青い月が輝く夜には

くろねこ

文字の大きさ
上 下
1 / 2

序章

しおりを挟む
第一章 青い月

ージリリリーン
聞き慣れたアラームの音、眠気まなこにケータイのアラームを止める。
体を起こし、伸びをする。
なんだか今日は、体がだるいような感覚に襲われる。
熱があるわけでは、無いようだ。
「もう朝か…。」
腰まである髪の毛を、手首にかけてあったゴムで、無造作に一つに束ねた。
あくびをしたせいか涙が、一筋零れ落ちる。
現在2015年7月16日。
彼女の名前は柏原 桃香。
現在高校2年生である。
特技は絵を描くこと、なので美術部に所属している。
桃香は、カーテンを開け布団をたたみ、部屋を出る。
静まり返った家。
いつも通りの光景。
家には、誰もいない。
家族は、母親がいるがしかし、帰って来る日は滅多になく、生活費を稼ぐために寝る間を惜しみ働きに行っている。
だから家ではいつも一人ぼっち。
私は無理やり鏡の前で口角を上げる。
「にぃ~。」
変な顔を見て、自分で虚しくなる。
「ニャー」
いや、寂しくはない。
足元に三毛猫のスズが寄り添う。
桃香が中学1年生の時、近くの神社で捨てられていたのを保護をした三毛猫のスズが家にいる。
だから寂しくはない。
名前は神社の鈴の前にいたのでスズ。
「私の気持ちをわかってくれるのはスズさんだけだよ~。」
桃香はスズを抱き上げ、
「朝ごはんにしようか!」

テレビのスイッチをつける。
パチッと音と共にニュースが始まる。
ー今日は、奇跡の月ゴッドブルームーンがなんと日本で見られる日です。
ーブルームーンというのは奇跡の月とも言われてますが、ゴッドと言うのはどういうことですか?
ー神の月、その名前の通りです。
もう一つがゴッドレッドムーンこれはあの阪神淡路大震災の翌朝だったと言われています。
ーつまり、地震がおこる、、、
ーいや、何が起こるかは分かりません。今回はブルームーンですから。ただ、なにが起きてもおかしくないのではないでしょうか?
テレビの報道に釘付けになりながら目玉焼きを作る。
ーそれに歴史上にも気にになる文献がありましてね?
パンに少しバターを塗りオーブンに入れる。
焼いている間に、キャットフードをお皿に盛り付ける。
「スズさん!ごはんですよ!いっぱい食べてね!」
あらかじめ焼いてあった食パンに、目玉焼きを乗せる。
「完成!桃香特製目玉パン!」
一人で呟きながら机に運ぶ。
桃香とスズは、もぐもぐご飯を食べる。
「ゴッドブルームーン!スズさん一緒に見ようね!」
朝ごはんを終えて、学校の支度をし、家をでる。
家の前には田んぼが広がり、蛙の鳴き声がいろんなところから聞こえる。
日差しが照りつける。
ここは鹿児島県の仙巌園の近く。海からは桜島が見える田舎の場所。
学校まで自転車で30分くらいかかる。
蝉の鳴き声、汗が一筋首を伝う。
水の綺麗な海沿いの道を通り、学校についた。
「桃香おはよ!」
友達の加奈子が、前で手を振る。
小さな学校。全校生徒は、116人。
自転車を止め、カバンを背負う。
「聞いた?ゴッドブルームーン!」
いきなり話しかけたのは、親友の木下加奈子。
加奈子は、 目を輝かさせながら桃香に話しかける。
「ニュースでみたよ!今日見に行こうよ!」
「いいよ!行こう!」
加奈子とは小学生からの友人で、何をするにも常に一緒と言うぐらいの仲だ。
二人は夜の予定を立てながらクラスに入る。
クラスでもやはりゴッドブルームーンの話題で持ちきりだった。
8時15分。
チャイムが鳴る。
学校の時間が始まった。

