2 / 4
ラノベ主人公の悪役令嬢は不在だが攻略対象はいる
授業についていくのはなかなか大変だ。
基本的に、午前が様々な座学や選択授業で、午後はもっぱら魔法の理論と実技の授業である。
座学は、隣国の言語や歴史、地理学、数学、経済学、経営学、国文学、天文学と幅広い。とはいえ、事前の家庭教師の授業のおかげでなんとかついていけた。
魔法の理論は若干ちんぷんかんぷんのところもあるが、基本的に1~3回の授業に分けて術の基礎を一つずつ学び、それが繋がっていくので、面白くて聞いていられる。これは授業のほかに放課後の自主勉強で補完すればなんとかなりそうだ。
魔法の実技については時間もなく、一からになるので、1人特別授業だ。
ほかのクラスメイトがカリキュラム通りに魔法実技の授業を進める中、スサンナだけはサポートに入った先生と1対1である。これはさすがに放置は危ないということで、スサンナだけの特別措置らしい。とはいえ、授業時間丸々付くのではなく、初めに新しい内容を教えてくれて、中抜けして仕事をしてから終わりのころに習得度を確認するだけだ。ほかの授業を担当する教諭なので、つきっきりというわけにはいかないらしい。
そのため、魔法が得意な侯爵家の長男が教諭に頼まれて見本を見せてくれることもあったが、それはエセ記憶によるとエセ乙女ゲームのイベントだった。そのシナリオによれば、
『わぁ、すごぉい!私にもそんなことできるのかなぁ(ちらっちら)』
という態度を取ると、
『仕方ないからどうしてもというなら教えてやってもいい(ツンデレ枠)』
フラグが立つらしい。
もちろん、そんなフラグはバキバキにする一択だ。
「では、呪文はあくまでサポートであって、重要なのはイメージなんですね」
「そうだ」
ぐだぐだとあれこれ説明してくれたのを、1行でまとめると彼は頷いた。
呪文なしで魔法を行使するのは、どうやら貴族としてのステータスらしく、通常は2学年に上がる前に習得するという。
「……っ!できました!マケライネン様、これで合ってますか?」
イメージして魔力を集めると、目の前に水球が出てきた。
侯爵家長男の名前はエンシオ・マケライネンという。エセ乙女ゲームでは無許可で早々に名前で呼び、
『あっれぇ?わたし、なかなかできなぁい。エンシオ様ってばすごぉい!』
とかなんとか甘えることで、親のプレッシャーと周りの期待に潰れそうになっていた彼の庇護欲的な何かを刺激して恋愛関係にもっていくらしい。
―― よいしょしてくれる人をパートナーに選ぶとか、ないわー。
実際には、教えてくれる魔法の先輩として接していれば、いたって普通の優秀で真面目な男の子だ。
エセ乙女ゲームの感じからすると、貴族的な間接的言い回しではなく、直接的に褒めてくれる可愛い女の子にクラっときた、というところなのかもしれない。
今もこちらに興味を持つような感じはなく、むしろ自分の授業の時間が削られるので若干迷惑そうだ。
「そうです。その魔力の巡りを覚えてください。あとはイメージを固めれば魔法が発現します。何度か練習すれば、イメージと発現魔法の不一致が減り、発現までの時間も短くなるでしょう」
「あとは練習あるのみ、ですね。ありがとうございます」
「えぇ。がんばってください」
そして、エンシオは個人練習をしているほかのクラスメイトと同じ場所へ向かった。
脳裏に浮かぶ、微妙に距離を詰める2人的なモノローグとは違う景色に、スサンナはほっと息をついた。
これから、スサンナに教えたよりも高度な練習をするのだろう。スサンナは、無詠唱での魔法発動の練習を繰り返すだけだ。
クラスメイトとして、それなりに良い距離感だと思う。
ちらりとエンシオが行った方を見れば、アードルフも練習していた。
どうやら今は火魔法の応用を練習しているようだ。
危険度の関係から、水系の魔法から学び始め、土、風、火と学んでいく。2年までに風の魔法を発現させ、空間魔法や定型化されている日常に便利な魔法も学ぶという。3学年では火魔法を習得し、さらに応用として攻撃力の高い魔法や結界なども学ぶと教諭から聞いた。
アードルフは小さい火を灯し、少しずつ大きくしたり小さくしたりと操作している。
その横顔が綺麗で、スサンナはいつもうっかり見惚れてしまう。そして、魔法の腕も確かだ。失敗するところを見たことがないし、エンシオの次によく見本としてデモンストレーションしているのも見て知っている。
スサンナの見本にならないのは、アードルフが第二王子の側近として控えていることを考慮した結果のようだ。
少し残念だが、アードルフに教わると緊張してしまうだろうし、見惚れて失敗しそうだ。
授業中にちらりと見るだけで、充分にスサンナの心は満たされる。
魔法は楽しいし、アードルフの素敵な姿も見られるしと魔法の授業がすっかり楽しみになった。
エンシオに教わることについてのやっかみはほとんどない。
直接的なことを言われたのは一度だけだ。そして、その一度のやりとりでもろもろの問題が解決した。
それは、魔法実技の授業で3回ほどエンシオに教わった後。
放課後に同じクラスの女子生徒に呼び止められた。彼女の後ろには3人ほどの女子生徒がいたが、いずれも可愛らしい子たちだ。
なお、エセ記憶によると、これは定番のイベントだ。エセ乙女ゲームなら悪役令嬢が出てくるところらしいし、エセ記憶のスチル的なイラストイメージでは、呼び止めた女生徒は悪役令嬢の後ろに付き従っていた。
