ヤンデレ魔王と絆され勇者

歪有 絵緖

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前編

大きな岩に突き刺さったその剣は、引き抜いてみれば思ったよりも軽く、エミリアの手に丁度良いと感じた。




剣を引き抜けた者が勇者だなんて、ベタ過ぎる。
前世が日本人だったというぼんやりした記憶を持つエミリアだが、今世はいわゆる剣と魔法の世界だった。
そして、特に魔法チートも知識チートもなく(魔法でそれなりに文化が発達しているのだ)日常生活に便利な魔法を駆使しながら、人の国の村人として平和に過ごしていると、魔王の世代交代があった。
この世界は、大まかに人の国と魔王国に分かれているのだ。

そして新しい魔王は、突然「世界を滅ぼす」とすべての国に向けて宣言した。


これまたベタに、人の国には勇者の剣と呼ばれるものが存在し、「世界に害をおよぼす魔王が出てきたとき、勇者の剣を引き抜いたものが魔王を御すことができる」という伝説のような史実があった。
魔王の言葉を受けて、腕自慢の騎士や冒険者たちが次々に試したが、剣は微動だにしなかった。そこで人の国中に通達があり、若く動けるものはとにかく剣を引き抜きに行くことになったのだ。
人の国は3つある。エミリアは勇者の剣を保存する国とは別の国に住んでいたが、健康で若い人は強制的に試すことになっていたので、魔王の蹂躙宣言から半年後、その国へ向かった。
近くの村の若者と一緒に行き、彼らが順番に剣を握ってはダメだと首を振る、という光景を「まぁモブだろうしな」と思いながら見ていた。そしてやる気のないエミリアが、スラっと引き抜いてしまった。
それはもう、豆腐に突き刺した箸のごとく軽く抜けた。


その後は大騒ぎで、勇者が現れたときのためにと整えられていた準備を見直し(男性を想定していたのだ)、一緒に魔王の元へ向かうメンバーとあわただしく顔合わせをした。そして付け焼刃程度に剣技を教えられ、道中も鍛えながら進むという方向でさっさと出発させられた。
現時点で、魔王はまだ魔王国の周りにある山を消し飛ばしたり、川を破壊して湖にしたり、人の国の国境付近の森を砂漠に変えたりといった土地に対する蹂躙だけを行っている。どうやら、いつでもできるからか気が向いたときにちょちょいと手を出しているようだ。
いつ人の国の方へ侵攻してくるか分からない、と戦々恐々としていたところに湧いて出た勇者。御せることはこれまでの歴史からほぼ確定らしいし、そりゃまあ急がせるだろう。
ほかのメンバーは、勇者の剣を保有していた国の第二王子である剣士、同じ国で大剣をかつぐ騎士団長、隣の国の高名な魔女、治癒に秀でた聖女、巨大なアイテムボックス魔法を持つポーターだ。



本来、魔王国はどちらかというと人の国々とは細々と交易があり、文化は違うもののまぁそれなりに知らないこともない隣人、という感じだった。
しかし、魔族の文化は基本的に実力主義なので、魔王によって魔王国の対応は変わる。
長い歴史の中では、まったくの不可侵になることもあったし、積極的に交流することもあった。そして新しい魔王は、国など関係なく破壊するという考えを持っているらしい。
その対象として魔王国も例外ではなかった。
魔王国に入るとさすがにかなりの緊張を強いられたのだが、勇者として魔王に対峙しに来たと知ると、魔族たちはむしろ喜んで協力してくれた。
人の国には伝わっていなかったが、広い魔王国内ではすでに地形が変わるほどの蹂躙があちこちの地域で行われていたようだ。人的被害はまだだったが、やはり息をひそめて生活していたらしい。
反抗しないのか、と聞いてみたが、魔王は別格すぎて敵うものではないらしく、皆一様に諦めていた。そして、勇者に希望を託していた。


