夢を見て、二回恋をする

秦 柘榴

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夏の浮世の走馬灯

幕間 夏の日差しに思い染めてき

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 バレーもうちょっとで勝てそうだったのにな。佐倉くんが暑さでバテるのがもう少し早かったら勝てた。普段運動してるの見ないけど、何だかんだ日ごろのバンドの練習で体力はあるんだろうな。負けたのが悔しくてもう一ゲームしたかったけど、時間もちょうどいいし近く海の家でご飯をいくつか買って、あとは泳げない私と倒れこんだ佐倉くんの相手をみんなが交代してくれながら休憩してた。

 高野君や瀬尾君なんかはまだ体力が有り余って、泳ぎに行ってトライアスロンみたいなことをしてた。流石に元気すぎない?私が弱すぎるのかな。でも隣で仰向けになって溶けてるバンドマンは顔が死んでるから、きっとあの二人がおかしいんだろうな。住之江君も描きたい絵は終わったのか浮き輪に乗ってぷかぷか浮いてた。多分あの人が一番海を満喫してるんじゃないかな。香織と真琴はもう日に焼けたくないとか言ってたけど、泳げない私を連れて浜辺を一緒に散策してくれた。思い出にって三人で写真も撮ったし、私史上最高の海だった。

 そうして午前中いっぱい遊んだあと、本当は宿の近くの商店街を回る予定だったけど、流石にみんな疲れたのか先に温泉に行くことになった。佐倉くんなんかもう歩くのすらしんどそうだったけど、男子三人が無理やり引きずって連行してて、まるで今から救急車にでも乗るみたいで。前に療養室で嘔吐した時より顔色悪いんだけど、暑さに弱すぎない?

 まだ昼間ということもあって宿の温泉も他の利用客はおらず、実質私たちだけの貸切風呂だった。思う存分遊んだから、日に焼けてしまった肌にお湯がしみる。気持ちいぃ~。日焼け止め塗っててよかったぁ、塗ってなかったら明日には黒ギャルになってた。でも確かにそれだけ暑かったから、佐倉くんじゃなくてもしんどくなってたかもな。

 適度に体を動かしたから少し浸かっただけでもう脱力する。香織と真琴も隣に並んで、特にずっと動いてた二人はお湯に混ざるんじゃないかってくらい溶けてた。

「ふぅ…。こんな時間に入る温泉もいいねぇ…。」
「このあとはもう晩御飯まで行きたい人だけ商店街に行けばいいよ…。多分康太とまさちんは行くでしょ。」
「私も雅也と一緒にお土産は買いに行くよ。すみも行くんじゃない?慎太郎は多分死んでる。」
「そうだね、さっくんは休ませてあげよ。珍しくバレーしてくれたし。」
「ね。ほんとに珍しい。普段ならすみと一緒に慎太郎も審判役してくれるのにね。」
「そうなの?」
「うん、さっくんの暑がりは本当に病的なものらしくて生まれつきなんだって。だからいつも私たちも夏場は無理にさっくんと外で遊ばないようにしてるんだけどね。」
「慎太郎は慎太郎で私たちに気を遣われるのを嫌がるからね。『民主主義だからマジョリティに従う』とかいって一緒に来てくれるの。無理しなくていいのにね。」
「今日は特に暑いし、泳げないみはなんもいるからみはなんに気を遣ってずっとパラソルの下かなって思ってたけどな。」

「慎太郎も変わったね。普段からしんどくてもちょっと頑張って私たちのために動いてくれるけど、今日は特に一緒に楽しもうとしてくれたし。」
「みはなんが連れてきたからじゃない?」
「確かに。慎太郎だけだったら多分動いてなかったよ。」
「私?」
「そう。多分私やまこちが体調崩してパラソルの下にいても、慎太郎は一緒にいてくれてたよね。でも私たちが快復しても動かなかったと思う。多分慎太郎なりの一定の線引きがあるんだろうね、ああ見えてちょっと人見知りだし。」
「わかる。基本的にさっくんはみんな、というか身内にめちゃめちゃ優しんだよね。康太が私たちの喋ってるところに初めて連れてきた時も、雰囲気からさっくんの良い人らしさがにじみ出てたもん。仲良くなるまでのハードルがほんの少し高いだけで。でも私たちのために本当にしんどいことまで無理はしないっていうのが普段だよね。」

 そうなんだ…確かに、みんながこうやって色んな遊びに誘ってくれてるのも、私が二年間できなかったことを一緒に楽しんでくれるため、って言ってくれてた。それで佐倉くんも私のために頑張ってくれたのかな。なんかそう考えるとちょっと嬉しいというか、なんとなく照れちゃって、隠すために深くお湯につかってしまう。あっつー。このお湯ちょっとあついなー。

「その慎太郎が連れてきたみっちゃんと初めは仲悪かったの、正直めっちゃ珍しいなって思ったな。でもその時と比べたら最近みっちゃんと慎太郎すごく仲良くなったよね。」
「え?そ、そう?別に何もないけど、ずっといがみ合ってても仕方ないから…。」
「前の大学祭の時から?さっくんが体調崩した時に一緒にいてあげたの、みはなんだけだったよね。何かあった?倒れたさっくんからラッキースケベでもされた?」
「ぅえ⁉いやいやいや、佐倉くんはそういうタイプではなくない?そんなに付き合いが長くない私でもわかるけど、あの人ラッキーっていう言葉と縁ないでしょ?」
「「たしかに…。」」
「納得しちゃった…。」

