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アーキの望みとホムの望み
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師匠のマーリンは僕に再度弟子になる意思の確認をしてきた。
「王都ではかなり強引に君を弟子にしてしまって済まなかった。というのも、この隠れ家を一度見てもらいたくてのう。王都ではアーキ君はわしの弟子になるのを拒んでいるようにも思えたのじゃが、わしの弟子となり知識の全てと『マーリンの隠れ家』を継承して貰えないかの?」
王都に匹敵するほどに栄えているこの街も貰えるの?
これはすごい!
この街を手に入れるということは領主になるというのと同意かもしれない。
なんという幸運が舞い込んできたんだろう!
ここなら、メアリーさんを呼び寄せてたとしてもクラウスさんは文句を言わないだろう。
「ぜひとも、お願いします!」
僕は大賢者マーリンの弟子となることを決意した。
*
大賢者マーリンはアーキの歓迎会が終わった後、書斎で一人酒を飲んでいた。
アーキもホムもまだ未成年でお酒を飲めないというのもあったが、人生の最終目標である自分の全てを引き継げる弟子を見つけたことで大仕事を終え、一人で酒を飲みたい気分であったからだ。
マーリンの座る椅子のすぐ傍《そば》にはホムがトレイを両手で下げ直立不動でいた。
ホムはいつもと比べ少しお酒を飲み過ぎているマーリンに釘を刺す。
「マーリン様、今日はいつもよりも飲み過ぎなんじゃないでしょうか? もう若くないのでお身体を大切にしてください」
「いや、今日ぐらい飲ませてくれ。やっとわしの全てを教えることの出来る弟子が見つかったんじゃ。おまけにこの隠れ家も引き継いでくれると言ったしのう。わしが死んだ後に、ホムが一人だけになるのが心配でならなかったんじゃ」
それを聞いて悲しそうな表情を浮かべるホム。
ホムは普段わがままを言ったことがないが、マーリンに自分も後継者になりたいと懇願した。
「ホムはマーリン様の後継者になれませんか?」
「お前はわしの分身みたいなものじゃから、まったくわしと同じなんじゃ。全てを受け継ぐことは出来ても、残念ながらそこから賢者の後継者として新しいものを生み出せる能力的な余地がない。わしを引き継いでも超えることは出来ないから、後継者にはなれないのじゃ」
「それでもホムはマーリン様のことを身近に感じたい」
ホムの強い意志を知ったマーリンはそれを受け入れた。
「そうか。じゃあ、ホムもアーキと一緒に後継者になる修行をするのかの? もしホムがアーキを超えることがあればホムが後継者になってもええ」
「うれしい……」
マーリンの何気ない一言が、アーキの後継者への道への障害となったことをマーリンは気が付いていなかった。
アーキの幸運は凶刃となりマーリンへと向かう。
もちろんアーキには全く悪意も意識もなく……。
マーリンはいつもの倍の量の酒を飲んだことで足元がふらついていた。
ホムの肩を借り寝室へと向かおうとするが足がもつれ本棚にぶつかる。
そして運悪く本棚にちゃんと収まっていなかった重い書物が本棚から落ちてきて直撃。
さらに運悪く、頭を床に打ってしまい死んでしまった。
普通ではありえない不運の連続だ。
最初は揺さぶっても起きないのでマーリンが酔いつぶれていると思ったホムであったが、明け方近くになり徐々に冷たく硬直し始めたマーリンを見て慌てだす。
「死んでいる。どうしよう?」
一人ではどうにも出来ない。
ホムはアーキの部屋へと駆け込んだ。
*
「アーキ、たいへん。助けて!」
「こんな夜更けにどうした?」
アーキは無理やり起こされたのでフラフラしていたが、ホムの真剣な顔を見てすぐに目が覚めた。
「マーリン様が死んだ。冷たくなっている」
「なんだって?」
ついさっきまで一緒に食事をしていたのに……。
なにがあってそんなことに?
書斎に向かうと、師匠は完全に冷たくなっていた。
どうやら本棚から落ちてきた本が直撃したのが死因のようだ。
「死んでいる……昨日まで元気だったのに……」
「お願い、アーキ! マーリン様を生き返らせて!」
エリクサーは死んでもすぐならば蘇生することも可能。
でも、死後これだけ時間が経っていると……。
僕はダメ元で師匠にエリクサーを飲ませる。
だが、死んでいては殆ど飲ませることは出来ない上に、幸運続きの僕でもエリクサーで死人を生き返らせることは出来なかった。
「マーリン様は生き返る?」
「時間が経っているのでエリクサーでは生き返らせるのは無理だ」
「でも! おねがい! なんとかして!」
泣きじゃくるホム。
ホムを悲しませるわけにはいかない。
僕は残された可能性に賭けることにした。
師匠を生き返らせる唯一の方法が一つだけある。
エリクサーのさらなる上級品だ。
やるしかない!
