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登場人物紹介&これまでのあらすじ&挿話
1.5話(挿話)
しおりを挟むーーバンっ!!
勢いよく開かれたのは木製の脆い扉、そこには肩で息をする細身の若い男が汗だくになって立っていた。
彼は部屋の寝台に死んだように横たわる娘を目に入れると、すぐ彼女の側に突っ立っているロウにズカズカと近寄り問答無用に殴りかかった。
「…がっ!」
男の重い拳がロウの胸元にのめり込み、その衝撃で身体が吹っ飛んで壁に叩きつけられる。
「なぜ避けない、お前なら容易く防ぐ事だって出来ただろ?」
「ゴホッ、ゴホッ…!まぁ殴られて仕方ない心当たりがあるからね」
ロウは壁に寄りかかり床に座り込んだまま殴られて痛む胸をさすった。
「救助が遅れた事も、落ち合う場所に来なかった事も、この際不問にしてやる。約束通り金も城の図解もやろう。だから早くその子を返せ。それともこれ以上僕との契約を反故にするのか?」
「はは、昔馴染みにキツイね」
男の剣幕に怯むことなく、ロウは朗らかに笑みをこぼす。
そして爆弾発言を落とした。
「ねぇ、金も城の図解も要らないから彼女をくれない?」
「は…?」
しばし訪れる沈黙。
ロウの目の前の男は口をあんぐりと開けて、彼の突拍子のない発言に驚愕としている。
「君の代役として、何処までも果てしなく彼女を連れ去ることを保障するよ。逃げ足だけは昔から一流だからね」
口元の笑みを絶やさず男に話を持ちかけると、男は今まで開いていた口を勢いよく閉じて、その綺麗な顔に怒りを浮かばせた。
「ぬかせ、殺すぞ。冗談を言ってる暇があるなら、さっさと失せろ。」
「本気だよ」
ロウの頬を短剣が掠める。剣はそのまま真っ直ぐに壁に刺さった。
「よりたちが悪い…何が目的だ。お前もこの子を利用する気か?」
「おっかないな。大体、君はこの子と地の果てまで逃げ隠れる事が出来ると本気で思ってるのかい。公爵持ちで、王立騎士団の副隊長を務める目立つ立場でもあるのに?ろくな覚悟で幻想を語っているだけなんじゃないか?君とこの子が一緒で、確実的な平穏は得られないなんて、自分が一番よく分かってる筈だ」
「…それはっ!」
男は反論しかけたが、ロウの正論とも言える言葉に苦渋をにじませ拳を握りしめた。
「それなら彼女は俺といた方が安全だ。俺以上の適任者なんて、そうそういないよ」
彼の心は確実に揺らいでいる。
しかしもう少しで畳み掛けられるんじゃないかと言うところで、だが、と男が口を開いた。
「それ以前に、お前は信用ならん。一体何を考えている、王族の根絶やしが目的か?その為にこの子を復讐の道具にするつもりなのか」
「復讐?可笑しなことを言うなぁ。俺が?誰に?」
更に笑みを深めるロウにゾクリと身を震わせ、触れてはならぬ事に触れてしまったと男はバツの悪そうな顔を見せる。
「…それじゃあ一体何のためだ?」
ロウは間髪入れずに答えた。
「俺自身と向き合う為に彼女が必要なんだ。俺は今度こそ現実から目を逸らさない、もうこれ以上しがらみから逃げたくないんだ。じゃないと、ミハエルも母も報われないだろう」
彼の瞳には確固たる意志が宿っていた。
無関係の人間からすれば何を言っているのか疑問視されるところだが、男はロウの言葉の真意を微かながらに読み取ることができた。
ロウのそれは昔見せたような真剣な表情で、男はあの日の記憶を鮮明に蘇えらせ眉をひそめた。
「その瞳だけは昔と変わらないな…分かった、この子を任せよう。ただしお前を信用したわけじゃない、追跡魔法具をつけることが条件だ。」
「ああ、条件をのむ」
コクリと頷いたロウの小指に、男は黙って胸ポケットから出した魔法具を付ける。
そして男はロウをじっと見つめた後、あの夜と同じ質問を口からぽろりとこぼした。
「なぁ、ローウェン。ヴェインを殺したのはお前なのか…?」
一瞬の間があったものの、ロウは小さく口を開いた。
「そうだよ、俺が彼を殺した」
その声は部屋の温度を下げるほど冷たく、無機質なものだった。
男は思う。ロウの口から真実を語るまでは絶対に彼を許さないと。
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