戦国異世界英雄記

おののく人形

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心の崩れた少女

最強 対 最強

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彼女は、全てを失った。

それは彼女自身のせいではないとも言えるし、彼女自身のせいとも言える。


何があったか……、それは彼女が話すことでここで話すことではない。


私が話すことではない。フフフ………。


世界は残酷。世界は悲劇を欲して止まない。つまり、この戦国の世界でも…………。


彼女はその苦しみから逃れられるのか、それとも…………。

全ては見たものにしかわからない。

今はまだ楽しいでしょう。この世界を戦国時代だと勘違いしているあの子は、ね。

でも、精神は不安定。悲劇のヒロイン気取りの寂しがり屋。………ああ、本っ当っっっにかわいいでしょう!?ねぇ!?そう思わないっ!?

私は彼女にまだ会えない。だから、貴方達は愉しむといい。あの子が、もがき苦しむ今をーーー。








ーー時は、彼女と忠勝が相対したところまで遡る。







「いざ、参らんっっっ!!!」

「あはっ!」

本多さんが、私目掛けて突っ込んでくる!!

(ちょっ……、早っーーー!?)

「く……っ!?」

咄嗟に大太刀を前に出して、切っ先を相手の顔面に向ける。躊躇や動揺を誘うためだ。しかしーー、


「おおおおぉぉぉぉっっっ!!!」


(怯まない………っ!?くっ……!)


早川流剣術ーー鞘払い 突【さやはらい とつ】!


槍の切っ先に鞘で触れて、槍の軌道変更。そしてすかさず相手の死角に移動。そのまま、すかさず突くっ!


この技は早川流では一番ポピュラーな攻め技で、私もよく使う。私の場合そこにアレンジも加えている。


きぃぃんんんんっっっ


激しい鉄と鉄のぶち当たる音。

「な…っ」

本多さんは、兜の角で刀を絡めて突きを止めた。鹿男め。

「ふんっ」

「わっ、ちょ………っ」

しかも、絡めた刀を私ごと投げ飛ばした!

(なんて馬鹿力っ)


すぐに態勢を立て直し、即座に本多さんに向かって特攻する。


そして、一閃っ!………と、見せかけての回転蹴り!!


がしっ……


「なっ……」


本多さんは私の脚を掴んでいた。こちらも見ずに蹴りを防いだのだ。そんな馬鹿な…完全に読まれていた!?


「ふんぬぁぁぁっっ!!!」

「うわぁっ!?」


そのままブンブンと振り回され、投げ飛ばした。私は着地に失敗して、無様に転げ回った。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

息を切らしながら草と泥にまみれた自分の体を確認する。痛みはあるが、大したものじゃない。


「……もう止めよう、娘。投降すれば悪いようにはしないと約束する」


強い。姿勢だけじゃない。本多さん……いや、忠勝さんは本物の戦士だ。 
これが戦国の世。命を懸け金とした、日常茶飯事の殺し合いの場【コロッセウム】。


「ふふふっ………あっはははは!」


私は嬉しかった。こんな状況なのに、久し振りに楽しい。

「なっ、なんだ?突然笑いだして…」

「忠勝殿の力の前にやけになったか?」

彼等を相手してる時は本当に怖かった。いつ殺してしまうか分からなかったから。

「はぁ……、ふぅ……」

立ち上がり、深呼吸 。そして、鞘は捨てる。邪魔だ。

構えは居合、姿勢は低めに。これが私の最も得意なスタイルだ。

「…………………いくよ」

全身の筋肉をフルに使い、前に出るっ!!


今度はフェイント無しのシンプルな一閃っ!!


「むぅっ!!」


無論、ガードされる。それでいい。刃を滑らせて忠勝の右手の指を狙う!!

忠勝さんは指を槍から離す。これで片手が離れた!
これで右側が無防備になったな!!