 ごめん、佐倉くん。照れ隠しに佐倉くんの不憫さで解釈が一致しちゃった。でも佐倉くんが見た夢をきっかけに私のことを思い出したのはみんなには話さないって約束だし。考えてみたら、それも佐倉くんからみんなへの気遣いなのかな。

「それに私はまだ佐倉くんと初対面じゃないと思ってるから…。彼が思い出してくれるのをゆっくり待つことにしたの。」
「いい女だよみはなん…。私だったら思い出すまでほっぺ叩いてた。」
「私も雅也に忘れられてたら思い出すまでビンタしてたな。」
「力で解決することにコンセンサス取れるの何でなの…。」

 でも何かあった時に味方になってくれる安心感があるなぁ。二人と友達になれてよかった。確かに普段の付き合いで言えば、瀬尾君はしっかりしてるように見えて一番適当に過ごしてるし、高野君は逆にやらなきゃいけないことはちゃんとやってるけど抜けてるところもある。住之江君は言ってみれば芸術家気質なのかな?我が道を往く姿勢が強い。二年もそんな男性陣に囲まれたら自然と『私がしっかりしなきゃ』って思えてくるな。

 実は佐倉くんが男性陣の中では一番まともなのかな。大学生のバンドマンって結構軟派な人というか、自分が楽しければいいっていう人ばかりのイメージだったけど、そういうタイプと佐倉くんははるかに程遠い。二人も言ってたけど真面目さ、人の好さが話しぶりからよく伝わってくる。ご飯も睡眠もちゃんと確保してて生活習慣も意識高めだし、最近知ったけど学部内の成績優秀者の一人らしいし。私は楽器に詳しくないけど、たまに聞かせてくれるギターもすごく心地いい。みんなが誉めるのもよくわかるような、とても丁寧な演奏というか、ボーカルを担当しているだけあって歌も上手い。今日バレーしてて思ったけど運動が苦手というわけでもなさそう。演奏のためにちゃんと体も鍛えてるのかな。そういえば入学式で私のことを抱えて運んでくれてたんだよね。

 お湯につかりながらぼーっとしてて、ふと気づいた。

 私、佐倉くんのことばっかり考えてない?

 うわまって、急に恥ずかしくなってきた。自分でも顔が火照っているのがわかる。違う、そんなんじゃない。そんなんじゃないから、待って、いや別に誰に待ってもらうわけでもないけど。まさかそんな。というか何で二人は喋ってないの。

 気になって両隣を見てみたら、二人ともこちらを見て微笑んでた。なに、何なのその笑顔、見ないでよ。

「なに、どうしたの。」
「いや、みっちゃんが楽しそうでよかったなぁって。」
「ね。静かになったからどうしたのかなって見てたら一人でお湯に沈んでいくんだもん。さっくんのことでも考えてたんじゃない?」
「いや⁉考えてないよ⁉そんなあの人のこと考えてもしょうがないし!今日は朝から楽しかったなって!別にそれだけだから!」
「ほんとかなぁ。声おっきいよ?」
「ほっ本当ですけど!それなら香織だってどうなの。今日瀬尾君と一緒のチームでバレーしてたじゃん!普段とは違う彼氏の姿でしょ?」
「まぁ確かに違うけど私はどんな雅也も好きだからね。みんなといる時はみんなで楽しむことを考えてるけど、私と二人の時はめちゃめちゃ私優先で動いてくれるもん。でも雅也がやりたい事は雅也自身でコントロールできてるし、私本位にしないでダメならダメって言ってくれる。ちゃんと意思表示してくれるから付き合ってて気楽なの。」
「みはなんが聞いたからすっごい惚気られてるよ。」
「どうしよう、ちょっと後悔してる。」
「なんでさ。」

 いつもは聞いてて楽しいけど、今だけは聞いてるとなんだか私も恥ずかしくなる。香織と瀬尾君の関係を思うと、つい自分自身でも想像してしまう。まって本当に、このままだとのぼせちゃう。

「ま、真琴だってどうなの。」
「私?私に恋人はおらんが。」
「気付いてない?まこちさっきから康ちゃんのこと『康太』って呼んでるよ。」
「え、うそ。全然無意識だった。」
「そうだよ。実は高野君と一緒に居たかったんじゃないの?」
「いやぁ別に…。まぁいつも一緒にいるから旅行先くらいはなぁ。でもみんなの前でよかったかも。他の人いたらもっといじられてそうでもっと面倒くさいんだよね。」
「言ってたね。私には幼馴染がいないからわかんないけど、でも大学生までずっと一緒にいるのもすごいよね。」
「私も康太もずっと喧嘩してるわけじゃないし、わざわざ別の学校に行く必要ないよねって。二人で動いてて楽だから二人でいるようにしてるだけ。」

 それだけの理由でずっと関係が続いてるのもすごいと思うんだけどなぁ。ちょっぴり羨ましく聞いてたけど、少し恥ずかしくなったのか真琴が立ち上がった。

「結構ぬくもったし体洗ってそろそろ上がらん?男子たち待たせても仕方ないし。」
「そうだね、まぁ向こうは向こうで勝手に盛り上がってそうだけど。」
「番頭さんのところに飲み物売ってたからそれも買って部屋に戻ろっか。」

 お湯か恥ずかしさか、火照った体を少し冷ましながら温泉を後にする。大丈夫かな。私佐倉くんのことちゃんといつも通り見れるかな。やばい変に意識してしまう。

 もういがみ合うことが無くなった今、佐倉くんは私のことをどう思ってるんだろう。
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