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女二人
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「おいっ! お前また、何考えとんねん」
さっきよりは元気な声で、俺を罵倒しようとするミー。
「さやに止められたよ。他の方法を考えよう」
「あいつだけちゃうで! あたしも……」
「はいはい、だから断念したって言ってるだろー」
俺は、できるだけ投げやりに聞こえるように反応してやった。
俺たちはゼウスの通信を解除し、とりあえずきちんと休養を取ることにした。
ミーは傷の回復に努めなければならないし、というか、声を聞く限り、なんかもう少しずつ元気になってきている気がするのが末恐ろしいことではあるが、しばらくはまだ休まなければならないだろう。
さやは飲み物を買ってくると言って病室を出ていった。
俺は、青空が見える窓を見つめる。
無理をして吐いてしまわないように気をつけながら慎重に立ち上がり、病室から廊下をのぞく。
自販機と逆側のエレベーターを使わなければなるまい。しかし廊下は長いから、飲み物を買い終えたさやに発見されないように、この廊下を素早く抜けなければ……
息を切らせながら廊下の端にたどり着き、振り返って逆側の突き当たりに目をやるも、さやの姿は見えなかった。
俺はエレベーターに乗り、一階を目指す。
ポーン、と音が鳴り、人の多い一階エントランスホールに出た。
勝った! と思って意気揚々と病院の正面玄関へ顔を向けると……
そこには、腕を組んで、目を細めるさやがいた。
「えっ」
「バカ」
俺は首根っこを掴まれる。
「ちょっ、……なんで?」
「悔しいけど、さすがミーちゃんだね。こうするに決まってるから、だって」
「……アノヤロウ」
ミーに裏をかかれるとは。そもそも本来的にはあいつの方が頭はいいので、当然と言えば当然の結果かもしれない。あいつには死んでも言わないがバカは俺なのだ。
何度もため息をつく俺を、さやはテキパキと病室まで連れ戻し、ベッドの上にコロンと転がし……
上から俺に抱きつくようにして、ギュッとしながら言う。
「全然、言うこと聞かないんだね……」
「あ、いや、その」
俺の頬に触れるさやの髪の匂いと感触に、目を白黒させながら言い訳を考えていると……
さやは、俺の股間に優しくスッと手をやる。俺の心臓は、突然の痴漢行為に破裂しそうになったが、
「一つだけ、潰そうかな」
「すいませんでした」
スウっと寒気がして、震えが止まらない俺の身体。
さやは、ふうっ、と息を吐き、
「ミーちゃんと、三人で話そ」
「?」
謎の提案を受けて、俺は、ミーとさやの三人で開催するゼウス会談への参加を強制させられる。仕方がないので、ゼウスを使った三者同時通話を俺はノアに指示した。
通話開始早々、俺の逃亡未遂の件をさやから聞かされたミーは、
「やっぱな。バカの考えることはすぐわかるわ」
と。それを受けて、
「そんでさ。このバカ、どうする?」
ベッドに頬杖をついて俺の頭を優しく撫でるさや。可憐な唇から発せられた俺をけなす言葉は、胸に突き刺さるようでいて、俺のいいところをクイクイと刺激する。当初、結構ぶりっ子な方向性で男の気をくすぐる感じだったが、今や全く別方向で俺の心をくすぐりまくっている。
「なあ、ネム。やめてって、お願いしてるのに」
声を荒げることなく柔らかい口調で言うミー。
俺は、真横にいるさやから目をそらし、天井へ目を向ける。
ここらで俺は、本心をきっちり二人に説明しておかなければならないと思った。
「俺は、戦う時はいつも敵と直接対峙していないだろ。正面切って戦うのは、いつも中原や、ミーや、さやだ。俺だって、一緒に戦わないと」
「戦っとるやん、ずっと。あたしらに、指示を……」
「そうじゃなくて」
俺は、少しだけ力が入ってしまった声を、意図的に柔らかくしようと努力した。
「お前らが負うリスクに比べて、俺のは微々たるもんだよ。このくらい、どうってことない」
「……でも、何錠も飲んだら、絶対に死んじゃう」
俺だって死にたくなんてない。でも、この二人が死ぬかもしれない状況になったら、きっと俺は飲んでしまう。
