猫耳少女と世界最強の魔法国家を作ります

天野ハザマ

文字の大きさ
2 / 32
1巻

1-2

しおりを挟む



 第一章 恐らくは、我が王よ


 鼻をくすぐる草のにおいを感じて、男は目覚めた。
 あの白い空間にいた時とは違い、男にはしっかりとした肉体がある。

「う……」

 ぼうっとする頭で手元を探ると、指先が何かツルリとした感触の丸いものに触れた。
 少し冷たいそれを持ち上げてみれば、どうやら水晶玉か何かのようで、光沢こうたくのある表面に、周囲の景色が映り込んでいる。
 男はそこに映る自分の顔をまじまじと見た。
 黒いぼさぼさの髪と、同じ色の瞳、恐らくは美形の範疇はんちゅうに入るだろうが、どことなく頼りない印象もある、優男やさおとこ風の顔。
 着ている服は金の縁取ふちどりをした青色のローブで、よく見れば木製の杖らしきものが転がっている。
 いずれも魔法使いをイメージしたものであろう。
 もちろん、格好だけではない。男の頭の中にはすでに魔法の知識とでも呼ぶべきものが収まっており……いつの間にか彼は、魔法というものがなんであるか、明確に理解していた。

「……こう、だな」

 男は手にした水晶に魔力を流し込む。
 体の中をめぐる魔力の移動はすんなりと行われ、魔力をびた水晶があわく輝きはじめる。
 その中に先程の黒いドレスの少女の姿が浮かび上がった。

「お、目が覚めたかい。どうやら魔力の使い方に関しては問題なさそうだね?」
「ああ、ここはどこだ? 僕はまず何をすればいい?」
「そうだね。この時代、能力を示せばどこかの王に取り入るのは簡単だ。でも、実はもっと良い作戦を思いついてる」
「……作戦?」
「そうさ。魔法を広めるためには、多くの人に魔法が凄いものだと思わせる必要がある。だったら、大きな影響力を発揮はっきできる立場の方が、効率が良い。それは分かるね?」
「もちろんだ……ああ、そういうことか。僕自身が王になる、あるいは誰か王を擁立ようりつして国を建てろというんだな」

 今ある国は、既存のルールの上に成り立っている。そこに魔法という異質な概念をじ込むには、既存のルールや価値観を打ち壊すところから始めないといけない。それは抵抗勢力との戦いでもあり、大きな労力になる。それならルール作りから始めてしまえばいいというのは、当然の帰結きけつだ。
 少女は満足げにうなずく。

「理解が早くて助かるよ。しかし、君自身が王になってしまうと、国が大きくなるにつれて色々身動きが取りにくくなるだろう。資質的にも、後者の方が適切だと思うね、私は」
「なるほど。僕自身王様なんてがらじゃないと自覚している。だが、〝彼こそ王なり〟と宣言すれば国が建つというものじゃないぞ。説得力がないといけない」
「そうさ。まあ、安心してくれたまえ。君を送り込んだその場所は多少事情をかかえていてね。ついでに、少々小細工こざいくをしておいた」
「小細工?」

 嫌な予感のする言葉だが、水晶玉に映る少女は腕を組んで得意げに笑う。

「ああ、ちょっとした剣が刺さった祭壇さいだんを用意してね。〝真の王にしか抜けぬ剣、クラウンソードを授ける。我こそはと思う者は挑戦するが良い〟って神託しんたくを、この新しいアース……リアースの全人類に流してみた。おかげでここ数日、世界中で大さわぎさ」
「……一応聞くけど、剣はどこに」
「君のいる山の中。ちょうどそこに、私の目から見て、十分に王の素質を備えた子がいる。で、君にはその子を導いてほしい」
「そこまでお膳立ぜんだてされていれば、迷うことはないな。じゃあ、早速さっそくその王様候補とやらを探しに行こうか」

