異世界ダンジョンでRTA

ユウリ

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第18話 約束

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「条件?」

ルカは頷く。

「カイト、今のあなたはまだ力は無いかもしれないわ」
「ああ、ルカにはバレバレだろうな……」
「でも……伸び代は十分に有ると思うわ」

本当にそうなのだろうか?
いまいち自分に自信は持てない。

「それで?」

結論が見えず、ルカを促す。

「今はまだいいわ……その代わり近い将来、私と真剣に戦って欲しいの」
「……理由を聞いても?」
「私が初級ダンジョンで、きまぐれにアイテムをあげてるのは知ってるわよね?」
「もちろん」

俺は自分の腕を上げてその手を振る。
もちろんその腕にはルカに貰った腕輪が身につけてある。

「なぜあげているのか、理由は想像できる?」
「いや……見当もつかないな」
「私なりの応援のつもりだったの……」
「応援?」
「早く私の所に来て欲しかったから」

なるほどな、俺はなんとなく理解した。
新人冒険者に装備品やアイテムを援助する事で、早く中級ダンジョンの奥まで来なさいよって事か?

だがそのアイテムの多くが高値で売られている事は黙っておこう。

「だが……なんで早く来て欲しいんだ?」
「真剣勝負をしたかったの……もうずーっとまともに戦ってないから……だから最近あなたのおかげで戦いとまではいかなくても、魔法を使って遊ぶ事ができてとても感謝しているわ」

ルカは戦いが好きなのだろうか?

それに昨日の講習は別にしても、エルフ国の騎士団長を魔法一発で片づけた事も遊びだった様だ。
彼女の求める対戦相手のレベルを考え俺は戦慄した。
俺が彼女の期待に答える事ができるとは思えない。

だが彼女の提案をはねのけるのは得策とは言えないだろう。

「分かった。俺で良ければ戦おう。但し、もっと強くなってからな」
「さすがね。あなたなら受けてくれると思ったわ」
「でもルカと命のやりとりはしたくないな……」
「ふふ、どうかしらね」

空気が弛緩する。
どうやら助かった様だ。
これで爺さんに馬鹿にされなくて済むな。

「じゃあ……私は負けを宣言した身だからそろそろ消えるわね。私がいると魔法陣が使えないから」
「分かった。またな」
「ええ。またねカイト」

そう言って消えるルカ。

それにしても、アイテム貰えなかったな。
目的の一つでもあったんだが。

しかし、さすがにあの空気で再度アイテムをくれとは言えなかった。

そういえばルカは他に変な事言ってなかったか?
なんていうかお互いの会話が噛みあわなかった瞬間が有ったというべきか。

まあ消えてしまったし、仕方が無い。次に会えた時に聞く事にするか。

ルカが消えた事により部屋の奥に魔法陣が発生する。
それを見て、帰れる事を実感できた。

「安心したら急に腹が減ったな。手持ちの保存食で済ます気分じゃないな……報告の件もあるし、ロイスにたかるか」

何せ俺はこの帝都の中級ダンジョンを初めてクリアした男だ。
ロイスも嫌とは言うまい。土産話をしてやればそれで十分の筈だ。
今から奴の驚く顔が楽しみだ。

魔法陣に乗り入り口付近まで戻る。

「そういえば魔法で連れてきてもらったから正規の入り口が分からないな……」

こっちか?
俺は勘を頼りに進む。

徐々に光が見えてきた。どうやら当たりの様だ。

え? 光?
俺の足は自然と早くなる。

外に出ると外は明るかった。
そうか、もう日を跨いでいたのか。

どうりでこんなに疲れている訳だ。
もうそろそろ足も限界にきている。
とりあえず食事をして、ゆっくり休みたい。

む。
そういえばおかしいな。
見張りの兵士がいない。中級ダンジョンは国が管理している筈なんだがな。
交代の時間か?

まあいいか。たいした事じゃない。

俺はそこでふと思い出す。

そういえば称号がもらえている筈だ。早速チェックしよう。

「おい!! お前ここで何をしている!!」

なにやらすごい剣幕で兵士が近付いてきた。

なんだ? やっぱり見張りはいたのか。それにしてもやけに喧嘩腰だな。

「何って? 何もしてないが……」

俺は正直に答えようと思ったが、考え事をしていただけで特に何もしていない。別に答える内容も無いのでそう返答する。

「何もしてない訳ないだろう! ここは立ち入り禁止区域だぞ!!」
「知ってるさ。許可は有る」

俺は得意気に、貰ったばかりの中級ダンジョン入出許可証を見せる。

兵士は許可証を覗きこむ。そして――

「おい、お前ら!! 来てくれ」

兵士が大きな声を上げる。

なんだなんだ?