魔王国はかなり広いので、移動の魔法も使いながら魔王の城を目指すこと3ヶ月。
予想よりもずっと順調に進み、たまに出る魔獣(魔族と違って意思疎通ができず、人や魔族を襲う獣のことだ)を倒す程度の戦闘しかなかった6人は、とうとう魔王と対峙した。


魔王城には強い魔法の気配がするだけで人影がなく、拍子抜けするほどにサクサクと入れた。
そして魔王は、謁見室らしき広いホールの一段高くなったところに設置されたカウチにだらりと寝ころんでいた。
「なんだ、人か?あぁ、勇者が出たとかいったか」
魔王は、顔を向けるどころか目を開けることもなくそう言った。
一般的に、魔族は暗めの髪や目の色が多い。とはいっても、エミリアの記憶からすると少し日焼け気味の肌に、染めたような明るい茶色や紺色、濃い灰色といったところだ。彩度と明度が低めと言えば伝わるだろうか。
対して、人は明るくカラフル。肌は白めで、目や髪は彩度高めな原色系が多い。エミリアも、空色の髪に黄色の瞳でなんとも目に優しくない。
しかし、魔王の髪は、まごうことなき真っ黒だった。

なんとなく懐かしい気分になりながらも、エミリアはメンバーの前に立って口を開いた。
「魔王!世界を破壊しつくすと宣言してたけど、まだ考えは変わらないの?」
「あぁ、そうだな」
魔王は、顔をこちらに向けることもなく言った。だらっと寝ころんだまま微動だにしないあたり、こちらのことはどうとでもなると思っているらしい。
むしろ、どうとでもできる存在だからこそ、戯れで会話してやれるほど余裕があるのだろう。
「あなたはなぜ、破壊したいの?」
「それは……することがなくて暇だからだ」
「はぁっ?!魔王国を治めるのってそんな何もすることないわけ?」
「威圧すればもめごとはすべて解決する。故にすることがない」
「そんなわけないでしょうが!ここに来るまでにいろんなところを見たけど、魔王国の中だけでも普通に問題だらけだったわよ!魔獣の被害とか隣町との連携とか種族ごとのいざこざとか!そいういうのを解決するのが上に立つ者でしょう!」
できれば民主主義であってほしいところだったが、魔法が存在して明らかに個人によって実力差があるうえ、魔獣をはじめとした自然環境の厳しい世界ではあまり合わない政治手法なのだろう。実力のあるものが権力を持ち、その代わり庇護下に置いた者たちを守るという方法が判断が早いし命を守れる。
しかし、独裁政治は権力者の考え方によって天国にも地獄にもなる。

暇つぶしで世界を壊されてはたまらない。
せっかく生まれ変わったのに、気分でその命を刈り取られてたまるものか。
エミリアは、止めようとするメンバーを振り切り、ずかずかと魔王のいる壇上へ上がった。
それでも身動きをしない魔王のすぐそばに立ち、一発ビンタでもしてやろうと胸倉を掴んだ。
「やる気がないなら魔王なんか辞めればいいのよ!それこそ、威圧して次の実力者にでも譲ればいいでしょ!!そこに居座るつもりなら、ちゃんと国王としての義務を果たしなさいよね!」
服を掴まれ少し頭を持ち上げられた魔王は、めんどくさそうに目を開いた。
「まったく、威勢だけはいいヤツ、だ……」
エミリアを見つめる瞳は、懐かしい真っ黒だった。

その端正な顔を思わず見つめていると、魔王の瞳がぎらりと揺らぎ、冷たい光をたたえていたのが一気に熱を持った。

そして、腹筋の力だけで起き上がってその勢いのままエミリアをガバッと抱きしめた。
布の多い服でマントまで着ていたので分からなかったが、思ったよりも筋肉質でがっしりした男性だった。力も強く、付け焼刃で鍛えた程度のエミリアは抱き込まれれば身じろぎすらできない。


とても驚いたのだが、自分でも意味が分からないことに。
嫌悪感は一切湧かなかった。


気づけば、2人の周りには認識阻害らしき魔法が展開されていた。
声は聞こえているので、討伐メンバーの焦る声や、大丈夫か?!と問いかける声は聞こえている。しかし、どうやら魔法で足止めされているようで動けないと言うのも耳に入ってきた。