もう時間的にもこれが最後のチャンスだ!
僕は一度だけのチャンスの錬金に全てを賭ける!
『父さん、母さん、お願いです! 師匠、いやホムの一番大切な人を助けたいのです! 力を貸して下さい!』
僕の胸に温かいものが灯るとともに、ハイポーションの錬成が輝き始める。
これは……いけるかもしれない。
僕の思いが届いたのか、輝きは益々強くなる。
エリクサーを超える成功エフェクトが現れた。
七色の光の輝き。
僕が山で迷子になったときに食べた果実のような輝きが放たれている。
そして出来上がったのは……。
七色に輝く薬品だ。
名前はわからないけど、たぶんこれはエリクサーを超えるものだ。
僕はホムに薬品を渡す。
ただ普通に飲ませてもまた零《こぼ》れて終わりだ。
「ホム、この薬が最初で最後のチャンスだ。師匠は死んでいるので普通に飲ませても零して終わりになる。絶対に零さないように口移しで一滴残らず飲ませるんだ!」
「わかった」
ホムは七色の薬品を口に含むと、抱きかかえた師匠に飲ます。
すると師匠が輝きだした。
「いけたか?」
そして、身体に温かみが戻ると、なにごともなかったかのように間抜けな声が……。
「あたたた」
頭を押さえながら起き上がる師匠。
冷たく固くなっていた師匠が生き返ったのだ!
「ちょっと飲み過ぎで頭が痛いのう。早く寝るか」
そう言って師匠は書斎を後にする。
書斎に残されたのは僕とホムだけ。
呆気にとられて師匠になにも声を掛けられなかった。
ホムは大粒の涙を流しながら、僕に抱き着き泣きじゃくる。
「ありがとう、ありがとう。アーキはホムの一番大切な人を助けてくれた。アーキもホムの一番大切な人。本当にありがとう」
僕は泣きじゃくるホムの頭を抱えて、明日も変わらない日が訪れることを安堵する。
「王都ではかなり強引に君を弟子にしてしまって済まなかった。というのも、この隠れ家を一度見てもらいたくてのう。王都ではアーキ君はわしの弟子になるのを拒んでいるようにも思えたのじゃが、わしの弟子となり知識の全てと『マーリンの隠れ家』を継承して貰えないかの?」
王都に匹敵するほどに栄えているこの街も貰えるの?
これはすごい!
この街を手に入れるということは領主になるというのと同意かもしれない。
なんという幸運が舞い込んできたんだろう!
ここなら、メアリーさんを呼び寄せてたとしてもクラウスさんは文句を言わないだろう。
「ぜひとも、お願いします!」
僕は大賢者マーリンの弟子となることを決意した。
*
大賢者マーリンはアーキの歓迎会が終わった後、書斎で一人酒を飲んでいた。
アーキもホムもまだ未成年でお酒を飲めないというのもあったが、人生の最終目標である自分の全てを引き継げる弟子を見つけたことで大仕事を終え、一人で酒を飲みたい気分であったからだ。
マーリンの座る椅子のすぐ傍《そば》にはホムがトレイを両手で下げ直立不動でいた。
ホムはいつもと比べ少しお酒を飲み過ぎているマーリンに釘を刺す。
「マーリン様、今日はいつもよりも飲み過ぎなんじゃないでしょうか? もう若くないのでお身体を大切にしてください」
「いや、今日ぐらい飲ませてくれ。やっとわしの全てを教えることの出来る弟子が見つかったんじゃ。おまけにこの隠れ家も引き継いでくれると言ったしのう。わしが死んだ後に、ホムが一人だけになるのが心配でならなかったんじゃ」
それを聞いて悲しそうな表情を浮かべるホム。
ホムは普段わがままを言ったことがないが、マーリンに自分も後継者になりたいと懇願した。
「ホムはマーリン様の後継者になれませんか?」
「お前はわしの分身みたいなものじゃから、まったくわしと同じなんじゃ。全てを受け継ぐことは出来ても、残念ながらそこから賢者の後継者として新しいものを生み出せる能力的な余地がない。わしを引き継いでも超えることは出来ないから、後継者にはなれないのじゃ」
「それでもホムはマーリン様のことを身近に感じたい」
ホムの強い意志を知ったマーリンはそれを受け入れた。
「そうか。じゃあ、ホムもアーキと一緒に後継者になる修行をするのかの? もしホムがアーキを超えることがあればホムが後継者になってもええ」