兵士達がわらわら集まってくる。

俺が若造だから偽物か疑われてるのか?

呼びよせた兵士が全員に耳打ちして何かを伝えてる。
そして兵士達が俺の近くに寄ってくる。

「お……おい。何なんだよお前ら!」

俺は訳もわからず混乱する。

「よし。おとなしくしてろよ?」
「なっ? 何を?」

俺は兵士達に取り押さえられ縛り上げられる。
抵抗しようと試みたが、さすがに数人がかりでは歯が立たない。

「おい!! 一体何なんだよ!?」
「お前は怪しいやつだからな。城でゆっくり話を聞かせてもらう」

「……城か」

俺は激しく暴れてやろうかと思ったが、城と聞いてやめておくことにした。

どうせ疲れてるし、こいつらに運んでもらう事にしよう。
きっとこいつらは何か誤解してるだけだろうしな。

それにしても一体何なんだ?
許可証に不備が有ったか?
そういえば貰った後よく確かめていないな。


俺は兵士達に城に連行された。
運ばれている最中あまりの眠気に思わず寝てしまい、結果的に余計不審がられる事となった。

兵士に頭を殴られ起こされた俺は、いつの間にか城門の前に来ていた事に気がつく。

そこに見知った兵士がいたので後ろ手に縛られた状態で声をかける。

「よお小隊長じゃないか。昨日は世話になったな」

昨日ロイスへの取り次ぎをしてくれた小隊長だ。

「ああ、カイト様ですか? 今度は何の御用で…………」

そこまで言って小隊長の口が止まる。目に映る光景の異常さに気がついたからだろう。

「お前達? これは一体どういう事だ?」

小隊長が俺を連れてきた兵士達に問いかける。

兵士達はなにやら場の空気がおかしい事に気がつくが理由が分からず、とりあえず聞かれた事を素直に答える。

「この者が、立ち入り禁止区域をうろついていて何をしているのかと問いかけたところ、関係無い許可証を提示してきまして……それで城に連行してきました」
「カイト様。この者の話は本当ですか?」
「ああ。だが許可証が関係ないとは知らなかったな……タールの爺さんに問い合わせてくれ。そもそも俺をあそこに連れて行ったのはあいつだ」

俺を運んできた兵士達がざわめきだす。
聞いてないよ!! って言わんばかりだ。

俺が頼んで連れて行ってもらったとは言わない。
面倒事になっても困るしな。

「まさかタール様とまで面識が有ったとは……」

一度しか会った事ないけどな。

「おいお前達。とりあえず急いで縄をほどけ、失礼だぞ」

小隊長が兵士達に告げる。

確認もせずに解放か、よほどロイス達の友達という肩書は信用が有るみたいだ。

「失礼しました。この処分はいかようにも」
「いや、いいさ。こいつらはただ連れてきただけ……そうだろ?」

俺を殴った奴に笑いかける。

笑いかけられた兵士は何もリアクションができない。
相当ビビってるな。

ダンジョンをクリアしたお陰で気分がいい。
城まで連れてきてくれた訳だし。むしろ感謝だな。

「さすがカイト様。では中へどうぞ」
「ああ」
「お前達は持ち場に戻れ。カイト様に感謝するようにな」

まさかこのまま中に入れるとは思わなかった。
小隊長の判断か?
見るからに仕事ができそうなタイプだが。

「すまないがタールの爺さんの所に連れて行ってくれないか?」
「わかりました」

俺は爺さんの部屋の前まで案内してもらい、さらに小隊長にロイスを呼んでもらうように頼んだ。

さて、まず爺さんに報告するか。
飯はその後だ。
俺は爺さんのいる部屋へ入る。

「おい爺さん戻ったぞ」
「ほほ、思ったより遅かったのう」
「まあな……それより爺さん、昨日は失礼な事言っちまって悪かったな」
「なんじゃ急に? 昨日とは偉い違いだのう。身の程を知ったという事じゃな」
「そういう事にしておくか……」