「えー、六時間目の授業を始める」
午後二時、歴史の授業が始まった。
午後のこの時間が一番眠たくてしょうがない。
「今日は平安時代からだな。あ、お前ら今日の夜、月みにいくやつおるか?」
社会科の先生は思い出したように、生徒に尋ねる。
 数名手を挙げた。もちろん桃香も、加奈子も挙げる。
「そうか、いや実はな、この平安時代にでてくる源家の源義政というやつがな、青い月の夜、鵺と言う妖怪を弓で退治したと言われているんだ。もしかしたら妖怪が出てくるかもしれないので、家の中で見るように!」
手を挙げた生徒からはものすごいブーイングをもらう。
もちろん控えるはずもなく、桃香を含めほとんどの生徒達はソワソワしながら、授業が終わるのを今か今かと待った。

時刻は十七時半学校を終えた生徒達は家に向かう。
しかし、桃香と加奈子は早歩きをしながら学校の近くの、空が綺麗に見える磯山公園に行く。途中御庭神社のよこをぬけながら山道を進む。この神社でスズにあった。
いつもは人気の全くないブランコと、目玉の小型観覧車。中が空洞になっている、お山の形のアスレチックしかない公園にまるで花火大会でもあるのかと思うほど屋台が出ていたり、ビールを酌み交わす人など沢山の人達がいた。
「凄くない?こんなに人いたかね~?」
加奈子は首をかしげる。
「人いっぱいじゃん!」
夕日が闇の世界を連れてくる。
屋台で焼きそばと唐揚げ、そしてポテトを買い早めにご飯をすませる。
だいぶ日が落ち、辺り一面が薄っすらとくらくなる。
いや、ならなければおかしい時間だ。今の時間あと5分ほどで18時45分だ。
一人、小さな男の子がアッと叫ぶ。
「青いお月様!」
指差し、その声に一斉に空を見上げた。
歓声と拍手が聴こえる。
「あれが、ゴットブルームーン。」
その月は、息を呑むほど美しかった。サファイアのような青色で、光が当たると水色に輝きを増す。
ーイク、、ザーッ
ーダ、、ザァー
ー、ザーッブカ?
月が出たとき、桃香の脳裏が電波の悪いラジオのように、人の話が聞こえた気がした。
「加奈子なんか言った??」
桃香は加奈子に尋ねた。
加奈子は首をかしげる。
「何も言ってないよ!どうした?」
桃香は不思議そうに辺りを見渡し、特に桃香の方を見ている人もいないので桃香は再び空を眺めた。
それはそれはすごく美しい月でした。
その大きなサファイア、ところによっては深い海のようなこの月に、吸い込まれてしまいそうな大きな青い月。桃香の頬を一筋涙が伝う。
「やだ桃香、何泣いてるの??」
「え?」
加奈子はハンカチを出して桃香の涙を拭いてやる。
「なんか、懐かしくて、、寂しくて、、、どうしちゃったんだろ、、。」
桃香はどんどん溢れ出る涙に、加奈子のハンカチでぬぐう。
何か、何かが桃香の心を襲う。それは大事な、忘れてはいけないことを忘れているような感覚だった。
「あれ?あの猫、桃香の猫のスズちゃんじゃない?
ハンカチから目を話すと桃香と加奈子の目の前にお座りしている、スズがいた。まっすぐこちらを見つめている。
「あれ??家閉めてきてるのに、、、。」
スズは桃香の足をスリスリしながらニャーとなく。
そして、こちっちに来いと行っているかのようにくるりと振り返る。
「どうしたんだろう。ちょっと行ってくる。まってて。」
桃香は立ち上がり、スズの元へと行く。
先ほどきた道を戻り、神社を過ぎ、そして仙巌園の門を抜ける。
「ここ普段は入っちゃダメなんだよ!帰るよスズ!」
桃香はスズを捕まえようと必死に早歩きをする。
ーっと、気づけば仙巌園の池が、目の前にあった。
その池は、月に照らされているせいか妙に輝き、青く不気味に池に映る月が、ゆらゆらと揺れていた。
そのときだった。
ー桃香!
脳裏にそれまでとは違うハッキリとした、男性の声が聞こえた。
私はこの声を知っている。
桃香はこの声を最後に目の前が真っ黒に染まった。