「うれしい……」
マーリンの何気ない一言が、アーキの後継者への道への障害となったことをマーリンは気が付いていなかった。
アーキの幸運は凶刃となりマーリンへと向かう。
もちろんアーキには全く悪意も意識もなく……。
マーリンはいつもの倍の量の酒を飲んだことで足元がふらついていた。
ホムの肩を借り寝室へと向かおうとするが足がもつれ本棚にぶつかる。
そして運悪く本棚にちゃんと収まっていなかった重い書物が本棚から落ちてきて直撃。
さらに運悪く、頭を床に打ってしまい死んでしまった。
普通ではありえない不運の連続だ。
最初は揺さぶっても起きないのでマーリンが酔いつぶれていると思ったホムであったが、明け方近くになり徐々に冷たく硬直し始めたマーリンを見て慌てだす。
「死んでいる。どうしよう?」
一人ではどうにも出来ない。
ホムはアーキの部屋へと駆け込んだ。
*
「アーキ、たいへん。助けて!」
「こんな夜更けにどうした?」
アーキは無理やり起こされたのでフラフラしていたが、ホムの真剣な顔を見てすぐに目が覚めた。
「マーリン様が死んだ。冷たくなっている」
「なんだって?」
ついさっきまで一緒に食事をしていたのに……。
なにがあってそんなことに?
書斎に向かうと、師匠は完全に冷たくなっていた。
どうやら本棚から落ちてきた本が直撃したのが死因のようだ。
「死んでいる……昨日まで元気だったのに……」
「お願い、アーキ! マーリン様を生き返らせて!」
エリクサーは死んでもすぐならば蘇生することも可能。
でも、死後これだけ時間が経っていると……。
僕はダメ元で師匠にエリクサーを飲ませる。
だが、死んでいては殆ど飲ませることは出来ない上に、幸運続きの僕でもエリクサーで死人を生き返らせることは出来なかった。
「マーリン様は生き返る?」
「時間が経っているのでエリクサーでは生き返らせるのは無理だ」
「でも! おねがい! なんとかして!」
泣きじゃくるホム。
ホムを悲しませるわけにはいかない。
僕は残された可能性に賭けることにした。
師匠を生き返らせる唯一の方法が一つだけある。
エリクサーのさらなる上級品だ。
やるしかない!
もう時間的にもこれが最後のチャンスだ!
僕は一度だけのチャンスの錬金に全てを賭ける!
『父さん、母さん、お願いです! 師匠、いやホムの一番大切な人を助けたいのです! 力を貸して下さい!』
僕の胸に温かいものが灯るとともに、ハイポーションの錬成が輝き始める。
これは……いけるかもしれない。
僕の思いが届いたのか、輝きは益々強くなる。
エリクサーを超える成功エフェクトが現れた。
七色の光の輝き。
僕が山で迷子になったときに食べた果実のような輝きが放たれている。
そして出来上がったのは……。
七色に輝く薬品だ。
名前はわからないけど、たぶんこれはエリクサーを超えるものだ。
僕はホムに薬品を渡す。
ただ普通に飲ませてもまた零《こぼ》れて終わりだ。
「ホム、この薬が最初で最後のチャンスだ。師匠は死んでいるので普通に飲ませても零して終わりになる。絶対に零さないように口移しで一滴残らず飲ませるんだ!」
「わかった」
ホムは七色の薬品を口に含むと、抱きかかえた師匠に飲ます。
すると師匠が輝きだした。
「いけたか?」
そして、身体に温かみが戻ると、なにごともなかったかのように間抜けな声が……。
「あたたた」
頭を押さえながら起き上がる師匠。
冷たく固くなっていた師匠が生き返ったのだ!
「ちょっと飲み過ぎで頭が痛いのう。早く寝るか」
そう言って師匠は書斎を後にする。
書斎に残されたのは僕とホムだけ。
呆気にとられて師匠になにも声を掛けられなかった。
ホムは大粒の涙を流しながら、僕に抱き着き泣きじゃくる。
「ありがとう、ありがとう。アーキはホムの一番大切な人を助けてくれた。アーキもホムの一番大切な人。本当にありがとう」
僕は泣きじゃくるホムの頭を抱えて、明日も変わらない日が訪れることを安堵する。
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