嫌われ裏切られ殺された王女は愛さない

ハシモト

文字の大きさ
3 / 3

3 フェニシギアへ

しおりを挟む
  
  「フェニシギア王国より、貴様をヴィオラの所持金の代わりにと所望だ、これより、貴様をフェニシギアへと送る」


  あの爆弾発言から三日後、ヴィヴィアンはあれよあれよという間に手続きが済まされ、荷物を詰められ、豪華な馬車にガタゴト揺らされている。

  完全にヴィヴィアンの脳の許容量は超えており、まともな考えを導き出せる力は残っていない。
  勿論そんな事も言ってられないのだが、複雑な感情が心中を渦巻いて思考の邪魔をするのだ。
  メルキオールのいる、フェニシギア王国に自分が向かっている。

  ねぇ、私は期待してもいいの…?でも、違ったら?これ以上に傷付く事になったら…

  どうしてこんなにも胸が苦しいのか。
  つい癖で胸元をさすっては、眉間にぎゅっと力を入れ、込み上げてくる何かを押さえつける。
  そんな苦しげなヴィヴィアンが気掛かりなのか、チラチラと斜め前に座るユージーンが心配げな瞳を向けた。
  
  「あんた本当に大丈夫なんですかい?顔色が随分と悪いですよ」
  
  「貴方こそ大丈夫なの?本当に私なんかについて来てしまって。引き返すなら今しか無いのだから、後悔する前に考え直して欲しいのだけれど…」

  ユージーンは本人たっての希望でヴィヴィアンのフェニシギア王国へのお供として付いて来ている。
  王族の端くれで重宝もされず疎まれ、ただの持参金の代わりという事もあり、元々フェニシギアへの道中へは最低限人員で向かう予定であった。
  しかしユージーンが恐れながらも、王に進言した。ヴィヴィアン様は王族の末端、そして持参金代わりとは言えど、身分は王女。その王女に一人でも騎士が付いてないとなれば、人員不足かと自国が侮られてしまいます、と。そして、その役回りを自分が賜りたいと自ら申し立てし、許可を貰い現在に至った。
  確かにユージーンは一生ついて行くと言ったが、本気と捉えていなかったヴィヴィアンにとっては、何もないところで躓いてしまう程に驚くべき事だった。

  「後悔なんてしませんよオレは。寧ろ内乱が湧き上がりそうな畜生国から出れて心底清々してるんです。」

  ユージーンは口角を上げてニヤリと底意地悪げに笑った。
  つい先日、自国愛を王の前でつらつらと語った男とは思えない程の口振りである。
  
  「そう…」

  ヴィヴィアンはユージーンにどの様な反応を返せばいいのか分からず、景色が流れる窓の方に顔を向けた。
  
 そろそろ現実と向き合う頃ね…自分の身の振り方をしっかり考えなきゃ。
  フェニシギア王国は私を持参金の代わりに要求した。それは何故?私自身に価値なんてない。だとしたらやっぱりメルキオールが私を呼び寄せるための口実として?だとしたら…

  全身に血が巡って、鼓動が早くなるのが分かる。

  私は忘れられていない…?指輪の持ち主が私である事を特定したの?彼女、ヴィオラが偽物だと。

  「姫さん、なんか顔赤くないですか?」

  「そ、そんな事ないわ!」

  「まぁ、そういう事にしておきます」

  


 


  「どうしてだ、ヴィー…俺の事はもうどうでもいいのか…?」

  薄暗いバルコニーで天を仰ぎながらメルキオールは目を細めた。
  
  俺は、彼女を呼び寄せてどうするというんだ…

  俺は、

  「誰を信じればいい…」
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

いおる
2018.12.16 いおる

2話でライオネル王を
殿下と呼ばれていますが
おかしな気がします(ΦωΦ)
王や王妃は陛下と呼ぶのでは?

日本の皇室典範では
天皇、皇后、太皇太后及び皇太后は陛下、
それ以外の皇族の敬称は殿下とする、
とありますから似たような感じの
使い分けをすると違和感がなくなると
思われます。

2018.12.17 ハシモト

有難うございます、訂正致しました。

解除
ゆう
2018.12.13 ゆう

面白いです。気長に更新お待ちしてます。

2018.12.14 ハシモト

ご感想ありがとう御座います!
色々落ち着いて来たら更新を早めたいと思っています(^^)

解除
カイユ
2018.12.09 カイユ

更新お待ちしておりました。
他の小説を読みながらもちらちら気にしていたので、嬉しいです。
ようやく展開が動き出しますね!

2018.12.09 ハシモト

ご感想ありがとう御座います!
ゆくりと更新して行きたいと思っておりますので粘り強くお付き合い下さい^_^

解除

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

婚約破棄したので、元の自分に戻ります

しあ
恋愛
この国の王子の誕生日パーティで、私の婚約者であるショーン=ブリガルドは見知らぬ女の子をパートナーにしていた。 そして、ショーンはこう言った。 「可愛げのないお前が悪いんだから!お前みたいな地味で不細工なやつと結婚なんて悪夢だ!今すぐ婚約を破棄してくれ!」 王子の誕生日パーティで何してるんだ…。と呆れるけど、こんな大勢の前で婚約破棄を要求してくれてありがとうございます。 今すぐ婚約破棄して本来の自分の姿に戻ります!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。