救う毒

むみあじ

文字の大きさ
83 / 131
7月 グロリオサ

第81話

しおりを挟む
整った顔立ちと爽やかな笑顔を携えた穏やかで人畜無害そうな人物、それが伊藤さんへの印象だ。しかし、千秋が確信を持って彼が依頼主だと告げたのには理由があるのだろう。


「テメェは気がついてねェだろうが、アイツ、ちょくちょくテメェの事を見てやがったンだよ。いつも飯運んでくんのもアイツだろ。テメェの食の趣向も知ってやがる。盛るとしたらアイツしかいねェ」
「なるほど…言われてみれば確かに」


流石千秋。度々命を狙われるせいか他人の視線にも行動にも敏感なようだ。現代日本の筈なのに、千秋の周りだけ凄い物騒だよな…戦国時代かよ


「ちょっと待て、ウェイトレスが第一候補だとして、依夜にだけどうやって盛った?それに目的は?」
「コイツは基本的に昼飯はローテしてンだよ。洋食を食った次の日は必ず和食、和食を食った次の日は必ず洋食。俺はンなローテなんざ組まねェ」
「…そういや朝飯もそうだよな、お前…」
「ごめんまって、俺今めっちゃびっくりしてる。無意識でローテしてたわ!」


こんな事で新発見とかある?嘘じゃん。まじ?俺ローテしてた?そんな分かりやすい?というか、千秋俺のこと見過ぎじゃね?俺のこと大好きじゃん。


「余計なこと考えてンなよ」


ふざけた事考えていたら鋭い視線が飛んできた。なんでわかったんだ…



「でもさァ、あの薬、経口摂取すんなら甘味に混ぜねェ~とだヨォ?あれ、クッッッッソ苦いから、誤魔化すなら甘いものじゃね~~~~と」


ラーメンを食べ終えた壱成先輩は、椀の中に残ったスープをちびちび飲みながら疑問を述べる。確かに、甘いものは食べたが…あれは甘さ控えめだったけど…?


「きっちりデザートも食ってンだよ、コイツは。甘味は完全にランダムだけどな」
「…あの~食堂のガトーショコラって食べた事ある?」
「甘党がこぞって注文してる人気メニューだな。俺も食ったことあるけどクソ甘えよな~あれ」
「まじであれはヤベェ甘さだよネぇ~俺は一口でギブアップしたワ」
「………苦味があったのか?」


無言で首を縦に振り、口角を上げる。うまく笑顔が作れている気がしないので、きっと彼らには引き攣った笑顔に見えるだろう。
甘さ控えめ、苦めのガトーショコラだと思っていたのだが…あの苦味は薬のせいだったと…
我ながら迂闊だった。


「2択でバチ当たりしちゃうとは、運の良いウェイトレスだねェ~~?」
「…2択じゃねェ。2皿とも盛ってる筈だ。」
「え?じゃあ千秋も具合悪くなった?大丈夫?今は平気?」


もしも千秋も摂取していたら大変だ。痛みではないから、恐らく体調不良は気が付けるだろうが千秋なら余裕で無視しそうではある。心配して思わず隣に詰め寄るが、そこでふと思い出した。


「…テメェ忘れたのか?アイツ、俺のだけひっくり返したろ。つまづいた時の動作に違和感があった。わざとやってンだよ、アイツは。最初っから2皿とも盛って、俺の分はダメにするつもりだったンだろ」
「おっちょこちょいなのかな~?で片付けちゃったけど、あれわざとだったのか…つまづくの上手~」
「笑ってンなよ…目的の方は知らねェが、あのウェイトレスの依夜を見る目が……」


おっちょこちょいで片付けてしまったが、伊藤さんのつまづき方には違和感があったようだ。俺は正面から見ていないし、断片的に視認した程度なので分からなかったが、千秋はしっかりと見えていたみたい。呑気な感想を述べるが、それに対して千秋は嫌そうに顔を顰めている。一言苦言を呈されてしまったが、続く言葉は目的についてだった。しかし、なんとも言えない表情で、言葉に詰まっている。



「、…とにかく、気色悪ぃ」



やっとの事で絞り出したのはその一言。なんとなく、千秋が言いたいことがわかった気がした。


「気色悪い、なぁ…流石にその程度じゃ動機にはならねーだろうし…問いただすのは無理そうだな…それとなく聞こうと思ってたんだが…」
「……壱成先輩、依頼内容について教えて欲しいです。おねがいっ!」


確信はないが、依頼内容について知れば千秋が何を言いたいのかがわかる気がして、両手を合わせて壱成先輩に頼み込む。あざと可愛く見えるように眉を下げて上目遣いを意識すれば、ほんのちょっと言葉に詰まったようだ。


「…エェ~~~~~~流石になァ~~~~イヨくんのお願いでもナァ~~~~~流石にナァ~~~~」


だよな~~~壱成先輩なら何か要求してくると思った!


