婚約破棄されたので新たな人生スタートさせます

ハシモト

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 「レディ・エロイーズ…君はなんて美しいんだ…ルビーの瞳に、濡れ羽色の髪。なんといってもその豊満な身体が扇情的で…ハァ、ハァ、エロイーズ…私を受け入れておくれ」

  「きゃあああああ!!!何すんのよこのエロジジイ!!」

  私は思わず、目の前の男の股を蹴り上げてしまった。
  
  なんなの?なんなの??この状況…!!ここはどこ!?

  股間を両手で抑えてプルプルと震えている男から後退りして、わたわたと窓に駆け寄る。

  三階…!飛び降りれる高さじゃないでしょ!

  でも、そうも言ってられる状況じゃないことは確か。

  私は壁に掛けられている絵画を手にとって、窓に投げつけた。
  するとバリーンと高い音を出して、窓のガラスは粉々に割れた。

  「…ぐっ…エロイーズ…こんな事して逃げられると思うなよっ!ただじゃおかんからなっエロイーズ!!」

  「…次こそ使い物にならないぐらい強く蹴り上げてやるわ…あと、エロイーズじゃなくてよっ!」

  言い切ると同時に、窓から飛び降りた。

  


 
  私は左足を引きずりながら暗い夜道を一人で歩いている。

  追っ手は何とか隠れて撒いたが、流石にこれ以上は歩けそうにない。
  朝まで待って、道を通る荷馬車にでも乗せてもらえればいいのだけれど…

  大きなため息をついて私は道の真ん中で座り込んだ。

  ドレスは泥だらけでボロボロ。靴は履いてないし足も腕も赤く腫れが上がっている。

  何でこんなことに…思い返せば今日は散々だった。


  「エレイーズ・ラ・アルマニャック!貴様との婚約をこの場にて破棄させてもらう!」

  国中の貴族が集まった王室主催の舞踏会でそんな茶番劇が繰り広げられた。
  先ほどまで賑やかだった場も、ボドアン王子の発言で一気に静まり返った。

  「…(馬鹿なの?)」

  ボドアン王子の後ろに隠れるように控えている女がニヤリと口角をあげた。
  彼女はイザベラ・ヴァロア公爵令嬢。私の公爵家とは派閥違いにあり政敵である。

  嵌められたわねあの馬鹿王子!

  「破棄の理由を教えて頂けますでしょうか?」

  「とぼけよって。心当たりが無いとは言わせんぞ。本来ならば極刑にも値する罪だ」

  「と、いいましても。私には思い当たる節がございません」

  「あくまで、とぼけるつもりか。…よいだろう」

  王子は長い巻物を持った従者を呼び寄せると、読み上げろと命令する。

  「え、エレイーズ・ラ・アルマニャック令嬢の、ざ、罪状内容で御座います!」

  噛みながらも罪状内容を最後まで読み上げたボドアンの従者の話をまとめるとこうだ。

  エレイーズは公爵、王子の婚約者、という身分を利用して、気に食わぬ者を宮廷から不当に追放した。そして法律上禁止されている闇市、賭博場の出入り。王子の婚約者でありながら他の男と密通していたetc…

  そんな妄言だれが信じるのよ。ああ、馬鹿王子は信じたのね…てか、常日頃から馬鹿だと思ってたけど、ここまで馬鹿だったなんて。

  「さぁ、罪を認めろエレイーズ。貴様が自分の犯した罪を認めると言うのなら私も悪ではない。せめてもの慈悲で私の側室に据えて命が尽きるまで王家に仕えることを許す」

  「は?」
  
  この馬鹿頭沸いてんじゃない??側室??は??

  「そして、この場に集まった皆に紹介しよう!今日をもって私の婚約者となるイザベラ・ヴァロア公爵令嬢だ」

  「紹介に預かりましたイザベラ・ヴァロアで御座います」

  真っ赤に燃える髪と、相反する氷のような青く冷たい瞳の女がボドアンに腕を絡める。

  「殿下、エレイーズ嬢の処遇は私に任せていただけないでしょうか?」

  イザベラは見下すようにエレイーズを一瞥して勝ち誇った笑みを浮かべた。

  まさかとは思うけど、この女に任せるなんて言わないでしょうね…

  「…イザベラに一任する」

  嘘でしょう??

  「お待ち下さい殿下。私、事実無根の罪を認める訳にはいきませんわ。それに処遇に関しても一介の公爵令嬢にその権限を与えようとするなど何を考えておいでですか」

  その問いかけに答えたのは少し戸惑いをみせた王子ではなくイザベラだった。

  「婚約を破棄された身分で殿下に口答えとは無礼な女だこと…それに私を一介の公爵令嬢ですって?」

  イザベラはコツコツとヒールを響かせエレイーズの前までやってくると手に持った扇子でエレイーズの頬を勢いよく叩いた。

  これには、静まり返っていた会場もざわつき始める。

  「無様ね」

  口の中で鉄の味が広がるのと同時に、頭に血が上ってきた。

  (なぜ私がアホみたいな冤罪で不当な扱いを受けなければならないのよ。あんな馬鹿な婚約者でも、幼馴染のよしみで尽くしてやったのに。今まで遊びも我慢して王妃教育を学んだのよ。ここまで来て今更裏切られて、努力も無に返されて、あげく、こんな下品な女に引っかかって)

  「今どんな気持ちよ、エレイーズ」

  私にだけ聞こえる声でイザベラ嬢は口を開いた。

  「あのエレイーズ・ラ・アルマニャックが地の底まで落ちるなんて滑稽だわ」

  「…自分が何をなさったか理解しているのですかイザベラ嬢。このような場で殿下の発言を遮り、公爵令嬢である私に暴力を振るうなんて。あなたの激しい気質、到底国母の器とはなり得ませんわ」

  「イ、イザベラ!それ以上は!」

  イザベラは再度、扇子を振りかざしたが、ボドアンの制止によって悔しげに扇子を下ろした。

  「…エレイーズ、いずれは王妃である私に逆らって、ただでは済むとは思わないことね」

  コツコツとボドアンの元へ戻ったイザベラは王子に耳打ちをした。

  嫌な予感がする…でも、罪を認めてない段階で直ぐ捕まる事はないはずよ。ここは冷静に話し合いに持ち込んで…

  「エ、エレイーズ・ラ・アルマニャックを捉えよ!!」

  はぁ!??やっぱとんだ大馬鹿だわ!
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