ついでに、ここでエンシオが出てきてまた好感度をあげることになるという流れだが、そもそものきっかけを作っていないので来ないはずである。
「魔法を知らなかったなんて、本当に半分平民なのね」
「はい、そうです」
上から目線で言われた。
しかしそれはむしろ事実の確認でしかないのですんなり答えると、女生徒たちは明らかに拍子抜けした。そこから持ち直したのは呼び止めた女生徒だ。
「まったく、だからといってマケライネン様に教わるだなんて、羨ましいですこと」
目線は見下しているので、嫌味を言っているらしい。
―― 教わってるからって調子に乗るなってことかね。
「そうですね、今日は水魔法の基礎的な発現と短縮呪文を一通り復習しました」
「まぁ……まだそんなところなのね」
「あと、土魔法と風魔法と火魔法の発現を復習しました」
「それなら、思ったよりは進めているのね」
「その後、それぞれの短縮呪文を10種類ずつ教わったので、発現できるまで練習しました。どうにか発現できたので及第点ということでした」
「え?あ……え?そ、そんなにスパルタなんですのね……」
ドン引きされた。
ちなみに、及第点とはエンシオの言葉そのままである。
彼女はアイヤ・エルヴァスティと名乗った。エルヴァスティ侯爵家の次女だという。
エンシオに好意を持ったがゆえに魔法実技や理論を頑張っていて、そこそこ親しいと言っていた。周りの女子生徒は友人で、どうやらアイヤを応援しているらしい。エンシオもアイヤも侯爵家でバランスがとれているし、学園に来る前からアイヤがエンシオを好きでいたとも聞いた。
―― これ、ちょうどいいじゃない?
スサンナは、アイヤを人身御供にすることに決めた。
本人はエンシオが好きらしいし、これはウィンウィンの関係である。
それからは、たまにエンシオと雑談して仕入れた情報をアイヤに流すという形でアイヤたちと仲良くなっていった。
するとアイヤの取り巻きグループに入ったとみなされて、遠巻きにしていたほかの女生徒たちとも話すことが増えた。
アイヤにエンシオの言葉をそのまま伝えるとその厳しさに少し引いていたが、それもまたいいらしい。
彼女はちょっとツンデレ気味だが、照れると可愛い。
スサンナは、魔法実技でのエンシオとのちょっとした雑談の中に少しずつアイヤの話題を乗せてみた。どうやら元々親しい友人枠だったらしく、エンシオの感触は悪くなかった。
エンシオにはぜひツンデレにハマってほしい。
そうして、放課後は勉強だけではなく、たまにアイヤたちとお茶会をするようになった。
学園での攻略対象の最後、騎士団長の三男はウオレヴィ・サヴィカンナスという。爵位は伯爵で、剣術の授業では右に出る者がいないらしい。
8割ほどの男子のほか、一部の騎士を目指す女子が剣術を行っている間、剣術をとっていない生徒は刺繍や歌、楽器などほかの授業を受けている。
スサンナは、後で役立ちそうなので刺繍を選択した。刺繍をしながらあれこれ噂話もするので、情報収集に良い授業である。
アイヤたちは、エンシオが楽器の授業をとっているので仲良く楽器だ。
エセ記憶によれば、エンシオと第二王子を狙うなら楽器の授業、ウオレヴィなら歌、隠しキャラは剣術を選ぶことになっていた。外の2人ならこれらの中のどれか。わざとではなかったが、たまたまエセ乙女ゲームとは違うものを選んでいた。
ウオレヴィの噂は、刺繍の授業で話すようになった女子生徒たちから聞いた。
スサンナが彼と関わることはほぼない。
エセ乙女ゲームのシナリオでは、教室に忘れられたタオルにウオレヴィの名前が刺繍されていて、ヒロインが届けに行くことが第一のフラグらしい。
届けに行った先で練習試合を見て(つまり授業をサボって)、
『すごぉい!強いんですね☆私も貴方みたいな騎士様に守られてみたいです(きゃっ』
のような眩暈を覚えるセリフで相手を良い気分にさせてひっかけるらしい。
ちなみに、それに対する答えは
『そんな風に、騎士としてのオレを認めてくれる女性は初めてだよ(ワンコ枠』
だ。
―― いやいや、いままでにも認めてる女子はいただろうけど、貴族らしく直接的には言わなかっただけでしょ。
教室でタオルを見つけたので、スサンナは近くにいた男子生徒にタオルを託した。
・自分で持って行く
・近くを歩いていた女子生徒にどうしたらいいか聞く
・知らなかったことにする
の3択とは違う行動を選んだ。
一応、ゲームっぽくエセ記憶の行動はいくつかの選択式になっているらしい。
アードルフも剣術の授業を受けているので見に行かないのはちょっと惜しい気がしたけれど、今回はシナリオをスルーする方が大事だ。
そういえば、転入初日の頭痛のときにも選択肢が脳内に浮かんでいたが、頭痛が酷すぎてそれどころじゃなかった。
あのときは確か、
・とにかく教室に向かう(第二王子のフラグその1)
・近くを通った人に助けを求める(第二王子のフラグその2)
・家に帰る(学園外の2人へのフラグ)
というものだった。
たまたま選択肢にない行動をとったのだ。そして、言動が自由にできるらしいと気づけた。
とにかくどんなフラグも全部折りたいので、スサンナはわかる限り、あえて違う言動をするように心がけている。