そんなことは気にしないようで、魔王は強く、でも温かくエミリアを抱き込んだまま、語りかけてきた。
「そうだな……。お前が私の元にいるというのなら、世界の破壊はやめてやろう」
耳元で言われ、エミリアは思わず背筋を震わせた。

「何っ?!エミリア殿っ!それはいけない!!」
「だめよ、やめてっ!!」
魔王の言葉は向こうにも聞こえたらしく、騎士団長と魔女の焦る声が聞こえた。
「エミリアさん!気を確かに持って、剣を使ってください!!」
これは、聖女だ。
「魔王を倒して、国に帰りましょう!エミリア様っ!!」
ポーターも声を張り上げている。
「っやめろ!!エミリアー!!」
叫んでいるのは第二王子だ。

旅の道中、討伐が終わったら勇者は王族と結婚するのが褒賞の一部だと言われ、メンバーはそれが決定事項かのように接してきていた。しかし、エミリアは褒賞にお金だけを願い、身分は不要であると国に伝えており、了承されていたのでまったくその気はなかった。メンバーにも伝えているのだが、どうやら照れ隠しか何かだと思われているようで聞いてもらえない。
しかし、好みでもない男性王子と結婚させられるなんて願い下げである。
その点で言うなら、少なくとも魔王の見た目はエミリアの好みにドンピシャだった。


「私の手元に堕ちてこないなら、そうだな……お前以外を消し去れば、いいか」
そこはかとなく匂ってくるヤンデレ臭はともかく。


「……あたしは、勇者です!勇者の目的は、魔王の脅威から世界を守ること。あたしが貴方のところにいるだけで侵攻をやめてくれるっていうなら、喜んで傍に居るわ!!」
抱き込まれたままそう叫ぶと、魔王は少し身体を離して、満面の笑みを浮かべてエミリアを見つめた。
「そうか!もちろん、やることをヤルぞ?」
あからさまな表現に答える前に、外野から文句が飛び込んできた。

「エミリア殿!魔王を討伐するのです!!」
「エミリアさんっ!!」
「どうか、倒してくださいぃっ!」
魔王がその声の方へ、絶対零度の視線をちらりと向けたのを見て、エミリアは慌てて魔王に抱きついて叫んだ。
ろくに振れない剣が腰で音を立てたが、抜く気はない。
「嫌よ!ここまで来るのにだって、人とも魔族とも、誰とも剣を交えていない!あたしに人殺しなんて無理よっ!!だいたい、勇者の役割は討伐じゃないって何度も聞いたでしょうが!!平和的な解決ができるならそれがいちばんんんっぅ!!!」
上手く解決できるならそれが一番だ、と言われて送り出されたのだ。討伐も王子との結婚も、パーティーメンバーだけが何やら盛り上がっていたこと。
自分だけ残るからお前らは帰れ、と続けようとした口は、魔王のそれによって塞がれた。

「んっ……ふ、ぁ……んっく」
次第に深くなるキスに翻弄され、少し顔が離れたときには思考がふわふわとしていた。
じっと見た魔王の後ろにあったはずの認識阻害の魔法壁が無くなっていることに気づき、ちらりとメンバーがいた方を見たが、誰もいなかった。
そういえば、キスをした直後から静かになっていた。
「え?あの、みんなは?」
エミリアが聞くと、とろりとした表情から一気に無になった魔王が答えた。
「国に帰した」
そして、言い終わると同時に風景が一変した。

先ほどまでの広くて寒々とした広間から、ダークブルーを主体とした落ち着いた寝室らしいところへ。
スムーズな流れで押し倒され、エミリアは魔王を見上げた。
「あの王子か?騎士か?ポーターか?まさか、魔女か聖女?誰だ、殺してくる」
「は?え、なん、何の話?」
「お前の心を、奪っているやつだ」
黒い瞳が狂気に満ちていた。

