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48.ぬくもりの証
しおりを挟む鍛治の街の門が見えたとき、空はすっかり茜色に染まっていた。
肌寒さを運ぶ風が、森の木々を揺らしている。冬の気配が、もう確かにそこまで来ていた。
「依頼達成、だな」
ワノツキがぼそりと言った。
傷一つないハルバードを担いだズメウが、無言でうなずく。
タカチホは相変わらず飄々としながら「いやぁ、流石ズメウサン!まさかオークキングですら一刀両断とは~」と肩をすくめ、メルルとマヌルは「オーク、無事に倒せましたね!」「マヌル達なら余裕です!」と元気に跳ねている。
メリィとネロは並んで歩いていた。けれど、ふたりの間にはどこか、まだ言葉にできないものが残っていた。
鍛冶屋に戻り、依頼完了の報告を済ませた頃には、空には星が瞬いていた。
……それから、皆で軽く食事をとり、今日あった事を話して解散。
ズメウは鍛治師のところへ行くと言い、双子たちは宿の一室へ、タカチホとワノツキもそれぞれの夜へ。
そして、メリィとネロも、いつも通り、一緒の部屋へ戻ってきた。
⸻
ふたりで使う布団の上。
メリィは先に中に入り、ほっと息をついた。背中にネロの気配が近づく。ふわりと優しい藁の香り。彼の髪からする匂い。
「……メリィ」
「ん?どうしたの?ネロ」
振り返ると、ネロがじっとこちらを見ていた。その目はいつもより少し、暗く、揺れていた。
「今日……その、オーク相手だったろ。何かされなかったか?」
低い声。心配と……ほんの少し、怒りの色を含んでいる。
メリィは瞬きをした後、笑顔で続ける。
「ネロは心配性だね。大丈夫だよ!いつも通り、ズバッとやっつけたから!それにタカチホもいたしね」
悪気なく、素直に答える。けれどネロは唇を結んだまま、視線を外した。
「……そうか。でも、心配だったんだ」
「……?」
いつも隣にいたのに、今日は別行動だった。
……寂しかったのかもしれない。この人は。
そこでメリィは、ふふっと笑った。
今朝揶揄われたのを返すなら今じゃないか?と悪戯心がわいたのだ。
「ねぇネロ、そんなにわたしが一緒じゃないと、寂しかったの?」
そう言いながら、布団の中から上体を起こし、ネロの黒髪に手を伸ばす。
わしゃわしゃと髪をかき混ぜる様両手で撫でる。
「わたしがいないとだめだなぁ、ネロってば」
――その瞬間だった。
ネロの腕が伸び、メリィの手首を掴む。
そのまま、自分の方へぐいと引き寄せられた。
布団の中、密着する距離。メリィの胸がどきりと跳ねる。
ネロの顔が近い。頬にかかる黒髪。黒曜石のような瞳がじっと見下ろして――
「メリィ」
そっと、首筋に唇が落ちた。
ひやりとする感触。次いで、ちくりとした痛み。吸いつくような……。
「……ん、ひゃっ……!」
思わず声が漏れた。肩が跳ねる。
首筋には、うっすらと赤い跡。ネロの口づけの跡。
「……これでよし」
耳元で、低く囁かれた。満足そうな声と笑み。
「もう、離れたくないってわかったろ?……メリィ、あんまり煽らないでくれよ」
その言葉に、メリィの顔が一気に真っ赤になった。
「ネロの、ばか……!ばかぁぁぁぁ!!!」
ぷるぷる震えながら、メリィはばさっと布団にもぐり込む。顔まで、すっぽりと。
「隠れたって無駄だぞ」
ネロはくくっと笑った。けれど、それ以上は追わない。
隣の布団に体を預け、息苦しくなったのかひょこっと顔をだしたメリィの頭を優しく撫でる。
窓の外、風は冷たさを増していた。
冬はもうすぐそこまで来ている。
けれど――いま、この布団の中だけは、ふたりの温もりに包まれている。
凍てつく季節が来る前に、もう少しだけ、この小さな幸せを抱きしめながら眠ろう。
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