これまでの刺繍の授業中に聞いた噂話は、第二王子にはとある侯爵家の令嬢が一応婚約者候補になっているとか、アードルフのラウティオラ公爵家は自由恋愛主義なので自分で相手を見つけることになっているがまだ決めていないようだとか、エンシオには気になる女生徒がいるようだ(どうやらアイヤのことらしい)とか、ウオレヴィには上級生の女子がアプローチしているだとか。
そのほかにも、学園生の噂だけではなく、国内情勢の話や隣国の情報から、座学で難しかった部分、最新の魔法、貴族でのファッションの流行、人気の演劇、面白かった本のことまで、話題はものすごく幅広い。
この国の貴族は、男女関係なく、ある程度以上の知識を有していることがステータスのようだ。
あのエセ乙女ゲームのヒロインのような、
『難しいことはわかんないの(てへっ☆』
という女子は見かけない。知らないことは学ぼうとしているし、知識面でも美容面でも努力する魅力的な女子ばかりだ。そして、そういう女子がモテる。
ますます、エセ乙女ゲームのヒロインの魅力がよくわからない。
もちろん、頼られるのは嬉しいことだろう。けれど、なんでもかんでもおんぶにだっこより、普段自立している女子がたまに『助けて』という方が、特別感があってぐっとくる気がする。
刺繍の授業では大体は聞き役に徹しているのだが、たまに意見を求められてスサンナが言葉を口にすることがある。
多くは庶民の暮らしについてのことが多いのだが、今回はちょっと違った。
「ヒルヴィサーリ様は、ラウティオラ様がお好きなんですの?」
「え?あ、えっと、その」
唐突に聞かれ、スサンナは明確に答えることができなかった。
恋バナは世界を超えて女性の好きな話題らしい。少し向こうで違う話をしていた女生徒たちも話に入ってきた。
「まぁ、ラウティオラ様を?」
「良く見てらっしゃいますものね。そうよね、公爵家の方ですし、見た目は素敵ですもの」
どうやら、スサンナの視線でバレていたらしい。
「将来的には、第二王子殿下について外国へ赴くことが多そうですから大変そうですけれど、有望といえば有望ですものね」
「いくつかの外国語を覚えれば、ついて行くこともできそうですわ」
「まぁ、夫婦揃うことが必須の国以外はついて行かなくても良いかもしれませんわ。その間は悠々自適ですわね」
「公爵家の跡取りではありませんから、そこまでの重責はありませんね」
「ラウティオラ公爵家は自由恋愛主義ですものね。可能性は、なくはありませんわ」
「でもねぇ……」
「そうですわねぇ……」
「あれを知っているとちょっと」
「私もナシですわ」
何人もの女生徒が口々にアードルフのことを教えてくれた後、もにょりと言葉を濁した。なんならナシ発言である。
「何か、あったんですか?」
質問した方がいい空気だったので、スサンナは周りを伺いながら聞いた。
「ヒルヴィサーリ様は編入生ですものね。ご存じないでしょう」
「下級生たちは、間違いがないようにどこかから聞いているものですけれど、最近貴族になったばかりなら知らないのも頷けますわ」
口を動かしながらも、手を止めないのはさすがである。
そしてその腕前も確かだ。
スサンナは、慣れていないこともあってゆっくりしか針を進められない。話をしながらならそれこそ手が止まる。
だから、話してくれるのを適当に聞く方が楽だ。
しかし今回は、しっかり聞きたい内容なのでやはり針が進まなかった。下手をすると手を縫ってしまうから、あえて止めたともいう。
「ぼんやりした言葉だけでは、ヒルヴィサーリ様もお困りですわ」
「そうですわね。でも、ちょっと口にしづらい内容なのでどうしても」
「ですが、きちんとお伝えしませんと、同じことが起こる可能性がありますわ」
「その通りでしょう。……ヒルヴィサーリ様、ラウティオラ様にその気持ちを告げる前に知っておいた方が良いですわ」
唐突に告白前に知っておくようにと言われ、スサンナは大人しく頷いた。
「はぃ……」
「実は、1年生のときに上級生の方がラウティオラ様に告白なさったんですの」
「授業が違うので、放課後にわざわざ呼び止められてお声をかけられたんですわ」
「ですから、皆が見てしまっていたのも外聞が悪かったですわね」
彼女たちの記憶をまとめて当時の会話を再現するとこうだ。
『ラウティオラ様、折り入ってお話があります』
『何ですか?』
『わたくしと、結婚を前提にお付き合いいただけませんか?』
『なぜですか?』
『ラウティオラ様のお家柄、恋愛結婚だということは知っております。ですから、まずは近しいお付き合いをお願いしたいと考えたのですわ』
『それなら、“結婚を前提とした”という前置きはおかしいですね。私は結婚するかどうかは先に決められないと思っています』
『そ、そうですか?わたくしとしては、ラウティオラ様と結婚したいと考えておりますから』
『ですから、それはなぜですか?』
『……ラウティオラ様は素敵ですもの。第二王子殿下に近しい立ち位置ですし、将来的に有望ですわ。見目麗しく、剣術もお上手、魔法も勉学もよくおできになっていると聞いています。公爵家との繋がりも嬉しい要素ですわ』
理由としてはいたって貴族らしいというか、政略や打算よりも若干感情寄りなので珍しい部類だろう。
しかし、アードルフは納得しなかった。
『そうですか。わが家が恋愛結婚主義というのはご存じですよね?』
