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しおりを挟む**レイラ
「それを、見せてくれ。」
「かしこまりました。どうぞ。」
商人の女の人がピアスを持ち上げると細かい飾りが僅かに揺れ、しゃら、と音がした。
陛下がピアスを受け取り、私の手のひらに乗せてくれた。
「とても繊細だな。」
「ありがとうございます。つい最近入手したばかりの品でございます。」
「ほう、、誰が作ったのだ?」
「名前までは存じ上げませんが、年老いた男だと聞いております。」
「ふん、次に来るときは種類を増やしておけ。」
「はい、ありがとうございます。」
「レイラ、他に欲しい物は? なければ適当に見繕ってもらいなさい。」
陛下に話し掛けられた時、私は手のひらのピアスを見つめながらシンの事を考えていた。これがここにあるということは、シンが近くにいるんだ。
「レイラ、」
肩を軽く揺すられてはっとした。
「ひゃ、え?」
話を聞いていなかったので焦った。
「必要な物を選ぶか、見繕ってもらいなさい。」
「あ、は、はい。」
「こういったのは、いかがですか? よろしかったら一度、試着なさいませんか?」
愛想笑いを浮かべながら、試着を勧められたけど、もともと買うつもりも無かったので、困ってしまう。
「え? 試着? そこまでは、、」
「実際に着てみられた方が、レイラ様に合う物をお薦め、、」
「待て。」
急に言葉を遮って、陛下が口を出した。空気がピリピリとしている。
「え、、」
「どこで名前を聞いた? 」
「名前、、、? あっ、申し訳ありませんっ、店の者に聞きました。」
女の人がはっとして頭を下げた。
「勝手に名前を呼ぶな。」
「申し訳ありません。」
「試着はいい、適当に置いていけ。レイラは部屋に戻りなさい。」
「申し訳ありません。」
「、、、はい。」
女の人が何度も頭を下げる中、私はこれ以上陛下を刺激しないよう、そっと立ち上がった。
私の方こそ、何だか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
その時、突然ドアがノックされ、あたふたと陛下の側近のオーウェンさんが入ってきた。
「何だ、いきなり入ってくるな。」
慌てた様子のオーウェンさんは構わず口を開いた。
「それが、大変なことになっていまして、、」
急いで陛下に近付き、耳打ちすると、陛下が眉間に皺を寄せた。
「侍女と一緒に潰しておけばよかったか。」
ぼそっと呟いて立ち上がり、オーウェンさんと共にドアに向かう。去り際に、ちらりと私とジュリを見た。
「ジュリ、あとは頼む。、、と、ジュリ、お前も後で、何か選んでいい。」
「えっ!? あ、ありがとうございますっっ!!」
陛下の言葉にジュリが深くお辞儀した。
出て行ったドアの向こうから、「どうしてそうなった?おかしいだろう。」と、陛下がオーウェンさんに声を荒げているのが聞こえた。
私はよほど緊張していたみたいで陛下を見送った途端に一気に力が抜けた。
くたっとした私にジュリが、
「ふふ、お嬢様、お部屋に早く戻って下さい。」
と笑いながら急かしてくる。何か選んでいいと言われたのがよほど嬉しかった様で、ご機嫌だ。
「あら、私もジュリが選ぶのを見たいわ。」
はしゃぐ姿が、つい可愛くて、そう言ったけれど、
「ふふ。後でって言われたので、後にします。私が怒られますから、早くお部屋へどうぞ。」
と、あっさりかわされてしまった。
はたと、女の人と目があった。
「あの、レイ、、お嬢様、こ、こちらを是非見ていただきたいのです。」
おずおずとキレイな色のショールを持って近付いて来る。ジュリが制止しようと前に出たけど、私は何となく気になって、自分から女の人に近付いた。
「ジュリ、私、見てみたいの。お願い。」
女の人がほっとして、ショールを手渡してきた。ショールの下で、何か紙の様な物を握らされてドキッとした。一瞬目が合い、すぐに伏せられた。これは、、、?
「見て頂いてありがとうございます。お気に召したのなら、それは差し上げます。陛下も仰られていましたので、どうぞお部屋へ。後は私が見繕わせて頂きます。」
「、、、ええ、ありがとう、、」
部屋に入って手を開くと、握らされたのは手紙だった。手紙と一緒に何か入っている。
封筒を開けて逆さにすると、しゃら、とピアスが片方出てきた。私のだった。失くしたと思っていたピアスで、シンが作ってくれた物だ。
どきどきしながら畳まれた手紙を開くと、それはマイクからの手紙で、ピアスはここにくる前に外されたのをマイクが預かっていたということ、それからルーナが捕まって隣国へ行ったこと、隣国の優しい王子と結婚するだろうということ、ごめんねと言っていた事が書かれてあった。
まさかと思っていた事が現実になるなんて、、、。せめて 酷い扱いは受けていないことには安堵しつつも、どうかこの先も穏やかに暮らしていけますようにと祈る事しか出来なくて胸が押し潰された。
最後に、私を心配し気遣う言葉が書かれてあって、ほんの少しだけ救われた気がした。
耳に新しいピアスを下げ、手紙と片方だけのピアスは、引き出しの奥にしまっておいた。
***ルーナ視点***
「おお、思った以上に美しいな。」
ディラン殿下という人は、とても柔らかな笑顔で、私を迎えてくれた。その笑顔を見たとたん、私は心底ほっとした。
「どうして檻なんかに入れている、早く出してあげてやれ。可哀想に、、」
そんな風に言って、檻からも出してくれた。優しく手を取ってくれた。それだけで、今の私には十分だった。傷だらけの心の中に温かい物が染み入ってくる。
涙がぽろぽろと流れ、嗚咽が洩れた。
「可哀想に。辛かったね、もう大丈夫だ。」
ディラン殿下は、私が落ち着くまでずっと背中を撫でてくれていた。ああ、この人となら幸せになれるかもしれない。
私は結婚するものだと思い込んでいたのだ。
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