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***アリア視点***
話し合いを無事に終えた翌日、私達は村の皆に別れを告げて帰路についた。たった2日間の滞在だったのだけど、見るもの全てに驚いて、感動して、ときめきが止む事がないくらい新鮮で満ち満ちた時間だった。
出発する時にさっそく頂いたコートを羽織ってみたのだけど、まずその軽さに驚いた。まるで何も着ていないくらい軽い。そして肌触りも、うっとりする程素敵だった。ありがたいことに村の人達はコートを全員分準備してくれ、シンを除いた誰もがその素晴らしさに感激した。
また、コートを羽織って歩く砂漠の帰り道は行きとは比べ物にならないくらい快適で、予定よりずいぶん早く町に到着した。
町に着いた私達は直ぐに早めの夕食を取って、いそいそと宿に向かった。旅の今後についての話し合いも必要だったけれど、まずはゆっくり眠りたい。口に出さずとも皆の意見は一致していた。
砂にまみれた身体を綺麗に洗い流してベッドに潜り込めば、粗末なベッドも極上の物に思えた。隣でミアが何か言っていたけど意識はもう夢の中で、きらきら光る魔力の粒を浴びながら笑う、シンと私の姿が見えた、、。
そして楽しい夢を見た翌朝、私はベットの上で身体を動かせないでいた。怠くて、頭は痛いし、ぼぅっとするし、寒いし、肌はぴりぴりする。異変に気付いたミアは額に触れてから慌てて部屋を飛び出して行き、暫くして戻って来た時には、お医者様が一緒だった。
お医者様の見立てによると熱の原因は、長い時間太陽の熱に晒されたことと、身体と心の疲れ、ということだった。薬を処方され、よく休むように言われた。不甲斐ない、、。
話し合いは私抜きで行われ、私の意見など聞かれないまま、シンとオーウェンさんだけで旅を続ける事が決定された。私は療養をしてからミアとノアに連れられて王宮へ帰るのだ。どうにかなる事じゃないだけに悔しかった。
ベッドの上で落ち込む私にミアは、お気に入りの甘味を買って来てくれた。食欲はないけど、試しに噛ってみると、2日ぶりだったせいか、相変わらず美味しい。
「ミア、美味しいわ。私、これなら食べられるみたい。」
「本当ですか? 良かったです。何も食べないから心配していたのですよ。でも、揚げ菓子なのでほどほどにしてください。」
「ありがとう、分かったわ。ところでシン達はいつ出るの?」
頭では分かっているけど手が止まらない。もぐもぐと口を動かしながら、せめて見送りくらいはしておきたいと考えた。
「明日の早朝の予定ですけど、アリア様は気にせずゆっくり休まれていて下さい。」
完食する勢いの私からミアは袋を取り上げた。小さく あっ、と声が漏れた。
「アリア様、そんなに食欲があるのでしたら、こちらの方を食べて下さいね。」
「、、、分かっているわ。」
ミアが見張る中、もそもそと準備されていたスープを頂いた。
「ん、、、 美味しい、、。」
どろどろとしたスープは以外なことに美味しかった。
「そうでしょう? シンさんがわざわざ買って来てくれたのですよ。この町で一番美味しいお店のスープらしいです。」
「シンが、、?」
嬉しい。こんな事があるのなら病気も悪くないと思った。
「アリア様? 口がにやけてませんか?」
どきり、とした。今、私の中に潜んでいる、いかがわしい感情は誰にも知られたくはないし、知られてはいけない。
「、、、だって美味し過ぎるのよ。夕食もこれがいいわ。」
「食欲が出て良かったです。また頼んでおきますね。」
にこっと微笑むミアに、上手く誤魔化せたかなと、ほっとした。
