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14. 元カレ登場(後編)
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プレイボーイの三芳は、クリニックでの態度で樹生が自分を憎からず思っていることを察し、『患者と担当PTが個人的に付き合うなんて』と躊躇する樹生を熱烈に口説いた。生まれて初めて好みのタイプの男性から熱心に求められ、たちまち樹生は夢中になった。
交際開始から三か月間は良かった。まさに蜜月と呼ぶに相応しい、夢のように幸せな時期だった。
「樹生、可愛い。大好きだよ」
甘い声で囁かれ、手練手管で身も心も蕩けさせられたら、彼に純潔を捧げることに殆ど抵抗は感じなかった。初体験は、痛みが気持ち良さを上回ったが、好きな人と繋がれた歓びの前では些細なことのように思えた。毎日のように電話をくれ、何の記念日でも無い日にサプライズで薔薇の花を贈ってくれ、デートではお姫様のように丁重にエスコートしてくれた。
四か月目くらいから雲行きが変わった。いつも約束は彼の都合で決められる。樹生から電話しても彼は出なくなった。メールやメッセンジャーへも返事がない。既読にすらならない。最初の頃は「今週末は空けておいて」「明日会える?」とデートを待ち望んでいるのがありありと伝わってきたが、いつの間にか「これから家に来れる? 一時間後ね」等と直前の呼び出しに変わった。会うのはいつも彼か樹生の家になり、恋人らしい語らいもないまま会うなり身体を求められる。最初は「そんなに自分と抱き合うのが待ち切れないのかな」と思ったが、行為が終わった瞬間に素っ気なく突き放され「帰れば?」等と言われるようになり、彼の気持ちが変わったことを悟った。本意ではなかったがスマホを覗いてみたら、複数の女性とデートしており、肉体関係を窺わせるメッセージや写真もあった。それを責めると、「飲み会に同席していた友達の彼女」等とごまかされる。最初は疑いながらも許したが、二度三度と続くうち、さすがに耐え切れず感情的に彼を詰るようになった。だが、その頃はまだ樹生が「別れる」と言えば「本命の恋人は樹生だけ」だと、機嫌を取ってもらえた。仲直りのセックスは身も心も痺れるほど気持ち良くて、まるで痴話喧嘩はスパイスのようだった。
しかし、そんな時期も長くは続かない。自分ばかり嫉妬させられることに疲れた樹生は彼を無視するようになる。そこからは意地の張り合いだ。どちらからも折れず、連絡を取り合わない日々が続いた。十日を過ぎ、思い詰めた樹生は彼の家を訪ねた。今思えば虫の知らせだったのかもしれない。貰った合鍵を初めて使ったその日、彼は自宅に女性を連れ込み、二人で裸でベッドに横たわっていた。「合鍵まで渡していたのは樹生だけ。冷たい態度にムシャクシャして、あの日たまたま連れ込んだだけ」と言い訳されたが、耐えられなくなった樹生は黙って合鍵を郵便で送り返した。拗れに拗れた樹生の初恋は、苦い思い出を残して終わった。
「……樹生、ちょっと変わったね」
三芳は居住まいを正した。常に彼の機嫌を窺っていた樹生が、こんなに毅然とした態度を取るとは思っていなかったのだろう。
「変わったんじゃなくて、これが元々の性格だよ。慎と付き合ってた時は、嫌われたくなくて我慢してただけ。でも、我慢しなきゃいけないような相手とは、もう付き合わない」
強い視線で三芳を見つめると、気圧されたように彼は黙った。もう話すべきことはない。ちょうど翔琉が戻ってきた。
「三芳さん。すんませんけど、まだリハビリの相談があるんで、樹生さんと二人にしてもらえませんか」