 立ち上がり、辺りを見回す男を、水晶玉の声が呼び止めた。

「ああ……一つ注意事項がある。君には魔法の能力をこれでもかってくらいに詰め込んだけど、その代わりに肉体的には恐ろしく弱い。風邪かぜくらいの病気でコロッと死にかねないし、魔法なしでケンカすれば百戦百敗必至の最弱王だ。気をつけたまえ」
「これから魔王にあらがおうというのに、風邪で死ぬのはご免だぞ」

 ……だが、それはどうにかなる範囲だと男は思う。
 彼の中にある魔法の知識によれば、魔法とは、魔力を動力として結果を取り出す方程式。本来、全なる世界は、あらゆるものを内包するが故に、正しい方程式さえ組めば実現できないことは存在しない。
 魔法を魔法として使うには、その方程式を世界に登録する必要があるが……それさえ行えば、魔法は〝望んだ結果を得るための手段〟として世界に生まれ出る。

「となると、まずは身体を強化する魔法を作らないといけないな」
「そうだね。見ていてあげるから、ここでやってみたまえ」

 男は水晶玉を地面に置いて座り込むと、胸の前でかかげるように両手の平を上に向ける。

「……魔法創造、開始」

 そう告げると同時に、男の前に無数の〝色〟が渦を巻きながら現れる。
 赤、青、黄、緑、白、黒……様々な色がグルグルと回転し、それは男の意思のままに混ざりはじめる。
 やがてそれは強い光を放つと、にじ色の一つの玉を形作り……はじける。
 同時に、男の中に新しい魔法の方程式が流れ込んできた。

「できたみたいだね」
「ああ。すぐにでも使えそうだが……魔法の強度によっては、体への負荷が大きすぎて筋肉痛になりそうだな」
「君の場合は虚弱きょじゃくだから、どんな強化魔法でも筋肉痛になると思うよ?」

 男はそれには応えず、次の魔法を作りはじめる。
 これから魔法使いを名乗るなら、最低限の魔法がないといけない。
 火の魔法、水の魔法、風の魔法、回復魔法に修復魔法……それっぽいものを一通り作成すると、男はふうと大きく息を吐く。

「お疲れ様。一段落したところで、君にプレゼントがある」
「プレゼント?」
「名前さ。君、名前がないだろう?」

 言われて初めて、男は自分に名前がないことを思い出す。
 名前がなくては不便だし、かつて男にも名前があったはずだが……今、それを思い出せないという事実に気付いたのだ。

「だから、私から君に〝ウィルザード・マーリン〟という名前をあげよう」
「ウィルザード? マーリン?」
「ああ。ウィルザードはアースの言葉で〝魔法使い〟を意味する。このリアースにはまだ存在しない言葉だがね。マーリンは……アースのお伽話とぎばなしか何かだったかな? 王を導く魔法使いの名前だったと思う」
「……王を導く魔法使い、ウィルザード、か」
「ピッタリだろう?」
「ああ。ありがたくいただく」

 男が……ウィルザードがそう答えると、少女は笑う。

「そうかい。じゃあ、何かあったら連絡してきたまえ。まあ、王を導く者が裏で神に導かれていたとあっては格好がつかないから、最小限でお願いしたいがね」

 言い終わると、水晶玉の中から少女の姿は消えた。
 同時に、水晶玉は指輪の姿に変化してウィルザードの指にするりとはまり込んだ。
 これが、名もなき男……魔法使いウィルザードの、始まり。


 ◆


「……というわけだ。僕は僕の目的のために真の王たる人間を探していて……結果、この山で君を見つけた」

 蛮王の騎士達を退しりぞけてから、しばらくの後。
 魔法でおこしたき火の前で、ウィルザードはアーニャに自分のことを語って聞かせた。
 彼は、魂が抜けたような顔をしているアーニャを見つめて首をひねる。
 ここは、アーニャが隠れ住んでいた小さな洞窟の近く。
 すぐそば洞窟どうくつの入口から四人の子供が顔を出し、ウィルザードを警戒するようにじっと見つめている。