風が吹く。今日は妙に風が心地よい。
池に映る月も満月に輝いている。
横笛の音色がその雰囲気をさらに深める。
白い髪が風になびく。
ふと池の水面が揺れる。
不思議に思い池の方へ近づく。
するとー。
「だ、大丈夫か??」
池の丁度中心部に黒髪の女性が浮いていた。
慌てて池の中に飛び込みその女性を抱き抱える。滴る水。ポチャポチャと音を立てる。
「この女人間か、、この匂い、、、。」
口元に耳を傾ける。
微かに聴こえる吐息の音。
生きている!この女は生きている。
見慣れない着物に若干の疑問を抱きながら。家の中へ運んだ。
「おい誰か、手を貸してくれ。」
声をかけると中から一人走ってやってくる。
「どうしました???ってえーー??」
勢いよく走ってきた男は女を見て驚く。
「政宗、、、悪いが姉御を呼んできてくれ!ついでに女の着替えもな!」
「あ、あぁわかった!すぐ連れてくる!」
男は、ユーターンしながらまた走ってどこかに行ってしまった。
「人間の女か、この格好、、、謎だらけだ。」
抱えながら男は首をかしげる。
「伊織さん、、何やら政宗のやつがものすごい勢いで走って行きやしたがなにかあ、、、ったようやなぁ?」
部屋の暗闇からもう一人別の男が現れる。
「あぁ、司か。丁度いい、そこに寝かせる準備を頼む。」
「わ、わかりやした。せやけど、その女濡れてやがる。このまま寝かせてもアレなんで脱がせやしょうか??」
「馬鹿野郎、仮にも女だ。男の俺たちが踏み込める場所じゃねーんだよ。今政宗に姉御を呼んでもらってる。」
司と呼ばれた男は関西弁で、右目を眼帯で隠している。右目は隠れてはいるが、なーんだという表情は伝わる。
「ま、姉さんが来てくれれば俺たちの出番はなさそうやなぁ~。俺は一眠りして来やすわ。」
司は布団を敷き、去って行った。
伊織と呼ばれた男は司の背中を見ながらため息を深くついた。
「許してやってくれ、司はいい奴だから。」
眠る女に声を零す。
その声は静まり返った部屋でも微かに聴こえるほどの優しい声だった。

 走る。ただひたすらに。暗闇の中へ。オレンジ色の明かりから逃げるように。
私はどこへ向かっているのだろう。
なんでこんなにふるえているのだろう。
涙が頬を伝う。
またあの声が届く。
ーワ、ガザ、、ナ
ーガザガザ、、イクカラ
その声はすごく聞き取りにくいが、その声を聞いて怖かった感情が溶け出し、安心感に包まれる。
しかしなぜ、こんなに切ない気持ちになるのだろう。
私は無我夢中で走る。
段々と景色が明るくなっていく。
明るくなって、そして真っ白な光に包まれた。

