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ちん道中
おまけ
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チリリ。
七輪の上で、こんがりと焼けていく油揚げ。
狐族の男は、星空を見上げ、こうばしい香りを思い切り吸い込んだ。
「まずは香りで一杯ってね」
手酌で並々注いだ琥珀色の酒をぐいっと飲み干し、また注ぐ。
狐族の男は暗闇に向かって、杯をかかげた。
「はい、君もどう?」
暗闇からぬるりと伸びる橙の手。
杯を受け取るや否や、酒を捨てるように傾けた。
「ああ、もったいないなあ」
現れた虎族の男は尻尾を不機嫌に揺れ動かしながら
こんがり焼けた油揚げを呑気にひっくり返す狐の前に
一冊の薄っぺらい本を突きつけた。
「一体『コレ』は何だ」
「何ってさ、もお。わからない歳じゃないでしょ」
ぱしん。
乾いた音が響く。
虎族の男が鞭打つように尻尾を地面に叩きつけた。
「真剣に聞いてるんだ。
管理者でもないお前が通力を使用する意味。
理解していないとは言わせないぞ」
狐の男はわざとらしく肩をすくめて見せ胸ぐらを掴まれた。
「フーコ、一旦落ち着こう。ここは麦穂だ。
何かあればスミが飛んでくる。
それにボクが通力を使えないのは君が一番わかっているはずだ。
荷物を預けたりのうのうと子猫を送り込んで来たじゃない」
狐は胸ぐらを掴まれ立されて尚、飄々と両手をあげる
「しがない一般市民をいじめないでよ、管理者さん?」
納得いかないといった風に拳を振るわせながら納める虎に
狐は微笑みながら着物の襟を正す。
「そうそう。落ち着いてくれてありがとう。
対話っていうのは暴力を起こさないためにあるんだ。
さあ立ち話もなんでしょう、座って座って」
虎は置物のような丸い石椅子に渋々と座った。
狐は虎の持つ本を対岸からスルリとひったくる。
何も書かれていない真っ白な頁を
見せびらかすように開いた。
「この本は通力を流してようやく読めるよう
呪符が施されてるんだ。
こんな風にね」
虎に本を掴ませると、真っ白な頁に、じわりと絵や文字が浮かび上がる。
「現行犯だな」
「おっと、だから落ち着けって。
今の君はボクをいじめたくて仕方ないんだ。
心の乱れは気の乱れ。
溢れた力に本が見事に反応したんだ」
「言っとくけど作っちゃないよ?
ボクが全く通力を使えないっていうのを知ってる連中から
本当に見れないのか確認のため送られてくるんだよね。
ほら、ボクって一応の呪符の権威だったから。
これに関しては嘘はつけないし、処分もちゃんとするし。
都合がいいんだろうね。
けどね、見れなくとも作品をただ処分するのは心が痛むんだ。
君の寄越した子猫は見れたようだから、あげちゃった」
「……。あの子に通力は扱えない」
カカカ、狐は喉の奥で笑う。
「そう思いたいくせに、わざわざボクに会いに来たんだ。
安心しなよ。
過保護な君のようなやつのために
流す通力が足りないと、途中からでも見れない仕掛けになってるから。
好奇心旺盛のチビッコにちょっとしたお灸。
急所に一発。
電撃のような衝撃による気絶で強制退場だ。
ボク的にソッチが癖になったらどうするんだって思うけど。クカカ」
無言で睨みつける虎に、狐は残念そうにため息をついてみせる。
虎はゆっくり立ち上がる。
突如、赤く染まった七輪の網を素手で掴みあげ、
炎の中に本を突っ込んだ。
「は?はあ!?何してんの!」
取り乱す狐から仕上げとばかりに酒をひったくり、炎に投げ入れる。
パン、と破裂音と共に燃え盛る紫の炎。
「うわっうわわあ!!!」
狐は慌てて袂から薬草を取り出し炎に投げ込む。
石を拾い上げ地面にガリガリと文字を書き始めた。
「私はまじないに関して全くの門外漢なんだ。
処理は頼んだよ。ジウくん」
「あほ!あほ!あほ!」
狐は吐き捨てながらも文字を書き連ねていく。
「最後に1つ質問いいかな」
「いま!?状況みろよ!」
「君のいう『連中』って、一体何者なんだい?」
「あああ、もう!ロンくんとこの!」
虎は尚も話しかける。
「教えてくれてありがとう。さっきはお酒台無しにしてごめんね。
今度は私が持ってくるからゆっくり飲もう」
「きがちるからあっちいってよおっ」
半泣きの狐を見納めて、虎は闇夜に消えた。
炎をようやく消し止め、狐は肩で息をする。
ふと、焦げとは別の、香ばしい匂いが漂ってきた。
石椅子に置かれた網の上に、こんがり焼けた油揚げ。
