25 / 131
5月 ダチュラ
第23話
しおりを挟む
他人に覚えていてもらえると言うことがどれほど幸せな事か考えた事はあるだろうか?その人の記憶の中に自分という人間が存在する事への安心感と幸福感。
例え相手が俺に対してマイナスな感情を抱いていようと構わない。いいや、むしろそっちの方が人間忘れられないものだから、その感情を抱いてくれているのは嬉しいくらいだ。
俺を恨み憎む相手は、俺を害する事を中心にする。俺が中心になってしまう。
まるで、愛と同じだ。
だからこそ俺は転校生と関わり、自分が問題の中心にならず周囲の憎悪の矛先を冴えない俺に向けてもらったのだが…
「うーん、まさかこんな大胆な行動に出るとはなぁ」
土埃を払い落としながら体を起こす。
周りは一面緑で、自分がいる場所を把握するのは不可能だ。
木に背中を預け座り込みながら、事の顛末を思い出す。
レクリエーションは山道を一周し、各所に設置されている謎解きを全て解き明かすことができればBBQに参加する権利が得られるというものだった。
それを班員と回っていると、すれ違った別の班の生徒に思い切り突き飛ばされた。恐らく親衛隊だったのだろう、可愛らしい顔の生徒だったと記憶している。
運悪く急斜面の場所へと突き飛ばされた俺はおむすびころりんよろしく、下まで転がり落ちたという訳だ。
ほんと、見られていたかもしれないのによくこんな大胆な行動ができたなぁ。見られてしまったら自身の破滅は免れないのに、なのに貶めるなんて俺の事を相当恨んでくれているに違いない。嬉しい限りである。
全身が重たいが、それ以上に骨折などの大きな怪我がないかの確認をしていると足首に痛みが走った。どうやら捻挫をしているようでこのまま上に登ろうとすれば恐らく悪化する。
リュックの中身が無事かのチェックも兼ねて救急セットを取り出した。
テーピングでしっかりと固定して靴を履き直す。とりあえず現在位置の確認の為に持ってきておいた地図を開いて歩いていた場所の確認。真下に転がってきたはずなのでこのまま上に行けば上がれるだろう。
この足で急斜面の坂道をどこまで歩けるかが問題だが…
荷物をしまいながら出発の準備を始めているとガサガサと木の葉を踏むような、茂みを揺らすような音が聞こえてくる。獣かと辺りを見回して警戒しながら音の方向を探りあてる。息を潜めながらゆっくりとそちらへ向く。
「えぇ…?」
思わず漏れた俺の困惑の声を無視して、それは俺の方へと駆けてきた。
「…助けに来てくれたって捉えてOK?」
「監視だ、馬鹿」
冷たい眼差しで見てくる千秋に笑いそうになりながらも、ありがとうと告げる。
乱れている髪の毛、血が滲んでいる頬を見る限り相当急いで降りてきてくれたのだろう。
「とりあえず、上に戻るのは千秋のほっぺに絆創膏貼ってからね」
「あ?」
「座ってくれた方がやりやすいから座って。ほっぺ触んなよ~」
無理矢理千秋をその場に座らせてから、救急セットを召喚!中から消毒液とコットン、絆創膏を取り出す。
清潔なハンカチを、怪我をした時用に持っておいた水に浸して傷の汚れを落とす。軽く拭き取った後消毒液を浸したコットンでぽんぽん。
絆創膏を貼って治療完了だ。
「はい、おしまい。一応他に怪我してないか見るよ」
有無を言わさずに彼の手を取り外傷がないかを確認する。手首を捻ってみたり、ほんの少し強め力を入れてみたり、皮膚の部分に軽く爪を立ててみたり。
それに対して彼は顔色ひとつに変えずにいるのをみて、俺の予想が当たっていると確信した。
彼は恐らく痛みに鈍い。感覚鈍麻なのか無痛症なのかはわからないが、とにかく彼に痛みというものは理解できないのだろう。傷に触れようとすれば、どれだけ痛みに強かろうが体が反射的に強張ったりするものだ。けれど彼にはそれがなかった。爪を立てられたら痛いし怪我のチェックと称してそんなことされたら絶対怒るだろうに、彼は何も言わずにむしろよくわからないと言った顔で黙ったままだった。
全く、俺が見ておかないと死にかねないなぁこの子。
「よっしゃ、じゃあ上行こっか」
「…お前、メガネは」
「転がってる最中にどっか吹っ飛んだ。スペアが部屋にあるから取りに行かなきゃなぁ」
残念ながらメガネはご臨終だろう。登っている最中に見つけたら拾って、持って帰らねば。ポイ捨てダメ絶対!