『えぇ、もちろんです。ですから』
『貴女の恋愛観がそれだというのは理解しました。申し訳ありませんが、条件が合いませんのでお断りします』
『条件?それはいったい何ですか?』
『私の後ろにある“公爵家”というものを見ない女性です。それから、魔法か知略のいずれかで、私の将来に役立ってくれる人ですね。私とともに第二王子殿下に仕える気概のある方ならなお良いでしょう』
告白した上級生は絶句して、答えることなく立ち去って行った。
ここ、ヴェルホン・ラッカウス王国では、貴族女性の職はほとんどない。
下位貴族なら上位貴族の家や王城に花嫁修業代わりに女官として入ることはあるが、それも結婚までのことである。どちらかというと、家のことや領地運営を手伝うのが女性貴族の仕事という位置づけだ。普通の貴族は、よっぽど金銭的に困っていない限り妻が外に働きに出ることはない。
妻が外貨を稼ぐということは、それほどに貧乏か、よっぽど妻が自由奔放ということだ。いずれにしても夫の甲斐性がないとみなされる。
つまり、妻が内向きの仕事をするのは暗黙のルールのようなものだ。
アードルフは、ラウティオラ公爵家が持ついくつかの爵位のうちのどれかを継ぐと決まっているので、このルールが適用されるはずなのだが、それを破れと言ってきたわけだ。
それに、アードルフが公爵家の次男であることは取り違えようのない事実であり、当然結婚相手選びの要素になることなので、それを見ないとはつまり貴族としてのつながりを期待するなと告げるのと同義といえる。これもまた、貴族における家同士のつながりというルールを無視すると言っているように聞こえたのだ。
「ですから、普通の感覚でしたらまず“ありえない”というわけです」
「そうなんですね」
スサンナは言いたいことが分かって頷いた。
彼女たちは外貨を稼ぐ仕事はしないものの、嫁ぎ先(ほとんどの貴族女性はどこかに嫁ぐらしい)の領地を盛り立てるという仕事を見据えて熱心に学んでいるし、実家と嫁ぎ先を繋ぐ架け橋となることを念頭に置いており、それに誇りを持っている。
第二王子殿下に仕えるということは、一緒に外貨を稼いでくれということで、彼女たちがこれまで頑張ってきた内容を否定するように聞こえたのだろう。公爵家とのつながりを期待しないでアードルフに結婚を申し込む人は、恋愛脳という言い方もできるだろうが、よっぽど貴族としてのルールを身に付けていないと捉えられてしまう。
実際には女性の在り方の否定ではなく、本人の希望と提案なのだろうが、なんにしても頑張りを否定するような言いぐさしかしない男性はごめんだということらしい。
実のところ、スサンナはちょっとだけときめいた。
―― つまり、仕事もプライベートもずっと傍に居ろってことよね?
しかし、空気を読んでその言葉は飲み込んだ。
「まぁ、気にならないなら踏み込んでみるのもいいかもしれませんわ。ただ、あの方どうも恋愛ごとに積極的とは思えませんし、実るかは何とも言えませんが」
「難しそうですね……。まぁ、半分平民の私では釣り合いも取れませんし、見ているだけで嬉しいので、それだけで終わる気がしています」
「そうですの?意外とうまくいくかもしれませんけれど」
そうして、話題は次へと移っていった。
スサンナは、どちらにしてもあれこれ障害がありそうなので告白するつもりはなかった。
たとえ、一目惚れしてから『多分アイドル的な好意だろう』と思っていたのにズブズブハマっているとしても。少しでも親し気に話す女生徒が心底羨ましいと感じていても。
いや、片想いが楽しい、身分差がある、というのは言い訳だ。
ただただ、告白するのが怖いだけだ。告白して、きっぱりと断られることが。
基本的に、午前が様々な座学や選択授業で、午後はもっぱら魔法の理論と実技の授業である。
座学は、隣国の言語や歴史、地理学、数学、経済学、経営学、国文学、天文学と幅広い。とはいえ、事前の家庭教師の授業のおかげでなんとかついていけた。
魔法の理論は若干ちんぷんかんぷんのところもあるが、基本的に1~3回の授業に分けて術の基礎を一つずつ学び、それが繋がっていくので、面白くて聞いていられる。これは授業のほかに放課後の自主勉強で補完すればなんとかなりそうだ。
魔法の実技については時間もなく、一からになるので、1人特別授業だ。
ほかのクラスメイトがカリキュラム通りに魔法実技の授業を進める中、スサンナだけはサポートに入った先生と1対1である。これはさすがに放置は危ないということで、スサンナだけの特別措置らしい。とはいえ、授業時間丸々付くのではなく、初めに新しい内容を教えてくれて、中抜けして仕事をしてから終わりのころに習得度を確認するだけだ。ほかの授業を担当する教諭なので、つきっきりというわけにはいかないらしい。
そのため、魔法が得意な侯爵家の長男が教諭に頼まれて見本を見せてくれることもあったが、それはエセ記憶によるとエセ乙女ゲームのイベントだった。そのシナリオによれば、
『わぁ、すごぉい!私にもそんなことできるのかなぁ(ちらっちら)』
という態度を取ると、
『仕方ないからどうしてもというなら教えてやってもいい(ツンデレ枠)』
フラグが立つらしい。
もちろん、そんなフラグはバキバキにする一択だ。
「では、呪文はあくまでサポートであって、重要なのはイメージなんですね」