言葉は丁寧だが、立ったまま上から見下ろすような姿勢で目には敵意すら浮かべている。そんな翔琉を見遣った後、三芳はチラッと視線を樹生に戻した。樹生は顎を小さくしゃくり『その通りだ。早く帰れ』と促した。
「悪い。邪魔したね」
三芳は肩を竦めて立ち上がり、あっさり退散した。
交際開始から三か月間は良かった。まさに蜜月と呼ぶに相応しい、夢のように幸せな時期だった。
「樹生、可愛い。大好きだよ」
甘い声で囁かれ、手練手管で身も心も蕩けさせられたら、彼に純潔を捧げることに殆ど抵抗は感じなかった。初体験は、痛みが気持ち良さを上回ったが、好きな人と繋がれた歓びの前では些細なことのように思えた。毎日のように電話をくれ、何の記念日でも無い日にサプライズで薔薇の花を贈ってくれ、デートではお姫様のように丁重にエスコートしてくれた。
四か月目くらいから雲行きが変わった。いつも約束は彼の都合で決められる。樹生から電話しても彼は出なくなった。メールやメッセンジャーへも返事がない。既読にすらならない。最初の頃は「今週末は空けておいて」「明日会える?」とデートを待ち望んでいるのがありありと伝わってきたが、いつの間にか「これから家に来れる? 一時間後ね」等と直前の呼び出しに変わった。会うのはいつも彼か樹生の家になり、恋人らしい語らいもないまま会うなり身体を求められる。最初は「そんなに自分と抱き合うのが待ち切れないのかな」と思ったが、行為が終わった瞬間に素っ気なく突き放され「帰れば?」等と言われるようになり、彼の気持ちが変わったことを悟った。本意ではなかったがスマホを覗いてみたら、複数の女性とデートしており、肉体関係を窺わせるメッセージや写真もあった。それを責めると、「飲み会に同席していた友達の彼女」等とごまかされる。最初は疑いながらも許したが、二度三度と続くうち、さすがに耐え切れず感情的に彼を詰るようになった。だが、その頃はまだ樹生が「別れる」と言えば「本命の恋人は樹生だけ」だと、機嫌を取ってもらえた。仲直りのセックスは身も心も痺れるほど気持ち良くて、まるで痴話喧嘩はスパイスのようだった。
しかし、そんな時期も長くは続かない。自分ばかり嫉妬させられることに疲れた樹生は彼を無視するようになる。そこからは意地の張り合いだ。どちらからも折れず、連絡を取り合わない日々が続いた。十日を過ぎ、思い詰めた樹生は彼の家を訪ねた。今思えば虫の知らせだったのかもしれない。貰った合鍵を初めて使ったその日、彼は自宅に女性を連れ込み、二人で裸でベッドに横たわっていた。「合鍵まで渡していたのは樹生だけ。冷たい態度にムシャクシャして、あの日たまたま連れ込んだだけ」と言い訳されたが、耐えられなくなった樹生は黙って合鍵を郵便で送り返した。拗れに拗れた樹生の初恋は、苦い思い出を残して終わった。
「……樹生、ちょっと変わったね」
三芳は居住まいを正した。常に彼の機嫌を窺っていた樹生が、こんなに毅然とした態度を取るとは思っていなかったのだろう。
「変わったんじゃなくて、これが元々の性格だよ。慎と付き合ってた時は、嫌われたくなくて我慢してただけ。でも、我慢しなきゃいけないような相手とは、もう付き合わない」
強い視線で三芳を見つめると、気圧されたように彼は黙った。もう話すべきことはない。ちょうど翔琉が戻ってきた。
「三芳さん。すんませんけど、まだリハビリの相談があるんで、樹生さんと二人にしてもらえませんか」
言葉は丁寧だが、立ったまま上から見下ろすような姿勢で目には敵意すら浮かべている。そんな翔琉を見遣った後、三芳はチラッと視線を樹生に戻した。樹生は顎を小さくしゃくり『その通りだ。早く帰れ』と促した。
「悪い。邪魔したね」
三芳は肩を竦めて立ち上がり、あっさり退散した。
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