足の痛みを誤魔化しながら歩くのはいつもよりも体力を消費する。そのせいか息が上がるのも早く、汗もいつもより沢山出ている気がする。
「…おい」
あー、くそ、うざったいな。汗気持ち悪いし。シャワーに入りたい、お風呂に入りたい。
「……聞いてんのか?」
足首、ジクジクする。痛い。まじでやだ。なんで山なんかに来たわけ?BBQ早くしたいのに…
「おい……」
痛いの好きだけど、一方的に痛めつけられるの嫌いなのに…うーーー、痛い、いたい…
「ッ依夜」
思考の海に沈みかけていたのを、千秋が引き上げてくれたようだ。顔を上げて彼を見ようとするも、薄く水の膜が張った視界は滲んでいてしっかりと物を捉えられない。
体が重い、気を抜くとまた転がり落ちていきそうだ。
「チッ…もうちょい耐えれるか」
「ん、んー、うん」
答えると同時に腕を掴まれる。引っ張り上げられるようにしてついたのは先ほどの斜面よりも緩やかで平坦なスペース。思わず腰を下ろして息をつく。ダメだ、暑いし寒い。
リュックからタオルと飲み物を取り出して汗を拭きながら水を喉奥に流し込む。痛みが強くなっている足を見れば腫れているようで、思わず眉を顰めた。
靴の上からテーピングで足をキツく固定して木を支えにしながら立ち上がる。
「行こっか」
「……」
安心させるように笑いかけると千秋の眉間の皺が更に濃くなった。
残念ながら今の俺には茶化すような体力は残っていないので、無視して歩こうとすると腕を軽く引かれた。
例え相手が俺に対してマイナスな感情を抱いていようと構わない。いいや、むしろそっちの方が人間忘れられないものだから、その感情を抱いてくれているのは嬉しいくらいだ。
俺を恨み憎む相手は、俺を害する事を中心にする。俺が中心になってしまう。
まるで、愛と同じだ。
だからこそ俺は転校生と関わり、自分が問題の中心にならず周囲の憎悪の矛先を冴えない俺に向けてもらったのだが…
「うーん、まさかこんな大胆な行動に出るとはなぁ」
土埃を払い落としながら体を起こす。
周りは一面緑で、自分がいる場所を把握するのは不可能だ。
木に背中を預け座り込みながら、事の顛末を思い出す。
レクリエーションは山道を一周し、各所に設置されている謎解きを全て解き明かすことができればBBQに参加する権利が得られるというものだった。
それを班員と回っていると、すれ違った別の班の生徒に思い切り突き飛ばされた。恐らく親衛隊だったのだろう、可愛らしい顔の生徒だったと記憶している。
運悪く急斜面の場所へと突き飛ばされた俺はおむすびころりんよろしく、下まで転がり落ちたという訳だ。
ほんと、見られていたかもしれないのによくこんな大胆な行動ができたなぁ。見られてしまったら自身の破滅は免れないのに、なのに貶めるなんて俺の事を相当恨んでくれているに違いない。嬉しい限りである。
全身が重たいが、それ以上に骨折などの大きな怪我がないかの確認をしていると足首に痛みが走った。どうやら捻挫をしているようでこのまま上に登ろうとすれば恐らく悪化する。
リュックの中身が無事かのチェックも兼ねて救急セットを取り出した。
テーピングでしっかりと固定して靴を履き直す。とりあえず現在位置の確認の為に持ってきておいた地図を開いて歩いていた場所の確認。真下に転がってきたはずなのでこのまま上に行けば上がれるだろう。
この足で急斜面の坂道をどこまで歩けるかが問題だが…
荷物をしまいながら出発の準備を始めているとガサガサと木の葉を踏むような、茂みを揺らすような音が聞こえてくる。獣かと辺りを見回して警戒しながら音の方向を探りあてる。息を潜めながらゆっくりとそちらへ向く。
「えぇ…?」
思わず漏れた俺の困惑の声を無視して、それは俺の方へと駆けてきた。
「…助けに来てくれたって捉えてOK?」
「監視だ、馬鹿」
冷たい眼差しで見てくる千秋に笑いそうになりながらも、ありがとうと告げる。
乱れている髪の毛、血が滲んでいる頬を見る限り相当急いで降りてきてくれたのだろう。
「とりあえず、上に戻るのは千秋のほっぺに絆創膏貼ってからね」
「あ?」
「座ってくれた方がやりやすいから座って。ほっぺ触んなよ~」
無理矢理千秋をその場に座らせてから、救急セットを召喚!中から消毒液とコットン、絆創膏を取り出す。
清潔なハンカチを、怪我をした時用に持っておいた水に浸して傷の汚れを落とす。軽く拭き取った後消毒液を浸したコットンでぽんぽん。
絆創膏を貼って治療完了だ。
