魔物になろうズ!

鳥ふみと

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ヘイッ! タクシー!?

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「そのゴブリン帝国とかに行くのは良いとして……」



 デスナイト森山さんが唸うなっている。

 名状しがたい感情でもあるのか、森山さんの兜の奥の輝く瞳がひときわ怪しい光を放っている。



 俺たちはゴブリンの集落からなんの準備もなく数時間歩いてたどり着いた草原のど真ん中にいる。

 当然のように道などない。



 そして普通の冒険ストーリだと、こういう場面はなぜか凄くいい天気で見通しの良い青空とか広がる異世界の風景なはずなのだが。

 俺が日光がダメなので、深夜である。

 幸い俺たち全員がナイトビジョンの能力があるので景色はなんだか深紫色に見えている。



 そんな深夜の草原で、魔物たちがくだらない事でモメている感じだった。



「……このまま300キロ歩くとか正気なの? 転移門ゲートを使わないにしてもなんか別の交通機関とかないの?」



「たとえば?」



 と、吉田さんはデスナイト森山さんに逆に質問する。



「市営バスとか!?」



「……」



 デスナイトの兜ヘルムの奥から市営バスとか聞こえてくるのは、なんかシュールでほのぼのな感じもするが。森山さんはいたく真面目に必死だ。よっぽど歩きたくないのだろう。

 あきれた顔で吉田さんは森山さんを見上げるが。

 俺も森山さんと同じ気持ちだ。



 300キロとかムチャだろう。 

 というか。なぜゴブリン吉田さん、そんなに平然と歩く気マンマンなの?

 マゾなの? 実は原始人なのか?



 たしかに自動車とかリニアとか飛行機とか知らなければ。

 徒歩や馬車で旅をするとか当たり前で日常なのかも知れない。



 しかし。



 いかに異世界に魔物転生(?)したとは言え。まるまる日本の知識などは残っているので、どうしても300キロを徒歩で旅する選択とか修行やチャレンジでしかない。



 ちなみに俺は、小学校5年生の時から毎日20分のジョギングと20回の腕立て伏せと腹筋の自主トレをこの世界に来るまで続けていたし。その上で部活のトレーニングもこなしてきた。

『数キロ走れ!』 とかなら余裕なのだが、300キロとか未知すぎて想像できない。



 せいぜい部活で年に数回の10マイル走の約16キロをイベント的に挑戦してヘトヘトになって走破するのが俺の限界だ。

 森山さんにしても。

 小中高と剣道していたならば数キロ走れとか苦も無く出来るだろうが。

 300キロの徒歩移動とか想像の範囲外で拒否的な感情しかないのだろう。





「あのなー。森山氏も佐嶋氏も江戸時代の旅人を見習ってくれよ。毎日8時間くらい歩いて30キロくらいは移動していたんだぜ?」



 たしかに数百年前の日本人ならば300キロを歩く人とか、かなり居たのかも知れない。

 しかし、俺は歩きたくない……。



「私たち、江戸時代産まれじゃないし!」

「Me Tooっス」



 と言うより。

 なぜ吉田さんはそんなに平気な顔しているのか?

 オカシイのか?



「吉田さんは、なんで300キロとか聞いて平気なんですか?」



「ああ? 俺か? 俺はウルトラマラソン経験しているんで300キロくらいなら4日あれば十分余裕を持って移動できるな。ちょっとハードな遠足っていうかキャンプかな?」



「……マジっすか?」

「不思議とゴブリンボディになってから体の調子も良いみたいで。なんか妙に腹も減らないし楽勝な感じがする」



「……」「……」



 吉田さんの意外な力に絶句する俺と森山さん。

 しかし、だからと言って300キロをゴブリンに負けずに歩こうという気にはならなかった。



 仕方がない。

 ここは俺が森山さんの鎧の中に入って飛行して。吉田さんはロープとかで縛って森山さんに吊り下げたり、森山さんに抱えて運んでもらうか……。

 など思っていると。



「……そういえば私はともかく。佐嶋君と吉田さんってご飯しないで平気なの?」



 この森山さんの一言で。

 俺たち三人はこの世界フランシアに来てから何も食っていないことに気がいた。

 普通のファンタジー冒険物だと必ず。主人公たちが異世界の宿屋とか酒場で食事しながらのエピソードとかあるモノなのだが……。



 俺たちには、そういうのは無縁なのか?

 それとも将来的に血祭りにした人間の丸焼きとかを仲良くわけ合うイベントとかあるのか?





「俺がここに来てから口に含んだものといえば。メスゴブリンのオッパイくらいだな」

「……なんで、そんな誰も望まない下ネタを」



 など言ったものの。俺も実は吉田さんの同レベル。

 森山さんの鎧の中で最近発生している俺と森山さんのアレコレは。鎧の中の深淵での出来事なのでなんとなく魔法的にノーカウントとしても。



 俺も最近、口に入れたものと言えば獅子姫レオナのバストくらいでしかない。

 あれが俺たち主食だったのか?



 そんなくだらない事に思いを馳せていると。



「へ~~~~いっ!!  タクシィィーイィー!!」



「!?」



 突然に森山さんの絶叫が夜の草原にこだまする。

 俺たちが歩いてきた道を振り返って、なぜかブンブン手を振り回している。



「ど、どうした!? 森山氏? イカレたか?」



「森山さん? どうしたの?」



「ほらほら! みんな見て! タクシーだよ!」



「……?」「……?」



 冗談抜きで、徒歩移動に絶望を感じた森山さんがどうかしてしまったのかと思った。



 俺たちには何も見えない。

 しかし、嬉しそうに闇夜に手を振り続ける森山さんには何か見えているらしい……。



「ヘイヘイっ! タクシー―ぃいいーー!!」



 嬉しそうに叫ぶ森山さんの兜ヘルムの奥が赤く明滅する。



 ちょっとホラーな感じ?

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