食べて一眠りしたら、身体はずいぶん楽になっていた。まだ熱っぽいけど少しなら歩けそう、そう思ってそっとベットから這い出した。明日の朝はきっとお見送りをさせてもらえないだろうから今のうちに挨拶しておこうと思った。次にいつ会えるか分からないし、、、。
ゆっくりドアを開けて隙間から外を除くと何故か壁があって、あれ? と思っているうちに意図せずその隙間が広がっていった。
「あ、あ、あ、、、」
ドアの取手に体重を預けていた私はドアと一緒に引っ張られた。
「何してんの?」
「!?」
隙間から見えた壁はシンの身体で、私はドアに張り付いたこそ泥の様な格好でシンを見上げた。
「え、、、ええっと、、あ、あなたに、会いたかったの、、、。」
やだ、泣きそう、、。
慌ててドアの取手を手離し、自分の右手の親指の爪を反対の手の平に思い切り突き立てた。
「俺に? 何か用があった? あ、もしかしてこれ? 」
シンが持っていた物を目線まで持ち上げた。私がミアに食べたいと言ったスープだ。
「あ、ありがとう。もう夕方なの?」
「あはは。まだ昼間だよ、早く買って来た方が好きな時に食べられるかと思って。」
どうしてそういう事をさらりと言うのだろう。わざわざ早く買ってきた、のではなくて、出掛けたついで、であってほしかった。
「、、シンは、、誰にでも優しいの?」
胸の内の想いがぽろりと、落ちた。
「ん? 何て?」
「あっ、ええと、その、明日は、気をつけてねって言いたくて。」
「ああ。アリアもこれ食べてしっかり休めよ。」
スープを受けとろうとして、お椀が2つあるのに気づいた。
「あら? シン、私、2つも食べられないわ。」
「ん? ああ、ごめん、1つはノアのだ。ほら、ノアの分。」
ドアの裏からひょっこりノアが顔を出して、思わず固まった。
「シンさん、ありがとうございます! 」
彼は護衛の任務を遂行中だったのだ。変な事を口走らなくて本当に良かった。
**
翌朝、私が起きた頃にはもう、シンとオーウェンさんはいなくなっていた。胸が苦しいけど、これで良かったとも思った。これ以上一緒にいたらもっと苦しくなるだろうから。
「ミア! 私達も出発しましょう。」
「駄目ですよっ、まだ熱も下がっていませんし。」
「どうせ寝るだけなら、ここも馬車の中も変わらないわ。」
「馬車は揺れますし、休まりませんっ」
「もう十分休んだもの。さあ、仕度してちょうだい。」
いつまでもこんな所で立ち止まっていられない。自分を急き立てた。
***ジュリ視点***
あんな事があった後で陛下に何と謝罪したらいいのか、どんな顔をしてお会いしたらいいのか途方にくれていた。それにメリッサと話をしてからというもの、不相応な期待と不埒な疑心が燻っていて、素直になるのを邪魔してくる。
気持ちに整理がつかない私は、とりあえず王宮内の雑用をこなしながら過ごした。メリッサもまた、アリア様が戻るまで手持ち無沙汰だと言って私の雑用を手伝ってくれるので、自然と一緒にいる時間が多くなり今ではすっかり打ち解けて話すようになった。
そんなある日、私は陛下に突然呼び出された。
とうとう処罰が下されるのかもしれない、と身震いした。恐ろしかったけどメリッサになだめられて、どうにか勇気を振り絞って陛下の所へ向かった。
執務室に入れてもらうと、陛下が待っていた。
「来たか。」
「はい、参りました。 あの、、この間は、申し訳ありませんでした。」
頭を下げながら、あの日の事を思いだしてカタカタと震えた。
「ああ。二度と勝手な真似はするな。また同じような事があれば命はないと思え。」
「ほ、ほ、本当に、申し訳ありませんでした。」
額が膝につくくらい、深く深く頭を下げた。
「ふん。今日からまたレイラの所へ戻れ。」
「へ、、? ま、また、お嬢様にお仕えしてもいいのですか?」
驚いて顔を跳ね上げた。処罰は、、!?
