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第二章 空虚な人格者
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打ち合わせ会のメンバーは、セールス担当の早瀬と当日インチャージの小宮、そして舞香と会計担当の四人だった。
会場内の準備や進行について今の時点で決まっていることを、早瀬は淡々と説明していく。さらに続けて「当日は十一時に第一陣が到着します」と早瀬がさりげなく言う。その言葉を舞香は聞き逃さなかった。
一通り説明が終わると、早瀬が顔を上げる。
「何か質問などありますか?」
その言葉を待っていたかのように、舞香は口を開いた。何を気にしなければいけないかということを、感覚で分かっていた。それはまるで責任感と決断力という資質が発動したかのような瞬間だった。
「先ほど、『当日は十一時に第一陣が到着する』と言っていましたが、これはパラパラ来るということですか? それとも、一斉ですか?」
「一斉です」
間を空けずに返してきた早瀬を、舞香は睨んでいるのと間違うほど真剣な目つきで見た。
電車で来館するゲストが多いそうで、その到着時間に合わせて波があるらしい。
最初に来るのがだいたい二百人ほどで、一斉と。舞香は持ってきたメモ帳に書き込んだ。
日を追うごとに詳細が決まっていった。
四階クロークの裏はブライダルサロンとも繋がっている。その構造により、ブライダルサロン内のテーブルと椅子を隅に寄せて、クロークのエリアとして使うことになった。INとOUTのときに他部署からクローク経験者が五人ほど応援に来てくれるという話も決定しているらしい。
クロークは四階以外はオープンしないで、五階クロークと三階クロークのハンガーラックだけブライダルサロンに入れることになった。
「誰が「預かり」で誰が「運び」とか……分担したほうがいいんじゃない?」
万由子のアイデアに、舞香は「それいいね」と言いながらメモ用紙を取り、「預かり」「掛け」「運び」と書いた。誰をどこに配置するか、舞香はクローク係を一人一人思い浮かべながら、遠いところを見るような目で考え込んでいた。
ディナー休憩が終わる頃に突然、舞香の脳裏にチラリと神殿の石造りの広場の様子が現れた。
(今日何か夢を見たような気がすると思ってたけど、こんな夢だった)
断片的に夢の内容を思い出す。思い出したのは広場の様子だけ。舞香は忘れないうちにスマホにメモした。
広場では、香油の調合に必要な薬草の選定と、神殿の儀式の役割分担が行われていた。白いシフォンローブを纏った女性の神官が、誰が緻密な薬草の選別に適していて、誰が民を導く儀式の説得力を持っているかを、パピルスに記録された能力表と照らし合わせながら、滞りなく指示を出していた。
(もちろん他部署からの応援者には「運び」をやってもらうとして……。「預かり」をやる人は……あ、そうだ。「掛け」は……「運び」が落ち着いてれば、応援者にも兼任でやってもらおう)
舞香の脳内で、クローク係たちの顔と能力が、夢で見た光景をなぞるように分類されていく。
舞香は、迷いながらも五千人規模の展示会に向けたクロークの役割分担を、瞬く間に完成させた。その淀みない判断力は、もはやインチャージ代行のレベルを超え、古代の知恵を表したようなあの夢を彷彿させるものだった。
会場内の準備や進行について今の時点で決まっていることを、早瀬は淡々と説明していく。さらに続けて「当日は十一時に第一陣が到着します」と早瀬がさりげなく言う。その言葉を舞香は聞き逃さなかった。
一通り説明が終わると、早瀬が顔を上げる。
「何か質問などありますか?」
その言葉を待っていたかのように、舞香は口を開いた。何を気にしなければいけないかということを、感覚で分かっていた。それはまるで責任感と決断力という資質が発動したかのような瞬間だった。
「先ほど、『当日は十一時に第一陣が到着する』と言っていましたが、これはパラパラ来るということですか? それとも、一斉ですか?」
「一斉です」
間を空けずに返してきた早瀬を、舞香は睨んでいるのと間違うほど真剣な目つきで見た。
電車で来館するゲストが多いそうで、その到着時間に合わせて波があるらしい。
最初に来るのがだいたい二百人ほどで、一斉と。舞香は持ってきたメモ帳に書き込んだ。
日を追うごとに詳細が決まっていった。
四階クロークの裏はブライダルサロンとも繋がっている。その構造により、ブライダルサロン内のテーブルと椅子を隅に寄せて、クロークのエリアとして使うことになった。INとOUTのときに他部署からクローク経験者が五人ほど応援に来てくれるという話も決定しているらしい。
クロークは四階以外はオープンしないで、五階クロークと三階クロークのハンガーラックだけブライダルサロンに入れることになった。
「誰が「預かり」で誰が「運び」とか……分担したほうがいいんじゃない?」
万由子のアイデアに、舞香は「それいいね」と言いながらメモ用紙を取り、「預かり」「掛け」「運び」と書いた。誰をどこに配置するか、舞香はクローク係を一人一人思い浮かべながら、遠いところを見るような目で考え込んでいた。
ディナー休憩が終わる頃に突然、舞香の脳裏にチラリと神殿の石造りの広場の様子が現れた。
(今日何か夢を見たような気がすると思ってたけど、こんな夢だった)
断片的に夢の内容を思い出す。思い出したのは広場の様子だけ。舞香は忘れないうちにスマホにメモした。
広場では、香油の調合に必要な薬草の選定と、神殿の儀式の役割分担が行われていた。白いシフォンローブを纏った女性の神官が、誰が緻密な薬草の選別に適していて、誰が民を導く儀式の説得力を持っているかを、パピルスに記録された能力表と照らし合わせながら、滞りなく指示を出していた。
(もちろん他部署からの応援者には「運び」をやってもらうとして……。「預かり」をやる人は……あ、そうだ。「掛け」は……「運び」が落ち着いてれば、応援者にも兼任でやってもらおう)
舞香の脳内で、クローク係たちの顔と能力が、夢で見た光景をなぞるように分類されていく。
舞香は、迷いながらも五千人規模の展示会に向けたクロークの役割分担を、瞬く間に完成させた。その淀みない判断力は、もはやインチャージ代行のレベルを超え、古代の知恵を表したようなあの夢を彷彿させるものだった。
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