「そうだ」
ぐだぐだとあれこれ説明してくれたのを、1行でまとめると彼は頷いた。
呪文なしで魔法を行使するのは、どうやら貴族としてのステータスらしく、通常は2学年に上がる前に習得するという。
「……っ!できました!マケライネン様、これで合ってますか?」
イメージして魔力を集めると、目の前に水球が出てきた。
侯爵家長男の名前はエンシオ・マケライネンという。エセ乙女ゲームでは無許可で早々に名前で呼び、
『あっれぇ?わたし、なかなかできなぁい。エンシオ様ってばすごぉい!』
とかなんとか甘えることで、親のプレッシャーと周りの期待に潰れそうになっていた彼の庇護欲的な何かを刺激して恋愛関係にもっていくらしい。
―― よいしょしてくれる人をパートナーに選ぶとか、ないわー。
実際には、教えてくれる魔法の先輩として接していれば、いたって普通の優秀で真面目な男の子だ。
エセ乙女ゲームの感じからすると、貴族的な間接的言い回しではなく、直接的に褒めてくれる可愛い女の子にクラっときた、というところなのかもしれない。
今もこちらに興味を持つような感じはなく、むしろ自分の授業の時間が削られるので若干迷惑そうだ。
「そうです。その魔力の巡りを覚えてください。あとはイメージを固めれば魔法が発現します。何度か練習すれば、イメージと発現魔法の不一致が減り、発現までの時間も短くなるでしょう」
「あとは練習あるのみ、ですね。ありがとうございます」
「えぇ。がんばってください」
そして、エンシオは個人練習をしているほかのクラスメイトと同じ場所へ向かった。
脳裏に浮かぶ、微妙に距離を詰める2人的なモノローグとは違う景色に、スサンナはほっと息をついた。
これから、スサンナに教えたよりも高度な練習をするのだろう。スサンナは、無詠唱での魔法発動の練習を繰り返すだけだ。
クラスメイトとして、それなりに良い距離感だと思う。
ちらりとエンシオが行った方を見れば、アードルフも練習していた。
どうやら今は火魔法の応用を練習しているようだ。
危険度の関係から、水系の魔法から学び始め、土、風、火と学んでいく。2年までに風の魔法を発現させ、空間魔法や定型化されている日常に便利な魔法も学ぶという。3学年では火魔法を習得し、さらに応用として攻撃力の高い魔法や結界なども学ぶと教諭から聞いた。
アードルフは小さい火を灯し、少しずつ大きくしたり小さくしたりと操作している。
その横顔が綺麗で、スサンナはいつもうっかり見惚れてしまう。そして、魔法の腕も確かだ。失敗するところを見たことがないし、エンシオの次によく見本としてデモンストレーションしているのも見て知っている。
スサンナの見本にならないのは、アードルフが第二王子の側近として控えていることを考慮した結果のようだ。
少し残念だが、アードルフに教わると緊張してしまうだろうし、見惚れて失敗しそうだ。
授業中にちらりと見るだけで、充分にスサンナの心は満たされる。
魔法は楽しいし、アードルフの素敵な姿も見られるしと魔法の授業がすっかり楽しみになった。
エンシオに教わることについてのやっかみはほとんどない。
直接的なことを言われたのは一度だけだ。そして、その一度のやりとりでもろもろの問題が解決した。
それは、魔法実技の授業で3回ほどエンシオに教わった後。
放課後に同じクラスの女子生徒に呼び止められた。彼女の後ろには3人ほどの女子生徒がいたが、いずれも可愛らしい子たちだ。
なお、エセ記憶によると、これは定番のイベントだ。エセ乙女ゲームなら悪役令嬢が出てくるところらしいし、エセ記憶のスチル的なイラストイメージでは、呼び止めた女生徒は悪役令嬢の後ろに付き従っていた。
ついでに、ここでエンシオが出てきてまた好感度をあげることになるという流れだが、そもそものきっかけを作っていないので来ないはずである。
「魔法を知らなかったなんて、本当に半分平民なのね」
「はい、そうです」
上から目線で言われた。
しかしそれはむしろ事実の確認でしかないのですんなり答えると、女生徒たちは明らかに拍子抜けした。そこから持ち直したのは呼び止めた女生徒だ。
「まったく、だからといってマケライネン様に教わるだなんて、羨ましいですこと」
目線は見下しているので、嫌味を言っているらしい。
―― 教わってるからって調子に乗るなってことかね。
「そうですね、今日は水魔法の基礎的な発現と短縮呪文を一通り復習しました」
「まぁ……まだそんなところなのね」
「あと、土魔法と風魔法と火魔法の発現を復習しました」
「それなら、思ったよりは進めているのね」
「その後、それぞれの短縮呪文を10種類ずつ教わったので、発現できるまで練習しました。どうにか発現できたので及第点ということでした」
「え?あ……え?そ、そんなにスパルタなんですのね……」
ドン引きされた。
ちなみに、及第点とはエンシオの言葉そのままである。
彼女はアイヤ・エルヴァスティと名乗った。エルヴァスティ侯爵家の次女だという。
エンシオに好意を持ったがゆえに魔法実技や理論を頑張っていて、そこそこ親しいと言っていた。周りの女子生徒は友人で、どうやらアイヤを応援しているらしい。エンシオもアイヤも侯爵家でバランスがとれているし、学園に来る前からアイヤがエンシオを好きでいたとも聞いた。
―― これ、ちょうどいいじゃない?
