救う毒

むみあじ

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7月 グロリオサ

第53話

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正座を崩しながら2人に笑いかける。不機嫌そうに眉を顰めていた千秋と、思案顔の諒先輩は俺の笑顔に溜息をついた。

「まぁな…」
「でしょ?制裁を潰すにしても証拠不十分だったら相手が圧かけて来るかもしれないんだし、だったら俺が人柱になって証拠集めて一気に掃除した方が楽じゃない?樹先生の協力も得られると思うし」
「でもなぁ…」

顎に手を当て考え込んでいる諒先輩の顔を覗き込む。心配性だなぁと思いながら微笑みを携えてそっと語りかけた。

「俺なら大丈夫ですよ。そのために対策考えましょーよ。ね?」
「…分かった。お前の意思を尊重する」

諦めたように柔らかく笑った諒先輩にありがとうの意味を込めて笑顔を返す。
すると今まで黙っていた千秋がゆっくりと口を開いた。

「…おい風紀。警告なしでいきなり制裁に踏み切る輩はいねェのか?」
「その呼び方腹立つな…
いるっちゃいるが…つっても呼び出す手間があるからそこでわかんだろ」
「1人の時に空き教室に引き摺り込まれたらどうすンだ?他人の名前使っておびき寄せられたら?」
「基本千秋と2人行動、どうしてもどこかへ1人で行く時は必ず2人に連絡して、通話繋いどくってのは?他人の名前を使われた時は千秋も一緒に来てくれれば良いよ」
「俺の名前を使われたらどうすンだよタコ」
「そうならない為にも一緒にいて?側にいないタイミングで他人が千秋の名前使っても俺信じれんもん。千秋が誰かに頼むって事絶対ないしそれするくらいならなんも言わなそうだからそこは考えなくてもよくね?」
「孤狼様だもんなぁ~」
「……」


孤狼様(笑)


「教師陣の名前使われて依夜がおびき寄せられたらどうすんだ?」
「1人でこいって言われても千秋連れて行きます。だってそもそも教師が1人でこいとか言わないでしょ」
「じゃあ久道が教師に呼び出されたら?」
「その時はついてく。面談だから、とか追い払われたら樹先生のとこ行くよ。移動中は誰かと必ず通話繋いで移動しておけば待ち伏せとか不意打ちでなんかされても音で察せるだろうしね。その為にはこの話に協力してくれる人を募らないとだけどね。あ、樹先生の協力が得られれば俺のスマホに入ったGPSのアプリですぐに居場所も特定してくれると思うよ」
「は?」
「あ゛?」
「ん?」

真剣に話し合ってると突然2人から疑問符が飛んでくる。え?何?何が引っかかったの?

「GPSアプリ入ってんのか?」
「え、うん」
「逐一把握されてンのか?」
「そうだけど?」

俺の返答で部屋の空気が凍りつく。なになになに?なんか変な事言った?
そっと2人の顔を窺えば、どちらも眉間に皺を寄せつつもどことなく表情が引き攣っている…気がする。

「…マジか~…」
「……」
「お前、お前それでいいのか?行動把握されてんだぞ?」
「え?なんかダメなんです?」

焦ったような顔で肩をがっしりと掴まれ揺さぶられる。揺さぶられつつも先輩が何故そんなに取り乱してるのかわからない。小さい頃からニィさんや八剣、樹先生に加えてニィさんの信頼のおける部下やなんなら小学生の頃仲良かった子も俺の行動を把握している。

最近は相互追跡アプリも出ているし使いやすさも上がって重宝していたりするんだけど

「…つーかテメェは理事長とどんな関係なンだよ」
「ん?たしかにそれは俺も気になるな…あんま気にして無かったけど、どんな関係なんだ?」


あ!コラ!千秋その話はしない約束でしょ!
思わずジトっと千秋を見つめるとキツく睨まれた。そろそろいい加減離せって事?んも~、仕方ないな…


「俺の保護者が知り合いなんです。その関係で小さい頃に会ってて、なんか知らんけど気に入られました」
「納得できるような、出来ねぇような…」
「とはいえこれが事実ですし…あー、でも知り合ったきっかけは美術関係じゃないかな?樹先生って画家として生計立てられる位ですし。個展開いたこともあるって言ってたし、そこでじゃないかな?」
「ふーん、そう言う出会い方もあんだな~」

ペラペラと嘘を連ねながら昔の樹先生を思い出して笑みが溢れそうになる。あの人は今でこそ敏腕経営者ではあるけれど、当時は全身絵の具まみれになっていることが多かったし、興奮すると落ち着きがなくなる…のは今もだが、とにかく落ち着きがなくてどこか子供っぽい所もあって、社会性もなさそうな感じだったんだ。

それなのに、いつの日か身嗜みに気をつけ始めて落ち着きが出てきて、何があったのか嫌がっていた家督をきちんと継いで、経営者として仕事しながらも好きな絵を描き続けてる。

めっちゃ凄い人なんだぜ?樹先生って


「話逸れたけどさ、GPSアプリ2人も入れれば?登録すれば俺がどこにいるかいつでも分かるし、制裁の時もわかりやすいっしょ?」
「…依夜がいいならいいか。なるべく分かってた方がこっちとしても楽だしな」
「別に気にしないから良いよ~千秋も入れといてよ」
「ンで入れないといけねェンだよ」
「千秋は俺の事、助けてくれないの?」

眉を下げてじっと見つめてみれば眉間に皺が深く刻まれる。実際千秋にとって俺を助けるメリットなんて無いんだから、つっぱねても文句は言えない。が、つっぱねるのは以前の千秋だ。


「…入れりゃいいンだろ」

ほらね!
今はなんとなく不思議な友情が芽生えてる。というよりは、威嚇してた犬が懐きつつある感じかな?嬉しい反面、俺が千秋にしてあげられる事の少なさにほんのちょっと申し訳なくもある。

それは勿論諒先輩に対しても同じだ。親身に俺の心配をしてくれる2人に、俺は何もしてあげられてない。ま、力ない人間が何かやった所でありがた迷惑だったり厚かましかったりするから、大それた事はできないけど



「諒先輩、千秋、2人ともありがとうございます。俺に出来ることがあったらなんでも言ってね、俺頑張るから」



少しでも役に立てればいいな、なんて思いながら2人に向けてにっこりと笑った



「なら大人しく風紀に全部投げて大人しくしてろよタコ」
「今回ばかりは久道に同意だな」
「それ以外の事でだってば!」
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