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刺繍の紋章
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***ミラ
思いもしない状況に、思わず唾を飲み込んだ。
「追い出すって、何だよっ。クレアはそんな娘じゃないって、分かってるだろっ。」
何、何?何の話?クレアさんは泣いてるし・・
「うぅっ、おばさん・・、私、本当にそんなつもりじゃ、ただ、」
え?え?、お母さんのさっきの怒鳴り声って、クレアさんに向けて!?
「何しとる、入らないのか?」
「ぎゃっ」「ひっっ」
聞き耳を立てていたら、突然肩に手が乗った。思わず跳び跳ねると、屈んでいたアリーさんも跳び跳ねた。
「な、なんだ、お父さんか。」
「なんだとは、なんだ。」
振り向くと、お父さんで、チビ達も何事かと、こっちを見ている。
「へへへ。」
前を向くと、今度は部屋の中の3人が、こっちを見ていた。
「へへへ。た、ただいま。」
き、気まずい。
頭を掻きながら、同じ思いをしているだろうアリーさんを見ると・・あ、あれ~?いつの間にアリーさんは、しゃんと背を伸ばし、普段の堂々とした態度でそこに立っていた。
「お取り込み中ごめんなさい。でも、もう入ってもいいかしら?」
さっき、私と一緒に跳び跳ねたのに。動揺した様子もなくて呆気に取られた。
「あ、ああ、すまないね。変なとこ見せちまって。」
おどおどしているのは、どうしてだろう?お母さん、どうしたんだろう?
「変なとこって、なんだよ、元はと言えば、アリーさんが・・」
「ノアっっ!」
ジョン兄さんの言葉を、お母さんが遮った。
「・・・私が、何かしら?」
***アリー
陰でこそこそと言われるのだって腹が立つのに、目の前でこそこそされるとは。
ジョンはハッキリと「アリーさんが、」と言った。それは間違えようがないのに、マーサは答えずにその場を立ち去ろうとした。
「何でもないよ、さぁミラ、仕度を手伝っておくれ。」
「ぅえ?は、はーい。」
ミラも慌てて追いかける。
「待ってくださいっ。おばさん、どうしてですか?この際アリーさんにもっ」
クレアの言葉に振り向いたマーサの顔は、恐ろしく蒼白で、まるで何かに怯えているような感じがした。
そしてツカツカとクレアに詰めよったかと思った途端、
パァンッッッ!!
「え・・・?」
一瞬、部屋のみんなが固まった。クレアは頬を押さえてしゃがみこみ、ジョンが叫ぶ。
「母さんっっっ!!」
「マーサ、やり過ぎだ。少し部屋で落ち着きなさい。」
いつの間にベンがマーサの傍らにいて、そう言いながら肩を抱いて部屋に入って行った。
残されたのは、固まったままのカイとリオ、おろおろするミラ、泣きじゃくるクレア、怒って顔が赤くなっているジョン。
・・・・・・これは・・・、夕食どころじゃないわね。
「・・・はぁ。私、部屋へ戻るわね。」
そう言うと、何故だかジョンが私を睨み付けた。
「アリーさんも何か言うことないんですか?」
意味が分からない。首を傾げた。
「何を言えばいいのかしら?」
「クレアはっ、あなたの事を心配して、あなたの家族を探そうと。」
え・・・、家族?
夢の光景が浮かんだ。真っ黒な道、落ちた腕、広がる血溜まり。
「・・・それで、具体的に、何をしたの?」
声が、震えてしまいそう。
「行方不明者の届け出を見て来ました、当てはまるものは、ありませんでしたけど。」
「そう。で、私は何を言えばいいの?」
「なっ・・」
「刺繍をっ!」
クレアが顔を上げた。
「刺繍?」
「アリーさんが刺繍した、あの紋章を見てもらったんです。」
「あ・・れを?」
夢の中でお兄様がつけていた紋章。腕にだったか、胸にだったか、分からなかったのに、今、このタイミングで、はっきりと思い出した。血溜まりに転がる、腕についていた紋章だ。
「はいっ、そうしたら、あれは隣国の王家の物だって教えてもらえたんです。だから、アリーさんは隣国にいけばいいんですよ。きっと家族が探して・・」
「・・・黙って。黙りなさい。」
思わず声が出た。知らない情報が、恐い。
「お礼くらい、言えないのかっっ!?」
水の中にいるみたいに、ジョンが吠えるのが、遠くで聞こえる。
「でも私、そんな事を頼んだ覚えがないの。ねぇクレア、あなた、本当に私の為を思って?本当は、ノアと一緒になるのに私が邪魔だからなのではなくて?」
「そんなっ」
「夢を見るのもいいけれど、私を巻き込まないで頂戴ね。本当に疲れたから、戻るわ。」
部屋に戻るなり、籠をひっくり返した。あの時私はクレアから刺繍を取り返したはずだから、クレアが街に持っていったなんて、嘘かもしれない。
・・・・だけど。
「ない、ないわ・・・ない。」
何度探しても、ない。部屋中探しても、ない。いつ・・・、あぁ、じゃあ、クレアが言った事は、本当なのね。
身体中の力が抜けて、椅子にもたれ掛かった。
隣国って、どこ?王家の紋章って、何?私に家族?