「はい、おしまい。一応他に怪我してないか見るよ」
有無を言わさずに彼の手を取り外傷がないかを確認する。手首を捻ってみたり、ほんの少し強め力を入れてみたり、皮膚の部分に軽く爪を立ててみたり。
それに対して彼は顔色ひとつに変えずにいるのをみて、俺の予想が当たっていると確信した。
彼は恐らく痛みに鈍い。感覚鈍麻なのか無痛症なのかはわからないが、とにかく彼に痛みというものは理解できないのだろう。傷に触れようとすれば、どれだけ痛みに強かろうが体が反射的に強張ったりするものだ。けれど彼にはそれがなかった。爪を立てられたら痛いし怪我のチェックと称してそんなことされたら絶対怒るだろうに、彼は何も言わずにむしろよくわからないと言った顔で黙ったままだった。
全く、俺が見ておかないと死にかねないなぁこの子。
「よっしゃ、じゃあ上行こっか」
「…お前、メガネは」
「転がってる最中にどっか吹っ飛んだ。スペアが部屋にあるから取りに行かなきゃなぁ」
残念ながらメガネはご臨終だろう。登っている最中に見つけたら拾って、持って帰らねば。ポイ捨てダメ絶対!
足の痛みを誤魔化しながら歩くのはいつもよりも体力を消費する。そのせいか息が上がるのも早く、汗もいつもより沢山出ている気がする。
「…おい」
あー、くそ、うざったいな。汗気持ち悪いし。シャワーに入りたい、お風呂に入りたい。
「……聞いてんのか?」
足首、ジクジクする。痛い。まじでやだ。なんで山なんかに来たわけ?BBQ早くしたいのに…
「おい……」
痛いの好きだけど、一方的に痛めつけられるの嫌いなのに…うーーー、痛い、いたい…
「ッ依夜」
思考の海に沈みかけていたのを、千秋が引き上げてくれたようだ。顔を上げて彼を見ようとするも、薄く水の膜が張った視界は滲んでいてしっかりと物を捉えられない。
体が重い、気を抜くとまた転がり落ちていきそうだ。
「チッ…もうちょい耐えれるか」
「ん、んー、うん」
答えると同時に腕を掴まれる。引っ張り上げられるようにしてついたのは先ほどの斜面よりも緩やかで平坦なスペース。思わず腰を下ろして息をつく。ダメだ、暑いし寒い。
リュックからタオルと飲み物を取り出して汗を拭きながら水を喉奥に流し込む。痛みが強くなっている足を見れば腫れているようで、思わず眉を顰めた。
靴の上からテーピングで足をキツく固定して木を支えにしながら立ち上がる。
「行こっか」
「……」
安心させるように笑いかけると千秋の眉間の皺が更に濃くなった。
残念ながら今の俺には茶化すような体力は残っていないので、無視して歩こうとすると腕を軽く引かれた。
24
あなたにおすすめの小説
あの夏の日を忘れない ~風紀委員長×過去あり総長~
猫村やなぎ
BL
椎名由は、似てるという言葉が嫌いだった。
髪を金にして、ピアスを付けて。精一杯の虚勢を張る。
そんな彼は双子の兄の通う桜楠学園に編入する。
「なぁ由、お前の怖いものはなんなんだ?」
全寮制の学園で頑張り屋の主人公が救われるまでの話。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】僕らの関係─好きな人がいるのに、学園の問題児に目をつけられて─
亜依流.@.@
BL
【あらすじ】
全寮制の男子校私立掟聖学園には、学力向上を目的とした特殊なペア制度が存在した。
─────────────────
2年の入谷優介は、生徒会長であり学園のカリスマ、3年・中篠翔へ密かに思いを寄せていた。
翔とペアになる事を夢見る優介は、ある事件をきっかけに、同じく3年の超絶問題児、本郷司とペアを組む事になってしまう。傲慢な司に振り回される優介に手を差し伸べたのは、初恋の相手である翔だった。
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
ひみつのモデルくん
おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。
高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎
主人公総受け、総愛され予定です。
思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。
後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる