救う毒

むみあじ

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9月 コルチカム

第128話*

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薄暗い部屋の中を、闇に慣れた瞳でじっと見渡す。ベッドに置かれた狼のぬいぐるみ、デジタル式の置き時計、棚に飾られた写真の入ったフレームの裏、勉強机に備え付けられた椅子の裏に、ペン立てに入れられたペン、それらを一つ一つ丁寧に確認していけば、やはり全てに盗聴器が仕掛けられていた。ペンと置き時計に至ってはカメラ機能のついている物もあるし、物が大量に置かれた棚にもいくつかカメラがある。この分だと、照明とコンセントの内部、もしくは自宅から持ってきたタップ型の電源も盗聴器だろう。
それに、普段持ち歩いている私物もそう。イヨの身につけている制服のブレザーに、しっかりと盗聴器が縫い付けられていた。普段使わない、内ポケットに。他の服にもきっと仕掛けられているのだろう。イヨのお気に入りの服とかにね。

リビングにある時計やカーテンレール、コーヒーメーカーにも仕掛けてあったから、浴室とトイレ以外は完全に監視されている、という訳だ。全く、あの人達はどこまでも徹底的だな。
持ってきた僕用の盗聴器をめぼしい場所に仕掛けながら、はぁ、とため息をついた。

先日起こったイヨの拉致も、あの人達なら前兆を掴んでいたはずだ。なにせ、こんなにも大量に盗聴器が仕掛けられているのだから、侵入した時点で気付かれる。
ではなぜ事前にイヨや僕、理事長へと連絡しなかったのか?それはもしかすると、彼の描いた筋書き通りだったのかもしれない。多少リスクはあっても利を取るあの人の事だ、今回の件を利用していてもおかしくはない。

犯人はイヨに一度接触し、あろうことか薬を盛っている訳だし、事前に目をつけて監視していたはず。でないと、ピンポイントで犯人だけを尾行する事はまず無理だ。いくら出入りの少ない学園とは言え、購買においてある商品や食堂で提供している料理の材料、飲料自販機の補充などで出入りする業者はいるのだ。犯人の彼は確かにここへ雇われた身ではあるものの、休日などは外へ出入りすることもできる。
閉鎖的という認識は、あくまでも生徒の間でのみ。教職員の犯行となると特定すらままならないなのに、相手の素性は勿論のこと、最近契約した部屋まで把握している始末。

考えれば考えるほど、彼らの計画通りに進んだとしか思えない。理事長すら知らぬ所で、内側から手引きをした彼らの息がかかった職員もいるのだろう。寮監がそうだったように。



イヨが拐われてすぐに、僕は寮監の元へと確認に向かった。寮内への出入り口は非常用のものを除けばただ一つな訳だし、非常用の出入り口や搬入口を経由したところで監視カメラには写っている。それを確認するため、という目的だったのだが…
彼は既にいなかった。最初からそこに存在しなかったかのように消えていた。直近の監視カメラの映像も消されていたし、痕跡ひとつ見つける事ができなかったのだ。

煙に巻かれたように消えた彼について理事長に報告をしたものの、寮監は休暇申請を出しており当日は臨時の職員を派遣。監視カメラや出勤の際のタイムカードにも履歴が残っているし、何より理事長本人が顔を合わせていたそうだ。
けれど、僕達が登校する際に「いってらっしゃい」と声をかけたのは、穏やかな笑顔を携えた寮監、冴木誠その人だった。笑顔で手を振ったイヨに可笑しそうに笑いながら、愛想よく手を振り返していたのをよく覚えている。

後日、さりげなくした会話ではその日は確かに外へ出ていて、ここへ帰ってきたのは夜が更けた頃合いだったという。息子の結婚式に参列してきたという証言を訝しんだものの、SNSに載せたという息子との写真まで見せられては、否定のしようが無い。

彼が一体誰だったのかは分からない。分からないが、この学園内に、理事長に知られず人を遣わせることができる人間など、僕は1人しか知らない。


犯人を始末しつつ、僕達へ警告の為に接触する機会を得て、更にはイヨの学歴に傷を残さず一時帰宅させる事。この三つ辺りが目的だろう。…いや、もしかすると今回の件を足がかりに、職員の総入れ替え、もしくは補充を狙ってもいそうだ。替え玉の寮監のように、使える手駒を潜入させるために。

