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第一章 魔王 サタナ・エイリーン編

第4話 スライムは仲間を呼んだ!

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 再び【ボポンの森】にやってきた俺は、
 昨日の出来事を再現しようと計画していた。

 普通、ダンジョンに存在するモンスターの絶対数は限られている。
 
 だが、モンスターが仲間を呼んだ場合に限り、何故かその絶対数は崩れる。
 
 詳しいメカニズムは謎に包まれ、
 多くのモンスター学者が研究の題材にしている。

 スライムが仲間を呼ぶ習性を持つことは俺も知っている。
 
 だが昨日のアレはどう考えても異常事態。
 なれば、なんらかの理由があったはずなんだ。

「あの異常事態の原因を解明できれば、あるいは……」

 最近では経験値の高いモンスターの数が減ってきている。
 
 理由は不明だが、
 何者かが独占しているのではないか? 
 というのが大衆の予想だ。

 だがもしも昨日の出来事を再現できたなら
、もはや経験値モンスターに価値などは無いのでは?
 
 何故なら、ローリスクハイリターンを実現できるのだから。

「ま、時間はかかりそうだが、なっ!!」

 独りごちながら。
 俺は昨日と同じように、スライムに不意打ちを仕掛けた。

 ザシュッ!!

『ピギィッ!?』

 斬り心地に変化はは感じられない。
 レベルアップがイマイチ実感できないのは、スライムが弱すぎるせいだろう。

「まずは一匹。他には三匹、か。とりあえずは様子見だな」

 俺は剣を鞘に収め、
 その場に立ち尽くした。
 スライムたちにこれといった変化はない。そのように見えたのだが――。

「……!?」

 一瞬だった。
 ふと、妙な違和感を覚えた。
 俺は視線をスライム釘付けにした。
 
 直後。
 三匹のスライムが一斉に飛び跳ねたかと思うと、着地と同時に六匹に増えたのである!

(まさか分裂か!? いや、それにしては大きさに変化がないのは妙だ)


 スライムは分裂することが可能。
 だがその場合、分裂したスライムは小さくなる。なのにあのスライムたちにはそれがなかった。

「まあいい。次は二匹……」

 ザシュッ!
 ザンッ!!

『『ピギアーー!!』』

 俺は二匹のスライムを撫で切りにし、
 もう一度立ち尽くした。
 無論ただ立っているわけではない。
 一瞬たりとも逃さぬよう、スライムたちを観察しているのだ。

(さあ、どうなる?)

 しばらくすると、またあの瞬間が訪れた。
 二匹のスライムが一斉に飛び上がり、着地と同時に、数が増える!!

「なるほどな」

 間違いない!
 俺はそう確信した。
 
 これだ。
 スライムの仲間を呼ぶという行為。
 それがこれなのだ。
 
 理屈は分からん。
 どこから湧いてきているかも分からん。
 ただ一つ分かること、それは――。

 昨日の異常事態は再現可能。
 ただそれだけだ。

「悪いな、ここからは一方的に狩らせてもらうぞ。弱い者イジメは好きじゃないんだが、致し方なしというヤツだ。恨むんなら、モンスターに生まれた自分を恨んでくれ!!」

 その日、俺は日が暮れるまでスライムを狩り続けた。
 
 何度撃破しても
 無限に湧いて出るスライム。
 しかも、死のリスクは皆無。
 
 こんな最高のレベリングスポットを、俺は知らない。

「はぁぁあああッ!!」

 無我夢中だった。
 スライムを討伐する最中、
 俺はヴェンに言われた言葉を思い出していた。

「あの、レイン……様?」

 御者に呼ばれ、
 俺はようやく狩りをやめた。
 あまりにも遅いので、まさかとは思いつつも見に来てくれたらしい。

「へへ、余計なお世話でしたね。アッシでも素手で攻略できるんですから」
「はぁ、はぁ。……面倒をかけたな。今日は帰ることにするよ」
「そう、ですか。ところで――」

 御者はふいと俺から顔を逸らした。
 なんだ?
 なにかついているのか?
 そう思っていると、

「これ、お使いください」

 渡されたのは一枚のハンカチだった。

「分かりますよ。アッシも泣きたくなる事くらいありやすから。でも、そんな時こそ抱え込まないで素直になってもいいと思うんですよ。って、これまた余計なお世話っすね! へへ、すいやせん」

 どうやら俺は泣いていたらしい。
 自分では気付かなかったが――
 否、気付かないように目を背けてきたが。

 【神の後光ライトリングス】を追放されたという事実には、それなりのダメージを受けていたようだ。

「ありがとう。あんた、名前は?」
「アッシですかい? アッシの名はバーシーって言いやす。冒険者の方々をダンジョンまでお運びするのが仕事、というのは言うまでも無いっすかね?」
「ふふ、良い人だな、バーシーさん。ありがとう。これは有難く使わせてもらうよ」

 俺は涙を拭い、
 それから取り繕うように笑って見せた。
 心の傷は簡単には癒されないが、今はバーシーさんの優しさが嬉しかった。
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