償に持っていたのだろうか。
部屋をノックする音が聞こえる。
扉が開くと…ああ、記憶に新しい美しいドレスを身にまとった俺の女神。
王女の姿がそこにあった。
「ルッツ。私にかけられた呪いの為に尽力されていたのですね、何も知らずに苦労をかけました。」
ああ…王女様…知らなくて仕方の無い事なのに俺にそんな労いを…
まだおぼろげな意識の中で俺は感謝の言葉をかけた。
「うるせーよブタ。起きがけにきったねぇ顔見せてんじゃねぇよ!」
悲しきかなとっさに出た俺の言葉は、癖になった粗相ある対応だった。
「無 礼 者 !」
まだ身動きできない俺を矢では無く王女の鉄拳が振りおろされた。
そして背を向けて、王女は小さく、強く言った。
今度は誰も傷付かない「ありがとう」を。
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