救う毒

むみあじ

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5月 ダチュラ

第23話

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他人に覚えていてもらえると言うことがどれほど幸せな事か考えた事はあるだろうか?その人の記憶の中に自分という人間が存在する事への安心感と幸福感。
例え相手が俺に対してマイナスな感情を抱いていようと構わない。いいや、むしろそっちの方が人間忘れられないものだから、その感情を抱いてくれているのは嬉しいくらいだ。

俺を恨み憎む相手は、俺を害する事を中心にする。俺が中心になってしまう。
まるで、愛と同じだ。

だからこそ俺は転校生と関わり、自分が問題の中心にならず周囲の憎悪の矛先を冴えない俺に向けてもらったのだが…


「うーん、まさかこんな大胆な行動に出るとはなぁ」


土埃を払い落としながら体を起こす。
周りは一面緑で、自分がいる場所を把握するのは不可能だ。
木に背中を預け座り込みながら、事の顛末を思い出す。


レクリエーションは山道を一周し、各所に設置されている謎解きを全て解き明かすことができればBBQに参加する権利が得られるというものだった。
それを班員と回っていると、すれ違った別の班の生徒に思い切り突き飛ばされた。恐らく親衛隊だったのだろう、可愛らしい顔の生徒だったと記憶している。
運悪く急斜面の場所へと突き飛ばされた俺はおむすびころりんよろしく、下まで転がり落ちたという訳だ。

ほんと、見られていたかもしれないのによくこんな大胆な行動ができたなぁ。見られてしまったら自身の破滅は免れないのに、なのに貶めるなんて俺の事を相当恨んでくれているに違いない。嬉しい限りである。


全身が重たいが、それ以上に骨折などの大きな怪我がないかの確認をしていると足首に痛みが走った。どうやら捻挫をしているようでこのまま上に登ろうとすれば恐らく悪化する。
リュックの中身が無事かのチェックも兼ねて救急セットを取り出した。

テーピングでしっかりと固定して靴を履き直す。とりあえず現在位置の確認の為に持ってきておいた地図を開いて歩いていた場所の確認。真下に転がってきたはずなのでこのまま上に行けば上がれるだろう。
この足で急斜面の坂道をどこまで歩けるかが問題だが…

荷物をしまいながら出発の準備を始めているとガサガサと木の葉を踏むような、茂みを揺らすような音が聞こえてくる。獣かと辺りを見回して警戒しながら音の方向を探りあてる。息を潜めながらゆっくりとそちらへ向く。



「えぇ…?」


思わず漏れた俺の困惑の声を無視して、それは俺の方へと駆けてきた。


「…助けに来てくれたって捉えてOK?」
「監視だ、馬鹿」


冷たい眼差しで見てくる千秋に笑いそうになりながらも、ありがとうと告げる。
乱れている髪の毛、血が滲んでいる頬を見る限り相当急いで降りてきてくれたのだろう。


「とりあえず、上に戻るのは千秋のほっぺに絆創膏貼ってからね」
「あ?」
「座ってくれた方がやりやすいから座って。ほっぺ触んなよ~」


無理矢理千秋をその場に座らせてから、救急セットを召喚!中から消毒液とコットン、絆創膏を取り出す。
清潔なハンカチを、怪我をした時用に持っておいた水に浸して傷の汚れを落とす。軽く拭き取った後消毒液を浸したコットンでぽんぽん。
絆創膏を貼って治療完了だ。


「はい、おしまい。一応他に怪我してないか見るよ」


有無を言わさずに彼の手を取り外傷がないかを確認する。手首を捻ってみたり、ほんの少し強め力を入れてみたり、皮膚の部分に軽く爪を立ててみたり。
それに対して彼は顔色ひとつに変えずにいるのをみて、俺の予想が当たっていると確信した。

彼は恐らく痛みに鈍い。感覚鈍麻なのか無痛症なのかはわからないが、とにかく彼に痛みというものは理解できないのだろう。傷に触れようとすれば、どれだけ痛みに強かろうが体が反射的に強張ったりするものだ。けれど彼にはそれがなかった。爪を立てられたら痛いし怪我のチェックと称してそんなことされたら絶対怒るだろうに、彼は何も言わずにむしろよくわからないと言った顔で黙ったままだった。


全く、俺が見ておかないと死にかねないなぁこの子。


「よっしゃ、じゃあ上行こっか」
「…お前、メガネは」
「転がってる最中にどっか吹っ飛んだ。スペアが部屋にあるから取りに行かなきゃなぁ」


残念ながらメガネはご臨終だろう。登っている最中に見つけたら拾って、持って帰らねば。ポイ捨てダメ絶対!

足の痛みを誤魔化しながら歩くのはいつもよりも体力を消費する。そのせいか息が上がるのも早く、汗もいつもより沢山出ている気がする。


「…おい」


あー、くそ、うざったいな。汗気持ち悪いし。シャワーに入りたい、お風呂に入りたい。


「……聞いてんのか?」


足首、ジクジクする。痛い。まじでやだ。なんで山なんかに来たわけ?BBQ早くしたいのに…


「おい……」


痛いの好きだけど、一方的に痛めつけられるの嫌いなのに…うーーー、痛い、いたい…


「ッ依夜」


思考の海に沈みかけていたのを、千秋が引き上げてくれたようだ。顔を上げて彼を見ようとするも、薄く水の膜が張った視界は滲んでいてしっかりと物を捉えられない。
体が重い、気を抜くとまた転がり落ちていきそうだ。


「チッ…もうちょい耐えれるか」
「ん、んー、うん」


答えると同時に腕を掴まれる。引っ張り上げられるようにしてついたのは先ほどの斜面よりも緩やかで平坦なスペース。思わず腰を下ろして息をつく。ダメだ、暑いし寒い。

リュックからタオルと飲み物を取り出して汗を拭きながら水を喉奥に流し込む。痛みが強くなっている足を見れば腫れているようで、思わず眉を顰めた。
靴の上からテーピングで足をキツく固定して木を支えにしながら立ち上がる。


「行こっか」
「……」


安心させるように笑いかけると千秋の眉間の皺が更に濃くなった。
残念ながら今の俺には茶化すような体力は残っていないので、無視して歩こうとすると腕を軽く引かれた。
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