そんなもの知りたくなかった。夢の中の恐怖が、夢の域を越えて、こちら側まで来てしまいそうで恐ろしい。
視界の中にある、丸々と膨れた木の実が、開けて、開けてと、私を呼んでいる気がして、物置部屋に置いてある鞄の中に、慌てて入れ込んだ。
思いもしない状況に、思わず唾を飲み込んだ。
「追い出すって、何だよっ。クレアはそんな娘じゃないって、分かってるだろっ。」
何、何?何の話?クレアさんは泣いてるし・・
「うぅっ、おばさん・・、私、本当にそんなつもりじゃ、ただ、」
え?え?、お母さんのさっきの怒鳴り声って、クレアさんに向けて!?
「何しとる、入らないのか?」
「ぎゃっ」「ひっっ」
聞き耳を立てていたら、突然肩に手が乗った。思わず跳び跳ねると、屈んでいたアリーさんも跳び跳ねた。
「な、なんだ、お父さんか。」
「なんだとは、なんだ。」
振り向くと、お父さんで、チビ達も何事かと、こっちを見ている。
「へへへ。」
前を向くと、今度は部屋の中の3人が、こっちを見ていた。
「へへへ。た、ただいま。」
き、気まずい。
頭を掻きながら、同じ思いをしているだろうアリーさんを見ると・・あ、あれ~?いつの間にアリーさんは、しゃんと背を伸ばし、普段の堂々とした態度でそこに立っていた。
「お取り込み中ごめんなさい。でも、もう入ってもいいかしら?」
さっき、私と一緒に跳び跳ねたのに。動揺した様子もなくて呆気に取られた。
「あ、ああ、すまないね。変なとこ見せちまって。」
おどおどしているのは、どうしてだろう?お母さん、どうしたんだろう?
「変なとこって、なんだよ、元はと言えば、アリーさんが・・」
「ノアっっ!」
ジョン兄さんの言葉を、お母さんが遮った。
「・・・私が、何かしら?」
***アリー
陰でこそこそと言われるのだって腹が立つのに、目の前でこそこそされるとは。
ジョンはハッキリと「アリーさんが、」と言った。それは間違えようがないのに、マーサは答えずにその場を立ち去ろうとした。
「何でもないよ、さぁミラ、仕度を手伝っておくれ。」
「ぅえ?は、はーい。」
ミラも慌てて追いかける。
「待ってくださいっ。おばさん、どうしてですか?この際アリーさんにもっ」
クレアの言葉に振り向いたマーサの顔は、恐ろしく蒼白で、まるで何かに怯えているような感じがした。
そしてツカツカとクレアに詰めよったかと思った途端、
パァンッッッ!!
「え・・・?」
一瞬、部屋のみんなが固まった。クレアは頬を押さえてしゃがみこみ、ジョンが叫ぶ。
「母さんっっっ!!」
「マーサ、やり過ぎだ。少し部屋で落ち着きなさい。」
いつの間にベンがマーサの傍らにいて、そう言いながら肩を抱いて部屋に入って行った。
残されたのは、固まったままのカイとリオ、おろおろするミラ、泣きじゃくるクレア、怒って顔が赤くなっているジョン。
・・・・・・これは・・・、夕食どころじゃないわね。
「・・・はぁ。私、部屋へ戻るわね。」
そう言うと、何故だかジョンが私を睨み付けた。
「アリーさんも何か言うことないんですか?」
意味が分からない。首を傾げた。
「何を言えばいいのかしら?」
「クレアはっ、あなたの事を心配して、あなたの家族を探そうと。」
え・・・、家族?
夢の光景が浮かんだ。真っ黒な道、落ちた腕、広がる血溜まり。
「・・・それで、具体的に、何をしたの?」
声が、震えてしまいそう。
「行方不明者の届け出を見て来ました、当てはまるものは、ありませんでしたけど。」
「そう。で、私は何を言えばいいの?」
「なっ・・」
「刺繍をっ!」
クレアが顔を上げた。
「刺繍?」
「アリーさんが刺繍した、あの紋章を見てもらったんです。」
「あ・・れを?」
夢の中でお兄様がつけていた紋章。腕にだったか、胸にだったか、分からなかったのに、今、このタイミングで、はっきりと思い出した。血溜まりに転がる、腕についていた紋章だ。
「はいっ、そうしたら、あれは隣国の王家の物だって教えてもらえたんです。だから、アリーさんは隣国にいけばいいんですよ。きっと家族が探して・・」
「・・・黙って。黙りなさい。」
思わず声が出た。知らない情報が、恐い。
「お礼くらい、言えないのかっっ!?」
水の中にいるみたいに、ジョンが吠えるのが、遠くで聞こえる。
「でも私、そんな事を頼んだ覚えがないの。ねぇクレア、あなた、本当に私の為を思って?本当は、ノアと一緒になるのに私が邪魔だからなのではなくて?」
「そんなっ」
「夢を見るのもいいけれど、私を巻き込まないで頂戴ね。本当に疲れたから、戻るわ。」
部屋に戻るなり、籠をひっくり返した。あの時私はクレアから刺繍を取り返したはずだから、クレアが街に持っていったなんて、嘘かもしれない。
・・・・だけど。
「ない、ないわ・・・ない。」
何度探しても、ない。部屋中探しても、ない。いつ・・・、あぁ、じゃあ、クレアが言った事は、本当なのね。
身体中の力が抜けて、椅子にもたれ掛かった。
隣国って、どこ?王家の紋章って、何?私に家族?
そんなもの知りたくなかった。夢の中の恐怖が、夢の域を越えて、こちら側まで来てしまいそうで恐ろしい。
視界の中にある、丸々と膨れた木の実が、開けて、開けてと、私を呼んでいる気がして、物置部屋に置いてある鞄の中に、慌てて入れ込んだ。
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