右腕めがけて大太刀を振り下ろす!
だが、流石は忠勝さん。身体をずらしてそれを躱す。

(それを待っていたっ!!)


我流秘剣 燕返し【がりゅうひけん つばめがえし】

振り下ろした大太刀を、大きく反転っ!振り下ろしからの振り上げだ!

「ぐっっっ!!」

今度は忠勝さんが後ろへ飛び下がる。

「お主は一体…………」

忠勝さんは驚いていたが、そんな事は関係ない。これが本当の私だ。嬉しい。ようやく強者に巡り会えた。

あの世界では悲しい巡り合せとなってしまったが。

この世界ではーーー、

「さぁ、続きをしようよっ!!」

本来ならば、こんな世界に来た主人公は初めに逡巡し、困惑し、絶望するべきなのかも知れない。それこそが人として正常なのだと、どの物語でも語っている。だが、

「そんなの知ったことかぁぁぁぁっっっっ!!!!」


飛び上がった彼女の心は、正しく鳥籠を飛び出した鳥だった。例えそれが、密閉された部屋に閉じ込められた鳥籠の鳥だとしてもーーーー。








それから30分か1時間は分からないが、私達は刀と槍で会話していた。

なんて楽しいのだろうか。こんなにも楽しい。

もっと、もっと、もっと!!

たくさんやりたい!!

「はぁ…はぁ……」

もっとこの戦いを………!!!


「………娘よ、お主はなんのために戦う」

「はぁ……はぁ……………え……?」

突然、訳の分からないことを聞かれた。なんだ?そんな事より戦いを……。

「お主は強い。我と命を懸けて戦えるほどに。しかし、それだけだ」

「っっ!!??」

「なぜ、そこまで自分を追い詰める?」

何故、そんな事を聞く?貴方はようやく見つけた私の……………


「それっ、今だーーーーっ!!」

気の逸れた一瞬、上から降ってきた。私は、間抜けにもそれに覆われた。

「ちょっ、なにこれ……っ」

それは鉄網だった。必死にもがくが、それは重く範囲も広い。

「今だ、捕らえろっ!!!」

その雄叫びを合図に、観戦していた兵士達が一斉に襲いかかって来る!

「くっ、この……!」

鉄網の中では刀は使えない。むしろ邪魔だ。私は、刀を置くしかなかった。

「はぁっ」

だが、ただで捕まってやる義理はない。正面から向かって来る兵士達の顎に掌底打ちを食らわせる。

「ぐあっ」

「がっ…」

脳が揺れる衝撃に、兵士達は倒れていく。


「はぁっ……はぁ……」


……分かっている。この数が相手では焼け石に水だ。
体力ももうない。どうしたら………。

「うわぁぁぁぁーーーーっっ!!!」

「きゃっ」

突然、後ろからタックルされ、私はよろけてしまう。後ろを見ると、私よりも背の低い猿顔の男が必死の形相でしがみついている。

「ちょ……離してよっ!」

「絶対離さんっ。わ、わしは絶対に離さんぞーーー!!」

どんなに振り回しても離れない。何なんだ一体!?

「わしは………、わしは必ず生き残って…………必ず手柄を上げて……カカ様に孝行するんじゃぁぁっっ!!」

「お、お母さんに………?」

命を懸けた猿顔の覚悟に、私は一瞬動きを止めてしまう。そして、その一瞬を見逃す忠勝さんでもなかった。

「ふんっ」

「あっ……」

首の後ろに手刀を入れられ、私は意識を失った。
ここで死ぬことになっても、私は後悔しない。なぜなら、私は初めて自分らしく生きる事が出来たのだ。それが刹那の時だったとしても、この時を忘れることはない。

残りの全てを抹消したとしても、だ。いや、むしろそれが私の願いなのかも知れない。名前どころか、元の世界に居た私の記憶の全てを消してしまいたい。

私の存在ごと、消えてしまえばいいのにーーーー。








              つづく………
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