「なんでもするからとか言うなよ依夜!」
「えぇ?流石に言わないですって。リスク高すぎ。そうだなぁ~…一日だけ、いつでもどこでもどんな時でも好きに喧嘩仕掛けてきていいですよ」


考えなしに適当な事を言うせいか、諒先輩からめちゃくちゃ心配されてしまっている。流石に交渉事でなんでもするは言わない。代わりに提示した内容が物騒だが、多分1番欲しいのはこれだろう。


「乗ったァ!!!!!!!!」
「うるッッッせぇ!」
「るせェ…」
「爆音じゃんウケる」


思わず立ち上がった壱成先輩は膝をテーブルにぶつけたようで鈍い音とものすごい声量で爆音を発生させた。スゲェ~。流石に痛かったのか座り直して膝をさすっている。可哀想なので後で喧嘩していいよ券を作って渡してあげよう…

ポケットを漁るようにして取り出したのは透明なカバーに入ったなんの変哲もないスマートフォン。これでやりとりをしていたのか、慣れた手つきで画面をタップしている。



「依頼内容はねェ~~えっと~~あったあった!読むヨォ?え~『鏡宮依夜を音楽室へ拉致。催淫作用のある薬を摂取させある程度身体の自由を奪った後、音楽室へ監禁』だってさァ~。こっちに定められた禁止事項は『挿入行為はゴムをつけてのみ許可する、暴行による傷害はなし、カメラでの撮影もなし、1時間後には音楽室から離れ近づかない事』ってあるヨォ~。…これらは口頭でのやりとりを纏めた物でサァ~?実際は、電話でやりとりしてんダワ。そん時にサァ、ボイチェン越しでもわかる位興奮した口調でやっと犯せるって言ってたんだよネェ~~」



『やっと犯せる』その一言で部屋の気温が一気に2℃位下がった気がする。それくらいヒリついた雰囲気が、3人から醸し出された。



「なんとなく熱っぽい視線だな~って思ってたけど、やっぱ目的はそれかな?」
「やっぱってなんだよ、お前なぁ…もうちょっと危機感持てって…」
「持ったところで意味ないって~」


思わず感想を述べると呆れ半分怒り半分の諒先輩に諭される。だがしかし、そんなもの意味がない。危機感を持って行動したところで、まともな人間はイカれた人間のやる事に対策なんてできないのだ。それに…



「俺が、黙って犯されるわけないでしょ」




嘲笑を浮かべて首を傾げれば、諒先輩は俺の瞳に釘付けになってしまったようだ。放心、と言った様子で目を見開きこちらを見つめ続けている。


「ッッッア~~~~~痺れるぅ~~~~~!イヨくんの傲慢で不敵な表情サイコ~~~~!!」


壱成先輩の歓声によってハッとしたようで、数度瞬きをした後に深いため息をついた諒先輩。その様子をくすくす笑いながら垂れ落ちてきた髪を左耳にそっと掛けた。


「るせェンだよ…つかテメェ、目的知ってンじゃねェか」
「知ってたヨォ?けど、教えてって言われてねェし?それニィ~~~」


鋭い眼光を壱成先輩へと向けた千秋が、威嚇するかのように低い声を出した。けれど気にする事もなく知っていたと宣った壱成先輩は、軽薄な笑みを顔に貼り付けている。威嚇に怯える事もなく、寧ろ煽っているようだ。続く言葉に興味を持てば、千秋へと向けられていた視線が俺の方へと向いた。



「教えない方が楽しめる、デショおぉ~~~?」



爛々と輝くカラメル色の瞳が、雄弁に語りかける。そっちの方がイヨくんは好きでしょ?その問いかけに俺は笑みを浮かべる。
甘やかすように、褒めるように、砂糖を熱して溶かしたカラメルを塗していくように、瞳に感情をのせて壱成先輩を見つめた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

あの夏の日を忘れない ~風紀委員長×過去あり総長~

猫村やなぎ
BL
椎名由は、似てるという言葉が嫌いだった。 髪を金にして、ピアスを付けて。精一杯の虚勢を張る。 そんな彼は双子の兄の通う桜楠学園に編入する。 「なぁ由、お前の怖いものはなんなんだ?」 全寮制の学園で頑張り屋の主人公が救われるまでの話。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】僕らの関係─好きな人がいるのに、学園の問題児に目をつけられて─

亜依流.@.@
BL
【あらすじ】 全寮制の男子校私立掟聖学園には、学力向上を目的とした特殊なペア制度が存在した。 ───────────────── 2年の入谷優介は、生徒会長であり学園のカリスマ、3年・中篠翔へ密かに思いを寄せていた。 翔とペアになる事を夢見る優介は、ある事件をきっかけに、同じく3年の超絶問題児、本郷司とペアを組む事になってしまう。傲慢な司に振り回される優介に手を差し伸べたのは、初恋の相手である翔だった。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

処理中です...