ともかくだ、どこまで考えているのかは計り知れないが、僕達…というかイヨにも恩恵を与えた訳だから、流石としか言いようがない。イヨの身近にいながら、イヨに悟られず事を進められるのはニルスさんくらいだろう。


まぁそれはそれとして、僕は僕なりに、イヨのことを守ろうと思っているのだけれど。


持ってきていた盗聴器やカメラは全て仕掛け終えた。これで今後は、事前にイヨの危機を察知する事が出来るだろう。機会を伺っていたせいで遅れてしまったが、多少強引なりとも早めにやっておけばよかったと、今になっては心底後悔している。


「イヨ、ごめんね、イヨ…」


守れなかったどころか、今日の昼、投げかけられた言葉にイヨが怯えている事にすら気づけなかった。人の機微を悟るのは得意だと思っていたが、まだまだ精進が必要みたいだ。彼のように、本能から察せるようにならないと、隠すのが上手いイヨには簡単に騙されてしまうだろう。

眠っているイヨの唇に何度も口付けを落として、労わるように彼の眦をそっと撫でた。深い眠りについてピクリとも動かないイヨに、ザワザワと心が波立つ。布団を捲りあげて、彼が着ているシャツの前ボタンをゆっくりと開ける。ベビーピンクの小さな突起を指で掠め、整った丸い輪の縁を撫でながらそっと体に耳を寄せた。とくとくと聞こえる落ち着いた鼓動に安心して起き上がり、指先でくるりと輪をなぞった。

ぷっくりと勃ち上がってきた突起を爪の先で優しくかりかりと引っ掻いてやれば、ピクリと僅かに身を震わせるイヨ。それがたまらなく可愛くて、サイドテーブルに手を伸ばし、すぐさま手に取ったスマホのレンズを向けた。


「かわいぃ…」


思わず漏れ出た呟きに口元を押さえる。この程度でイヨが目を覚ますわけがないが、起きてしまってはせっかく作り上げた王子様像が崩れてしまう。前回は夢現であったが、今回もそうとは限らないのだから、なるべく音を立てないように気をつけなければ。

ゆっくりと下着の中から性器を取り出し、掌で上下に擦る。形の良いぷるぷるな唇に、僕の男根を押し付け透明な汁を舐めさせたい。小さな舌でくびれの部分を愛撫されるのは気が狂ってしまうほどに気持ちがいいんだろうな…
そんな不埒な妄想で脳内を埋め尽くしながら、じわりと湧いて出た唾液を飲み込み、ぐっと眉間に皺を寄せる。


「イヨ…」


起こしたらいけないからと、触らないようにしていたのに。我慢の効かない体は欲望のままに動いてしまう。


「イヨ…イヨ…♡」


名前を囁きながら上体を屈める。首筋に口付けを落としながらスンスンとイヨの匂いを嗅いだ。イヨはいつも甘くて柔らかくて落ち着く香りがする。この香りを吸っていると、愚息はどうしても反応してしまうのだ。


「手を借りるね…♡あぁ…イヨの細い指が僕のちんぽを握ってる…♡かわいい…♡イヨは指まで可愛いね…♡」


力の入っていない、軽く握り込まれた掌を開かせ僕の性器に宛てがう。白く細い指が赤黒い怒張を握りしめているその光景は、あまりにも艶やかだ。美しい明暗に目を眩ませながら、白い手に自分の手を沿わせて、上下に扱く。先端から滴る粘性の強い汁を掌に纏わせながら、ゆっくりとぎこちなく動いていく手に愛おしさが溢れ出た。


「っ…、ふっ……、ぐ…」


上に着ているシャツの裾が降りてこないよう口に咥えながら、張り詰めたそれに伝わる感触をじっくりと堪能する。柔らかな指がくびれを掠める度に甘い痺れが全身を伝う。癖になる刺激に目を細めながら、しっとりとしたイヨの掌を使い根本から先端まで一気に扱き上げた。

「ッ、」

ぶるりと腹筋を震わせて吐精する。勢い余ってイヨの顔に飛んでしまったが…イヨも起きていないし、征服欲を味わえたから良しとしよう。ゆっくりと、なるべく肌を傷つけないように優しく白濁を拭い取っていく。