「おいおい、まさか聞いていなかったのか?」
「え? いや、その。聞いてた……けど。えっと、なんか世界が滅びたとか神様とか、話が大きすぎて……」

 ウィルザードの言うことが、冗談や作り話の類だと切り捨てられるものではないことは、アーニャとて理解していた。
 蛮王の騎士を吹き飛ばした突風や、すっかり傷が消え去った彼女の体がそれを証明している。
 満身創痍まんしんそういだったアーニャの体は、ウィルザードの『回復魔法』で綺麗になり、破れた服も『修復魔法』で新品同様になってしまった。
 だが、だからこそ分からないことがたくさんある。

「ウィルザー……えっと、長いからウィルでいい?」
「好きにするといい」
「うん。で……さ。どう考えてもウィルが王様になるのが一番早いじゃない。なんで私を王様にする必要があるの? そもそも、なんで私なの?」
「なるほど、もっともな疑問だ」

 アーニャの疑問に、ウィルザードは深々と頷く。
 確かに、今日はじめて会った人間に君が王だと言われてなんの疑問も抱かないようでは、少々王としての資質が疑わしくもなる。

「一言で言えば、コレだな」

 言いながらウィルザードが取り出したのは、大きな水晶玉だ。
 水晶玉はアーニャに近づくほど輝きを増し、遠ざけるとわずかに輝きが小さくなる。

「これは王の資質を持つ者に反応するらしい。水晶玉の反応を頼りに歩いていたら、君に出会ったわけだ」
「え、ええ……? どういう仕組みなの?」
「さあ。調べれば分かるだろうけど、今やるべきことではないな」

 彼にも興味がないわけではないが、優先度を考えれば随分低い。
 アーニャは水晶玉とウィルザードを見比べ……水晶玉を遠慮がちに何度かつついた後に彼を見上げた。

「……なら、さっきのもう一つの質問。どうしてウィルが王様をやらないの? たぶん、私なんかよりもウィルがやった方が上手くいくよね?」
「それはないな」

 ウィルザードは首を横に振ってきっぱり断言する。

「こう言ってはなんだが、僕は国政に関する知識も才能も全然ない。そもそも国を導こうという情熱もないに等しい」
「え、ええ!? 知識や才能なんて言ったら、私だってないよ!? それに、さっき魔法文明がどうのこうのって!」

 アーニャは呆れ顔で抗議の声を上げる。

「それは僕の大きな目的ではある。しかしだからといって、政治と治世に忙殺ぼうさつされて魔法研究がおろそかになってしまっては意味がない。僕はできれば早めに引きもって研究にいそしみたいんだよ」

 魔法文明を広めるためには、広める材料――つまり、人々が興味を持つ便利な魔法がなければどうしようもない。
 人々を引きつける材料作りはウィルザード自身がやるべきことであり、逆に言えば、政治は他の者でもできることだ。

「だから、恐らくは我が王。君には期待してるんだ」
「そ、そんなあ……私が王様だなんて言ったって、誰もついてきてくれないよ」

 アーニャは、自分が敗戦して亡びた国の一国民にすぎないとわきまえている。そんな小娘を王と仰ぎついてきてくれる者なんて、お人好ひとよしの馬鹿者か詐欺師さぎしくらいしかいないだろう。
 だが、ウィルザードは含み笑いで応える。

「そんなことはない。選定の剣を抜けばいい。それだけで、君は真の王たる資質を持つ者として世界中に認識される」
「そ――れは」
「それに。君はすでに、君の国の理想を抱いている。違うかい?」

 ウィルザードの言葉に、アーニャは驚いたように目を見開く。
 そう、彼女は〝私には誰もついてこない〟と言った。〝私に王はつとまらない〟ではなく。
 似ているようではあるが両者には大きな違いがある。
 少なくともアーニャには、人の前に立つつもりはある。
 そして事実、彼女には欲しい国があった。

「……私は。私は、獣人でも人として生きていける国が欲しいの」
「優人とか自称している連中はどうする? 彼らにやられたように、奴隷にでもするかい?」
「そんなのダメ。それじゃあ、何も変わらないもの」
融和ゆうわを目指すというわけだね。だが、君の国が力を持てば、きっと優人は君の国を怖がるぞ?」

