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7月と兄弟
7月と兄弟 7
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アルベルトにイザーク、二人とも優しそうで安心した。彼らとなら【家族】として上手くやって行けるような気がする。
あのチョコレートケーキはちょっと微妙だったけれども……
まだ口の中にあの変な味が残っているような気がして、口直しにお菓子でも、と思ったが、買い置きの分が無くなっていたので売店に行こうと寮の外に出る。
明後日のパーティ、楽しみだな。そういえば何かプレゼントを用意したほうが良いだろうか? でも、街に行く暇は無いし。どうしよう。
考えながら歩いていると、不意に足元を何かが素早く横切ったので、つんのめって転びそうになってしまう。
びっくりした……
横切ったものを目で追うと、それは走っていく白い猫だった。ネズミ駆除の為に学校で飼育されているうちの一匹だ。その身体が跳ねるたびに、首輪に付けられた鈴が鳴る。
イザークの言っていた『子猫ちゃん』って、ああいう感じなんだろうか。確かにわたしも鈴を付けているけれども、それとマフラーだけで猫みたいと言われるのは、ちょっと納得できないような気もする。
「ああ、もう、駄目だよ。あっちへお行き」
その時、困ったような男性の声が聞こえて、わたしは思考を中断して顔を上げる。
少し離れたところにある温室の前で、ジョウロを片手に見覚えのあるひとりの男性がおろおろしていた。
フランス語教師であり、わたしたちのクラスの担任でもあるミエット先生だ。
彼の足元に、先程の白い猫がまとわり付いている。どうやら温室に入りたいようだが、猫のせいでそれができずにいるらしい。
わたしはそっと近づくと、素早く手を伸ばして猫を抱き上げる。
「今のうちにどうぞ」
そう告げると、先生はほっとしたように
「ああ、ユーリ、助かったよ」
と言って、温室の中へ入っていった。
ドアが完全に閉まったのを確認して、猫を地面に降ろす。
猫は暫くドアの前をうろうろしていたが、そうしていても開かないと理解したのか、わたしの顔を見上げた後、鳴き声も上げずにどこかへ走って行ってしまった。
温室の中へ入ると、大小さまざまな草や木が生い茂っていた。あるところはちょっとした林のようだし、また別のところは整然と並んだ花壇のようになっていた。
ガラス張りの建物内は日光が差し込んで暖かい。
ミエット先生は畑のようになっている一角で、ジョウロで植物に水を与えていた。
「もう、入ってきたら駄目だって……」
言いかけた先生が顔を上げたかと思うと、わたしの姿を見て目を丸くする。
「あ、ごめん。きみだったのか。ぼくはてっきり、さっきの猫が入ってきちゃったのかと思って……」
わたしの鈴の音でそう思ったに違いない。クルトも前に似たようなことを言っていた。
「さっきはありがとう。あの猫、よくここに入ろうとするんだよね。おかげで植物に水を遣るのにも一苦労だよ」
先生は苦笑しながら頭を掻く。前から思っていたけれど、なんだかふわふわしている人だ。砂のような色の柔らかそうな髪は、寝癖であちこち跳ねている。ネクタイも少し曲がっていたりして、あまり教師らしくない。彼がフランス出身である事と関係あるんだろうか?
もっとも、身だしなみに関しては、わたしも人の事は言えないのだが。
「この温室って、先生が管理してるんですか?」
尋ねると、先生は頷く。
「うん。まあ、一応ね。きみも植物に興味あるの?」
「ええと、ちょっとお聞きしたい事があったので……ここって、ハーブなんかも育ててたりします?」
「そうだね。何種類かあるよ」
「実は、わたしの【家族】の誕生日が近いんですが、彼にハーブティーをご馳走したいので、もしご迷惑じゃなければ、先生のおすすめのハーブを少し分けて欲しいんです」
イザークがハーブティーを好きだと言っていた事を思い出して、せめてプレゼントの代わりになれば、と思ったのだ。
先生は少し宙を見上げて考える様子を見せる。
「うーん、そうだなぁ……ミントにベルガモット、レモンバームなんかも良いかなぁ……ユーリはどんなのが好きなの?」
「ああ、いえ、わたしは、その……ハーブティーとかそういう類のものって、なんだか草みたいな味のお湯にしか思えなくて……」
「ははは、それはひどいなぁ。まあ、その認識でも間違ってはいないだろうけど。でも、そんな事言ったら紅茶だって同じようなものだと思うんだけどなぁ」
笑いながらも先生は首を捻る。
「でもユーリ、そういう事なら実際に自分で飲んでみたら? ここに生えているハーブを少しずつ持っていっていいからさ、それでハーブティーを作って試してみなよ。その中で気に入ったものがあればぼくに教えて。その時は【家族】のみんなで飲めるくらいの量を分けてあげる。確かにハーブティーにはちょっと癖のあるものも多いけど、きみが飲みやすいと思ったものなら、きっと他の人にとっても飲みやすいはずだよ」
「それ、すごくいい考えだと思います。さすが教師ともなると言う事が違いますね」
感心していると、先生は頭を掻く。
「それはありがとう。ともかく、このあたりに植えられているものは生のままハーブティーにしても大丈夫だから、適当に取っていって構わないよ」
そう言って、畑の一角を指し示す。
