眠神/ネムガミ 〜 特殊能力の発動要件は「眠ること」。ひたすら睡眠薬をあおって敵を撃破し、大好きな女の子たちを護り抜け!

翔龍LOVER

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最終ミーティング

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「ネム。こいつ、殺すよ」

 さやは、石化されるのを防ぐため、リョウマに対して九〇度の方向を向いて目を合わせないようにしたまま、光球を手のひらの上に具現化させる。エネルギーの凝縮する音が、ピピピピピ、と病室内で静かに響いた。
 同じくリョウマに対して九〇度の方向を向き、さやと向かい合っているミーの視界に映り込んださやの瞳には、冗談でなく明確な殺意が見てとれた。
 
 俺は「ダメだ」と言おうとした。
 が、その前にリョウマが口で反撃する。

「殺せよ。お前らに、俺たちは倒せない」

 さっきまでビビっていたのは演技だったのだろうか。
 まるで家のリビングでコーヒーでも飲みながら家族と会話でもするかのように、リョウマの言葉には一切の動揺が感じられない。
 
 中原の視界に映るリョウマがメガネをとる動作をしようとして、俺は反射的に命令していた。

「中原! 奴の目を、見るな!」

 俺の意識の中にある、三人の視界映像スクリーンの全てにリョウマが映らなくなったのを確認し、俺はとりあえずホッと一息つく。

「さや、聞いてくれ。リョウマはまた目隠しをさせて、警察に任せよう。俺たちは、準備をしないといけない」

 さやの視界映像スクリーンが真っ暗になる。
 数秒かの時を置いてすぐに光を取り戻し、続いて、落胆したような調子の声で言葉が述べられる。

「ええ。わかった」

 さやの視界に映るミーの顔は、承知していなさそうだった。
 ミーは、細めた目の奥に光る赤眼をさやへと向けながら、リョウマへ言葉を向ける。

「なあ。お前、ギガント・アーマーに戻るんやろ?」
「……なんでそう思う?」
「もっと自分勝手な奴やと思っとったんやけどな。そうじゃなかったんかな、と思ってな。そういうとこは嫌いやないわ。だから、」

 リョウマから目をそらすためにさやと向かい合っていたはずの視線。
 凶悪に光らせた紅蓮の瞳で、さやを睨みつけて、言った。

「前にも言ったな。あたしはコンマ一秒あれば、お前の首を落とせる。次は、ギガント・アーマーでお前の顔を見た瞬間、や」

 キキキ、と癇に障る笑い声で、俺たちの神経を逆撫でするリョウマ。

「歓迎するぜ。こんな面白いこと、楽しみで堪んないわ」

 グエッ、と呻き声が聞こえた。

 仲間たちの視界の端に、倒れ込んだ男性看護師が映る。
 リョウマは間髪入れずに、流れるように病室を出ようと動き出す。

「あいつ! ……」
「追うな!」

 俺は叫ぶ。全員が、ピタっ、と止まった。
 リョウマは、もう病室を出てしまっていた。外から警官の呻き声も聞こえてくる。

「なんでや? ここで奴を倒しとかんと……」
「ああ。でも、ダメだ」

 俺は、うまく説明できなかった。
 
 一般人もいるこの病院内で、リョウマと本腰を入れて戦うなら、被害が出る前に迷うことなく確実に殺す覚悟が必要だと思った。

 ここまで戦ってきて、俺自身、戦いの時には敵を「殺してやる」とか散々言ってきた。
 だが、さやが「殺す」と言ったとき、さやとミーと中原に、人殺しを命じる覚悟は、まだ明確にはできていないことに気付いたのだ。
 
「ねえ、ネム。わたしだって殺したくはない。あんな奴らが結果的に死ぬことになったって、それ自体についてわたしは何とも思わないけど、実際にこの手で人を殺すシーンをリアルに想像したら、やっぱり怖い。でも、きっと、もうしょうがないよ。キレイ事で片付けるのはムリだと思う。だって奴らは、本気で殺しに来るんだよ?」

 さやの言っていることは、すごく良くわかる。
 だから俺は、こう言った。

「なら、せめてトドメは俺にやらせてくれ」
「ダメ」
「どうして?」
「自分が全部背負おうなんて、カッコつけなくていい」
「そんなつもりじゃ……」

 ミーが、俺の言葉を遮った。

「そうやで。いけすかん、男タラシのさやが言うから同意し難いところやけど、全くその通りや。敵は容赦なく殺しにくる。負担は分担。各自、受け持った敵は一人一殺、義務やで」

 殺人罪を、みんなで受け入れる、っていうのか。

「後悔しないのか?」

 俺は、結局、その決断の責任を、こいつらに押し付けているだけだ、と思った。「みんな自分で決めたんだ」と。
 そんな俺を見つめながら、ミーは言う。

「何もせずに殺されるより、誰かを護って死にたい。その結果として敵を殺すなら、後悔しない、あたしは」

 すると、さやは、

「人のことを散々男タラシだなんだと言うくせに、自分は抜け駆けしてネムとキスしようとする本当のアバズレの言うことなんてめちゃくちゃ同意し難いけど、まっっったくその通りだよ」

 眉間のシワがグチャグチャになり、互いに至近距離でメンチを切り合うオトナ女子二人。

「センパイ。波動のときのこと、覚えてます?」

 中原。こいつは一番最初から、俺と一緒に戦ってきた。
 こいつの意見なら、俺は素直に聞ける気がした。

「ああ」
「お任せします。全部」
「おい。丸投げかよ。ここでそれ言う?」
「いやっ! そっ、そうじゃなくてっ」

 汗汗する中原。

「きっと、ギガント・アーマーでは、今想像しているよりキツイことが起こる気がします。だから、その場その場で決断しなければならなくなるっすよ。その時のことですよ」

 中原の視線が、さやとミーを捉える。

「お任せします。俺たちの命も、全部。重いっしょ? センパイは、もともと重いものを背負ってるんですよ」

 さやとミーは、中原の目を見て、口元を緩めた。

 何で俺みたいなバカに、全部預けるんだよ……。
 お前は、最初っからそうだったな。

 もっと頭が良くなりたい。
 全てを見通して、こいつらを、安全に、そして人殺しにせずに、勝たせてやりたい。 
 でも、俺には無理なんだ。きっとしんどいことになる。
 それでも、いいってのか?
 
「なに黙ってんねん隊長。しっかりせんかい」
「そうだよ。わたしたちの命、預ける、って言ってんの」

 バカで、仕事ができなくて、女の子にもモテなくて。
 ずっと、何かを手に入れたいとばかり願ってきた。
 
 その願いは、段階を踏んで、一つずつ叶えてきている。

 大切なものが、一つずつ、増えて。
 それにつれて、幸せも、一つずつ、増えて。

 でも、失くす怖さは、幸せが増えるぶんの二乗で肥大していく。
 最悪の場合は、ミーも、さやも、中原も死ぬことになる。
 
 俺は、俺の意識の中にいるノアとルナへ目を向ける。

 まだ助言が必要か? という目で俺を見る二人。
 こいつらなら、今の俺になんて言うだろうか。
 

 俺の真の力は、システム管理者さえも、ねじ伏せる。


 そう。そう言うに決まってる。「思いの強さ」が、そのまま俺の力となるんだ。
 俺が「護りたい」と強く願うなら。
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