ーあなた達、本当どういう神経してるのかしら。
ーす、すいません。
近くで声が聞こえる。
ー濡れた女の子を着替えさせず、放置ですか?
せめて拭くぐらいできたのではないですか?
ーすいません
複数の男の人の声も聴こえる。あ、やばいくしゃみがで、、
ーおかげで、、
「クシュンッ!!」
ー熱がってお、目が覚めたかい??
段々と目を開けると、3人の男と、一人の女性が私を囲んで心配そうに眺めていた。みんな着物を着ている。
「こ、ここどこですか??」
ガバッと起き上がる。が、頭がズキズキ痛み頭を抑えた。
「やっぱり覚えてねーか。」
白髪の若い男性が、深くため息をつきながら腕を組む。
「お前名前はなんと言う?。」
黒い短い髪の男性。、、、あれ??額には、、、。
「つ、角???」
よく見ると真ん中に座っている茶色の髪の眼帯した男も耳がまるで動物みたいなフサフサな耳が生えている。
な、なんなんだ??これは夢、夢なのだろうか?も、もう一回目を閉じてみよう。
「おい人間、目を開けぇな。さもなくば、命もらいますぜ?」
茶色の髪の毛の耳がモフモフ男は恐ろしい事を口にする。
「よせ、司。」
白髪の男が止める。が、おかげで、閉じて五秒で目を開ける。やはり夢ではなく、そこは私の知らない世界があった。
「わ、私は柏原桃香と申します。」
震える声で自己紹介をする。
「単刀直入に言う。お前は何しにここへきた?」
伊織は、鋭い目を光らせて強面に尋ねた。
「あの、その前にここはどこですか?」
私の一言に静まり返る部屋。
「覚えてないのか?」
口を開いたのは黒髪の角が生えている男政宗だ。
「私は、その日公園で青い月を見てました。そしたら頭の奥の方から声がして、飼い猫がいて、暗くなって、、?」
一生懸命思い返すが、どうして見知らぬところに今倒れて寝ていたのか、あの仮装?している人はなんなのか、記憶が、思い出せない。
「あんたら自分たちも名乗りなさいな。娘の手がかりになるかもしれないでありんす。」
綺麗な黒髪をまるで時代劇にいるかのように日本髪にまとめた女性が穏やかに語りかける。
「桔梗、確かにそうだなぁ。おい柏原桃香、、桃香、少しお前には不思議な話になるかもしれない。」
伊織は重たい口を開き言葉を紡ぐ。
「お前は妖を信じるか?」
伊織はまっすぐな目で桃香をみる。
こんな馬鹿げた質問。
しかし、周りを見ると角が生えた政宗、耳がフサフサな司。
この二人を見ると、伊織の質問はすごく大事な質問なのだと気づく。
「私は今まで妖を見たことがありません。だから信じろと言われてもそれは難しいです。」
私は思い切って思いのままぶつけた。震える手をぎゅっと握る。その手に気がついたのかそうではないのか定かではないが、何かを確信したように伊織は、
「そうか、じゃあ俺たちが妖だとしたら信じるか?」
伊織の言葉はすごく重たくて、しかし、私を騙しているようには見えなかった。
「そうだな、桔梗が一番わかりやすい。お願いできるか?」
「いいのかい?桃香わっちはね、ろくろ首。首が伸びるのが特徴。伸ばしても驚かないでおくれやす。」
桔梗は、少しづつ首を伸ばしていく。
桃香は、倒れそうになったが、その現実を必死に受け止めた。
桔梗は桃香が必死に受け止めようとしていることを感じ、首をさらに伸ばした。
「わっちは、この首どこまでも伸ばすことができるんでありんす。」
「桔梗、もう十分だろ。ありがとう。」
伊織が止めると、桔梗はシュルシュルと首をしまう。
「あらやだ。人間を怖がらせていた頃を思い出しちまったよ。桃香、怖かったかい?」
桔梗は、私を見つめる。
「いいえ、ちょっと驚きましたけど、妖怪のことを信じます。」
「そうかい。わっちら妖怪は神様と同じ、信じてくれている間生きていけるんだ。」
「桃香、俺たちは妖だ。ただ運がよかったな。その妖を見張るのが俺の仕事だ。」
伊織は妖についていろいろと教えてくれた。
ここは妖の街二番町椿横丁。
その横丁を束ねているのが鵺の伊織。
伊織と共に治安を守るのが、おとろしの司、水龍の政宗。
桔梗さんは隣の飲み屋のママさんという感じだろうか。
「で、あんたはどうなんだ?その来ていた身なりといい、先程から公園だのわけのわからないことを言う。」
政宗がゆっくりととう。その政宗の言葉で気がつく。
「あ!わ、私の制服は??」
「制服ってのがその着物のことかい?
火の玉達に乾かしてもらったよ。」