わたしはボウルを借りると、少しずつハーブを摘んでは、その中に投げ入れる。
これでイザークが喜んでくれるといいなあ。ハーブ選び、頑張ろう。
あのチョコレートケーキはちょっと微妙だったけれども……
まだ口の中にあの変な味が残っているような気がして、口直しにお菓子でも、と思ったが、買い置きの分が無くなっていたので売店に行こうと寮の外に出る。
明後日のパーティ、楽しみだな。そういえば何かプレゼントを用意したほうが良いだろうか? でも、街に行く暇は無いし。どうしよう。
考えながら歩いていると、不意に足元を何かが素早く横切ったので、つんのめって転びそうになってしまう。
びっくりした……
横切ったものを目で追うと、それは走っていく白い猫だった。ネズミ駆除の為に学校で飼育されているうちの一匹だ。その身体が跳ねるたびに、首輪に付けられた鈴が鳴る。
イザークの言っていた『子猫ちゃん』って、ああいう感じなんだろうか。確かにわたしも鈴を付けているけれども、それとマフラーだけで猫みたいと言われるのは、ちょっと納得できないような気もする。
「ああ、もう、駄目だよ。あっちへお行き」
その時、困ったような男性の声が聞こえて、わたしは思考を中断して顔を上げる。
少し離れたところにある温室の前で、ジョウロを片手に見覚えのあるひとりの男性がおろおろしていた。
フランス語教師であり、わたしたちのクラスの担任でもあるミエット先生だ。
彼の足元に、先程の白い猫がまとわり付いている。どうやら温室に入りたいようだが、猫のせいでそれができずにいるらしい。
わたしはそっと近づくと、素早く手を伸ばして猫を抱き上げる。
「今のうちにどうぞ」
そう告げると、先生はほっとしたように
「ああ、ユーリ、助かったよ」
と言って、温室の中へ入っていった。
ドアが完全に閉まったのを確認して、猫を地面に降ろす。
猫は暫くドアの前をうろうろしていたが、そうしていても開かないと理解したのか、わたしの顔を見上げた後、鳴き声も上げずにどこかへ走って行ってしまった。
温室の中へ入ると、大小さまざまな草や木が生い茂っていた。あるところはちょっとした林のようだし、また別のところは整然と並んだ花壇のようになっていた。
ガラス張りの建物内は日光が差し込んで暖かい。
ミエット先生は畑のようになっている一角で、ジョウロで植物に水を与えていた。
「もう、入ってきたら駄目だって……」
言いかけた先生が顔を上げたかと思うと、わたしの姿を見て目を丸くする。
「あ、ごめん。きみだったのか。ぼくはてっきり、さっきの猫が入ってきちゃったのかと思って……」
わたしの鈴の音でそう思ったに違いない。クルトも前に似たようなことを言っていた。
「さっきはありがとう。あの猫、よくここに入ろうとするんだよね。おかげで植物に水を遣るのにも一苦労だよ」
先生は苦笑しながら頭を掻く。前から思っていたけれど、なんだかふわふわしている人だ。砂のような色の柔らかそうな髪は、寝癖であちこち跳ねている。ネクタイも少し曲がっていたりして、あまり教師らしくない。彼がフランス出身である事と関係あるんだろうか?
もっとも、身だしなみに関しては、わたしも人の事は言えないのだが。
「この温室って、先生が管理してるんですか?」
尋ねると、先生は頷く。
「うん。まあ、一応ね。きみも植物に興味あるの?」
「ええと、ちょっとお聞きしたい事があったので……ここって、ハーブなんかも育ててたりします?」
「そうだね。何種類かあるよ」
「実は、わたしの【家族】の誕生日が近いんですが、彼にハーブティーをご馳走したいので、もしご迷惑じゃなければ、先生のおすすめのハーブを少し分けて欲しいんです」
イザークがハーブティーを好きだと言っていた事を思い出して、せめてプレゼントの代わりになれば、と思ったのだ。
先生は少し宙を見上げて考える様子を見せる。
「うーん、そうだなぁ……ミントにベルガモット、レモンバームなんかも良いかなぁ……ユーリはどんなのが好きなの?」
「ああ、いえ、わたしは、その……ハーブティーとかそういう類のものって、なんだか草みたいな味のお湯にしか思えなくて……」
「ははは、それはひどいなぁ。まあ、その認識でも間違ってはいないだろうけど。でも、そんな事言ったら紅茶だって同じようなものだと思うんだけどなぁ」
笑いながらも先生は首を捻る。
「でもユーリ、そういう事なら実際に自分で飲んでみたら? ここに生えているハーブを少しずつ持っていっていいからさ、それでハーブティーを作って試してみなよ。その中で気に入ったものがあればぼくに教えて。その時は【家族】のみんなで飲めるくらいの量を分けてあげる。確かにハーブティーにはちょっと癖のあるものも多いけど、きみが飲みやすいと思ったものなら、きっと他の人にとっても飲みやすいはずだよ」
「それ、すごくいい考えだと思います。さすが教師ともなると言う事が違いますね」
感心していると、先生は頭を掻く。
「それはありがとう。ともかく、このあたりに植えられているものは生のままハーブティーにしても大丈夫だから、適当に取っていって構わないよ」
そう言って、畑の一角を指し示す。
わたしはボウルを借りると、少しずつハーブを摘んでは、その中に投げ入れる。
これでイザークが喜んでくれるといいなあ。ハーブ選び、頑張ろう。
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