俺は気分がいい。特に言い返す事はしなかった。
向こうは何やらニヤニヤしている。

「んじゃ爺さん。俺は飯食べてくるからまたな」
「おい待て! まだ報告を聞いとらんぞ!」

そういえばそうだった。
そもそもの目的を忘れてたな。

「爺さんが連れて行ってくれたお陰で無事攻略成功したぞ。まあ結構苦労したけどな」

俺は包み隠さず真実を話す。

爺さんはなぜか噴き出す

「フォッフォ……嘘はよせ。攻略できる訳がなかろう。今報告せずに帰ろうとしたのがいい証拠じゃわい」
「言ったな? 今証拠をみせてやるよ」

俺はステータスカードの新しく取得したであろう称号を見せてやろうかと思ったが、称号を他人に見せる事のリスクを考え、ギルドカードの攻略済みダンジョンのリストを見せる事にした。

ギルドカードを見て更新されている筈の項目を探す。

「中級……中級……あれ無いぞ」
「しらじらしいのう演技がバレバレじゃ。まあ楽しめたから一言謝ったら許してやらんでも……」

「上級? なんだこれ?」
「な……なんじゃと!?」

爺さんが激しく動揺している。
そして一緒に上級の項目を覗きこむ。

そこにはなんと帝都の上級ダンジョン攻略済みの表示が有った。

「な……なんだこれ? バグか?」
「お、おい……お主。お前が攻略したダンジョンの最初の敵はなんじゃった?」
「ん……たしかゴーレムだったか? あまり印象に残らない相手だったからな」
「こ……こりゃ大変じゃ……」

爺さんの顔が青ざめている。
何か知ってるのか?

何やらドタバタと音を立てて爺さんは部屋から飛び出して行った。

「なんだありゃ?」

そこにタイミング良くロイスが到着する。

「よお、今日も来たのか? 最近よく来るな。んで何の用だ?」
「丁度いいところに来たな。腹が減ってるんだ何か食わせてくれ」

ロイスはずっこける。

「そんな用事かよ!!」
「まあまあ、土産話もあるから落ち着けよ」

土産話の一言に少し心が動かされたみたいだ。

「まあいいけどな。兵舎でいいか?」
「ああいいぜ。たくさん食うつもりだからな」

俺とロイスは食堂に移動する。
俺は久しぶりの食事に興奮しながら、最初の一口に手をかけようとしたその時。

血相変えたライカが兵舎の食堂に雪崩れ込んできた。

「カイト殿!!」
「おお、ライカ。数日振りだな。調子はどうだ?」
「そんな場合ではない! カイト殿、理由は分かりませんが王が呼んでいます。至急来てください」
「はっ!? 王様なんて会った事ないぜ? いやそれよりも今は飯を……」
「後生ですカイト殿。食事なんて後でいくらでも食べさせてあげますから、ここはどうか……」

ライカは本気で困っている様だ。

「じゃあライカが後で作ってくれ。それなら行ってやってもいいぜ」

戸惑いを見せるライカだったが、それも一瞬の事だ。

「分かりました。それで手を打ちましょう」

言ってみるもんだな。
だが空腹は辛い。

俺は名残惜しそうに食事を睨みつつ、ライカ、ロイスと共に謁見の間に移動する。

玉座に王様が座っている。
前に一度会ったリンス姫、おっさんもいる。さっき消えたタールの爺さんもいた。
他にも幾人かいるが見知らぬ顔だ。

王様が口を開く。

「お主がカイト殿か?」
「ああ」

王様の質問に対してあまりに普通に返答してしまい、しまったと思わないでもなかったが、腹が減っていたのでどうでもよかった。

「カイト殿はリンスと一度話した事もあると聞く」
「ああ。前に一度ライカの部屋で話した事がある」

あきらかに周囲は動揺している。
たぶん俺の言葉遣いに。

だが当の本人は全く気にした様子はない。

「では知らぬ仲では無い訳か……どうじゃ? リンスを嫁に貰わんか?」
「はっ?」

俺は全く頭がついていかず思わずとぼけた声を発してしまう。

リンス姫も驚いている様だ。
どうやら初耳らしい。

俺が何を言うべきなのか必死に考えていると、リンス姫が先に口を開いた。

「失礼ですがお父様。カイト殿にはもう決まった相手がおります」

以前は俺を呼び捨てで呼んでいた筈のリンス姫も、さすがに王様が敬称をつけているのに自分が呼び捨てにするわけにもいかなかったみたいだ。

それにしても助かった。
どうやらリンス姫はエリザと俺の事は聞いているらしい。ライカ辺りから聞いたのだろう。

だが次の一言に俺は思わず噴き出す。


「カイト殿は……ライカと愛し合っているのです!!」


俺の周囲は、にわかに騒がしくなろうとしていた――
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