桔梗が指差す先、物置に綺麗に畳まれた制服が置いてある。火の玉が、桃香の制服を取り囲んでおり、桔梗の指示でサァッと四方八方に離れる。
「心配いいらんねん。着物はこの色男が着せたかいなぁ。」
司が指差したのは政宗だった。
私は、頬が赤くなっていくのを感じ慌てて布団に潜る。ーっと言ってもよく見ると薄い着物を被されているだけなのだが、、、。
「ば、馬鹿野郎!お、おい、誤解だ!俺じゃない!その着物も着せたのも桔梗さんだ!」
それを聞いて私は布団から顔を出す。
今にも司に襲いかかりそうな政宗を必死に抑える伊織。
「せやけどさぁ、人間。一体どこからきたんでさぁ?」
少し和んだこの部屋の空気は、司の声色で一瞬ではりつめる。
しかし、その質問は誰も止める者はいなかった。
「その前に、あの、桔梗さん服などありがとうございました。」
私は、お礼を言えなかったと、布団から起き上がり改めて桔梗にお礼を伝えた。
桔梗はすこし驚いた表情をみせたが、
「あぁ、元気でなによりさ。」
桔梗はニコッと微笑んだ。
「改めて自己紹介させてください。」
私は、ゆっくりと今まで起きたことすべてを話した。
しかし、みんな今一つという顔をしている。
「なぁ桃香。お前がいた人間の世界は、何年何月何日だった?」
伊織は確信をついたように桃香に尋ねる。
「私がいたのは、二千十五年七月十六日でした。」
桃香の言葉に伊織は目を閉じる。周りも少し驚いた表情にかわる。
「これはたまげたねぇ。」
桔梗は、言葉をこぼす。
「もしそれが本当なら、、今この世界の人間界は千百四十五年と聞く。八百七十年後の未来から、青い月の日ここに来たことになる。そしてお前は二日間寝ていた。」
伊織はゆっくりと慎重に言葉を紡ぐ。
「それは、そんなことが、、。」
「信じがたい話だが、それが本当なら辻褄はあいますぜ。」
政宗も司も信じられないという表情だ。しかし、一番混乱しているのは桃香だ。
「え?、え?ー!!わ、私は、、帰るにはどうしたらいいんですか??学校は?スズのご飯、、どうしたらいいんでしょうか??。」
本当に信じられない。私はただ、ゴットブルームーンを見たくて、それだけだったのに、、、ふと今朝のニュース番組の声蘇る。
ーなにが起こってもおかしくない。
まさか自分にそんなことが、、見えない不安に胸が熱くなる。
「どうしたら、、、。」
涙がこぼれ出す。
こんなことになるなら。
お母さんにいつもありがとうっていいたかった。スズには特製のご飯あげたかった。加奈子ともっと遊びたかった。なんで?なんで、、、。すると伊織に肩を正面から強く握られる。
「泣くな、泣いてもどうしようもねーだろ?俺たちは町の治安を護るためなんでもやって来たがこれは初めてだ。だがよ、帰るあてもないんだろ?ここに居ろ。この椿横丁に来たんだ。俺の仲間だ、家族だ。責任もってやる。ここで働け、俺の小姓として。」
「あんた、女の子を預かるってできるのかい?」
桔梗は思わず口を挟む。
「伊織様、俺も反対です。妖たちの中には人間を食らう者もいる。柏原にとっても危険かと。」
政宗も身を乗り出す。
「心配ない。椿横丁の掟、椿横丁の者は皆家族。俺のそばにいればいい。それにお前達もいる。この屋敷花灯籠は広いんだ。空き部屋はたくさんある。」
「あんたらしいなぁ。」
司は、身を乗り出した政宗を制す。
「人間、あんたはどないしたい?」
司は桃香に尋ねる。
「私は人間です。きっと足を引っ張る。それでも少しでも皆様に助けていただいた恩を返したい!お願いします。帰る方法が見つかるまでここにおいてください。」
伊織は桃香の言葉を聞くと、にぃっと笑い、
「よし、じゃあ早く風邪を治せ。俺はそろそろ行くが、困ったことあれば俺たちに言ってくれ。あ、それから人間だということがバレないようにしろ。上級なやつ以外はわからねぇから。」
伊織が立ち上がると、合わせて政宗も、司も出て行った。
「わっちは、花灯籠の隣で飲み屋を営んでる。くるお客さんはだいたい常連。何かあったらおいで、わっちもそろそろ帰るとするよ。」
「ありがとうございます。」
桔梗も部屋を後にした。
妖怪、漫画やアニメで見る限り恐ろしい物とばかり思っていた。自分が恥ずかしくなる。
さて、これからどうなるのだろう。
熱のせいなのか、色々あったせいなのか、頭がぼーっとする。桃香は再び布団を被り眠りについた。




しおりを挟む

処理中です...