7月は男子校の探偵少女

金時るるの

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その後のあれこれ

娘と画家と7月

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「お父さん、お母さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」


 夕食の後での家族の団欒の場。そこで私は切り出した。


「なあに? ルイーゼ」


 4歳になる弟を膝の上であやしながら、母がこちらに顔を向ける。
 父も話の続きを促すように、私に視線を合わせる。


「うん……実はね、いつも行く公園で気になる子がいるんだけど、どうやって仲良くなったら良いのかわからないの」

「そんなの簡単だよ」


 母が笑う。


「その子に似顔絵を贈ればいいの。ルイーゼはお父さんに似て絵がすごーく上手だから、きっと相手の子も喜んでくれるし、仲良くなるきっかけにもなるでしょ? 何を隠そう、お父さんとお母さんが結婚するきっかけだって似顔絵が元だったんだから」


 おや、父と母にそんな過去があったとは。
 もっと詳しく……と身を乗り出した時、父が口を挟んできた。


「ちょっと待ってくれ、ルイーゼ。その仲良くなりたい子というのは、あれだ……まさか男の子なのか?」

「うん。そうだけど」

「俺は反対だ!」


 即答した父。珍しく声を荒げている。どうしたんだろう。似顔絵がそんなに悪い事なのかな?


「もしも似顔絵がきっかけで仲良くなって、いずれは結婚……なんて事になったらどうするんだ!」

「フェルディオってば思考が飛躍しすぎ。それにルイーゼだってもう13歳なんだから、好きな子の一人や二人いたっておかしくないでしょ? わたしがフェルディオに初めて出会った時だって14歳だったんだから」


 な、なんてことだ。そんな早くから父と母は出会っていて、結婚までしたのか。初耳だ。


「あ、あれは、君がまさか年齢を誤魔化していたとは思わなかったから……!」
 

 それも初耳だ。一体父と母の過去にどんな事情があったんだろう。そのあたりをもっと詳しく……と思ったところで、父がテーブルを握りこぶしで軽く叩く。


「とにかく俺は反対だ!」

「もう、頑固なんだから。そんな事言ってたら、明日からフェルディオの似顔絵を描くのをやめますよ? ねールイーゼ?」

「うっ……」


 父が言葉を詰まらせる。
 私と母は毎日父の似顔絵を描いている。それを父は毎日の楽しみにしているらしい。母は残酷にもそれを取り辞めようというのだ。
 暫くの間無言で俯く父、テーブルに肘を付き、両手を額のあたりで組んでいるために影が落ちて表情は見えない。
 母を見るも、知らん顔で弟と遊んでいる。
 お父さん、ちょっとかわいそう……。
 なんて思った直後、父が


「わかった」


 と、しわがれた声を発した。絞り出すように。


「似顔絵を描く事を許可しよう」

「ほんとに!? いいの!?」


 あんなに反対していたのに。


「だからこれからも俺の似顔絵も描き続けてくれないか。頼む」


 父にとっては日々の楽しみのほうが重要だったみたいだ。恐るべし似顔絵の威力。


「わあ、お許しが出たよ。よかったね。ルイーゼ」


 母がまるで自分の事のように喜んでいる。その隣で複雑な顔をしている父。やっぱりちょっとかわいそう。
 でも、似顔絵を描く許可がでたのは嬉しい。明日は思い切ってあの子に声を掛けよう。公園に行くときはスケッチブックを忘れないようにしなきゃ。

 そう思いながら席を立つ。


「そろそろ寝るね。お父さん、お母さん、おやすみなさい」

「あれ? もう寝るの?」

「うん。明日の準備をするから」


 父の顔が一段と暗くなった。
 この後、何が起こるのかわかっている。拗ねた父を慰めるための母とのいちゃいちゃタイムが始まるのだ。


「もう、フェルディオってば、機嫌を直してよ。ルイーゼだけじゃなくてわたしだっているでしょ?」

「だが、ルイーゼは俺にとっての天使だ」

「えー、それじゃあわたしはフェルディオにとっての何?」

「……女神だ」


 うわあ。聞いているだけで恥ずかしい。
 私は早々に居間から退出したのだった。
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感想 9

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みんなの感想(9件)

山瀬滝吉
2024.04.28 山瀬滝吉

小説『7月の入学』は、19世紀のヨーロッパを舞台に、新しい生活と未知への冒険が繊細に描かれています。物語は主人公がエリストリア王国の地方都市アルヴァナに到着する場面から始まります。この新しい環境への適応と内面の葛藤が、物語全体のテーマを形成しています。

物語は主人公がクラウス学園の制服を着ていることから、老紳士に新入生と見抜かれる場面で始まります。その出会いは、彼女の学園生活の初歩的な一歩を示唆していると同時に、キャラクター間の温かな交流を描いています。特に印象的なのは、噴水のエピソードです。主人公がコインを投げて願いを込めるこの場面は、彼女の希望と不安を象徴しています。

物語中のカフェでのシーンは、主人公が新しい友人クルトとともに、偶然出会った少年の問題を解決する過程を通じて、彼女の思いやりと機転を効かせる能力を強調しています。このエピソードは、彼女が単なる観察者ではなく、積極的に周囲の世界と関わる人物であることを示しています。

また、物語は主人公のジェンダーと彼女が通う学校の環境という要素を巧みに絡めています。女性として男子学校に通うという設定は、ジェンダーの期待に挑戦し、自己発見へと導く重要な動機となっています。

全体を通じて、作者は詳細な風景描写と感情表現を用いて読者を引き込みます。情景は生き生きとしており、キャラクターたちの感情の機微が細やかに描かれています。これにより、物語はリアリティを持ち、登場人物たちの心理的な変化が鮮明に伝わります。

小説『7月の入学』は、成長の物語でありながらも、過去の価値観と現代の理解を繋ぐ橋渡しをしています。その美しい文体と深いテーマ性は、読者に感動を与え、自己反省のきっかけを提供するでしょう。この作品は、青春の不安と期待を美しく描き出し、多くの人々にとって魅力的な読書体験を提供します。

解除
深緑
2023.01.31 深緑

主人公の見識の深さや鋭い洞察力、冴え渡る推理が面白くて一気に読んでしまいました。
様々な人との関わり心を通わせていく人間関係の温かさに心温まったり、ユーリ含めた作中の人物に入れ込んですっかり没入してしまいました。
ユーリがとてもかわいくてかっこよくて優しくて大好きなんですが、彼女と関わることで段々とその心や素顔が見えてくるようになる周囲の人物も自然と好きになっていって、深くこの物語に引き込まれて楽しかったです。
それからの話で、出会った当初はセリフの頭にいつも⋯が付いていたヴェルナーさんが感情豊かになっていてとても微笑ましかったです。
読み終わった後に表紙を初めて見たんですが、ユーリがあまりにもかわいい⋯。
彼女の深く思考する時のホクロに指を添える動作が大好きです。その才能が遺憾無く発揮されるところがまた見たいなと思いました。

2023.02.02 金時るるの

お読みいただきありがとうございます。
ヴェルナーは相手の表情がわからないゆえに「…」の間に色々考えてから発言していましたが、心許せる相手に出会えた事で「…」が無くなった感じですね。
気づいて頂けて嬉しいです。
また、表紙もお褒め頂きありがとうございます。頑張って描いた甲斐があります。
もしも、また何か思いつきましたら、番外編として追加することもあるかもしれませんので、その時はよろしくお願いいたします。

解除
2022.01.16 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2022.01.16 金時るるの

ドイツ語でユーリ=7月ですね。
タイトルや各話タイトルの「7月」は主人公の事です。

解除

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