 今まで奴隷か人間以下の獣扱いしていた連中が国を持ったなら、きっと自分達にやり返すはずだと考えるに違いない。そう予測するのは、決して悲観的ではないだろう。
 だがアーニャはウィルザードの瞳をじっと見つめて答える。

「……でも、ウィルがいてくれるんでしょ?」
「え? 僕か?」
「うん。ウィルは、私を使って世界に魔法を広めないといけないんでしょ?」
「まあ……そうだな」
「だったら、私と私の国を守って。私の国が潰されないくらいになるまで、ウィルの魔法で私を助けて。そうしてくれるなら、私は王様になってウィルを助けるから」

 アーニャの言葉に、ウィルザードはしばし絶句ぜっくした。
 なるほど、確かに彼女の言う通りだ。
 ウィルザードが彼の目的でアーニャを利用するなら、アーニャもまたウィルザードを利用する権利を持つ。そしてそれは、ウィルザードの目的にも合致している。しかし、まさかそんなことを今の段階でアーニャが言い出すとは思わなかったのだ。
 王の資質というものがどんなものか、ウィルザードにはイマイチ理解できていなかったが……ひょっとすると、確かにアーニャにはそれがあるのかもしれない。

「君が選定の剣を抜けたなら……その時は君の提案に乗ろう」

 驚きを誤魔化ごまかすように、渋々しぶしぶといったていよそおってウィルザードは応える。

「ほんと!? やったあ!」

 飛びついて体を預けてくるアーニャに押し倒されて転がりながら、ウィルザードは〝うわっ〟と悲鳴に似た声をあげる。

「あ、危ないな君は! 普通火の側でこんなことするか!?」
「だって! ウィルが助けてくれるなら百人力だもの! 無敵の魔法使いでしょ!?」
「え? いや、僕は確かに魔法を使えるけど……殴り合いだと、たぶん子供といい勝負だぞ?」
「へ?」
「僕は体力もないし力もないんだ。正直に言うと、今君に乗っかられているだけでも結構キツい」

 力のないヒョロヒョロした者のことを〝もやし〟と呼ぶらしいが、ウィルザードはまさに極細もやしといったところだろう。
 アーニャを押しのけることすら力不足であきらめざるを得ないほどだ。

「……ふーん?」
「だから悪いんだけど、どいてくれないか? こうしているだけでも、結構体力が削られるんだ」

 少しぐったりしながらウィルザードがそう言うと、アーニャは〝分かった〟と答えて、さっと跳び退いた。
 ……去り際に彼の頬にキスをしてから。
 えへへ、と笑うアーニャとは逆にウィルザードはこおり付いたような顔をして……やがて、慌てて体を起こす。

「な、何をしているんだ、君は!?」
「お礼、だから」
「お礼って……」
うれしくなかった?」

 少し悲しそうな顔で問いかけるアーニャを見て、ウィルザードは何かを言おうとしたが……結局何も言えずに、頭をガリガリとく。

「……もう少し自分を大事にするように。気安くそういうことをすると、勘違いされるぞ」
「うん、分かった!」

 返事だけは元気なので、とりあえず心配ないと判断し、ウィルザードはため息を一つ。
 そして真剣な表情で続ける。

「さて、君の決意は受け取った。ならば後は選定の剣に挑戦するのみだ」
「……うん。ところで、その剣なんだけど……」
「ん? ああ、場所なら心配ない……たぶんアレだろうな」

 アレが何を指すかは、この山の中にいる者であれば一つしか思い浮かばないはずだ。
 顔を上げれば、山中から天へと立ち上る神々しい光の柱が見える。
 蛮王の騎士がこのような山の中をウロウロしていた理由も、選定の剣の噂を聞きつけてのことに違いなかった。
 もっとも、どういうわけか他国の騎士の姿は見えないので、ひょっとすると、ある程度近くに来ないと光は見えないなどの制約があるのかもしれない。