スサンナは、アイヤを人身御供にすることに決めた。
本人はエンシオが好きらしいし、これはウィンウィンの関係である。
それからは、たまにエンシオと雑談して仕入れた情報をアイヤに流すという形でアイヤたちと仲良くなっていった。
するとアイヤの取り巻きグループに入ったとみなされて、遠巻きにしていたほかの女生徒たちとも話すことが増えた。
アイヤにエンシオの言葉をそのまま伝えるとその厳しさに少し引いていたが、それもまたいいらしい。
彼女はちょっとツンデレ気味だが、照れると可愛い。
スサンナは、魔法実技でのエンシオとのちょっとした雑談の中に少しずつアイヤの話題を乗せてみた。どうやら元々親しい友人枠だったらしく、エンシオの感触は悪くなかった。
エンシオにはぜひツンデレにハマってほしい。
そうして、放課後は勉強だけではなく、たまにアイヤたちとお茶会をするようになった。
学園での攻略対象の最後、騎士団長の三男はウオレヴィ・サヴィカンナスという。爵位は伯爵で、剣術の授業では右に出る者がいないらしい。
8割ほどの男子のほか、一部の騎士を目指す女子が剣術を行っている間、剣術をとっていない生徒は刺繍や歌、楽器などほかの授業を受けている。
スサンナは、後で役立ちそうなので刺繍を選択した。刺繍をしながらあれこれ噂話もするので、情報収集に良い授業である。
アイヤたちは、エンシオが楽器の授業をとっているので仲良く楽器だ。
エセ記憶によれば、エンシオと第二王子を狙うなら楽器の授業、ウオレヴィなら歌、隠しキャラは剣術を選ぶことになっていた。外の2人ならこれらの中のどれか。わざとではなかったが、たまたまエセ乙女ゲームとは違うものを選んでいた。
ウオレヴィの噂は、刺繍の授業で話すようになった女子生徒たちから聞いた。
スサンナが彼と関わることはほぼない。
エセ乙女ゲームのシナリオでは、教室に忘れられたタオルにウオレヴィの名前が刺繍されていて、ヒロインが届けに行くことが第一のフラグらしい。
届けに行った先で練習試合を見て(つまり授業をサボって)、
『すごぉい!強いんですね☆私も貴方みたいな騎士様に守られてみたいです(きゃっ』
のような眩暈を覚えるセリフで相手を良い気分にさせてひっかけるらしい。
ちなみに、それに対する答えは
『そんな風に、騎士としてのオレを認めてくれる女性は初めてだよ(ワンコ枠』
だ。
―― いやいや、いままでにも認めてる女子はいただろうけど、貴族らしく直接的には言わなかっただけでしょ。
教室でタオルを見つけたので、スサンナは近くにいた男子生徒にタオルを託した。
・自分で持って行く
・近くを歩いていた女子生徒にどうしたらいいか聞く
・知らなかったことにする
の3択とは違う行動を選んだ。
一応、ゲームっぽくエセ記憶の行動はいくつかの選択式になっているらしい。
アードルフも剣術の授業を受けているので見に行かないのはちょっと惜しい気がしたけれど、今回はシナリオをスルーする方が大事だ。
そういえば、転入初日の頭痛のときにも選択肢が脳内に浮かんでいたが、頭痛が酷すぎてそれどころじゃなかった。
あのときは確か、
・とにかく教室に向かう(第二王子のフラグその1)
・近くを通った人に助けを求める(第二王子のフラグその2)
・家に帰る(学園外の2人へのフラグ)
というものだった。
たまたま選択肢にない行動をとったのだ。そして、言動が自由にできるらしいと気づけた。
とにかくどんなフラグも全部折りたいので、スサンナはわかる限り、あえて違う言動をするように心がけている。
これまでの刺繍の授業中に聞いた噂話は、第二王子にはとある侯爵家の令嬢が一応婚約者候補になっているとか、アードルフのラウティオラ公爵家は自由恋愛主義なので自分で相手を見つけることになっているがまだ決めていないようだとか、エンシオには気になる女生徒がいるようだ(どうやらアイヤのことらしい)とか、ウオレヴィには上級生の女子がアプローチしているだとか。
そのほかにも、学園生の噂だけではなく、国内情勢の話や隣国の情報から、座学で難しかった部分、最新の魔法、貴族でのファッションの流行、人気の演劇、面白かった本のことまで、話題はものすごく幅広い。
この国の貴族は、男女関係なく、ある程度以上の知識を有していることがステータスのようだ。
あのエセ乙女ゲームのヒロインのような、
『難しいことはわかんないの(てへっ☆』
という女子は見かけない。知らないことは学ぼうとしているし、知識面でも美容面でも努力する魅力的な女子ばかりだ。そして、そういう女子がモテる。
ますます、エセ乙女ゲームのヒロインの魅力がよくわからない。
もちろん、頼られるのは嬉しいことだろう。けれど、なんでもかんでもおんぶにだっこより、普段自立している女子がたまに『助けて』という方が、特別感があってぐっとくる気がする。
刺繍の授業では大体は聞き役に徹しているのだが、たまに意見を求められてスサンナが言葉を口にすることがある。
多くは庶民の暮らしについてのことが多いのだが、今回はちょっと違った。
「ヒルヴィサーリ様は、ラウティオラ様がお好きなんですの?」
「え?あ、えっと、その」
唐突に聞かれ、スサンナは明確に答えることができなかった。
恋バナは世界を超えて女性の好きな話題らしい。少し向こうで違う話をしていた女生徒たちも話に入ってきた。
「まぁ、ラウティオラ様を?」
「良く見てらっしゃいますものね。そうよね、公爵家の方ですし、見た目は素敵ですもの」
どうやら、スサンナの視線でバレていたらしい。
「将来的には、第二王子殿下について外国へ赴くことが多そうですから大変そうですけれど、有望といえば有望ですものね」