自分でもよくわからない複雑な心境になってしまったので、ちょっと意地悪に、こう言ってやった。
「ミーも、さやも、中原も、誰かがピンチになったら、俺は使うよ。だから……ピンチになんないでね」
「ったり前やろっ! 余裕や、なるわけあらへん!」
と威勢よく叫んだミーのあとに、「バカが二人」とボソッと呟くさやの声。それを聞いて「なんやて?」とケンカ腰のミー。
「そやけどな、まゆちゃんにコンタクト取られへんかっても、作戦なんか、必要ないんちゃうか。突っ込んで暴れ回ったらええねん、そんなもん」
「あのな。さっきの俺の話、聞いてた? それでお前、失敗したとこだろ。リリスの時はうまくいったかもしれんけどな、それはお前の能力が敵にバレてなかったからだよ。いい加減、学習しろ」
「何度も薬を飲もうとするお前に言われたない」
俺はムッとしてしまったが、ミーの反論ももっともだ。何度もヒュプノスで倒れてりゃ世話はない。
だが、俺もこいつにだけは言われたくない。なので、
「うるせ、バカ」
「アホ」
「バカ」
「アホっ」
と、無益であるとわかりつつも、このような応酬を展開した。
「でもな。そんなら、どうするんにゃ?」
不意に謎の猫語を使うミー。
とりあえず俺はそれをフル無視して、
「あいつに、案内させようぜ」
「あいつ?」
「そう。ミーとさやを、酷い目に合わせた、あいつだよ」
「あーっ、あいつか!」
と、中原を除いた三人は、全会一致した。
この結論に至る過程に中原は参加していなかったが、中原には問答無用で方針だけが通知された。
中原は、なんの異論もなくそれに喜んで従う。なぜなら、ミーがそれを伝達したからだった。
◾️ ◾️ ◾️
あまり時間がないのはわかっているが、ミーが回復するまでは待たなければならない。
弾丸が心臓をかすめた人間がどのくらいで戦線復帰できるものか、俺は全く見当がつかなかったが、ミーは、俺たちの作戦方針が決まった翌日には立って動けるようになった。
こいつは、病室に集まった俺たちの前で、
「さあ、行くでっ!」
ベッドから威勢よく立ち上がって腰に手をやる。が、息が上がって、笑顔もぎこちない。
「そんな状態で行けるわけないだろアホ。ちゃんと考えろ」
「行けるに決まっとるやろ、お前と鍛え方がちゃうねんボケ」
勢いで俺に文句をつけてくる。
「ねえネム、前から疑問だったんだけど、なんでこんな口の悪い女とわたしを迷うわけ?」
ここ最近はさやもけっこう口は悪いが、どうやら自分で気付いていないらしい。
だが、俺は調子よく相槌を返す。
「そうだよね。もうわけわかんねえわ」
こういう言い方をするとミーがどうなるか、俺はよくわかっていた。
案の定、ミーはうつむいて、チラチラと上目遣いで俺を見ながら、
「……ごめん」
と小さい声で素直に謝る。
前から、ミーのこういう態度に弱い俺。なぜか胸が締め付けられて、そんな時いつも俺は、
「い、いや、気にしなくていいんだけどよ」
と謎のフォローに走り。
さやからは「はあ?」という目で睨まれる。
さやはミーの態度が気に入らなかったようで、チクリとミーに釘を刺した。
「ねえ。あなた、普段から威勢良く暴言吐いてるけど、最後はネムが許してくれると思って言ってんでしょ? やめなよ、そういうの」
すると、ミーも顔色を変えて、さやを真正面に見据えて言い返す。
「言いたいこと言うんは仲間内では当然やろ。悪いことをしたらしたで、素直に謝るんが当たり前やと思うけどなぁ。素直じゃない人間にはできへんか」
「あなたの考え方に振り回される周りの方が迷惑だって言ってんの。許してもらう前提で言ってんでしょ、あなたのは」
「考え方なんて人それぞれや。その結果迷惑かけたら、謝って許してもらうこともあるやろ。だいたい、それを言うんやったら、今回のことも、さやのことでどんだけ振り回されたと思ってる? あたしは、お前みたいなすました奴のことは認めん」
俺は、さすがに少し言い過ぎだと思った。
「おい、そこまで……」
言いかけた俺を手で制止し、フッと笑ってさやが言う。
「認めなかったら、どうするの」
さやは、真紅に輝く美しい瞳でミーを見下す。
ミーもまた、紅蓮に光る力強い瞳でさやを下から睨め上げた。
「この場で、ブチのめしたるわ。表出ろ」
「できるものならやってみなよ」
え? え?