これは、選択を間違えると世界がもう一回危機に瀕するやつだ。

「そんな人、いないけど?今、あたしの思考を占めてるのは、魔王あなたよ」
ぞわぞわする恐怖を押さえ込んで、睨むように魔王を見ながら言えば、彼は狂気を引っ込めて嬉しそうに目を細めた。
「なんだ、そうか」
そして、いそいそとエミリアの服を引きはがし始めた。



「んっ!んっ!!ぁあ!ふぁっ、ぁあん!」
念入りに解されたものの、初めて拓かれた痛みはあった。しかし、魔王が魔法で痛みを逃してくれたおかげせいで、すぐに快感に飲み込まれた。
そして魔王が3度ほど吐精する間に、数えきれないほど高みを見せられた。
さすがにそこで体力が尽き、一度眠ったのだが。
「んんー!ゃ、あ?!イっちゃ、イっちゃう!!イ、くぅぅぅう、っああああ!」
一人で起きて、魔法で出した水を飲んでいたら魔王が寝室に帰ってきた。そしてそのままベッドになだれ込んだ。
抵抗は、できなかったししなかった。
「エミリアっ!エミ……っ!!!」
「んんんっ……!っは、ぁ」
どぷり、と放たれた精をエミリアは身体をひくつかせながら受け入れた。
名を問われて教えてから、もう何度呼ばれたか分からない。





ねちっこく激しく抱かれて気絶し、魔法で出した水を飲んでいたらまた魔王が戻ってきて抱かれて気絶、を繰り返して体感2日。
なんとか気を失うことなくベッドに沈み、魔法で綺麗にしてもらったところで言葉がこぼれた。
「おなかすいた……」
「む?そうか、人の身体だと食物が必要なのだったな。ちょうどいい、魔力を生命力へ変えられるようにしてやろう」
「え、あの、食べるの好きなので、できれば食べたいです」
魔王が何やら魔法を使おうとしたが、思考がうまく働かなくて、エミリアは思わず素直に自分の希望を伝えてしまった。
それを聞いた魔王は、真っ黒な瞳をエミリアに向けた。
「ならば、人に合わせた食事を用意させよう。それでも、何があるかわからないからな。エミの意志で魔力を生命力に変えられるようにはするぞ。寿命もだ」
その黒にあったのは、支配や欲ではなく、温かいものだった。だから、エミリアはそれがどういうことなのかを考える前に頷いてしまった。
「わかったわ」

ふわり、と心地よい魔法に包まれると、身体の中から何かが変わった気がした。ついでに、こびりついていたアレコレもさっぱりした。
前から人や魔物の魔力を感知することはできたが、空気中の魔力までなんとなく分かるようになっていた。そして、それをどうすれば摂り入れることができるかも。
きっと、魔力や寿命をいじられたことで、既に自分は人間といえる生き物ではなくなったのだろう。
それでも、根本にある『エミリアは勇者である』という部分に変化はない。むしろ、生きている限り魔王の脅威から世界を守れるのだから、魔王自ら勇者に協力してくれたようなものだ。


そうしてぼんやりしていると、どこかから取り出した布を頭から被せられた。ごそごそと腕を通して皺を伸ばせば、ゆったりしたワンピースだった。
着終わると当然のように抱き上げられ、続きの間へ連れて行かれた。
机の上には食事が用意されており、魔王は腕にエミリアを抱えたまま椅子に座った。

「食え」
そう言って、魔王は一口大にちぎったパンをエミリアの口へと近づけた。
あーん、である。
それは恥ずかしすぎるので、手を上げて受け取ろうとしたが、震えてうまく動かせなかった。
人ではないものになったとはいえ、筋力や体力などはそのままらしい。
仕方がないのであきらめて、頬を染めたまま口を開いた。
そっと押し込まれたパンは、ほのかに温かかった。

そのまま、パンもスープもサラダも肉も、食べやすい大きさに切られて口へ運ばれた。
甲斐甲斐しい。

思わずほだされそうになったが、食べ終わって少し休むとまたすぐにベッドへ連れ込まれた。
鬼畜だ。
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