社交界で地味な存在だった私が、せっかく結婚できたのに

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第一章

第三話

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ドンっ!

フローレンスは誰かにぶつかった。

「あら、ごめんなさい。」

彼女はとっさに謝って顔を見上げた。鮮やかな金髪の紳士が立っていた。

「いえ、こちらこそ申し訳ない。」

彼はそう言って、フローレンスに手を差し伸べた。そして、

「お怪我は、ありませんか?」

と尋ねてきた。彼女は、

「ええ、大丈夫です。」

と答え、少しうつむいてしまった。

彼はその様子を見て、

「ん?どうしました?具合でも悪いのですか?」

と聞いてきた。その声は今までフローレンスが出会ったどんな殿方よりも丁寧で、どこか包み込むような優しさを秘めていた。

「あ、いえ、なんでもありません。」

彼女はそう言ってから、

「でも、すみません。なんか、パーティーというのが苦手なのです。」

と言った。

彼女は、そう言ってからハッとした。やだ、私ったら!パーティーの場で「パーティーが苦手」だなんて。それもこんなお優しい紳士の方に、なんて失礼なことを!

そんなことを思って彼女はあたふたしてしまった。できることなら言ったことを取り消したかったが、どうしようもない。それに慌てれば慌てるほど、何を言っていいのか分からなくなった。

そんな彼女を見て、その紳士は

「はは、大丈夫です。」

と語りかけた。そして、

「みんな、パーティーを楽しんでいるように見えます。」

と言ってから、彼女の耳元で

「でもね、意外とパーティーが苦手な方も多いんですよ。無理やり笑顔をつくっている方もたくさんいることでしょう。」

とささやいた。

フローレンスは、とても驚いて

「そうなんですか?!」

と言った。本当は叫んでしまいそうだった。だが、この時は理性が働いて小さな声に収めることができた。

その紳士は、さらに包み込むように、

「そうです。そんなものです。貴方は正直だから、パーティーが苦手と言ったのでしょう。でも、心の中でそう思っている人は、貴方が知らないだけでいっぱいいますから。」

と語りかけた。

フローレンスは、この言葉でとても気が楽になった。なんだ、私だけじゃなかったのか。この人の言うことはまだちょっと信じられないけど、でもそう言われてみるとそれが正しい気もする。みんな口にはしないけど、パーティーが楽しくないって人もいるわよね。もちろん、楽しいって人もいるだろうけど。

フローレンスがそうやって考えていると、その紳士は、

「なんか、明るい表情になりましたね。」

と言ってきた。

「ええ、なんだか気が楽になりました。」

フローレンスもハッキリと答えた。するとその紳士はこう言って誘ってきた。

「もしよかったら、僕と一緒に踊っていただけませんか?」
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