という俺の戸惑いをよそに、二人はさっさと病室を出ていった。
さっきよりは元気な声で、俺を罵倒しようとするミー。
「さやに止められたよ。他の方法を考えよう」
「あいつだけちゃうで! あたしも……」
「はいはい、だから断念したって言ってるだろー」
俺は、できるだけ投げやりに聞こえるように反応してやった。
俺たちはゼウスの通信を解除し、とりあえずきちんと休養を取ることにした。
ミーは傷の回復に努めなければならないし、というか、声を聞く限り、なんかもう少しずつ元気になってきている気がするのが末恐ろしいことではあるが、しばらくはまだ休まなければならないだろう。
さやは飲み物を買ってくると言って病室を出ていった。
俺は、青空が見える窓を見つめる。
無理をして吐いてしまわないように気をつけながら慎重に立ち上がり、病室から廊下をのぞく。
自販機と逆側のエレベーターを使わなければなるまい。しかし廊下は長いから、飲み物を買い終えたさやに発見されないように、この廊下を素早く抜けなければ……
息を切らせながら廊下の端にたどり着き、振り返って逆側の突き当たりに目をやるも、さやの姿は見えなかった。
俺はエレベーターに乗り、一階を目指す。
ポーン、と音が鳴り、人の多い一階エントランスホールに出た。
勝った! と思って意気揚々と病院の正面玄関へ顔を向けると……
そこには、腕を組んで、目を細めるさやがいた。
「えっ」
「バカ」
俺は首根っこを掴まれる。
「ちょっ、……なんで?」
「悔しいけど、さすがミーちゃんだね。こうするに決まってるから、だって」
「……アノヤロウ」
ミーに裏をかかれるとは。そもそも本来的にはあいつの方が頭はいいので、当然と言えば当然の結果かもしれない。あいつには死んでも言わないがバカは俺なのだ。
何度もため息をつく俺を、さやはテキパキと病室まで連れ戻し、ベッドの上にコロンと転がし……
上から俺に抱きつくようにして、ギュッとしながら言う。
「全然、言うこと聞かないんだね……」
「あ、いや、その」
俺の頬に触れるさやの髪の匂いと感触に、目を白黒させながら言い訳を考えていると……
さやは、俺の股間に優しくスッと手をやる。俺の心臓は、突然の痴漢行為に破裂しそうになったが、
「一つだけ、潰そうかな」
「すいませんでした」
スウっと寒気がして、震えが止まらない俺の身体。
さやは、ふうっ、と息を吐き、
「ミーちゃんと、三人で話そ」
「?」
謎の提案を受けて、俺は、ミーとさやの三人で開催するゼウス会談への参加を強制させられる。仕方がないので、ゼウスを使った三者同時通話を俺はノアに指示した。
通話開始早々、俺の逃亡未遂の件をさやから聞かされたミーは、
「やっぱな。バカの考えることはすぐわかるわ」
と。それを受けて、
「そんでさ。このバカ、どうする?」
ベッドに頬杖をついて俺の頭を優しく撫でるさや。可憐な唇から発せられた俺をけなす言葉は、胸に突き刺さるようでいて、俺のいいところをクイクイと刺激する。当初、結構ぶりっ子な方向性で男の気をくすぐる感じだったが、今や全く別方向で俺の心をくすぐりまくっている。
「なあ、ネム。やめてって、お願いしてるのに」
声を荒げることなく柔らかい口調で言うミー。
俺は、真横にいるさやから目をそらし、天井へ目を向ける。
ここらで俺は、本心をきっちり二人に説明しておかなければならないと思った。
「俺は、戦う時はいつも敵と直接対峙していないだろ。正面切って戦うのは、いつも中原や、ミーや、さやだ。俺だって、一緒に戦わないと」
「戦っとるやん、ずっと。あたしらに、指示を……」
「そうじゃなくて」
俺は、少しだけ力が入ってしまった声を、意図的に柔らかくしようと努力した。
「お前らが負うリスクに比べて、俺のは微々たるもんだよ。このくらい、どうってことない」
「……でも、何錠も飲んだら、絶対に死んじゃう」
俺だって死にたくなんてない。でも、この二人が死ぬかもしれない状況になったら、きっと俺は飲んでしまう。
自分でもよくわからない複雑な心境になってしまったので、ちょっと意地悪に、こう言ってやった。
「ミーも、さやも、中原も、誰かがピンチになったら、俺は使うよ。だから……ピンチになんないでね」