「ん、ぅ…あるぅ…?」


しまった、と心の中で呟いた。くわっと大きなあくびをこぼしたイヨは、紫色の瞳潤ませながらぼんやりとこちらを見つめている。眦はとろりと垂れ下がり、瞬きの回数も多い事から、完璧には覚醒していないのだろう。不幸中の幸い、いやむしろ不幸なんてないかもしれない。


「あぁ、イヨ…ダメじゃないか、ちゃんとお口で受け止めないと。こんな所にまでかかってしまっているよ?」


ぼんやりとしているイヨの頬に触れて、まとわり付いた白濁を指で掬う。ねっとりと指に絡みつく生暖かいそれを、僅かに開いたイヨの唇へと押しつけた。弾力のある柔らかな唇は、精液が塗りたくられた指を何の抵抗もなく迎え入れる。肉厚でざらついた舌が僕の指先を撫でるように掠め、次第に触手のように巻きつく。暫くくちゅくちゅと卑猥な水音を鳴らしながら口の中で僕の指を弄んだイヨは、満足気に瞳を蕩けさせてから、ぢゅぱっ、と音を立てて指を離した。


「…ん…ふ…♡なんか…にがぃ、よー…ぐると…?へんなのぉ………♡」


唾液でしとど濡れた唇を、赤い舌がちろりとなぞる。それだけで僕の怒張は、更に膨れ上がった。


「…イヨ、ほら、ちゃんと全部舐めとって?汚れちゃうから、ね?」
「んー…やだぁ………あうあはえさへへ…」


舌を曝け出しながら喉奥まで見えるように口を開ける様は何ともいやらしく、思わず眉がピクリと動いた。僕の性器をそのまま強引に捩じ込んで、頭を押さえつけながら腰を振りたくったら、イヨは泣くんだろうか?それとも怒ってしまうんだろうか?そんな妄想を思い浮かべながら、僕はイヨの頬を撫でる。
イヨの願い通り、僕が食べさせてあげるからね


「ん、ちゅ…ぁう…ん゛~~~…ん、ん、そえ、きもひ……」
「ここの、上のとこ、気持ちいいの?」
「はぁ、ぁ、う…ん…♡」


上顎を指で擦る度、ぴくりぴくりと体を撥ねさせながら快感に浸りうっとりと瞳を細める。どこで教わったわけでもない淫靡な仕草を、自然体のまま成してしまうのだから、イヨは魔性だ。いや、もしかすると淫魔なのかも?
なんて馬鹿なことを考えながら、綺麗になったイヨの顔中にキスを落とす。くふくふ笑いながら甘えるように首に腕を回したイヨは、その口元に笑みを浮かべながら、唇をほんの少し突き出した。


「ちゅうしたいの?」
「んー!」
「ふふ、イヨは甘えん坊さんだね…♡」


望むままに唇を重ねて、緩慢な動きで舌を絡め合わせる。ほんのりと苦味があるのは僕の精液だろう。イヨのねっとりとした生暖かい唾液と混ざり合って…さながらカクテルのようだ。すごく興奮する。
それはイヨも同じようで、唇を離そうとすると更にキツく抱きしめてくる。この可愛らしい僕の淫魔を、もっともっと、乱したい。


「ねぇイヨ、これよりもっと、気持ちいい事をしたくはないかな?」
「はぁ…はふ……ちゅうより、すごいの…?」
「うん、とってもね」


僕の問いかけへの答えは、子供のように無邪気な笑みだった。





「あ、あっ…ぁうッ…♡きもひ、きもちぃっ…♡とけうッ♡とけうぅ゛ッ…♡」


「は、ぅッ…♡ぁ゛~~~っ、は、ぁあっ…ぁう゛~~~~ッ…♡」


「ぁ゛、っはぁ…ぁあ゛あ゛~~~ッ♡、も、むぃっ…むりらかあッ…♡」



肩で息をしながら、口の端から唾液を垂らし眉を寄せているイヨが僕の頭をぐいぐいと押す。抵抗しているつもりなのだろうが、非力な事に加え、快楽で蕩けてしまっているせいか、寧ろねだっているようにしか感じられず、ついついぢゅる、と音を立てるように吸ってしまった。