「善は急げだ。早速……」

 ――行こう、とウィルザードが腰を上げたその瞬間。
 複数の〝くぅ……〟という切なげな音が聞こえてくる。
 その発生源は、アーニャと洞窟の中にいる子供達のようだ。

「え、えっと……皆のご飯を探しに行く途中で……」

 アーニャは恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「……なるほど。しかし……」

 そう言いながら、ウィルザードは洞窟の中へと視線を向ける。
 身を隠すには最適な場所であるが、中は決して広くなさそうだ。
 洞窟の前にある少し開けた空間は踏みならされており、いかにも大きな獣が出入りしていそうな雰囲気がかもし出されている。
 彼女達がこの場所を奪われずに済んだ理由も、そんなところだろう。

「皆のご飯……ね。世話焼きというか、お人好しというか……自分のことすらままならないだろうに」
「うっ! で、でも……皆お父さんもお母さんもいない子だから、一人じゃ生きていけないし」
「確かに、君も独り立ちする年頃なんだろうが、いきなり被扶養ふよう者を複数抱える余裕があるとは思えないね」
「で、でもでも!」

 ウィルザードの真剣な眼差しを受けて、アーニャはなんとなくそわそわしながら視線を彷徨わせる。

「でも、見捨てられないと?」
「う、うん」

 その返事を聞いて、ウィルザードは表情をゆるめる。そして、アーニャの頭に優しく手を乗せた。

「ふわっ!? な、何!?」
「君に王の資質があると、改めて納得した。まだ力もないのに、庇護者ひごしゃたらんとしている。その慈愛じあい称賛しょうさんあたいする」
「え、そんな凄いものじゃ――」
「そうだな。君にとっては当然のことなのかもしれない。だが、このような極限状態にあってもそれをつらぬくのは難しい。故に、僕もこういうことをしよう」

 ウィルザードが杖を振ると、地面に何かがガランと音を立てて転がった。

「え、これ。おなべ……?」

 そう、それは抱えるほどに大きな鉄鍋。たっぷりスープを作れそうな大きさのそれをアーニャがつんつんつつくと、その度に鍋の中に野菜がゴロゴロ現れた。
 人参、じゃがいも、玉ねぎ……
 立派な野菜が次々と鍋の中に現れる光景に、アーニャは目を白黒させる。

「ついでだ、それ!」

 ウィルザードが再度杖を振ると、肉のかたまりが鍋の中に落ちた。
 立派な豚肉の切り身に見えるソレが現れた途端、洞窟の中にいた子供達が〝お肉だ!〟と叫んで飛び出してくる。
 鍋を呆然ぼうぜんながめているアーニャの近くに集まって鍋を覗き込み、すごいすごいと叫んで手を叩き合う。


「え、ええ? ウィル、これも魔法なの? なんだか手品みたい」
「ああ、これもれっきとした魔法だ。その辺の草木や土を材料に組成そせいを組み替えた。あまり効率がいいとは言えないが、伝説の始まりの瞬間に王が腹を鳴らすというのも……少々、締まらないからね」
「うっ……だ、だってぇ」

 アーニャは顔を赤らめる。

「調理器具はあるかい? 具体的には包丁ほうちょうとかのことだが」
「あ、うん。一応……」

 アーニャは一度洞窟の中に引っ込むと、びたナイフを一本手にして戻ってきた。
 恐らくは護身用か何かのために持っていたのであろう。

「これが調理用だって? いもの皮もけないんじゃないか?」

 ウィルはそれをしげしげと眺め、杖で軽く叩く。
 一瞬杖が輝いたかと思うと、光が伝わったナイフが輝きを取り戻し、新品同然に変わってしまった。

「ま、こんなものだろう……と。ん?」

 いつの間にか自分の側に来ていた小さなうさぎ耳の少女に気付き、ウィルザードは地面に座りなおす。
 少女は爛々らんらんと目を輝かせてウィルの手元を覗き込んでいる。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。