「いくつかの外国語を覚えれば、ついて行くこともできそうですわ」
「まぁ、夫婦揃うことが必須の国以外はついて行かなくても良いかもしれませんわ。その間は悠々自適ですわね」
「公爵家の跡取りではありませんから、そこまでの重責はありませんね」
「ラウティオラ公爵家は自由恋愛主義ですものね。可能性は、なくはありませんわ」
「でもねぇ……」
「そうですわねぇ……」
「あれを知っているとちょっと」
「私もナシですわ」
何人もの女生徒が口々にアードルフのことを教えてくれた後、もにょりと言葉を濁した。なんならナシ発言である。
「何か、あったんですか?」
質問した方がいい空気だったので、スサンナは周りを伺いながら聞いた。
「ヒルヴィサーリ様は編入生ですものね。ご存じないでしょう」
「下級生たちは、間違いがないようにどこかから聞いているものですけれど、最近貴族になったばかりなら知らないのも頷けますわ」
口を動かしながらも、手を止めないのはさすがである。
そしてその腕前も確かだ。
スサンナは、慣れていないこともあってゆっくりしか針を進められない。話をしながらならそれこそ手が止まる。
だから、話してくれるのを適当に聞く方が楽だ。
しかし今回は、しっかり聞きたい内容なのでやはり針が進まなかった。下手をすると手を縫ってしまうから、あえて止めたともいう。
「ぼんやりした言葉だけでは、ヒルヴィサーリ様もお困りですわ」
「そうですわね。でも、ちょっと口にしづらい内容なのでどうしても」
「ですが、きちんとお伝えしませんと、同じことが起こる可能性がありますわ」
「その通りでしょう。……ヒルヴィサーリ様、ラウティオラ様にその気持ちを告げる前に知っておいた方が良いですわ」
唐突に告白前に知っておくようにと言われ、スサンナは大人しく頷いた。
「はぃ……」
「実は、1年生のときに上級生の方がラウティオラ様に告白なさったんですの」
「授業が違うので、放課後にわざわざ呼び止められてお声をかけられたんですわ」
「ですから、皆が見てしまっていたのも外聞が悪かったですわね」
彼女たちの記憶をまとめて当時の会話を再現するとこうだ。
『ラウティオラ様、折り入ってお話があります』
『何ですか?』
『わたくしと、結婚を前提にお付き合いいただけませんか?』
『なぜですか?』
『ラウティオラ様のお家柄、恋愛結婚だということは知っております。ですから、まずは近しいお付き合いをお願いしたいと考えたのですわ』
『それなら、“結婚を前提とした”という前置きはおかしいですね。私は結婚するかどうかは先に決められないと思っています』
『そ、そうですか?わたくしとしては、ラウティオラ様と結婚したいと考えておりますから』
『ですから、それはなぜですか?』
『……ラウティオラ様は素敵ですもの。第二王子殿下に近しい立ち位置ですし、将来的に有望ですわ。見目麗しく、剣術もお上手、魔法も勉学もよくおできになっていると聞いています。公爵家との繋がりも嬉しい要素ですわ』
理由としてはいたって貴族らしいというか、政略や打算よりも若干感情寄りなので珍しい部類だろう。
しかし、アードルフは納得しなかった。
『そうですか。わが家が恋愛結婚主義というのはご存じですよね?』
『えぇ、もちろんです。ですから』
『貴女の恋愛観がそれだというのは理解しました。申し訳ありませんが、条件が合いませんのでお断りします』
『条件?それはいったい何ですか?』
『私の後ろにある“公爵家”というものを見ない女性です。それから、魔法か知略のいずれかで、私の将来に役立ってくれる人ですね。私とともに第二王子殿下に仕える気概のある方ならなお良いでしょう』
告白した上級生は絶句して、答えることなく立ち去って行った。
ここ、ヴェルホン・ラッカウス王国では、貴族女性の職はほとんどない。
下位貴族なら上位貴族の家や王城に花嫁修業代わりに女官として入ることはあるが、それも結婚までのことである。どちらかというと、家のことや領地運営を手伝うのが女性貴族の仕事という位置づけだ。普通の貴族は、よっぽど金銭的に困っていない限り妻が外に働きに出ることはない。
妻が外貨を稼ぐということは、それほどに貧乏か、よっぽど妻が自由奔放ということだ。いずれにしても夫の甲斐性がないとみなされる。
つまり、妻が内向きの仕事をするのは暗黙のルールのようなものだ。
アードルフは、ラウティオラ公爵家が持ついくつかの爵位のうちのどれかを継ぐと決まっているので、このルールが適用されるはずなのだが、それを破れと言ってきたわけだ。
それに、アードルフが公爵家の次男であることは取り違えようのない事実であり、当然結婚相手選びの要素になることなので、それを見ないとはつまり貴族としてのつながりを期待するなと告げるのと同義といえる。これもまた、貴族における家同士のつながりというルールを無視すると言っているように聞こえたのだ。
「ですから、普通の感覚でしたらまず“ありえない”というわけです」
「そうなんですね」
スサンナは言いたいことが分かって頷いた。
彼女たちは外貨を稼ぐ仕事はしないものの、嫁ぎ先(ほとんどの貴族女性はどこかに嫁ぐらしい)の領地を盛り立てるという仕事を見据えて熱心に学んでいるし、実家と嫁ぎ先を繋ぐ架け橋となることを念頭に置いており、それに誇りを持っている。
第二王子殿下に仕えるということは、一緒に外貨を稼いでくれということで、彼女たちがこれまで頑張ってきた内容を否定するように聞こえたのだろう。公爵家とのつながりを期待しないでアードルフに結婚を申し込む人は、恋愛脳という言い方もできるだろうが、よっぽど貴族としてのルールを身に付けていないと捉えられてしまう。