「うええ……変な気遣い」
しばらく眺めた後
「油揚げに罪はない」
平らげた。
七輪の上で、こんがりと焼けていく油揚げ。
狐族の男は、星空を見上げ、こうばしい香りを思い切り吸い込んだ。
「まずは香りで一杯ってね」
手酌で並々注いだ琥珀色の酒をぐいっと飲み干し、また注ぐ。
狐族の男は暗闇に向かって、杯をかかげた。
「はい、君もどう?」
暗闇からぬるりと伸びる橙の手。
杯を受け取るや否や、酒を捨てるように傾けた。
「ああ、もったいないなあ」
現れた虎族の男は尻尾を不機嫌に揺れ動かしながら
こんがり焼けた油揚げを呑気にひっくり返す狐の前に
一冊の薄っぺらい本を突きつけた。
「一体『コレ』は何だ」
「何ってさ、もお。わからない歳じゃないでしょ」
ぱしん。
乾いた音が響く。
虎族の男が鞭打つように尻尾を地面に叩きつけた。
「真剣に聞いてるんだ。
管理者でもないお前が通力を使用する意味。
理解していないとは言わせないぞ」
狐の男はわざとらしく肩をすくめて見せ胸ぐらを掴まれた。
「フーコ、一旦落ち着こう。ここは麦穂だ。
何かあればスミが飛んでくる。
それにボクが通力を使えないのは君が一番わかっているはずだ。
荷物を預けたりのうのうと子猫を送り込んで来たじゃない」
狐は胸ぐらを掴まれ立されて尚、飄々と両手をあげる
「しがない一般市民をいじめないでよ、管理者さん?」
納得いかないといった風に拳を振るわせながら納める虎に
狐は微笑みながら着物の襟を正す。
「そうそう。落ち着いてくれてありがとう。
対話っていうのは暴力を起こさないためにあるんだ。
さあ立ち話もなんでしょう、座って座って」
虎は置物のような丸い石椅子に渋々と座った。
狐は虎の持つ本を対岸からスルリとひったくる。
何も書かれていない真っ白な頁を
見せびらかすように開いた。
「この本は通力を流してようやく読めるよう
呪符が施されてるんだ。
こんな風にね」
虎に本を掴ませると、真っ白な頁に、じわりと絵や文字が浮かび上がる。
「現行犯だな」
「おっと、だから落ち着けって。
今の君はボクをいじめたくて仕方ないんだ。
心の乱れは気の乱れ。
溢れた力に本が見事に反応したんだ」
「言っとくけど作っちゃないよ?
ボクが全く通力を使えないっていうのを知ってる連中から
本当に見れないのか確認のため送られてくるんだよね。
ほら、ボクって一応の呪符の権威だったから。
これに関しては嘘はつけないし、処分もちゃんとするし。
都合がいいんだろうね。
けどね、見れなくとも作品をただ処分するのは心が痛むんだ。
君の寄越した子猫は見れたようだから、あげちゃった」
「……。あの子に通力は扱えない」
カカカ、狐は喉の奥で笑う。
「そう思いたいくせに、わざわざボクに会いに来たんだ。
安心しなよ。
過保護な君のようなやつのために
流す通力が足りないと、途中からでも見れない仕掛けになってるから。
好奇心旺盛のチビッコにちょっとしたお灸。
急所に一発。
電撃のような衝撃による気絶で強制退場だ。
ボク的にソッチが癖になったらどうするんだって思うけど。クカカ」
無言で睨みつける虎に、狐は残念そうにため息をついてみせる。
虎はゆっくり立ち上がる。
突如、赤く染まった七輪の網を素手で掴みあげ、
炎の中に本を突っ込んだ。
「は?はあ!?何してんの!」
取り乱す狐から仕上げとばかりに酒をひったくり、炎に投げ入れる。
パン、と破裂音と共に燃え盛る紫の炎。
「うわっうわわあ!!!」
狐は慌てて袂から薬草を取り出し炎に投げ込む。
石を拾い上げ地面にガリガリと文字を書き始めた。
「私はまじないに関して全くの門外漢なんだ。
処理は頼んだよ。ジウくん」
「あほ!あほ!あほ!」
狐は吐き捨てながらも文字を書き連ねていく。
「最後に1つ質問いいかな」
「いま!?状況みろよ!」
「君のいう『連中』って、一体何者なんだい?」
「あああ、もう!ロンくんとこの!」
虎は尚も話しかける。
「教えてくれてありがとう。さっきはお酒台無しにしてごめんね。
今度は私が持ってくるからゆっくり飲もう」
「きがちるからあっちいってよおっ」
半泣きの狐を見納めて、虎は闇夜に消えた。
炎をようやく消し止め、狐は肩で息をする。
ふと、焦げとは別の、香ばしい匂いが漂ってきた。
石椅子に置かれた網の上に、こんがり焼けた油揚げ。
「うええ……変な気遣い」
しばらく眺めた後
「油揚げに罪はない」
平らげた。
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