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結局、三日三晩世話になった後、ナヤアに付き添われ、鉄木真の陣営に到着した。
陣営の中でも一際大きな鉄木真の包は、豪奢な朱塗りの家具が置かれ、鮮やかな色合いの敷物で飾られていた。その中央、獣皮が掛けられた椅子に腰掛けた鉄木真が、気難しい顔でこちらを見ている。そのすぐ前の床にナヤアと並んで座った。
鉄木真は何かに苛立っているのか、終始小刻みに脚を揺らしており、その振動が床を通して伝わってくる。
ナヤアの口上が一頻り済んだ後、鉄木真の鋭い眼光が忽蘭を見据えた。
「忽蘭と言ったな。ダイル・ウスンからの伝令によると、汝の到着は今日より三日も前との事だった。今まで何をしていた」
恫喝とも取れる物言いに気圧されそうになった忽蘭だったが、波立つ心を沈め、真っ直ぐに鉄木真を見返した。
「ナヤア殿の陣営にて、三日間もてなしを受けていた」
そう言い切るより前、突如、鉄木真が立ち上がった。そしていきなりナヤアを蹴り上げたかと思ったら、襟を掴んで拳で頰を殴りつけた。
ナヤアの口から飛び散る血の混じった唾が、鉄木真の白い上等な上着に小さな朱い染みを着ける。
鉄木真は幾度もナヤアを殴った後、忌々しそうに身体を床に放り投げた。
「汝、この女が予の側女《そばめ》となる事を知っての愚行か。三日間、己が臥所に連れ込んでいたのか」
横たわって動かないナヤアを更に蹴飛ばしながら鉄木真が怒鳴る。世話になったナヤアが蹴殺《けころ》され兼ねない状況に忽蘭は思わず立ち上がり叫んだ。
「ナヤア殿は指一本、私に触れておらぬ。私は夫となる男の為に今日まで私を汚す一切を拒んできた」
すると鉄木真が、せせら笑った。
「そのような戯言を信じられるか」
「信じられぬというのであれば、この場で私の身体を確かめよ」
若い女のものとは思えぬ気迫に、鉄木真はたじろいだようだった。しかし、忽蘭の言葉を鵜呑みにする事は出来ないらしく、侍女に言いつけ、忽蘭の身体を調べさせた。
侍女は忽蘭の身体を隈無く確かめた後、鉄木真にその顛末を耳打ちした。鉄木真の顔に驚きが広がっていく。忽蘭の身体は自身が言う通り、全くの清浄であった。
誤解が解け、ナヤアは鉄木真より労いの言葉と恩賞を賜り、自分の陣営へと帰っていった。しかし、残された忽蘭にはわだかまりが残ったままだった。
元々、忽蘭が捕虜になる事を承諾したのは、メルキト部族を救う為などではない。鉄木真を身命を賭しても惜しくない男と見込んでの事で、こんなに度量の小さい男だとは思いも寄らなかったのだ。今は身命を賭すどころか、触れられる事すら厭わしい。
先程までとは打って変わって柔和になった鉄木真の前を辞すと、忽蘭は案内された包に置いてあった寝具を全てを外に運び出させた。あんな男が準備させた寝具に身を包むなど、おぞましい以外の何者でもない。婚礼道具のとして持ってきた布団をアマラに敷かせ、その中で忽蘭はやっと息を付いた。
陣営の中でも一際大きな鉄木真の包は、豪奢な朱塗りの家具が置かれ、鮮やかな色合いの敷物で飾られていた。その中央、獣皮が掛けられた椅子に腰掛けた鉄木真が、気難しい顔でこちらを見ている。そのすぐ前の床にナヤアと並んで座った。
鉄木真は何かに苛立っているのか、終始小刻みに脚を揺らしており、その振動が床を通して伝わってくる。
ナヤアの口上が一頻り済んだ後、鉄木真の鋭い眼光が忽蘭を見据えた。
「忽蘭と言ったな。ダイル・ウスンからの伝令によると、汝の到着は今日より三日も前との事だった。今まで何をしていた」
恫喝とも取れる物言いに気圧されそうになった忽蘭だったが、波立つ心を沈め、真っ直ぐに鉄木真を見返した。
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そう言い切るより前、突如、鉄木真が立ち上がった。そしていきなりナヤアを蹴り上げたかと思ったら、襟を掴んで拳で頰を殴りつけた。
ナヤアの口から飛び散る血の混じった唾が、鉄木真の白い上等な上着に小さな朱い染みを着ける。
鉄木真は幾度もナヤアを殴った後、忌々しそうに身体を床に放り投げた。
「汝、この女が予の側女《そばめ》となる事を知っての愚行か。三日間、己が臥所に連れ込んでいたのか」
横たわって動かないナヤアを更に蹴飛ばしながら鉄木真が怒鳴る。世話になったナヤアが蹴殺《けころ》され兼ねない状況に忽蘭は思わず立ち上がり叫んだ。
「ナヤア殿は指一本、私に触れておらぬ。私は夫となる男の為に今日まで私を汚す一切を拒んできた」
すると鉄木真が、せせら笑った。
「そのような戯言を信じられるか」
「信じられぬというのであれば、この場で私の身体を確かめよ」
若い女のものとは思えぬ気迫に、鉄木真はたじろいだようだった。しかし、忽蘭の言葉を鵜呑みにする事は出来ないらしく、侍女に言いつけ、忽蘭の身体を調べさせた。
侍女は忽蘭の身体を隈無く確かめた後、鉄木真にその顛末を耳打ちした。鉄木真の顔に驚きが広がっていく。忽蘭の身体は自身が言う通り、全くの清浄であった。
誤解が解け、ナヤアは鉄木真より労いの言葉と恩賞を賜り、自分の陣営へと帰っていった。しかし、残された忽蘭にはわだかまりが残ったままだった。
元々、忽蘭が捕虜になる事を承諾したのは、メルキト部族を救う為などではない。鉄木真を身命を賭しても惜しくない男と見込んでの事で、こんなに度量の小さい男だとは思いも寄らなかったのだ。今は身命を賭すどころか、触れられる事すら厭わしい。
先程までとは打って変わって柔和になった鉄木真の前を辞すと、忽蘭は案内された包に置いてあった寝具を全てを外に運び出させた。あんな男が準備させた寝具に身を包むなど、おぞましい以外の何者でもない。婚礼道具のとして持ってきた布団をアマラに敷かせ、その中で忽蘭はやっと息を付いた。
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