実際には女性の在り方の否定ではなく、本人の希望と提案なのだろうが、なんにしても頑張りを否定するような言いぐさしかしない男性はごめんだということらしい。
実のところ、スサンナはちょっとだけときめいた。
―― つまり、仕事もプライベートもずっと傍に居ろってことよね?
しかし、空気を読んでその言葉は飲み込んだ。
「まぁ、気にならないなら踏み込んでみるのもいいかもしれませんわ。ただ、あの方どうも恋愛ごとに積極的とは思えませんし、実るかは何とも言えませんが」
「難しそうですね……。まぁ、半分平民の私では釣り合いも取れませんし、見ているだけで嬉しいので、それだけで終わる気がしています」
「そうですの?意外とうまくいくかもしれませんけれど」
そうして、話題は次へと移っていった。
スサンナは、どちらにしてもあれこれ障害がありそうなので告白するつもりはなかった。
たとえ、一目惚れしてから『多分アイドル的な好意だろう』と思っていたのにズブズブハマっているとしても。少しでも親し気に話す女生徒が心底羨ましいと感じていても。
いや、片想いが楽しい、身分差がある、というのは言い訳だ。
ただただ、告白するのが怖いだけだ。告白して、きっぱりと断られることが。
あなたにおすすめの小説
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます
白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。
特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。
だがある日、突然の婚約破棄通告――。
「やはり君とは釣り合わない」
そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。
悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。
しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。
「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」
「よければ、俺が貰ってやろうか?」
冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!?
次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには
「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」
――溺愛モードが止まらない!
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
乙女ゲームの中の≪喫茶店の店長≫というモブに転生したら、推しが来店しました。
千見るくら
恋愛
社畜OL、乙女ゲームの世界に転生!?
でも私が転生したのは――女主人公でも攻略対象でもなく、ただの喫茶店の店長(モブ)だった。
舞台は大人気乙女ゲーム『ときめき☆青春学園~キミの隣は空いてますか?~』。
放課後、女主人公と攻略キャラがデートにやってくるこの店は、いわば恋愛イベントスポット。
そんな場所で私は、「選択肢C.おまかせメニュー」を選んでくる女主人公のため、飲料メーカーで培った知識を駆使して「魂の一杯」を提供する。
すると――攻略キャラ(推し)の様子が、なんかおかしい。
見覚えのないメッセージウインドウが見えるのですが……いやいや、そんな、私モブですが!?
転生モブ女子×攻略キャラの恋愛フラグが立ちすぎる喫茶店、ここに開店!
※20260116執筆中の連載作品のショート版です。
異世界に転生してチートを貰ったけど、家族にハメられて敵国の捕虜になったら敵国の王子に求婚されました。
naturalsoft
恋愛
私は念願の異世界転生でチートをもらって旅立った。チートの内容は、家事、芸術、武芸などほぼ全ての能力がそつなくプロレベルに、こなせる万能能力だった。
しかし、何でも1人でやってしまうため、家族に疎まれて殺されそうになりました。そして敵国の捕虜になったところで、向こうの様子がおかしくて・・・?
これは1人で何でもこなしていた弊害で国が滅ぶ寸前までいったお話です。
推しの旦那様に心の声が筒抜けでした!?〜バレた瞬間、毎回キスで黙らされます〜
由香
恋愛
推しに似ているという理由で政略結婚した相手は、冷酷と噂の公爵様。
――のはずが。
(無理、顔が良すぎるんだけど!?尊い!!)
心の声が、なぜか全部本人に聞こえていた。
必死に取り繕うも時すでに遅し。
暴走する脳内実況を止めるたび、旦那様はなぜか――キスしてくる。
「黙らせるのにちょうどいい」
いや全然よくないです!!むしろ悪化してます!!
無表情公爵様 × 心の声だだ漏れ令嬢
甘くて騒がしい新婚生活、開幕。
行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~
柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。
そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。
クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。
さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。