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クロヴィスの胸の内

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***アルロ


クロヴィス陛下は、冷酷なお方ではない。
ただ、国王であるだけなのだ。




―――とにかく真実が知りたい。アリアが儂を裏切るなど・・

隣国からの手紙に激昂されたクロヴィス陛下は、そう言ってお倒れになられた。

「裏切るなど・・」その言葉には、続きがあった。


**

「陛下、気が付かれましたか、具合はいかがでしょうか?」

ベッドへと運ばれた陛下は、しばらくして目を覚ました。

「・・・ああ、もう大丈夫だ。それよりアルロ、アリアの件だが、出来るだけ早く出発してくれ。」

真剣な眼差しに、姫様を危惧する様子が見てとれる。

「分かりました。必ず真実を見付け、姫様を連れ戻してまいります。」

「頼んだぞ。アリアが儂を裏切るはずがない。裏切るなど・・・あぁ、考えただけでも恐ろしい。」

クロヴィス陛下は顔を歪め、布団を握りしめた。それでも、聞いておかないといけない事がある。

「・・・念のため確認致します。陛下は、姫様が万が一、本当に裏切っていた場合どうなさいますか?」

「アルロ、儂は鬼に見えるか?」

「・・・」

鬼でない事は知っているが、鬼のように振る舞わないといけない事も知っていた。だから、聞いておくのだ。

「ディランの事は・・・ あれは、他にやりようがなかったのだ。儂は父である前に王である。たとえ我が子であろうとも、国と天秤にかける様な愚かな真似は出来んのだ。」

言いながら、とても悲しい顔をしておられた。隠しておられた本音を、言葉で聞くのは初めてだった。国王として、家族に情をかけ、国を揺るがしてはならない。陛下は、人知れず涙を流すことすら、いつも堪えておられた。

「では、今回もまた・・」

今回もまた、堪える道をお選びに。そう思っていたが、陛下の答えは違うものだった。

「アルロ、儂は、国とは天秤に掛けられないと言った。だから、今回の事について、お前に全てを任せたいと思う。お前が何を言おうと、何を言わずとも、信じよう。」

「それは、つまり・・?」

「何度も言わせるな。お前に任せる。」

「裏切られていた としてもですか?」

念のため、もう一度確認する。俺は間違いなく、姫様を庇うだろうから。

「・・・儂がそれの何を恐ろしがっているか、お前に分かるか?」

「・・・・いいえ。」

「儂のしてきた全てがアリアの為ではなかったと示される事が、一番の恐怖なのだよ。」

確認しようと聞いた事を、後悔した。こんなお姿を晒させたかった訳ではない。

「必ず、使命を果たしてまいります。」


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