「ぅ、ぁ、あ゛あ゛ァ゛~~~~ッッ♡」



がくがくと体を震わせたイヨが、悲鳴のような、けれど甘さを孕んだ声を上げる。瞬間、口の中に広がる苦味。僅かに粘ついたそれの量は少なく、味も薄い。これで5度目。薄まってしまうのも仕方ないだろう。
すっかり柔らかくなってしまったイヨの性器から口を離し、起き上がる。瞳にかかってしまった前髪をかき揚げながら見下げた目の前の光景に思わず笑みが漏れた。


「っ、はは…かわいい…」


足を広げたまま、体を真っ赤にして震えているイヨ。すべらかな肌は汗でしっとりと濡れていて、頬に張り付いた糸のような髪の毛が艶やかに映えている。ふるりとふるえたピンク色の性器は僕の唾液でてらてらと輝き、蠱惑的だ。潤ませた紫色の瞳は快楽に蕩け、口の端から垂れる唾液さえも美しい。
今のイヨを一目見れば、アフロディーテだって虜になってしまうだろう。…その場合、イヨは攫われてしまうから、僕は神を殺さなくちゃいけなくなるね

そばに置いていたスマホを手に取ってイヨにカメラを向ける。ぼんやりとした瞳を瞬かせたイヨは、不思議そうな顔をしながらも口元に笑みを浮かべた。


「ふふ、かわいいね♡…ピースはできる?…うん、してみようか」


僕の言葉に頷いたイヨは、重たそうに自身の手を持ち上げて、指先の曲がった下手くそなピースサインを頬のすぐ横に掲げた。その自然な仕草がすごく愛らしくて、思わず連写してしまう。


「そうだ、イヨのスマホにも残しておこうか♡ふたりの思い出として、ね?」


眉を下げてほんの少し口角を上げる。イヨは僕のこの顔に弱いから、すぐに肯定を示した。当たり前のようにパスコードを教えてくれたイヨにほくそ笑みながら、ロックを解除してアプリをそっとタップした。

イヨが自室で行っていた、先程の通話。その履歴の番号と登録されている電話番号、メールアドレスをザッと覚えてからカメラアプリを起動させる。一枚だけ写真を撮ってからすぐに消して、元の位置にそっとスマホを戻した。

僕が満足したのだと理解したのか、ぼんやりとしたままゆっくりと瞳を閉じていく。それがひどく惜しくて、覆い被さるように体を倒し艶めいた唇をそっと塞いだ。僅かに空いた隙間から舌を忍ばせ、掬うように舌を絡める。ぼんやりと、快楽の余韻に全身を浸していたイヨが、やっとはっきりと僕を見た。そのまま混じり合いながらも、投げ出された掌をぎゅっと握ると、ほんの少しだけ握り返される。それだけでどうしようもなく顔が熱くなった。

暫く舌を絡めあい、お互いを溶かし合った僕たちは、どちらからともなく唇を離す。名残惜しそうな表情を見せたのは一瞬で、それを捕まえるように、頬に掌を添えた。



「あるのて、きもちぃね…」



子猫のように顔を擦り寄せたイヨは、そう言って瞼を閉じる。すーすーと規則正しい呼吸音が聞こえてくるから、体力が底を尽きて眠ってしまったのだろう。先程抱いた惜しいという感情は、完全になくなってしまった。今はもう、この幸せそうな寝顔をずっと眺めていたいという願いで胸が埋め尽くされている。

まだまだ眠気は来ない。このまま暫く眺めていよう。……熱の引かない愚息を処理してから、になるけれど。


幸せそうに眠るイヨの頬をもう一度撫でてから、そっとその場を離れた。




───────────────


スマホに映し出されたメッセージを目で追う。送り主は、言わずもがなだ。


「……あの人達は四六時中監視してるのか…?」


思わず出た呟きにさっと口元を手で覆う。いくら高品質な盗聴器とはいえ、恐らく音は拾っていないはず。それにしても、彼らは本当に四六時中、それこそ仕事の最中でも関係なしにあれ見ていそうだ。こんなストーカー気質な兄2人に執着されているなんて、イヨはなんて可哀想なんだ…


「『写真を送るように』ね。……はぁ」


仰せのままに。
返信と共に写真を添付し、僕はそっとスマホの電源を落とした。
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