「そもそも仕事を辞めろとは言ってない。お前が勝手にいなくなったんだろう。それとも嫌なのか?」
「いっ、いえっ! ありがたく思います!ありがとうございますっ!!」
嬉しくて急いで頭を下げ、一目散にメリッサに報告しに行った。
「すごいじゃない、お咎め無しどころか、また世話係を任されるなんて! ほら、これでもう分かったでしょ? やっぱりジュリは特別な存在なのよ。」
「いやだメリッサ、まだそんなことを、、。きっとお嬢様が頼んでくれたのだわ。」
謙遜しながら、口の緩みが止まらない。内心、本当に特別なのかもしれない、と期待が膨らんだ。だって、お嬢様にあんな事をしても許されるなんて、、、。
話し合いを無事に終えた翌日、私達は村の皆に別れを告げて帰路についた。たった2日間の滞在だったのだけど、見るもの全てに驚いて、感動して、ときめきが止む事がないくらい新鮮で満ち満ちた時間だった。
出発する時にさっそく頂いたコートを羽織ってみたのだけど、まずその軽さに驚いた。まるで何も着ていないくらい軽い。そして肌触りも、うっとりする程素敵だった。ありがたいことに村の人達はコートを全員分準備してくれ、シンを除いた誰もがその素晴らしさに感激した。
また、コートを羽織って歩く砂漠の帰り道は行きとは比べ物にならないくらい快適で、予定よりずいぶん早く町に到着した。
町に着いた私達は直ぐに早めの夕食を取って、いそいそと宿に向かった。旅の今後についての話し合いも必要だったけれど、まずはゆっくり眠りたい。口に出さずとも皆の意見は一致していた。
砂にまみれた身体を綺麗に洗い流してベッドに潜り込めば、粗末なベッドも極上の物に思えた。隣でミアが何か言っていたけど意識はもう夢の中で、きらきら光る魔力の粒を浴びながら笑う、シンと私の姿が見えた、、。
そして楽しい夢を見た翌朝、私はベットの上で身体を動かせないでいた。怠くて、頭は痛いし、ぼぅっとするし、寒いし、肌はぴりぴりする。異変に気付いたミアは額に触れてから慌てて部屋を飛び出して行き、暫くして戻って来た時には、お医者様が一緒だった。
お医者様の見立てによると熱の原因は、長い時間太陽の熱に晒されたことと、身体と心の疲れ、ということだった。薬を処方され、よく休むように言われた。不甲斐ない、、。
話し合いは私抜きで行われ、私の意見など聞かれないまま、シンとオーウェンさんだけで旅を続ける事が決定された。私は療養をしてからミアとノアに連れられて王宮へ帰るのだ。どうにかなる事じゃないだけに悔しかった。
ベッドの上で落ち込む私にミアは、お気に入りの甘味を買って来てくれた。食欲はないけど、試しに噛ってみると、2日ぶりだったせいか、相変わらず美味しい。
「ミア、美味しいわ。私、これなら食べられるみたい。」
「本当ですか? 良かったです。何も食べないから心配していたのですよ。でも、揚げ菓子なのでほどほどにしてください。」
「ありがとう、分かったわ。ところでシン達はいつ出るの?」
頭では分かっているけど手が止まらない。もぐもぐと口を動かしながら、せめて見送りくらいはしておきたいと考えた。
「明日の早朝の予定ですけど、アリア様は気にせずゆっくり休まれていて下さい。」
完食する勢いの私からミアは袋を取り上げた。小さく あっ、と声が漏れた。
「アリア様、そんなに食欲があるのでしたら、こちらの方を食べて下さいね。」
「、、、分かっているわ。」
ミアが見張る中、もそもそと準備されていたスープを頂いた。
「ん、、、 美味しい、、。」
どろどろとしたスープは以外なことに美味しかった。
「そうでしょう? シンさんがわざわざ買って来てくれたのですよ。この町で一番美味しいお店のスープらしいです。」
「シンが、、?」
嬉しい。こんな事があるのなら病気も悪くないと思った。
「アリア様? 口がにやけてませんか?」
どきり、とした。今、私の中に潜んでいる、いかがわしい感情は誰にも知られたくはないし、知られてはいけない。
「、、、だって美味し過ぎるのよ。夕食もこれがいいわ。」
「食欲が出て良かったです。また頼んでおきますね。」
にこっと微笑むミアに、上手く誤魔化せたかなと、ほっとした。
食べて一眠りしたら、身体はずいぶん楽になっていた。まだ熱っぽいけど少しなら歩けそう、そう思ってそっとベットから這い出した。明日の朝はきっとお見送りをさせてもらえないだろうから今のうちに挨拶しておこうと思った。次にいつ会えるか分からないし、、、。