「ったり前やろっ! 余裕や、なるわけあらへん!」
と威勢よく叫んだミーのあとに、「バカが二人」とボソッと呟くさやの声。それを聞いて「なんやて?」とケンカ腰のミー。
「そやけどな、まゆちゃんにコンタクト取られへんかっても、作戦なんか、必要ないんちゃうか。突っ込んで暴れ回ったらええねん、そんなもん」
「あのな。さっきの俺の話、聞いてた? それでお前、失敗したとこだろ。リリスの時はうまくいったかもしれんけどな、それはお前の能力が敵にバレてなかったからだよ。いい加減、学習しろ」
「何度も薬を飲もうとするお前に言われたない」
俺はムッとしてしまったが、ミーの反論ももっともだ。何度もヒュプノスで倒れてりゃ世話はない。
だが、俺もこいつにだけは言われたくない。なので、
「うるせ、バカ」
「アホ」
「バカ」
「アホっ」
と、無益であるとわかりつつも、このような応酬を展開した。
「でもな。そんなら、どうするんにゃ?」
不意に謎の猫語を使うミー。
とりあえず俺はそれをフル無視して、
「あいつに、案内させようぜ」
「あいつ?」
「そう。ミーとさやを、酷い目に合わせた、あいつだよ」
「あーっ、あいつか!」
と、中原を除いた三人は、全会一致した。
この結論に至る過程に中原は参加していなかったが、中原には問答無用で方針だけが通知された。
中原は、なんの異論もなくそれに喜んで従う。なぜなら、ミーがそれを伝達したからだった。
◾️ ◾️ ◾️
あまり時間がないのはわかっているが、ミーが回復するまでは待たなければならない。
弾丸が心臓をかすめた人間がどのくらいで戦線復帰できるものか、俺は全く見当がつかなかったが、ミーは、俺たちの作戦方針が決まった翌日には立って動けるようになった。
こいつは、病室に集まった俺たちの前で、
「さあ、行くでっ!」
ベッドから威勢よく立ち上がって腰に手をやる。が、息が上がって、笑顔もぎこちない。
「そんな状態で行けるわけないだろアホ。ちゃんと考えろ」
「行けるに決まっとるやろ、お前と鍛え方がちゃうねんボケ」
勢いで俺に文句をつけてくる。
「ねえネム、前から疑問だったんだけど、なんでこんな口の悪い女とわたしを迷うわけ?」
ここ最近はさやもけっこう口は悪いが、どうやら自分で気付いていないらしい。
だが、俺は調子よく相槌を返す。
「そうだよね。もうわけわかんねえわ」
こういう言い方をするとミーがどうなるか、俺はよくわかっていた。
案の定、ミーはうつむいて、チラチラと上目遣いで俺を見ながら、
「……ごめん」
と小さい声で素直に謝る。
前から、ミーのこういう態度に弱い俺。なぜか胸が締め付けられて、そんな時いつも俺は、
「い、いや、気にしなくていいんだけどよ」
と謎のフォローに走り。
さやからは「はあ?」という目で睨まれる。
さやはミーの態度が気に入らなかったようで、チクリとミーに釘を刺した。
「ねえ。あなた、普段から威勢良く暴言吐いてるけど、最後はネムが許してくれると思って言ってんでしょ? やめなよ、そういうの」
すると、ミーも顔色を変えて、さやを真正面に見据えて言い返す。
「言いたいこと言うんは仲間内では当然やろ。悪いことをしたらしたで、素直に謝るんが当たり前やと思うけどなぁ。素直じゃない人間にはできへんか」
「あなたの考え方に振り回される周りの方が迷惑だって言ってんの。許してもらう前提で言ってんでしょ、あなたのは」
「考え方なんて人それぞれや。その結果迷惑かけたら、謝って許してもらうこともあるやろ。だいたい、それを言うんやったら、今回のことも、さやのことでどんだけ振り回されたと思ってる? あたしは、お前みたいなすました奴のことは認めん」
俺は、さすがに少し言い過ぎだと思った。
「おい、そこまで……」
言いかけた俺を手で制止し、フッと笑ってさやが言う。
「認めなかったら、どうするの」
さやは、真紅に輝く美しい瞳でミーを見下す。
ミーもまた、紅蓮に光る力強い瞳でさやを下から睨め上げた。
「この場で、ブチのめしたるわ。表出ろ」
「できるものならやってみなよ」
え? え?
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