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13.暑さと三つ編みとちょっとだけの幸運
しおりを挟むジュガリエンから南部へ向かい、歩き続けて早ひと月。
次の街が近づくにつれ、日差しはじりじりと強さを増し、気温もぐんぐんと上がっていった。
その暑さに、メリィはすっかり参ってしまっている。
「あ”ぁ……暑いよぅ……」
ぐったりと足を止めると、顔をしかめて地面を睨みつける。
眉間には、これまで一度も見たことがないほど深いしわが寄っていた。
「大丈夫か、メリィ?」
ネロが心配そうに声をかける。
「う、うん……でも、ちょっと休憩したいかも……」
ゆらゆら揺れながらメリィは小さく答えた。
「だな。無理すんな。今日は早めに野営しよう」
ネロが頷き、全員一致で休憩を決定。
木陰を探して野営の準備を始める。
その間、メリィは近くの小川を見つけ、涼を求めて駆けていった。
「わたし、ちょっと川行ってくるね!」
元気に手を振って姿を消したが、日が傾いてもなかなか戻らない。
心配になったネロは探しに向かうことにした。
川辺をしばらく歩くと——水音の向こうにメリィの姿を見つける。
「メリィ、大丈夫か?」
声をかけると、メリィが振り返る。
膝丈ほどあるワンピース状の薄い布地で出来た服を着たまま水浴びをしている彼女の姿は、夕日に照らされその白い肌の華奢なラインを映し出している。
そう、俗に言えば、透けているのだ。
「っ、悪いっ…!」
ネロは即座に顔をそらし、フードで真っ赤な顔を覆った。
いくら一緒に眠っていたとしても、こういう視覚的状況に耐性があるわけでは無い。
そんなこととは露知らず、メリィはずんずんと近寄ってくる。
「あれ?ネロだ。川の水、すっごく気持ちいいよ!ネロも水浴びしたら?」
「わかったからオレに近付く前に服を着てくれ!!!!!!!!!!!」
バサバサバサと木に止まっていた鳥達が飛ぶ。
ネロが早口に叫んだ声は森中に響いた。
夕暮れ。
水浴びを終えたメリィの髪を、ネロがタオルで丁寧に拭いている。
その光景を、ワノツキとフィズが遠巻きに、生暖かい目でネロを見ていた。
「ありがと、ネロ」
メリィがニコリと笑う
「はぁ……。そのうち“風呂も一緒に入ろ”とか言い出して、全身洗わされるんじゃねえかと思うと……割とマジで未来が怖い……」
「そ、そんなこと言わないよ!?さすがに羞恥心はあるから!!」
顔を真っ赤にするメリィに、ネロはため息をつく——が、内心ほっとしていた。
暑さでぐったりしていたメリィが、こうして元気を取り戻してくれたのだから。
「番になっちゃえばいいのに」
二人のやり取りを見ていたフィズがジト目で呟いた。隣でワノツキもウンウンと頷く。
乾ききったメリィの髪は、湿気でふんわり膨らんでしまっていた。
それを見たネロは黙って座らせ、器用な手つきで三つ編みを編み始める。
「これで少しは涼しくなるだろ」
「わぁ……すっごく涼しい……首まわりが風通し良くなったー!」
ご満悦のメリィがくるりとネロの方を向こうとした、その時。
バチィィィィン!!!!
三つ編みの束がしなり、見事ワノツキの顔面を直撃。
「いでっ!!」
ワノツキが変な声を上げて顔をしかめる。
「ご、ごめん、ワノツキ!」
慌てて振り向いたメリィ——
バチィィィィン!!!
今度はネロの顔面にクリティカルヒット。
「おい、動く凶器かよ……」
思わず呟くネロ。
涙目のメリィの様子に、フィズが吹き出した。
「は、ははっ……!ぶ、武器になる三つ編みって新しいな!」
その笑いに釣られ、ワノツキも、ネロも、とうとう笑い出す。
その夜の森は、優しい笑い声に包まれた。
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