ゆっくりドアを開けて隙間から外を除くと何故か壁があって、あれ? と思っているうちに意図せずその隙間が広がっていった。
「あ、あ、あ、、、」
ドアの取手に体重を預けていた私はドアと一緒に引っ張られた。
「何してんの?」
「!?」
隙間から見えた壁はシンの身体で、私はドアに張り付いたこそ泥の様な格好でシンを見上げた。
「え、、、ええっと、、あ、あなたに、会いたかったの、、、。」
やだ、泣きそう、、。
慌ててドアの取手を手離し、自分の右手の親指の爪を反対の手の平に思い切り突き立てた。
「俺に? 何か用があった? あ、もしかしてこれ? 」
シンが持っていた物を目線まで持ち上げた。私がミアに食べたいと言ったスープだ。
「あ、ありがとう。もう夕方なの?」
「あはは。まだ昼間だよ、早く買って来た方が好きな時に食べられるかと思って。」
どうしてそういう事をさらりと言うのだろう。わざわざ早く買ってきた、のではなくて、出掛けたついで、であってほしかった。
「、、シンは、、誰にでも優しいの?」
胸の内の想いがぽろりと、落ちた。
「ん? 何て?」
「あっ、ええと、その、明日は、気をつけてねって言いたくて。」
「ああ。アリアもこれ食べてしっかり休めよ。」
スープを受けとろうとして、お椀が2つあるのに気づいた。
「あら? シン、私、2つも食べられないわ。」
「ん? ああ、ごめん、1つはノアのだ。ほら、ノアの分。」
ドアの裏からひょっこりノアが顔を出して、思わず固まった。
「シンさん、ありがとうございます! 」
彼は護衛の任務を遂行中だったのだ。変な事を口走らなくて本当に良かった。
**
翌朝、私が起きた頃にはもう、シンとオーウェンさんはいなくなっていた。胸が苦しいけど、これで良かったとも思った。これ以上一緒にいたらもっと苦しくなるだろうから。
「ミア! 私達も出発しましょう。」
「駄目ですよっ、まだ熱も下がっていませんし。」
「どうせ寝るだけなら、ここも馬車の中も変わらないわ。」
「馬車は揺れますし、休まりませんっ」
「もう十分休んだもの。さあ、仕度してちょうだい。」
いつまでもこんな所で立ち止まっていられない。自分を急き立てた。
***ジュリ視点***
あんな事があった後で陛下に何と謝罪したらいいのか、どんな顔をしてお会いしたらいいのか途方にくれていた。それにメリッサと話をしてからというもの、不相応な期待と不埒な疑心が燻っていて、素直になるのを邪魔してくる。
気持ちに整理がつかない私は、とりあえず王宮内の雑用をこなしながら過ごした。メリッサもまた、アリア様が戻るまで手持ち無沙汰だと言って私の雑用を手伝ってくれるので、自然と一緒にいる時間が多くなり今ではすっかり打ち解けて話すようになった。
そんなある日、私は陛下に突然呼び出された。
とうとう処罰が下されるのかもしれない、と身震いした。恐ろしかったけどメリッサになだめられて、どうにか勇気を振り絞って陛下の所へ向かった。
執務室に入れてもらうと、陛下が待っていた。
「来たか。」
「はい、参りました。 あの、、この間は、申し訳ありませんでした。」
頭を下げながら、あの日の事を思いだしてカタカタと震えた。
「ああ。二度と勝手な真似はするな。また同じような事があれば命はないと思え。」
「ほ、ほ、本当に、申し訳ありませんでした。」
額が膝につくくらい、深く深く頭を下げた。
「ふん。今日からまたレイラの所へ戻れ。」
「へ、、? ま、また、お嬢様にお仕えしてもいいのですか?」
驚いて顔を跳ね上げた。処罰は、、!?
「そもそも仕事を辞めろとは言ってない。お前が勝手にいなくなったんだろう。それとも嫌なのか?」
「いっ、いえっ! ありがたく思います!ありがとうございますっ!!」
嬉しくて急いで頭を下げ、一目散にメリッサに報告しに行った。
「すごいじゃない、お咎め無しどころか、また世話係を任されるなんて! ほら、これでもう分かったでしょ? やっぱりジュリは特別な存在なのよ。」
「いやだメリッサ、まだそんなことを、、。きっとお嬢様が頼んでくれたのだわ。」
謙遜しながら、口の緩みが止まらない。内心、本当に特別なのかもしれない、と期待が膨らんだ。だって、お嬢様にあんな事をしても許されるなんて、、、。
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